特定技能でネパール人材を受け入れようとすると、多くの企業が「送出機関はどこを使えばいいのか」「DOFEの労働許可証はいつ取るのか」という論点にぶつかります。ところが、この二つは実務上もっとも誤解が多いポイントでもあります。出入国在留管理庁は、ネパールについて「必ずしもネパール政府が認定した送出機関を利用する必要はない(送出機関の利用は任意)」と明示しており、さらに「ネパール側の手続を行ったことを証明する書類を在留諸申請において提出する必要はありません」とまで書いています。ベトナムやインドネシアの感覚をそのまま持ち込むと、要らない手続を探して時間を溶かすか、逆に必要な手続を落として出国審査で止まるか、どちらかになりかねません。
本記事では、日本ネパール間の協力覚書(MOC)、ネパールの外国雇用法(Foreign Employment Act, 2064)が定める二つの労働許可ルート、入管庁が公表しているネパール専用の手続フロー、そして日本側の上陸基準との接続点までを、一次情報にあたりながら実務目線で整理します。あわせて、令和7年12月末時点の公式統計から見えるネパール人材の「試験ルート95%」という特異な構造と、それが受入れ計画に与える影響も扱います。
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目次
数字で見るネパール人材の現在地|特定技能1号12,277人・第6位
まず前提として、ネパールが特定技能の送出国としてどの位置にいるのかを公式統計で押さえておきます。出入国在留管理庁が公表した「特定技能在留外国人数(令和7年12月末現在)」によれば、特定技能全体は390,296人(1号382,341人、2号7,955人)で過去最高を記録しました。このうちネパール国籍の特定技能1号は12,277人で、ベトナム(158,497人)、インドネシア(86,523人)、ミャンマー(44,315人)、フィリピン(35,521人)、中国(21,418人)に次ぐ第6位です。特定技能2号は110人にとどまります。
注目すべきは分野構成です。ネパール国籍の特定技能1号12,277人の内訳は次のとおりで、全国シェアと比べると偏りがはっきり出ます。
| 特定産業分野 | ネパール(人) | 全国(人) | 全国に占めるネパールの割合 |
|---|---|---|---|
| 介護 | 6,013 | 67,871 | 約8.9% |
| 外食業 | 4,135 | 43,869 | 約9.4% |
| 農業 | 787 | 37,952 | 約2.1% |
| 航空 | 329 | 2,260 | 約14.6% |
| ビルクリーニング | 265 | 8,395 | 約3.2% |
| 建設 | 259 | 49,323 | 約0.5% |
| 宿泊 | 228 | 1,968 | 約11.6% |
| 飲食料品製造業 | 212 | 93,393 | 約0.2% |
| 工業製品製造業 | 40 | 56,736 | 約0.1% |
| 自動車整備 | 7 | 4,560 | 約0.2% |
| 自動車運送業 | 2 | 151 | 約1.3% |
| 合計(表にない分野を含む) | 12,277 | 382,341 | 約3.2% |
ネパール国籍者が特定技能1号全体に占める割合は約3.2%ですが、航空(約14.6%)、宿泊(約11.6%)、外食業(約9.4%)、介護(約8.9%)では全国シェアを大きく上回っています。逆に、飲食料品製造業や工業製品製造業といった技能実習からの移行が中心の分野では、ほとんど存在感がありません。造船・舶用工業、漁業、鉄道、林業、木材産業はゼロです。
ネパールは「試験ルート」が95%を占める国である
この偏りの理由は、取得ルート別の統計を見ると一目でわかります。同じ令和7年12月末時点で、ネパール国籍の特定技能1号12,277人のうち、試験ルートが11,711人、技能実習ルートはわずか566人です。試験ルートの比率は約95.4%に達します。特定技能1号全体では試験ルート174,625人・技能実習ルート207,399人で、試験ルートは約45.7%にすぎませんから、ネパールは全体平均とまったく異なる構造を持っていることになります。
この「試験ルート95%」という事実は、受入実務に直結します。技能実習ルートが主流の国であれば、すでに日本国内にいる技能実習生を特定技能に切り替える形が中心となり、本国側の出国手続はほとんど関係しません。ところがネパールの場合、圧倒的多数が海外から新規に入国してくる人材です。つまり、在留資格認定証明書(COE)の交付、在ネパール日本国大使館での査証発給、そしてネパール側の出国手続が、ほぼすべての案件で登場します。ネパール案件で「送出国側の手続」を軽視できないのは、この構造があるからです。
