公開日:2026年5月20日
任意後見監督人が選任され任意後見契約が発効した後に、任意後見人が職務を続けられなくなった場合は、任意後見契約に関する法律第9条第2項に基づき、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て任意後見契約を解除する手続を検討します。実務上「任意後見人の辞任」と説明されることがありますが、法的には任意後見契約の解除許可の問題として整理します。本記事では、任意後見契約法第9条第2項の解除許可手続、正当な事由、第8条の「任意後見人の解任」との違い、後任候補と本人保護への配慮、契約終了後の対応、行政書士の業務範囲を整理します。
本記事の結論:
- 「任意後見人の辞任」は、法律上の正式制度名ではなく、任意後見契約に関する法律第9条第2項(任意後見監督人選任後の任意後見人側からの任意後見契約の解除)を指す実務上の通称。
- 解除には「正当な事由」と家庭裁判所の許可が必要。家庭裁判所への申立ては「任意後見契約解除許可審判申立て」が正式名称。
- 第8条は別個の制度で、「任意後見人の解任」(不正な行為・著しい不行跡その他任務に適しない事由がある場合に、任意後見監督人・本人・親族・検察官の請求により家庭裁判所が任意後見人を解任)。辞任とは異なる。
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目次
任意後見人を辞めるには、任意後見契約法第9条第2項の解除許可と本人保護への配慮がカギ
任意後見契約が発効(任意後見監督人が選任)した後に、任意後見人が病気・転居・本人との関係悪化等の事情で職務を続けられなくなった場合、任意後見契約に関する法律第9条第2項に基づき、正当な事由をもって家庭裁判所の許可を得て任意後見契約を解除します。家庭裁判所は、正当な事由の有無に加え、解除後に本人の保護に支障が生じないか、法定後見への移行が必要か、引継ぎ体制が整っているかを確認します。任意後見契約に関する法律第8条の「任意後見人の解任」(不正行為等を理由に家庭裁判所が解任する制度)とは別の手続です。
根拠法令(2026年5月時点)
- 任意後見契約に関する法律第2条(任意後見契約の定義)・第3条(任意後見契約の方式:公正証書必須)・第4条(任意後見監督人の選任)・第6条(任意後見人の義務)・第7条(任意後見監督人の職務等)・第8条(任意後見人の解任)・第9条(任意後見契約の解除)
- 民法第111条(代理権の消滅事由)・第653条(委任の終了事由)・第654条(委任の終了後の処分)・第655条(委任の終了の対抗要件)
- 民法第7条以下(成年後見・保佐・補助)
- 後見登記等に関する法律(任意後見契約終了の登記)
- 家事事件手続法(任意後見契約解除許可の審判等)
- 司法書士法第3条第1項第4号(裁判所提出書類の作成)
- 弁護士法第3条(紛争代理)・第72条(非弁行為の禁止)
- 行政書士業務(権利義務・事実証明書類の作成)
1. 任意後見契約の概要
任意後見契約は、本人(委任者)が判断能力低下時に備えて、信頼する者(受任者=任意後見人候補)に財産管理・身上保護の代理権を付与する公正証書による契約です(任意後見契約に関する法律第3条)。本人の判断能力が低下したときに、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで、契約が発効し、任意後見人として活動を開始します(同法第4条)。
2. 任意後見人の辞任(任意後見契約の解除)の要件(任意後見契約に関する法律第9条第2項)
2-1. 辞任の根拠条文
「任意後見人の辞任」は、法律上の正式な制度名ではなく、任意後見契約に関する法律第9条第2項による「任意後見人の側からの任意後見契約の解除」を指す実務上の通称です。同条第2項は次のとおり定めています。
任意後見契約に関する法律第9条第2項:「第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる」
つまり、任意後見監督人の選任後に任意後見人が職務を離れるには、正当な事由をもって家庭裁判所の許可を得て任意後見契約を解除する必要があり、これが一般に「任意後見人の辞任」と呼ばれています。
2-2. 「正当な事由」とは
家庭裁判所の許可における「正当な事由」の例:
- 任意後見人の病気、高齢化、遠方への転居、長期入院
- 本人または本人家族との信頼関係の著しい悪化
- 本人と任意後見人の重大な利益相反の発生
