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AI生成画像の悪用と告訴状|性的ディープフェイクの刑事責任と証拠保全

更新: 約28分で読めます

生成AIの画像合成技術が誰でも扱えるようになったことで、実在する人物の顔を用いた性的な偽画像・偽動画、いわゆる「性的ディープフェイク」の被害相談が急増しています。被害者にとって深刻なのは、自分が一度も撮影されていない性的画像が、あたかも実在の記録であるかのようにSNSや掲示板で拡散してしまう点です。「撮られていないのだから犯罪にならないのではないか」と諦めてしまう方も少なくありません。

しかし、執筆時点の日本の法制度でも、性的ディープフェイクの作成・公開・販売行為には複数の刑罰法規が適用され得ます。実際に2025年には、生成AIで作成した性的画像の販売・公開について刑法175条(わいせつ物頒布等)で摘発された事例が複数報道されており、児童を対象としたものについては児童ポルノ禁止法違反での起訴例が報じられ、2026年6月には第一審で有罪判決が言い渡されたとも報じられています。一方で、盗撮を処罰する「性的姿態等撮影処罰法」は、条文の構造上、純粋なAI生成画像には原則として及びません。どの罪名を選ぶかによって、集めるべき証拠も、告訴期間の有無も変わります。

本記事では、性的ディープフェイクに適用されうる罪名を条文レベルで整理したうえで、拡散前に何をどう保全すべきか、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状をどう組み立てるかを、実務目線で解説します。

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性的ディープフェイクとは何か|被害の実態と適用されうる罪名の全体像

「ディープフェイク」は、深層学習(ディープラーニング)を用いて生成・合成された、本物と見分けがつきにくい映像や画像を指す通称です。このうち、実在する特定の人物の顔や身体的特徴を用いて性的な内容の画像・動画を作り出したものが「性的ディープフェイク」と呼ばれています。法令上の定義語ではないため、条文を検討する際は「どの行為が、どの構成要件に当たるのか」を一つずつ分解する必要があります。

実務で問題になる3つの作られ方

相談の場面で現れるパターンは、大きく次の3類型に整理できます。この違いは、後述するとおり適用可能な罪名を大きく左右します。

第1に、顔の差し替え型(フェイススワップ)です。被害者本人のSNSアイコンや卒業アルバム写真など、公開されている顔画像を素材として取り込み、別人が撮影された性的画像・動画の顔部分に合成するものです。身体部分は第三者の実写であり、顔部分は被害者本人という構成になります。

第2に、着衣画像の脱衣加工型です。被害者が普通に写っている水着姿・制服姿などの写真を入力し、生成AIに衣服を除去した画像を出力させるものです。近年はスマートフォンアプリ単体で完結するものもあり、加害者側の技術的なハードルが著しく下がっています。

第3に、プロンプト生成型です。特定人物の顔画像を学習させたモデルを用意し、文章による指示(プロンプト)だけで性的な画像を大量に出力するものです。この場合、出力画像に対応する「撮影された原本」は存在しません。

被害の特徴は「拡散速度」と「証拠の消えやすさ」

性的ディープフェイク被害の最大の特徴は、投稿から拡散までが極めて速い一方で、投稿自体は加害者の判断でいつでも削除できる点にあります。被害者が気づいた時点では既に転載が始まっており、しかも一次投稿は削除されて証拠が失われる、という事態が頻繁に起こります。

加えて、被害者が刑事手続を検討する場合、名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪であり、告訴期間は「犯人を知った日から6か月」と定められています(刑事訴訟法235条)。匿名の投稿では、発信者情報開示によって加害者が特定できた時点から時計が動き出すことが多いため、証拠保全と手続の順序を誤ると、罪名を選べる幅が狭まってしまいます。

適用されうる主な罪名の一覧

執筆時点で、性的ディープフェイクそのものを正面から処罰する国レベルの専用法令は存在しません。したがって、既存の刑罰法規のどれに当てはめるかを検討することになります。主なものを整理すると次のとおりです。