試験ルートで来日する以上、技能試験と日本語試験の合格が入口になります。分野別の試験制度については特定技能の技能試験ガイド|分野別試験・日本語試験・免除条件を解説で全体像を整理しています。
協力覚書(MOC)と「送出機関の利用は任意」という前提
日本ネパール間のMOCは何を定めたものか
特定技能制度では、送出国政府との間で協力覚書(Memorandum of Cooperation、MOC)が作成されています。ネパールとの間では、制度運用開始に先立つ平成31年(2019年)3月25日、カトマンズにおいて署名・交換が行われました。日本側の当事者は法務省・外務省・厚生労働省・警察庁、ネパール側はネパール労働・雇用・社会保障省(MoLESS)です。
MOCの内容として入管庁が挙げているのは、次の2点を柱とする協力です。
- 仲介事業者等による保証金の徴収、不法な金銭の支払いに係る定め及び人権侵害行為等の情報を含む、円滑かつ適正な送出し・受入れに資する情報の共有
- 本制度の適正な運用に向けて改善が必要となる問題の是正のための協議の実施
さらに、2024年3月6日に在ネパール日本国大使館とネパール外務省との間で口上書が交換され、MOCの継続期間は2024年4月1日から5年間更新されています。したがって本記事執筆時点でMOCは有効に継続しています。
ここで重要なのは、MOCの性格が「情報共有と協議の枠組み」であって、特定の送出機関の利用を義務づける文書ではないという点です。MOCは悪質な仲介事業者を排除するための情報連携の土台であり、そこから直ちに「政府認定の送出機関を通さなければならない」という結論は出てきません。国によっては、MOCに加えて送出国側が独自に認定送出機関制度を運用し、日本側でもその利用を前提とした取扱いをしている場合がありますが、ネパールはそうではない、というのが次節の話です。
【最重要】ネパールは「認定送出機関の利用は任意」である
出入国在留管理庁の「ネパールに関する情報」ページには、「認定送出機関」という見出しのもとに、次の趣旨が明記されています。
ネパールについては、特定技能外国人を受け入れるに当たって、必ずしもネパール政府が認定した送出機関を利用する必要はない(送出機関の利用は任意)とのことです。
加えて、申請手続の項では「ネパールについては、ネパール側の手続を行ったことを証明する書類を在留諸申請において提出する必要はありません」とされています。つまり、地方出入国在留管理官署にCOE交付申請や在留資格変更許可申請を出す際に、労働許可証の写しや送出機関との契約書を添付しなければならない、ということはありません。
「不要」なのは日本の在留諸申請への添付であって、ネパール国内法の手続ではない
ここを取り違えると事故になります。入管庁が言っているのは、あくまで日本の在留諸申請における立証資料としての提出は不要という意味です。ネパール国内法上、海外で就労する自国民に対して課されている手続まで免除されるわけではありません。実際、同じ入管庁の「手続の解説」では、ネパール側の手続として健康診断・出国前オリエンテーション・海外労働保険・海外労働者社会福祉基金・海外労働許可証の取得が列挙され、「ネパールを出国する際、出国審査において海外労働許可証を確認」と明記されています。日本の入管が求めていなくても、ネパールの出国審査で止まれば来日できません。
技能実習・育成就労との違いに注意
混乱の一因は、技能実習制度および2027年施行予定の育成就労制度との構造の違いです。技能実習では、二国間取決めを作成した国について外国政府認定送出機関のリストが公表され、監理団体はそのリストに載った送出機関と契約することが前提とされています。育成就労でも送出機関規制はさらに強化される方向です(この点は育成就労の送出機関規制|手数料上限・契約書様式・二国間取決めの強化で整理しています)。
これに対して特定技能は、制度としてそもそも送出機関を必須の登場人物としていません。国ごとに送出国側の事情が異なるため、入管庁は国別ページで個別に案内しており、ネパールについては「任意」と整理されている、というのが正確な理解です。
それでも「DOFE許可送出機関」という言葉が出てくる理由
とはいえ、実務では「DOFEのライセンスを持った送出機関」という言い方が頻繁に出てきます。これは誤りではなく、ネパール国内法上の許可制度を指しています。ネパールの外国雇用法(Foreign Employment Act, 2064(2007))は、第10条で「許可を得ずに海外雇用事業を行ってはならない」と定め、第11条で海外雇用事業を行おうとする法人が海外雇用局(Department of Foreign Employment=DOFE)へ許可を申請すること、DOFEが所定の許可料と供託金(現金、または現金と銀行保証の組合せ)を納めさせたうえで許可を与えることを定めています。制定時(2007年)の条文では供託金を現金300万ルピー、または現金70万ルピーと残額230万ルピー分の銀行保証としていましたが、その後の法改正で変更されている可能性がありますので、現行の額はDOFEの案内でご確認ください。第12条により、許可は会計年度単位で有効とされ、更新が必要です。