※職業上の多忙等については、それだけで正当な事由と認められるとは限らず、職務遂行への具体的支障、代替手段、本人保護への影響を説明する必要があります。
2-3. 家庭裁判所の判断要素
家庭裁判所は、正当な事由の有無に加え、以下を確認します。
- 解除後に本人の保護に支障が生じないか
- 法定後見(成年後見・保佐・補助)への移行が必要か
- 引継ぎ体制が整っているか
- 本人の利益を最優先する判断
3. 辞任手続(任意後見契約解除許可)の流れ
- 辞任理由の整理(「正当な事由」に該当する事実の整理)
- 後任候補・本人保護体制の検討
- 本人の意思・状況の確認、任意後見監督人への相談、必要に応じた本人家族・支援関係者との情報共有(本人の判断能力・意思表示能力、個人情報、利益相反、本人の意思決定支援に配慮)
- 家庭裁判所への任意後見契約解除許可申立て(いわゆる辞任許可の申立て。家庭裁判所提出書類の作成は司法書士業務、申立代理は弁護士業務)
- 家庭裁判所の審理(書面審査・必要に応じて審問)
- 解除許可の審判
- 任意後見契約終了の登記申請(東京法務局)
- 引継ぎ(後任の任意後見人、残る任意後見人、別契約に基づき発効する任意後見人、又は法定後見へ移行する場合の成年後見人等への引継ぎ)
- 任意後見監督人への引継ぎ完了報告
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4. 後任候補の選定・本人保護体制
4-1. 後任候補の事前設計
任意後見人が職務を続けられなくなった場合に備えるには、単に「後任指定条項」を置くだけでは足りない場合があります。任意後見契約は本人と受任者との契約であり、現行の後見登記制度では予備的受任者に順位を付けて公示する仕組みがありません。実務上は、複数の任意後見受任者との契約、共同又は単独代理の設計、別契約の締結、任意後見監督人選任申立ての対象者をどうするか等を事前に検討します。本人の判断能力低下後に新たな任意後見契約を締結することは困難なため、事前設計が重要です。
4-2. 任意後見人の不適任事由(任意後見受任者になれない者)
任意後見受任者として不適任とされる事由がないこと(家庭裁判所で法定代理人・保佐人・補助人を解任された者、破産者・行方不明者、本人に対して訴訟をし又はした者及びその配偶者・直系血族、不正な行為・著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者等に該当しないこと)。
4-3. 専門家の任意後見人と報酬
任意後見人への就任自体は、弁護士・司法書士・行政書士等の独占業務ではなく、本人が信頼する親族・知人・専門職・法人等が、法律上不適任とされる事由に該当しない限り、契約により任意後見受任者となり得ます。ただし、専門職が業として受任する場合は、各専門職団体の規程、利益相反、報酬、監督体制を確認します。
任意後見人の報酬は、本人と任意後見受任者との契約で定めます。無報酬とすることも、月額報酬を定めることも可能です。一方、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が事案に応じて決定し、本人の財産から支払われます。
5. 任意後見契約の解除と「辞任」「解任」の用語整理
任意後見契約に関する法律第9条はいずれも「任意後見契約の解除」を定める規定で、条文上「辞任」という文言はありません。一方、第8条は「任意後見人の解任」を定める別個の制度です。
5-1. 任意後見監督人選任前の解除(第9条第1項)
任意後見監督人が選任される前は、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって任意後見契約を解除できます。合意解除の場合も、一方的解除の場合も、公証人の認証を受けた書面が必要です。一方的解除では相手方への解除の意思表示、解除後の後見登記の終了登記申請等も確認します。家庭裁判所の許可は不要です。
5-2. 任意後見監督人選任後の解除(第9条第2項)=実務上の「辞任」
任意後見監督人が選任された後は、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て任意後見契約を解除できます。任意後見人側から職務を続けられないとして解除許可を求める場面が、実務上「任意後見人の辞任」と呼ばれる場面です。本人側から解除を求める場合とは事情整理が異なるため、申立ての主体・理由を分けて検討します。
5-3. 任意後見人の解任(第8条)=辞任とは別制度