罪名(根拠条文) 法定刑 親告罪か 公訴時効
わいせつ物頒布等罪(刑法175条1項) 2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金もしくは科料、または拘禁刑及び罰金の併科 非親告罪 3年
名誉毀損罪(刑法230条1項) 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 親告罪(刑法232条1項) 3年
侮辱罪(刑法231条) 1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料 親告罪(刑法232条1項) 3年
児童ポルノ提供・公然陳列等(児童ポルノ禁止法7条6項) 5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはこれを併科 非親告罪 5年
性的影像記録提供等罪(性的姿態等撮影処罰法3条2項。元画像が盗撮等の違法な撮影による場合に限る) 5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはこれを併科 非親告罪 5年
著作権侵害罪(著作権法119条1項) 10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはこれを併科 原則として親告罪(著作権法123条1項) 7年

なお、法定刑の「拘禁刑」は、2025年6月1日施行の改正刑法により、従来の懲役と禁錮が一本化されたものです。公訴時効は刑事訴訟法250条2項の区分に従って算出しています。

刑法上の主要な罪名|わいせつ物頒布等罪と名誉毀損罪・侮辱罪

わいせつ物頒布等罪(刑法175条)

刑法175条1項は、「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者」を2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金もしくは科料に処し、または拘禁刑及び罰金を併科すると定めています。同項後段は、「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者」も同様とし、インターネット送信型を明示的に捕捉しています。2項では、有償で頒布する目的での所持・保管も処罰対象です。

ここでいう「頒布」の意義について、最高裁は、刑法175条1項後段の「頒布」とは不特定または多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることを意味すると判示しています(最決平成26年11月25日刑集68巻9号1053頁)。閲覧者にダウンロードさせる形態であれば頒布に当たり、サーバーが国外にあっても国内犯として処罰されうることが示された事例です。

また「公然と陳列」については、わいせつな画像データを蔵置したサーバーのハードディスクを不特定多数の者が閲覧できる状態に置く行為がこれに当たるとされています(最決平成13年7月16日刑集55巻5号317頁)。SNSやウェブサイトに投稿して誰でも見られる状態にする行為は、典型的な公然陳列です。

実務上、刑法175条が最初に検討されやすいのは、この罪が被害者の存在を構成要件としていないためです。画像が「わいせつ」と評価され、それが頒布または公然陳列されていれば足り、描かれた人物が実在するか、誰であるかを立証する必要がありません。非親告罪であるため告訴期間の制約もありません。2025年には、生成AIで作成したわいせつ画像をポスターとして印刷・販売した事案や、女性芸能人・知人女性の顔をもとに生成した性的な画像・動画を販売した事案について、同条を適用した摘発が報道されています。

もっとも、限界もあります。まず、わいせつ性が認められない程度の画像(下着姿にとどまるもの等)は対象外です。次に、この罪はあくまで社会的法益(性的秩序・健全な性風俗)に対する罪であり、被害者個人の権利回復に直結しません。被害者が「自分の被害」として位置づけたい場合には、次に述べる名誉毀損罪の検討が必要になります。

名誉毀損罪(刑法230条1項)

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者を、その事実の有無にかかわらず3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処するものです。ポイントは「事実の摘示」の有無です。

性的ディープフェイクにおいて問題となるのは、画像そのものが「事実の摘示」といえるかという点です。文章による記述がなくとも、実在の人物の顔を伴う性的画像を公開する行為は、その人物が実際にそのような性的行為をした・そのような姿態をとったという具体的事実を示すものと評価しうると考えられます。加えて、「○○の流出画像」といったキャプション、氏名・学校名・勤務先の併記があれば、事実の摘示性と対象者の同定可能性はより明確になります。

「公然と」の要件については、SNSや掲示板のように不特定多数が閲覧可能な場に投稿する行為は通常これを満たします。クローズドなグループチャットであっても、伝播可能性が認められれば公然性が肯定される余地があります。

なお刑法230条の2は、摘示された事実が公共の利害に関する事実であり、目的が専ら公益を図ることにあり、かつ真実であることの証明があったときは処罰しないと定めます。しかし性的ディープフェイクは、そもそも事実が存在しない虚偽の画像ですから、真実性の証明はおよそ成り立ちません。この免責規定が問題となる場面は想定しにくいでしょう。