つまり「DOFE許可送出機関」とは、ネパール国内で海外雇用ビジネスを営むためにDOFEの許可を受けた民間の人材会社のことであり、日本の特定技能制度が指定・認定した機関ではありません。ネパールから人材を集める際にこうした事業者と組むこと自体はごく一般的ですが、それは商流上の選択であって、法令上の必須要件ではない──この区別を関係者間で共有しておくと、後述する費用の説明責任の場面でも話が早くなります。
ネパール外国雇用法が定める2つの労働許可ルート
ネパールの労働許可(海外労働許可証)には、大きく分けて機関ルート(許可を受けた送出機関を通す場合)と個人ルート(本人が個人の資格で海外就労する場合)の二系統があります。外国雇用法の条文構造を追うと、この二つがきれいに分かれていることがわかります。
機関ルート|事前承認から労働許可ステッカーまで
許可を受けた送出機関(licensee)を通す場合、法は次の順序を予定しています。
- 第15条(事前承認):送出機関は、雇用主機関との合意に基づき、雇用主の名称・所在国、雇用の種類、労働者の種類と人数、賃金・待遇・休暇、労働日数と労働時間などを記載した申請をDOFEに提出します。添付書類として、労働者が就労する国の権限ある機関・外交使節団・労働アタッシェ・商業会議所または公証人が認証した求人書(demand letter)と委任状(authority)の原本、雇用主と労働者の契約書案、送出機関と労働者の契約書案などが求められます。DOFEは適当と認めれば申請日から4日以内に事前承認を与えます。
- 第16条(広告の公示):事前承認を得た送出機関は、ネパール語の全国紙に、7日以上の応募期間を設けた広告を掲載します。
- 第17条(選考・名簿):資格・経験等に基づいて選考し、選考者名簿を事務所の掲示板に掲示し、その写しをDOFEに提出します。
- 第19条(労働許可ステッカー):査証取得後、出国前に、技能訓練修了証および出国前研修修了証、健康診断書、保険証券、送出機関と労働者の契約書、雇用主機関と労働者の契約書、労働者が送出機関に支払った金額の領収書または銀行伝票などを添えてDOFEに提出し、DOFEが労働者の旅券に労働許可ステッカーを貼付します。
- 第20条(送出しの期限):所定の期間内(定めがなければ3か月以内)に送り出す義務があり、期限内に送り出せなかった場合は、受領した金額に年20%の利息を付して30日以内に返還しなければならないとされています。
個人ルート(第21条)|送出機関を使わない場合に関係するのはこちら
一方、送出機関を介さずに個人の資格で海外就労する場合が第21条です。本人がDOFEに対し、次の事項を記載・添付した申請を行います。
- 就労のために渡航しようとする国
- 海外で従事する業務の性質
- 雇用主機関が発行した承諾書(letter of approval)
- 雇用の条件と待遇を明確に記載した合意書
- 出国前研修(orientation training)を受講したことを示す証明書
- 健康診断書
DOFEが必要な調査を行い申請が適当と認められれば渡航の許可が与えられ、その際に保険証券の提出が求められます。なお第21条第3項は、送出機関が労働者を個人ルートで送り出してはならないと定めており、二つのルートが混線しないよう手当てされています。
特定技能で送出機関を利用しない場合、ネパール側で関係してくるのは基本的にこの個人ルートの枠組みです。入管庁の「手続の解説」が、労働許可証の申請先をネパール労働・雇用・社会保障省海外雇用局の日本担当部門(Japan Unit)とし、オンライン申請によると説明しているのも、この流れと整合します。DOFEの公式サイトでも、オンライン労働許可(FEIMS)と個人労働許可(ब्यक्तिगत श्रम स्वीकृति)の窓口が案内されています。
ルートを問わず課される共通の義務
外国雇用法には、どちらのルートでも関係する規定が置かれています。
- 第22条(自国空港の利用):原則としてネパール国内の空港を使って出国させること。やむを得ず外国の空港を使う場合はDOFEの承認が必要とされています。
- 第26条(保険):死亡・身体障害に備え、契約期間を有効期間とする最低50万ルピーの保険を付保すること。第2項により、第21条の個人ルートで渡航する者も同額の保険に加入しなければなりません。
- 第27条〜第29条(出国前研修):海外就労者は、DOFEの許可を受けた研修機関で出国前研修(orientation training)を受けなければならず、そのカリキュラムと水準は外国雇用促進委員会(Board)が定めます。