第8条は、任意後見人に不正な行為・著しい不行跡その他任務に適しない事由がある場合に、任意後見監督人・本人・親族・検察官の請求により家庭裁判所が任意後見人を解任する制度です。辞任(自ら職務を離れる)とは異なり、解任は他者からの請求により職務を強制的に終了させる制度である点に注意が必要です。
6. 辞任後の引継ぎ
6-1. 引継ぎ事項
- 財産目録(預貯金・有価証券・不動産・債権債務)
- 収支報告書
- 支援記録(本人の状況・支援内容・関係者連絡先)
- 本人・関係者の連絡先一覧
- 医療・介護・福祉サービスの利用状況
- 未決事項・継続事項
6-2. 引継ぎ書類の作成・引継先
引継ぎ書類は、任意後見監督人、残る任意後見人、別契約に基づき発効する任意後見人、又は法定後見へ移行する場合の成年後見人等に対して、家庭裁判所・任意後見監督人の指示を踏まえて整理します。後任任意後見人が常に存在するわけではないため、引継先を個別に確認します。事実関係メモ・引継ぎ資料の作成補助は行政書士業務範囲で対応可能です。
6-3. 任意後見契約終了の登記・任意後見監督人の任務終了
任意後見契約解除許可が確定した場合、後見登記等に関する法律に基づき任意後見契約終了の登記申請が必要です。任意後見監督人の職務や後見登記の終了手続については、複数契約・複数任意後見人がある場合に残る契約や監督対象の有無により整理が異なるため、任意後見監督人・家庭裁判所・法務局で終了後の取扱いを確認します。
7. 任意後見人の任務終了事由
辞任(契約解除許可)以外の任務終了事由として、以下があります。
- 任意後見人の死亡
- 任意後見人の破産手続開始の決定(民法第111条第1項。代理人の破産は代理権の消滅事由)
- 任意後見人が後見開始の審判を受けたこと(民法第111条第1項。代理人が後見開始の審判を受けることは代理権の消滅事由)
- 任意後見人の解任(任意後見契約に関する法律第8条、不正の行為・著しい不行跡その他任務に適しない事由がある場合に、任意後見監督人・本人・親族・検察官の請求により家庭裁判所が解任)
- 本人の死亡(本人死亡後は任意後見契約に基づく代理権は原則として終了。葬儀・医療費精算・行政手続等の死後事務を予定する場合は、任意後見契約とは別に死後事務委任契約や遺言執行者の指定を検討)
- 任意後見契約の合意解除
※民法第111条の代理権消滅事由のほか、民法第653条の委任終了事由、任意後見契約に関する法律、後見登記等に関する法律の手続もあわせて確認します。
8. 業務範囲の整理
行政書士の業務範囲
- 任意後見契約書の原案作成(複数契約・後任設計を含む)
- 公証役場との文案調整サポート
- 任意後見契約解除許可申立てを検討するための事実関係メモの作成補助(病気、転居、利益相反、支援継続困難性等の客観資料整理)
- 引継ぎ資料の作成補助(財産目録、支援記録、関係者連絡先、未了事項一覧等の整理)
- 収支資料・通帳・領収書等の整理補助
※家庭裁判所提出用の申立書、事情説明書、後見事務報告書、法的主張を含む書面の作成は司法書士又は弁護士の業務範囲を確認します。
業務範囲外(連携先専門家)
- 家庭裁判所への任意後見契約解除許可申立書の作成(司法書士法第3条第1項第4号、司法書士業務)
- 家庭裁判所での代理人活動・審問対応・申立代理(弁護士法第3条、弁護士業務)
- 任意後見監督人選任申立書の作成(家庭裁判所提出書類として司法書士業務を確認。申立人は本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者。本人以外の請求では原則本人の同意が必要、本人が意思表示できないときは不要)
- 法定後見への移行:本人の判断能力の程度に応じて成年後見・保佐・補助のいずれが相当かを検討(家庭裁判所への申立書作成は司法書士業務、申立代理・紛争対応は弁護士業務)
- 本人と任意後見人の紛争代理(弁護士業務)
- 相続関連の登記(司法書士業務)
- 税務(税理士法第2条、税理士業務)
FAQ|よくあるご質問
Q1. 任意後見人を辞任したいが、後任が見つからない場合は?
任意後見契約法第9条第2項に基づき契約解除が許可された場合、その任意後見契約に基づく権限は終了します。本人の判断能力が低下している場合、新たに任意後見契約を締結することは通常困難であるため、本人の判断能力の程度に応じて法定後見(成年後見・保佐・補助)への移行を検討する必要があります。法定後見開始申立て(家庭裁判所への申立書作成は司法書士業務、申立代理は弁護士業務)を並行して検討するのが一般的です。
Q2. 任意後見契約に後任指定条項を入れていない場合、辞任時はどうなりますか?