顔の差し替え型については、2019年から2020年にかけて女性芸能人の顔を合成した動画を有料サイトに掲載した事案で、2021年に東京地方裁判所が名誉毀損罪と著作権法違反による有罪判決を言い渡したと報じられています。他方、報道によれば、生成AIによって全面的に作り出された画像について名誉毀損罪を適用した先例は乏しく、捜査機関としても、成立要件が明確で立証が容易な刑法175条を先行させる運用がみられます。告訴を検討する際は、この点を踏まえ、罪名を単一に絞り込まず、事実関係を丁寧に記載したうえで捜査機関の判断に委ねる姿勢が現実的です。

侮辱罪(刑法231条)との振り分け

侮辱罪は、事実を摘示しなくても公然と人を侮辱した場合に成立し、法定刑は1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。2022年の刑法改正で法定刑が引き上げられ、これに伴い公訴時効も1年から3年に延びました。

画像自体が具体的事実を示すとまではいえない場合や、画像に付された罵倒的なコメントが問題となる場合には、侮辱罪の適用が検討されます。実務上は、同一の投稿について名誉毀損罪と侮辱罪のいずれが適切かの判断が難しいことも多く、告訴状では投稿の全体像(画像・キャプション・スレッドの文脈)を漏れなく示すことが重要です。

親告罪であることの実務上の意味

名誉毀損罪・侮辱罪は、いずれも刑法232条1項により親告罪とされ、告訴がなければ公訴を提起できません。そして刑事訴訟法235条は、親告罪の告訴について「犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない」と定めています。

匿名アカウントによる投稿の場合、「犯人を知った日」は、犯人の住所・氏名まで知る必要はないものの、犯人が誰であるかを特定できる程度に認識した日と解されています(最決昭和39年11月10日)。匿名アカウントでは、発信者情報開示等で投稿者が判明した日がこれに当たることが多い一方、投稿者に心当たりがある場合は、開示を待たずに期間が進んでいると判断されるおそれがあります。開示手続に時間を要した結果、特定できた時点から6か月という短い期間で告訴の準備を整えなければならないことになります。証拠の整理を後回しにせず、開示手続と並行して告訴状の素材を作り込んでおくことが実務上のポイントです。

性的姿態等撮影処罰法は使えるか|「撮影」要件という壁

令和5年法律第67号の構造

2023年7月13日に施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(令和5年法律第67号。以下「性的姿態等撮影処罰法」)は、いわゆる盗撮を全国一律に処罰する法律です。処罰規定は次のとおり構成されています。

条文 罪名 法定刑
2条1項 性的姿態等撮影罪(ひそかな撮影、同意困難状態に乗じた撮影、誤信させての撮影、13歳未満の者を対象とする撮影および13歳以上16歳未満の者を5歳以上年長の者が行う撮影) 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(未遂も処罰)
3条1項 性的影像記録提供罪 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
3条2項 性的影像記録の不特定・多数提供、公然陳列 5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはこれを併科
4条 性的影像記録保管罪(提供目的) 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金
5条1項 性的姿態等影像送信罪 5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはこれを併科
6条1項 性的姿態等影像記録罪 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(未遂も処罰)

純粋なAI生成画像には原則として及ばない

ここで重要なのは、同法3条にいう「性的影像記録」の定義です。条文は、「2条1項各号に掲げる行為若しくは6条1項の行為により生成された電磁的記録その他の記録又は当該記録の全部若しくは一部を複写したもの」と定義しています。つまり、違法な撮影行為または違法な影像送信の記録行為によって生成された記録であることが前提です。

また2条1項各号の行為はいずれも「撮影する行為」であり、生成AIに画像を出力させる行為はこれに該当しません。したがって、前掲の第3類型(プロンプト生成型)のように、被害者を撮影した事実がまったく存在しない純粋なAI生成画像については、性的姿態等撮影処罰法の適用は原則として困難です。この点は、被害者の実感と法律の建て付けが最も乖離する部分であり、国会でも立法上の課題として議論が続いています。

元画像が盗撮画像・私的な画像である場合

他方で、加工の素材となった元画像自体が違法に撮影されたものである場合には、話が変わります。たとえば、更衣室で盗撮された画像をAIで加工して拡散したケースでは、盗撮行為そのものが2条1項1号に、加工前後の画像の拡散が3条2項に該当しうるという整理が可能です。加工後の画像が「性的影像記録の一部を複写したもの」に当たるかは個別判断になりますが、少なくとも元の盗撮画像に関する犯罪事実は独立して成立します。