- 第32条(海外雇用福祉基金):委員会のもとに海外雇用福祉基金(入管庁の解説でいう「海外労働者社会福祉基金」)が設置され、労働者が出国前に所定額を納付することが財源の一つとされています。基金は帰還支援・補償・遺体搬送・帰国者向け事業等に使われます(第33条)。
- 第24条(サービス料):ネパール政府は、特定の国または企業について、送出機関が労働者1人から徴収できるサービス料・宣伝費の上限額を定めることができるとされています。
- 第3条・第4条:海外雇用事業の対象国は官報告示で指定され、政府は二国間労働協定を締結できるとされています。
保険金額や福祉基金の納付額、研修日数といった数値は、施行規則や告示・運用の変更で見直され得る性質のものです。具体的な金額・日数は、案件ごとにDOFE日本担当部門または駐日ネパール大使館へ確認してください。本記事で示した条文上の数値は2007年の制定時の条文(英訳)に基づくもので、その後の法改正により変わっている可能性があります。
入管庁が示すネパール受入れの全体フロー(新規入国の場合)
入管庁は、ネパール国籍者を特定技能外国人として受け入れるまでの流れを8ステップで公表しています。日本側の手続とネパール側の手続が交互に現れるため、順序を取り違えないよう表で整理します。
| # | 手続 | どちらの手続か | 要点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 求人 | ネパール制度上 | 受入機関が直接採用活動を行うほか、駐日ネパール大使館に求人申込を提出することも可能(有料)。この場合、求人情報は同大使館からDOFE日本担当部門に送られ、同部門から求職者に開示される |
| 2 | 雇用契約の締結 | — | 特定技能に係る雇用契約を締結 |
| 3 | 在留資格認定証明書の交付申請 | 日本側 | 地方出入国在留管理官署へ申請。交付後、雇用契約の相手方へ送付 |
| 4 | 査証発給申請 | 日本側 | 本人が在ネパール日本国大使館にCOEを提示して申請 |
| 5 | 健康診断・出国前オリエンテーション | ネパール側 | 指定の医療機関での健康診断受診、出国前オリエンテーション(2〜3日間)受講 |
| 6 | 海外労働保険・海外労働者社会福祉基金 | ネパール側 | 出国前に、海外労働保険への加入(入管庁の解説では保険内容の指定はされていないとされる。法律上の最低保険金額は前述の第26条参照)と海外労働者社会福祉基金への一定額の支払い |
| 7 | 海外労働許可証の取得 | ネパール側 | DOFE日本担当部門にオンラインで発行を申請し取得。ネパール出国時の出国審査で確認される |
| 8 | 入国・在留 | 日本側 | 上陸審査で条件適合と認められれば上陸許可、「特定技能」の在留資格が付与される |
実務上とくに押さえておきたいのは次の3点です。
第一に、労働許可証の申請は査証取得後です。入管庁のフローチャートには「査証を取得後、ネパール労働・雇用・社会保障省海外雇用局日本担当部門から海外労働許可証を取得するとのことです」と注記されています。COEが出た段階で労働許可証を先に取ろうとしても順序が合いません。
第二に、上記5〜7の所要日数は概ね10日間程度とされています。健康診断・オリエンテーション・保険・福祉基金・労働許可証をまとめて10日前後と見込むのが目安です。入社日から逆算する際、査証発給後に少なくともこの程度の期間を見込んで工程表に織り込んでください。もっとも、これはあくまで入管庁が示す目安であり、繁忙期や制度運用の変更で前後し得ます。
第三に、求人ルートの選択肢です。直接採用活動も可能ですし、駐日ネパール大使館経由で求人申込を出すこともできます(有料)。なお、人材紹介を受ける場合には職業安定法の問題が別途生じます(後述)。
すでに日本に在留している人を受け入れる場合
留学生や他の在留資格からの切替えなど、国内在留者を特定技能として受け入れる場合のフローは単純です。①雇用契約の締結、②地方出入国在留管理官署への在留資格変更許可申請、③許可により手続完了、の3ステップで、入国時のネパール側手続は登場しません。ただし後述のとおり、許可後に一時帰国する場面で労働許可証が必要になります。国内在留者からの切替え全般については特定技能への在留資格変更手続き|技能実習・留学からの切替方法と必要書類を解説もあわせてご確認ください。
日本側の在留手続と上陸基準|労働許可証はどこで効いてくるか
ネパール側の手続を理解したうえで、日本側の基準とどう接続するのかを確認します。
在留資格認定証明書と電子化
在留資格認定証明書の交付申請に手数料はかかりません。在留資格変更許可申請・在留期間更新許可申請の手数料は、2026年9月30日までに受け付けた申請は6,000円(オンライン申請は5,500円)ですが、2026年10月1日以降に受け付けた申請は、許可された在留期間に応じて1万円〜7万5,000円(オンラインは1万円〜6万5,000円)になります(令和8年政令第268号)。