任意後見契約法第9条第2項により契約解除が許可されると、その契約に基づく権限は終了します。複数の任意後見人又は複数の任意後見契約がある場合は、残る契約・代理権の内容により対応が異なります。単なる後任指定条項だけで当然に後任へ移行できるとは限りません(現行の後見登記制度では予備的受任者に順位を付けて公示する仕組みがないため)。有効に機能する任意後見契約が残らない場合は、法定後見への移行を検討します。任意後見契約の作成段階で、複数契約や予備的設計について専門家に確認します。
Q3. 任意後見監督人選任前の任意後見契約解除は簡単ですか?
任意後見監督人が選任される前は、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって任意後見契約を解除できます(任意後見契約法第9条第1項)。合意解除の場合も、一方的解除の場合も、公証人の認証を受けた書面が必要です。家庭裁判所の許可は不要ですが、一方的解除では相手方への解除の意思表示、解除後の後見登記の終了登記申請等も確認します。
Q4. 「正当な事由」が認められないとどうなりますか?
家庭裁判所が「正当な事由」がないと判断した場合、解除許可は下りず、任意後見人として職務を継続する必要があります。「正当な事由」の判断は個別具体的なため、申立て前に医師の診断書・転居の証明等で正当事由を客観的に立証する準備が重要です。
Q5. 第8条の「解任」と第9条第2項の「辞任」はどう違いますか?
第9条第2項の「辞任」(契約解除許可)は任意後見人が自ら職務を離れる手続で、正当な事由と家庭裁判所の許可が要件です。第8条の「解任」は別個の制度で、任意後見人に不正な行為・著しい不行跡その他任務に適しない事由がある場合に、任意後見監督人・本人・親族・検察官の請求により家庭裁判所が任意後見人を解任する手続です。両者は申立ての主体・趣旨が異なります。
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まとめ
「任意後見人の辞任」は、法律上の正式な制度名ではなく、任意後見契約に関する法律第9条第2項(任意後見監督人選任後の任意後見人側からの任意後見契約の解除)を指す実務上の通称です。家庭裁判所の許可における「正当な事由」(病気・高齢化・遠方転居・長期入院・信頼関係の著しい悪化・重大な利益相反等)の存在が要件で、家庭裁判所は本人の保護に支障が生じないか、法定後見への移行が必要か、引継ぎ体制が整っているかを確認します。
任意後見契約に関する法律第8条は「任意後見人の解任」を定める別個の制度で、辞任とは異なります。第8条は、任意後見人に不正な行為・著しい不行跡その他任務に適しない事由がある場合に、任意後見監督人・本人・親族・検察官の請求により家庭裁判所が任意後見人を解任する手続です。両者は申立ての主体・趣旨が異なる点に注意が必要です。
家庭裁判所への申立ては、正式には「任意後見契約解除許可審判申立て」です(辞任許可は通称)。任意後見契約は本人と受任者との契約であり、現行の後見登記制度では予備的受任者に順位を付けて公示する仕組みがないため、単なる後任指定条項だけで当然に後任へ移行できるとは限りません。実務上は、複数の任意後見受任者との契約、共同・単独代理の設計、別契約の締結等を事前に検討します。
任意後見契約の解除は、任意後見監督人選任前(契約発効前)は公証人の認証を受けた書面で可能で家裁許可不要(第9条第1項)、選任後(契約発効後)は家裁の許可が必要で「正当な事由」が要件(第9条第2項)と区別されます。辞任手続は、(1)辞任理由の整理、(2)後任候補・本人保護体制の検討、(3)本人・関係者との事前協議、(4)家庭裁判所への任意後見契約解除許可申立て、(5)解除許可の審判、(6)任意後見契約終了の登記申請、(7)引継ぎ、(8)任意後見監督人への完了報告の流れで進みます。
当事務所では任意後見契約書の原案作成(複数契約・後任設計を含む)、公証役場との文案調整、解除許可申立てを検討するための事実関係メモの作成補助、引継ぎ資料の作成補助、収支資料の整理補助を行政書士業務範囲で対応します。家庭裁判所への解除許可申立書・後見事務報告書等の作成は司法書士業務(司法書士法第3条第1項第4号)、家裁での代理人活動・申立代理・紛争対応は弁護士業務(弁護士法第3条)、登記は司法書士業務、税務は税理士業務です。任意後見人を辞めたい場面が想定される方は、契約作成段階の事前設計を含めて、ぜひ一度ご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