したがって、告訴を検討する際は、問題の画像がどこから来たのかを可能な限り遡って確認することが実務上の要点になります。「自分の水着写真がSNSに載っていたはずだ」「更衣室で撮られた記憶がある」といった被害者の記憶は、罪名選択を左右する重要な情報です。

被害者が18歳未満の場合|児童ポルノ禁止法と最高裁令和2年1月27日決定

2条3項の定義と7条の罰則

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)2条3項は、「児童ポルノ」を、写真・電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、同項各号に掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものと定義しています。ここでいう「児童」は18歳未満の者を指します(同条1項)。

条文が「撮影されたもの」ではなく「描写したもの」という文言を用いている点は、性的姿態等撮影処罰法やリベンジポルノ防止法との決定的な違いです。この文言により、写真以外の手段で作成された画像も対象になりえます。

罰則は7条に定められており、提供は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(2項)、不特定・多数への提供および公然陳列は5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金またはこれを併科(6項)、自己の性的好奇心を満たす目的での所持・保管は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(1項)です。いずれも非親告罪であり、被害者の告訴がなくても捜査・起訴が可能です。

CG事件の最高裁決定が示した判断枠組み

合成画像の児童ポルノ該当性については、実在の児童の写真を素材として画像編集ソフトで作成したCGが争われた事件があり、最高裁は令和2年1月27日に決定を出しています(原審は東京高判平成29年1月24日)。

この決定は、児童ポルノとは実在する児童の姿態を描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まれないと判示したうえで、実在の児童を撮影した写真を素材として作成されたCGについて児童ポルノ製造罪の成立を認めた原判断を是認しました。あわせて、製造罪が成立するために、描写されている人物が製造時点において18歳未満であることを要しないとしています。実在の児童との同一性をどう判断するかについては、第一審の東京地判平成28年3月15日が、顔立ちや性器等といった重要な部位において、一般人からみて架空の児童の姿態ではなく実在の児童の姿態を忠実に描写したものと認識できる場合には同一性が認められるとする枠組みを示しており、控訴審の東京高判平成29年1月24日もこれを是認しています。

この判断枠組みは、生成AIによる画像にも一定の示唆を与えます。実在する特定の児童の顔画像を素材として、その児童と同定できる形で性的な姿態を描写した画像は、児童ポルノに該当しうるという整理です。実際、2025年には、実在する児童の画像をもとに生成AIで作成された性的画像を児童ポルノに当たると判断して起訴した事例が報道され、2026年6月には名古屋地方裁判所が、こうした画像の所持を児童ポルノ禁止法違反と認める判決(第一審)を言い渡したと報じられています。

実務上の注意点

被害者が18歳未満である場合、児童ポルノ禁止法違反は非親告罪であり、法定刑も刑法175条より重く設定されています。告訴期間の制約もありません。被害の届出にあたっては、被害児童の年齢を疎明する資料(戸籍・学生証等)と、画像に描写された人物が当該児童であると認識できることを示す資料(元となった顔写真、同一性を示す特徴の対照)を整理しておくことが重要です。

なお、警察庁は2025年12月18日に、児童の性的ディープフェイク被害・加害の防止を目的とした広報啓発資料を公表しています。学校現場での同級生を対象とした加害が問題となっており、加害側が未成年である事案も少なくありません。

そのほかに検討すべき法令と、国・自治体の動き

リベンジポルノ防止法は使えるか

「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(平成26年法律第126号。いわゆるリベンジポルノ防止法)3条は、第三者が撮影対象者を特定できる方法で私事性的画像記録を不特定または多数の者に提供した者を3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処すると定めています。

しかし、同法2条1項は「私事性的画像記録」を、同項各号に掲げる人の姿態が撮影された画像に係る電磁的記録その他の記録と定義しています。つまり、実際の撮影行為の存在が前提です。加えて、同法が保護するのは「撮影対象者」であり、顔の差し替え型ディープフェイクの場合、身体部分を撮影された第三者が撮影対象者に当たり、顔を使われた被害者は撮影対象者に該当しないという整理になります。したがって、純粋なAI生成画像や顔差し替え型に同法をそのまま適用することは、条文上困難です。なお同法3条4項により、これらの罪は親告罪とされています。