実務上ありがたいのが電子化です。令和5年3月17日以降、在留資格認定証明書を電子メールで受領することが可能になりました。オンライン申請で受領方法に「メール」を選べば登録メールアドレスに電子的な在留資格認定証明書が送信され、窓口申請の場合も所定の申出書を提出することで電子交付を希望できます。カトマンズへ紙の原本を国際郵送する必要がなくなるため、郵送日数と紛失リスクを丸ごと削減できます。ネパール案件では優先的に検討したい実務ポイントです。
上陸基準省令が求める本人側の要件
特定技能1号の上陸基準(出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令)は、本人について次のような要件を定めています。
- 18歳以上であること、健康状態が良好であること
- 従事しようとする業務に必要な相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有することが試験その他の評価方法により証明されていること
- 本邦での生活に必要な日本語能力及び業務に必要な日本語能力を有することが試験その他の評価方法により証明されていること(技能実習2号を良好に修了し、修得技能と関連性が認められる場合は技能・日本語の両試験が免除されます)
- 退去強制令書の円滑な執行に協力するとして法務大臣が告示で定める外国政府等が発行した旅券を所持していること
- 特定技能1号での在留期間が通算して5年に達していないこと(産前産後休業・育児休業・傷病による休業等の期間を通算から除く取扱いがあるほか、特定技能2号評価試験等に不合格となった方のうち一定要件を満たす場合に通算6年までとする運用も示されています。最新の取扱いは入管庁「通算在留期間」の案内をご確認ください)
- 本人や配偶者・親族等が、保証金の徴収その他名目のいかんを問わず金銭その他の財産を管理されておらず、違約金等の契約が締結されておらず、今後も締結されないことが見込まれること
- 雇用契約の申込みの取次ぎや外国における活動の準備に関して外国の機関に費用を支払っている場合は、その額及び内訳を十分に理解して当該機関との間で合意していること
- 国籍又は住所を有する国・地域において、本邦で行う活動に関連して遵守すべき手続が定められている場合は、当該手続を経ていること
- 食費・居住費その他定期に負担する費用について、対価の内容を十分に理解して合意し、費用額が実費相当その他適正な額であり、明細書等が提示されること
ここで太字にした2項目が、ネパール案件の勘所です。
まず「本国で遵守すべき手続を経ていること」という要件が、ネパールの労働許可証と法的に接続します。入管庁が「証明書類の提出は不要」としているのは立証方法の運用の話であり、要件そのものが消えているわけではありません。受入機関としては、書類の添付を求められないからこそ、本人がネパール側の手続を正しく踏んでいるかを自ら確認する姿勢が求められます。
次に「外国の機関に支払った費用の額及び内訳を十分に理解して合意していること」です。送出機関の利用が任意であるネパールでは、現地エージェントへの支払いの実態が案件ごとにばらつきます。MOCが「保証金の徴収、不法な金銭の支払いに係る定め」の情報共有を柱に据えていることも踏まえ、費用の内訳を書面で確認し、本人が理解したうえで合意している状態を作っておくことが実務上の防衛線になります。
受入機関側の基準
受入機関側にも、特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令が要件を課しています。労働・社会保険・租税に関する法令の遵守、同種業務従事者の非自発的離職者を出していないこと、行方不明者を発生させていないこと、欠格事由に該当しないこと、保証金・違約金契約を締結していないこと、そして1号特定技能外国人支援に要する費用を直接又は間接に外国人本人に負担させないことなどです。最後の点は、現地費用の整理をするときに混同されやすいので注意してください。
一時帰国・再入国と労働許可証|見落とされやすい落とし穴
ネパール案件でもっとも見落とされるのが、入国後の一時帰国です。入管庁の解説には、次の趣旨が明記されています。
在留資格変更が許可された後、ネパール国籍の方が「特定技能」の在留資格を保有したまま再入国許可(みなし再入国許可を含む)制度を利用してネパールに一時帰国する場合、DOFE日本担当部門に海外労働許可証の発行を申請・取得する必要があるとのことです。
フローチャートでも、国内在留者を受け入れる場合の図に「一時帰国の際の海外労働許可証の申請」「海外労働許可証の発行」「ネパールを出国時に海外労働許可証を提示」というステップが描かれています。つまり、入国時に労働許可証が不要だった国内切替組であっても、ネパールへ帰省して日本に戻ってくる際には労働許可証が必要になるという構造です。
実務では次のような場面で問題が顕在化します。
- ダサインやティハールなどネパールの大型祝祭に合わせて長期休暇を取り、帰省するケース
- 家族の冠婚葬祭で急遽帰国するケース
- 年末年始や旧正月に合わせて航空券を先に押さえてしまい、労働許可証の取得時間を確保できないケース
いずれも、ネパール出国時の出国審査で労働許可証を確認されるため、取得が間に合わなければ出国できず、結果として復職予定日に穴があきます。受入機関としては、特定技能外国人が帰国休暇を申し出た段階で、労働許可証の取得手続と所要日数を本人と一緒に確認する運用を、支援の一環として社内ルール化しておくと事故が減ります。定期的な面談の場は、こうした予定を早期に把握する良い機会になります。
なお、みなし再入国許可を使う場合は在留カードとパスポートを持って再入国用EDカードで意思表示するだけで日本側の手続は完了しますが、これはあくまで日本側の話です。ネパール側の手続が別に必要であるという点を、本人が正しく理解しているかどうかが分かれ目になります。
試験ルート95%の国だからこそ効いてくる実務論点
日本語試験と技能試験の設計
特定技能1号で求められる日本語能力は、原則として国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)または日本語能力試験(N4以上)で証明します。介護分野ではこれに加えて介護日本語評価試験の合格が必要です。
JFT-BasicはCBT方式で原則毎月実施され、総合得点は10点〜250点、特定技能1号の申請には200点以上(A2判定。2026年8月以降の結果表示では「A2.2(A2)」)が必要です。判定結果に有効期限はありません。なお、2026年8月からはA1・A2.1のレベルも判定できるようになりましたが、特定技能1号に必要なのは引き続きA2(200点以上)である点に注意してください。「判定が出た=要件を満たした」ではありません。
ネパールは技能実習ルートが566人しかいないため、技能実習2号良好修了者に認められる試験免除がほとんど機能しません。裏を返せば、採用候補者は技能試験・日本語試験の両方に合格済みの人材プールに限られます。試験の実施回数と定員が採用可能人数の上限を決めてしまうため、募集を始める前に対象分野の試験実施状況を確認しておくべきです。
分野別の受入れ上限|外食業はCOE交付が停止中
ネパール人材の第2位の分野である外食業は、現在きわめて厳しい状況にあります。入管庁は令和8年3月27日に「特定技能『外食業分野』における受入れ上限の運用について」を公表し、外食業分野の特定技能1号の在留者数が令和8年2月末現在で約4万6千人(速報値)となり、同年5月頃に受入れ見込数(受入れ上限。5万人)を超える見込みであることを明らかにしました。
これを受け、出入国管理及び難民認定法第7条の2第3項及び第4項に基づく手続を経て、入管庁は令和8年4月13日付けで在留資格認定証明書の交付の一時停止措置を実施しました。示されている取扱いは次のとおりです。
- 令和8年4月13日以降に受理した外食業分野のCOE交付申請は不交付
- 同日以降に受理した外食業分野への在留資格変更許可申請は原則として不許可(ただし外食業分野で特定技能1号として在留する方からの転職等に伴う申請は通常どおり審査。技能実習(医療・福祉施設給食製造作業)修了者、既に外食業分野に係る特定活動(特定技能1号移行準備)の許可を受けている方は、受入れ見込数の範囲内で順次許可)
- 在留期間更新許可申請は通常どおり審査
ネパールは新規入国が中心の国ですから、COE交付停止の影響を最も直接的に受ける送出国のひとつということになります。外食業でネパール人材の採用を計画していた企業は、計画そのものの見直しが必要です。最新の審査状況は入管庁が随時公表していますので、必ず現時点の取扱いを確認してください。詳細は特定技能「外食業」受入れ停止の最新状況【2026年6月時点】|変更申請の受付期限・更新と分野内転職の実務で整理しています。
特定産業分野は19分野に|新規3分野の位置づけ
制度全体の枠組みも動いています。産業上の分野等を定める省令(平成31年法務省令第6号)の改正により、令和8年4月1日から特定産業分野は19分野となりました。従来の16分野にリネンサプライ・物流倉庫・資源循環が追加された形です。「現行は16分野」という説明は現時点では誤りです。
ただし、新規3分野は分野別運用方針の整備や技能試験の実施を経て順次受入れが可能になっていく段階にあり、明日から自由に受け入れられるという意味ではありません。また特定技能2号での受入れ対象は、介護・リネンサプライ・自動車運送業・鉄道・物流倉庫・林業・木材産業・資源循環を除く11分野とされています(令和8年4月1日時点)。派遣形態での雇用が認められるのは農業分野と漁業分野のみである点も変わりません。