著作権法

加工の素材として他人が撮影した写真を無断で使用した場合、その写真の著作権者(撮影者)との関係で著作権侵害が問題になります。著作権法119条1項は、著作権等を侵害した者を10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると定めており、同法123条1項により原則として親告罪です。

注意すべきは、告訴権者は著作権者であって被写体本人ではないという点です。被害者が自撮り写真を素材にされた場合は被害者自身が著作権者となりますが、他人が撮影した写真(学校の集合写真、プロが撮影した宣材写真等)であれば、告訴できるのは撮影者や権利を承継した者です。被写体本人が告訴人となっても、著作権侵害罪については有効な告訴になりませんので、誰が権利者かを先に確認する必要があります。

条例による規制の動き

国レベルの専用法令がない中で、自治体による対応も始まっています。鳥取県では、鳥取県青少年健全育成条例が改正され、生成AIその他の情報処理に関する技術を利用して青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る)が「児童ポルノ等」の定義に含められました(令和7年鳥取県条例第2号。令和7年4月1日施行)。さらに、児童ポルノ等の作成・製造・提供の禁止規定に違反した者や、知事の命令に従わない者を5万円以下の過料に処する規定が新設されています(令和7年鳥取県条例第35号による同条例28条の追加。令和7年8月4日施行)。行政罰であり刑罰ではありませんが、条例レベルでの規制の先例として注目されています。

国の検討状況

2025年6月4日に公布された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号。いわゆるAI推進法)は、基本理念や国・事業者の責務、人工知能基本計画の策定等を定めるものであり、ディープフェイクを直接規制する罰則規定は置かれていません。同法は同日一部施行、2025年9月1日に全面施行されています。

青少年保護の観点では、こども家庭庁が生成AIの悪用による児童の被害実態の把握を進めるなど、政府でも対応策の検討が進められています(最新の取組状況はこども家庭庁・警察庁の公表資料でご確認ください)。国立国会図書館の調査資料でも、諸外国が性的ディープフェイクの作成・拡散を直接処罰する立法を進めていることが紹介されており、日本でも今後の法整備が課題とされています。現時点では、既存の罪名を組み合わせて対応するほかないというのが実務の前提です。

証拠保全の実務|削除される前に何をどう残すか

性的ディープフェイク事案でよくある失敗は、「怖くなってブロックした」「見たくないので閉じた」まま時間が経ち、投稿が削除されてしまうケースです。捜査機関は、被害の存在自体を客観的に確認できなければ動けません。保全は、被害を知った当日に着手すべき作業です。

保全すべき対象

次の項目をできる限り確保してください。欠けている項目が多いほど、後の特定作業や被害の立証に支障が出やすくなります。

  • 投稿URL(短縮URLではなく、ブラウザのアドレスバーに表示される完全なURL)
  • 投稿アカウントの識別情報(ユーザーID、アカウントのプロフィールURL、表示名、アイコン)
  • 投稿日時(相対表示「3時間前」ではなく、絶対日時が表示される画面)
  • 画像・動画そのもの(可能な範囲でファイルとして保存)
  • 投稿本文・キャプション・ハッシュタグ(被害者の氏名・所属が併記されていれば特に重要)
  • 閲覧数・リポスト数・いいね数(拡散の程度を示す)
  • 返信・引用投稿(二次拡散と、加害者以外の関与を示す)

スクリーンショットだけでは足りない理由

画面の一部だけを切り取ったスクリーンショットは、いつ・どこで・誰の投稿を撮ったのかが判別できず、証拠としての価値が大きく下がります。URLバー、アカウント名、日時、画面全体が一度に写った状態で保存してください。ページ全体を1枚に収めるフルページスクリーンショット機能や、ブラウザの印刷機能でPDFとして保存する方法が有効です。PDFであれば、保存時のURLと日時がヘッダー・フッターに自動的に記録される場合があります。

スマートフォンで撮影する場合も、投稿画面をPCで開き、画面全体を別の端末で撮影する(画面と時計が同時に写るようにする)といった工夫が有効です。あわせて、保存したファイルは変更を加えずに原本として別媒体に複製し、作業用のコピーとは分けて管理してください。ファイルの作成日時やハッシュ値を控えておくと、同一性の説明が容易になります。

時系列と二次拡散の記録

拡散事案では、「いつ、どこで、何件確認したか」の時系列表が極めて有効です。日付・確認時刻・URL・サイト名・投稿者名・確認方法を一覧にしておくと、告訴状の犯罪事実欄をそのまま組み立てられます。転載先が複数のサイトにまたがる場合、どれが一次投稿かを示す手がかり(投稿日時の前後関係、画像の解像度・透かしの有無)も記録しておきましょう。

また、被害を知った経緯(誰から知らされたか、いつ気づいたか)、周囲の反応(同級生・同僚から指摘された等)、被害者本人に生じた影響(通院、休職、退学の検討等)も、記録に残す価値があります。名誉毀損罪の「名誉の毀損」という結果や、量刑事情の立証に結びつく事実だからです。

やってはいけないこと

第一に、加害者と思われる人物に直接連絡を取ることは避けてください。証拠隠滅やアカウント削除を招くだけでなく、被害者側の言動が後にトラブルの原因となることがあります。第二に、自分でSNS上に「これは偽物です」と反論投稿をすることも、結果として問題の画像を広める効果を生むことがあります。第三に、加害者を特定しようとして自ら他人のアカウントにログインを試みるような行為は、不正アクセス禁止法違反となるおそれがあります。

また、被害画像を家族や友人に転送することも、たとえ相談目的であっても控えるべきです。児童が被写体の場合は、転送行為自体が児童ポルノの提供に当たるおそれがあります。相談先は、警察、弁護士、行政書士など、業務としてこれを取り扱う相手に限定してください。特に児童が写っている画像は、専門家への相談であっても画像ファイルそのものは送らず、URLや保存状況を伝えるにとどめ、画像の提出方法は警察の指示に従ってください。

削除請求と発信者情報開示|情報流通プラットフォーム対処法の枠組み

2025年4月1日施行の情プラ法

従来のプロバイダ責任制限法は、2024年の改正により法律名が「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情報流通プラットフォーム対処法、いわゆる情プラ法)に改められ、2025年4月1日に施行されました。改正の柱は、大規模プラットフォーム事業者に対する削除対応の迅速化と、運用状況の透明化です。

同法20条1項により総務大臣から指定を受けた「大規模特定電気通信役務提供者」は、権利侵害を受けたとする者が削除の申出を行うための方法を定めて公表しなければならず(22条)、申出があったときは遅滞なく必要な調査を行う義務を負います(23条)。そして25条1項は、申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に、送信防止措置を講じたか否か、講じなかった場合はその理由を申出者に通知しなければならないと定めています。この期間は、総務省令により原則として7日とされています。

また26条1項により、大規模事業者は自ら定めて公表した基準に従う場合に限り送信防止措置を講ずることができるとされ、削除基準の事前公表が義務づけられました。被害者側から見れば、削除申出の窓口と処理期限が制度上明確になったことになります。

発信者情報開示命令

投稿者を特定する手続としては、同法5条の発信者情報開示請求と、8条以下の発信者情報開示命令があります。開示命令は裁判所に対する申立てによる非訟手続であり、従来の仮処分と訴訟の二段階手続に比べて手続が一本化されています。開示が認められるには、権利が侵害されたことが明らかであること、開示を受けるべき正当な理由があることが必要です(5条1項1号・2号)。

これらの裁判手続は、代理人として行うことができるのは弁護士に限られます。被害者本人が行うことも制度上は可能ですが、証拠の構成や主張の組み立てに専門的な判断を要するため、実務では弁護士に依頼するのが一般的です。

削除と告訴の順序

被害者としては、一刻も早い削除を望むのが自然です。しかし、削除が完了すると、その投稿を捜査機関が直接確認することはできなくなります。削除申出の前に、必ず前章の証拠保全を完了させてください。これは順序の問題であり、どちらか一方を選ぶという話ではありません。

また、既に削除された投稿についても、保全済みの資料があれば告訴は可能です。捜査機関は、捜査関係事項照会(刑事訴訟法197条2項)や令状による差押え等によって事業者から記録を取得できる場合があるため、被害者側で完全な立証をする必要はありません。ただし、事業者が記録を保存する期間には限りがあります。「削除されてしまったから諦める」という判断は早計です。