分野ごとの協議会加入義務については特定技能の協議会とは?分野別の加入方法・費用・タイミングを、ネパール人材で最大の分野である介護の要件については特定技能「介護」とは?受入れ要件・試験・業務範囲を解説をご参照ください。
契約・支援・職業紹介まわりで押さえる実務ポイント
支援計画と事前ガイダンスで費用の透明性を担保する
1号特定技能外国人には義務的支援10項目の実施が必要で、その費用を本人に負担させることはできません。ネパール案件では、とりわけ事前ガイダンスの設計が重要です。上陸基準省令が「外国の機関に支払っている費用の額及び内訳を十分に理解して合意していること」を求めている以上、事前ガイダンスの場で現地エージェントへの支払いの有無・金額・内訳を本人の理解できる言語で確認し、記録として残しておくことが、後々の立証にも自主点検にも効きます。
また、入国後の生活オリエンテーション(8時間以上)では、日本の生活ルールに加えて、前章で述べた一時帰国時の労働許可証の話まで触れておくと親切です。支援体制の全体像は特定技能1号の支援計画とは?義務的支援10項目と登録支援機関への委託を解説、個別の実施方法は特定技能の事前ガイダンス|10項目の説明事項・実施方法・時間および特定技能の生活オリエンテーションとは|8時間・必須項目・確認書を解説で解説しています。
職業安定法との関係
入管庁はネパールのページで、職業安定法に基づく職業紹介事業に係る注意事項として、「受入機関が人材の紹介を受けるにあたっては、受入機関のみならず、受入機関が利用する職業紹介事業者や認定送出機関も職業安定法に抵触しないことが求められます」と明記しています。国外にわたる職業紹介は、国外の求人者と国内の求職者、または国外の求職者と国内の求人者との間の雇用契約成立のあっせんを指し、国外の取次機関を利用する場合には許可申請等の際に相手先国の職業紹介関係法令に関する書類の提出が求められるなど、独自の規律があります。
したがって、ネパールの現地エージェントを介して人材紹介を受ける場合、そのスキームが日本の職業安定法上適法かどうかを、紹介を受ける側としても確認する必要があります。職業紹介事業そのものに関する照会先は厚生労働省または都道府県労働局です。行政書士は職業紹介事業を行う立場にはありませんので、この点は所管窓口にご相談ください。
送出機関を利用する場合に発生する書類群
任意とはいえ、DOFEの許可を受けた送出機関を利用する選択をした場合には、それ相応の書類作業が発生します。駐日ネパール大使館は特定技能(SSW)に関する求人書(demand letter)の認証業務を行っており、公表されている必要書類には、申請書、求人書、委任状、保証書、雇用契約書(全ページへの押印を含む原本)、受入機関と送出機関の間の合意書、会社概要(初回は直近2年分の財務資料を含む)、登記事項証明書、過去の受入実績(氏名・時期・給与明細・連絡先を英語で)、印鑑証明書、送出機関のライセンス、DOFEのクリアランスレター(初回)などが挙げられています。登録支援機関が申請する場合の書類も別に示されています。
ここで確認しておきたいのは、これらはネパール側の認証手続に必要な書類であって、日本の在留諸申請の添付書類ではないという点です。日本の入管に出す書類と、ネパール大使館・DOFEに出す書類は別系統として管理してください。必要書類や手数料は大使館の運用により変更され得ますので、実際の申請前に必ず駐日ネパール大使館の最新の案内をご確認ください。
問合せ先
入管庁が案内しているネパール側手続の問合せ先は次のとおりです。
- 駐日ネパール大使館(東京都目黒区) 電話 03-3713-6241/03-3713-6242 対応言語:日本語・英語・ネパール語
- ネパール労働・雇用・社会保障省海外雇用局日本担当部門(Japan Unit, Department of Foreign Employment, MoLESS)(カトマンズ) 対応言語:英語・ネパール語
ネパールの制度に変更があった場合は判明次第ホームページで知らせるとされていますので、案件着手時には入管庁の国別ページを必ず開き直す運用にしてください。
受入れコストの全体設計
送出機関の利用が任意であるということは、裏返せばコスト構造を受入機関側で設計できる余地があるということでもあります。ただし、費用を抑えることと、本人が支払う費用の内訳が不透明になることはまったく別の話です。上陸基準省令の要件を満たすためにも、誰が誰にいくら支払っているのかを可視化したうえで見積りを組み立ててください。受入れ全体の費用項目は特定技能外国人の受入れ費用の全体像|初期費用から月額費用まで整理で整理しています。