告訴状の作成と提出|警察署長(司法警察員)宛ての実務

被害届と告訴の違い

被害届は、犯罪被害の事実を捜査機関に申告する届出です。これに対して告訴は、刑事訴訟法230条に基づき、犯罪により害を被った者が犯罪事実を申告し、あわせて犯人の処罰を求める意思表示を行うものです。この処罰意思の有無が両者の決定的な違いです。

告訴には法的効果が伴います。刑事訴訟法242条により、司法警察員は告訴を受けたときは速やかに関係書類と証拠物を検察官に送付しなければなりません。また260条により、検察官は告訴のあった事件について起訴・不起訴の処分をしたときは速やかに告訴人へ通知する義務を負い、261条により、不起訴処分について告訴人から請求があれば、速やかにその理由を告げなければなりません。名誉毀損罪・侮辱罪のような親告罪では、そもそも告訴がなければ起訴できません。

告訴の方式は、刑事訴訟法241条1項により「書面又は口頭で検察官又は司法警察員に」行うものとされています。行政書士が作成できるのは、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状です。検察庁に提出する書類の作成は、司法書士の業務範囲となります。

告訴状に整理すべき内容

告訴状に法定の書式はありませんが、捜査機関が事件として受理・立件できるだけの情報が過不足なく整理されている必要があります。性的ディープフェイク事案では、次の点を意識して構成します。

第一に、告訴人と被告訴人の特定です。被告訴人が匿名の場合は「氏名不詳」としたうえで、アカウント名、アカウントURL、投稿の特徴など、特定に資する情報をできる限り具体的に記載します。

第二に、犯罪事実の記載です。「いつ・どこで(どのサービスのどのURLで)・誰が・何を・どのようにして・どうしたか」を時系列で示します。ディープフェイク事案に固有の要素として、(1)問題の画像が被害者本人を描写したものと認識できること、(2)その画像が現実に撮影されたものではないこと、(3)不特定多数が閲覧可能な状態に置かれたこと、の3点を明確に書き分けることが重要です。

第三に、罪名と適用法条です。複数の罪名が成立しうる場合、主位的な罪名と予備的な罪名を示す形で整理します。罪名の最終的な判断は捜査機関が行いますので、被害者側で無理に絞り込む必要はありません。

第四に、立証方法(証拠の一覧)です。保全した資料を番号付きで一覧化し、それぞれが犯罪事実のどの部分を裏づけるのかを対応させます。この対応関係が明確な告訴状は、受理判断が円滑に進む傾向があります。

第五に、処罰を求める意思の明示です。「厳重に処罰することを求める」旨を明記しなければ、被害届と同じ扱いになりかねません。

受理後の流れと、不起訴となった場合

告訴が受理されると、捜査機関による捜査が行われ、事件は検察官に送致・送付されます。検察官が起訴・不起訴を判断し、その結果は刑事訴訟法260条に基づき告訴人に通知されます。不起訴となった場合、告訴人は261条に基づき理由の告知を請求できます。

さらに、不起訴処分に不服がある場合、告訴人は検察審査会に対して処分の当否の審査を申し立てることができます(検察審査会法2条2項、30条)。申立ては書面により、かつ申立ての理由を明示して行う必要があります(同法31条)。

行政書士ができること・できないこと

行政書士の業務は、行政書士法1条の3第1項により、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することと定められています。警察署長(司法警察員)宛ての告訴状は、官公署に提出する書類として、行政書士が作成できる書類です。作成した書類の提出手続の代理については、同法1条の4第1項1号に規定がありますが、弁護士法72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものは除かれています。告訴を代理人として行うことはこれに当たると解されるため、当事務所が作成した告訴状は、ご依頼者ご自身で警察署に提出していただきます。

他方で、次の事項は行政書士の業務範囲外です。捜査機関との交渉、被疑者・加害者との示談交渉、損害賠償請求、慰謝料の金額算定に関する助言、削除請求の代理、発信者情報開示命令の申立てその他の裁判手続は、いずれも弁護士の業務です。また、裁判所に提出する書類の作成は司法書士の業務範囲となります。

行政書士法人Treeでは、被害者からお聞きした事実関係と保全された資料をもとに、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状の作成を承ります。どの資料がどの事実を裏づけるのかを対応させ、捜査機関が事件の全体像を把握できる形に構成することが、書類作成の実務における中心的な作業です。