ネパール案件でよくある誤解と回答
Q. ネパール政府認定の送出機関を使わないと特定技能で受け入れられないのですか
いいえ。入管庁は「必ずしもネパール政府が認定した送出機関を利用する必要はない(送出機関の利用は任意)」としています。ただし、これは日本の制度上の話であり、ネパール国内法上の労働許可・保険・研修・福祉基金といった手続が不要になるわけではありません。
Q. 労働許可証の写しを在留資格認定証明書交付申請に添付する必要はありますか
入管庁は、ネパールについて「ネパール側の手続を行ったことを証明する書類を在留諸申請において提出する必要はありません」としています。もっとも、上陸基準省令は本国で遵守すべき手続が定められている場合には当該手続を経ていることを要件としており、また労働許可証はネパール出国時の出国審査で確認されます。「提出不要」を「取得不要」と読み替えないでください。
Q. 労働許可証はCOEが出た時点で申請できますか
入管庁のフローチャートは、査証を取得した後にDOFE日本担当部門から海外労働許可証を取得する流れを示しています。健康診断・出国前オリエンテーション・保険・福祉基金・労働許可証の一連の手続は概ね10日間程度とされていますので、査証発給後の期間を工程に確保してください。
Q. 留学から特定技能に変更した社員が正月に帰省します。何か必要ですか
「特定技能」の在留資格を保有したまま再入国許可(みなし再入国許可を含む)でネパールに一時帰国する場合、DOFE日本担当部門に申請して海外労働許可証を取得する必要があるとされています。出国審査で確認されるため、渡航日から逆算して手続時間を確保するよう本人に案内してください。
Q. 特定技能2号を目指せますか
制度上は可能です。ただし令和7年12月末時点でネパール国籍の特定技能2号は110人にとどまり、全体7,955人の中でも少数です。特定技能2号での受入れ対象は令和8年4月1日時点で11分野に限られ、ネパール人材が最も多い介護分野は対象外です(介護には別に在留資格「介護」があります)。長期的なキャリアパスを描く場合は、分野選択の段階から検討が必要です。
特定技能外国人の受入れをご検討の企業様へ。行政書士法人Treeでは、在留資格の申請取次から支援計画の作成・各種届出までをサポートします。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
ネパールからの特定技能受入れで最初に共有すべきなのは、「認定送出機関の利用は任意」であり、「ネパール側の手続を証明する書類を在留諸申請に添付する必要はない」という入管庁の公式見解です。この2点を知らないまま他国の型をあてはめると、不要な仲介コストを抱えるか、逆にネパール国内法の手続を見落とすことになります。
他方で、ネパール国内法上の手続は明確に存在します。外国雇用法(2064年)は、送出機関を通す機関ルート(第15条の事前承認から第19条の労働許可ステッカーまで)と、本人が直接DOFEに申請する個人ルート(第21条)の二系統を定め、いずれの場合も保険加入(第26条)、出国前研修(第27条)、海外雇用福祉基金への納付(第32条)を課しています。海外労働許可証はネパール出国時の出国審査で確認されるため、取得漏れは即座に渡航不能を意味します。
工程管理の観点では、労働許可証の申請が査証取得後であること、そして健康診断・オリエンテーション・保険・福祉基金・労働許可証の一連の手続に概ね10日間程度を要することが要点です。加えて、入国後にネパールへ一時帰国する際にも改めて労働許可証が必要になります。国内切替組であっても帰省時には必要になるという構造は、支援の現場で必ず伝えておきたい情報です。
制度環境の変化も見逃せません。特定産業分野は令和8年4月1日から19分野となり、他方で外食業分野は令和8年4月13日以降のCOE交付が停止されています。ネパール国籍の特定技能1号は令和7年12月末時点で12,277人・第6位、うち約95.4%が試験ルートという新規入国中心の構造であるため、分野別の受入れ上限や試験の実施状況が採用計画に直結します。着手前に必ず最新の公表資料を確認してください。
行政書士法人Treeでは、特定技能雇用契約書・雇用条件書や1号特定技能外国人支援計画を含む、在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請の書類作成と申請取次、受入れ後の定期届出・随時届出まで、日本側の入管実務を一貫してお引き受けしています。ネパール国内法上の労働許可・保険・福祉基金等の手続は、DOFE日本担当部門や駐日ネパール大使館が窓口となる事項ですので、それらの窓口とあわせて全体工程を設計していくことをおすすめします。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