よくある質問

撮影された事実がないのに、犯罪になるのですか

なります。刑法175条のわいせつ物頒布等罪は、画像が現実の撮影に基づくものかを問いません。名誉毀損罪も、摘示された事実が虚偽であっても成立します(むしろ真実性の証明ができないため免責されません)。被害者が18歳未満であれば、児童ポルノ禁止法違反となる可能性があります。ただし、盗撮を処罰する性的姿態等撮影処罰法は、条文上「撮影する行為」を前提とするため、純粋なAI生成画像には原則として適用されません。

加害者が誰かわかりません。告訴できますか

できます。告訴状の被告訴人欄は「氏名不詳」でも差し支えありません。アカウント名やURLなど、特定に資する情報を可能な限り具体的に記載します。ただし、名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪であり、告訴期間は犯人を知った日から6か月です。非親告罪である刑法175条違反や児童ポルノ禁止法違反には、この期間制限はありません。

投稿が既に削除されてしまいました

保全済みの資料があれば告訴は可能です。捜査機関は捜査関係事項照会や令状による差押え等によって事業者から記録を取得できる場合があるため、被害者側で完全な立証をする必要はありません。保全が不十分な場合でも、閲覧した日時・URL・状況を記録し、被害を知らせてくれた第三者がいればその方の記憶も含めて整理してください。

加害者が未成年です

刑法41条は14歳に満たない者の行為は罰しないと定めています。したがって14歳以上であれば刑事責任を問いうる年齢に達しており、原則として家庭裁判所に送致されて少年審判の対象となります。14歳未満の場合は刑事責任を問えませんが、児童相談所への通告など別の枠組みでの対応があります。いずれの場合も、被害の事実を捜査機関へ正確に申告する必要がある点は変わりません。

加害者に損害賠償を請求したいのですが

損害賠償請求は弁護士の業務範囲です。行政書士は、金額の算定や請求の代理を行うことができません。刑事手続とは別に民事上の請求を検討される場合は、弁護士にご相談ください。

告訴状・告発状の作成でお困りの方へ。行政書士法人Treeでは、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状の作成を承ります。書類作成に関するご相談は何度でも無料です。

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まとめ

性的ディープフェイクそのものを正面から処罰する国レベルの専用法令は、執筆時点では存在しません。しかし、既存の刑罰法規のうち刑法175条のわいせつ物頒布等罪は被害者の存在を構成要件とせず非親告罪であるため、実務上まず検討される罪名です。最決平成26年11月25日は、電気通信送信による「頒布」を不特定または多数の者の記録媒体上に記録を存在するに至らしめることと解しています。

被害者個人の権利に着目するなら名誉毀損罪・侮辱罪が候補になりますが、いずれも親告罪であり、告訴期間は犯人を知った日から6か月です(刑事訴訟法235条)。匿名投稿では発信者情報開示によって投稿者が特定できた時点から短い期間で告訴を整えねばならないため、開示手続と並行して証拠を整理しておく必要があります。

被害者が18歳未満である場合は、児童ポルノ禁止法の適用が中心になります。同法2条3項が「描写したもの」という文言を用いていること、および最高裁令和2年1月27日決定が実在する児童の姿態を描写したものであれば児童ポルノに当たるとしていることから、合成画像であっても該当しうる点が重要です。他方、盗撮を処罰する性的姿態等撮影処罰法は「撮影する行為」を前提とするため、純粋なAI生成画像には原則として及びません。

手続面では、削除より先に証拠保全という順序を守ってください。URL・アカウント情報・絶対日時・画面全体を含む形で保存し、二次拡散の時系列を一覧化しておくことが、そのまま告訴状の犯罪事実欄の骨格になります。削除申出については、2025年4月1日施行の情報流通プラットフォーム対処法により、大規模事業者は申出から原則7日以内に判断結果を通知する義務を負っています。

行政書士法人Treeでは、行政書士法1条の3第1項に基づき、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状の作成を承ります。お聞きした事実関係と保全された資料を突き合わせ、どの証拠がどの事実を裏づけるのかを対応させたうえで、捜査機関が事件の全体像を把握できる書面に構成します。書類作成に関するご相談は何度でも無料です。

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