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財務省の発表によると、令和6年(2024年)に全国の税関が差し止めた知的財産侵害物品は33,019件にのぼり、過去最多を更新しました。そのうち商標権侵害物品は31,212件(全体の93.6%)を占めています(財務省 令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況)。偽ブランド品の流通やECサイト上での模倣品販売は年々深刻化しており、民事上の損害賠償請求だけでなく刑事告訴によって処罰を求めるケースも見られます。本記事では、商標権侵害の刑事告訴に必要な告訴状の書き方・構成要件・証拠の集め方を解説します。
商標権侵害の告訴状作成でお困りの方は、行政書士法人Treeにご相談ください。告訴状・告発状の作成を専門家がサポートいたします。相談は何度でも無料・全国対応です。
目次
商標権侵害罪とは(商標法78条)
刑事罰の内容
商標権侵害罪は、商標法第78条に規定されています。商標権又は専用使用権を侵害した者は、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、又はこれの併科に処されます。
法人が侵害行為を行った場合には、行為者個人の処罰に加え、法人に対して3億円以下の罰金が科されます(商標法第82条第1項第1号、いわゆる両罰規定・法人重課)。
また、商標法第37条又は第67条に規定される「みなし侵害」行為(登録商標に類似する商標の使用、侵害品の譲渡目的の所持等)についても、第78条の2により5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、又はこれの併科が科されます(法人重課は3億円以下:商標法第82条第1項第1号)。
非親告罪化と公訴時効
商標権侵害罪は、2006年(平成18年)の商標法改正により非親告罪となっています。したがって、著作権侵害罪(原則親告罪)のように「犯人を知った日から6か月以内」という告訴期間の制限はありません。権利者が告訴しなくても検察官は起訴できますが、実務上は権利者の告訴が捜査の端緒となることが大半です。
公訴時効は7年です。商標法第78条の法定刑が10年以下の拘禁刑であるため、刑事訴訟法第250条第2項第4号(長期15年未満の拘禁刑に当たる罪)が適用されます。侵害行為の終了時点から7年以内であれば告訴が可能です。
商標権侵害の構成要件
商標権侵害罪が成立するためには、以下の4つの構成要件を全て満たす必要があります。告訴状を作成する際は、これらの要件に対応する事実を漏れなく記載することが重要です。
| 構成要件 | 内容 | 告訴状で示すべき事実 |
|---|---|---|
| 1. 有効な商標権の存在 | 出願・登録され、存続期間中の商標権が存在すること | 商標登録番号、登録日、指定商品・指定役務、存続期間(更新の有無) |
| 2. 権限のない使用 | 商標権者・使用権者の許諾なく、登録商標と同一又は類似の商標を使用したこと | 使用許諾契約が存在しないこと、被疑者による商標使用の態様 |
| 3. 指定商品・指定役務との同一又は類似 | 登録された指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・役務について使用したこと | 被疑者の商品・役務の内容と、登録された指定商品・役務との対比 |
| 4. 故意 | 登録商標であることを知りながら、業として使用した認識があること | 商標の著名性、®マークの存在、警告書送付の事実、取引経緯など故意を推認させる事情 |
特に、構成要件3(指定商品・指定役務との関係)は商標権特有のポイントです。商標権は「マーク」と「商品・役務」の組み合わせで一つの権利となるため、たとえ同一の商標が使用されていても、全く異なる商品・役務に使用されている場合は侵害に該当しない場合があります。特許庁「商標制度の概要」で商標権の基本的な仕組みを確認できます。特許庁の「商標制度の概要」に加え、J-PlatPatの商品・役務名リストや類似商品・役務審査基準も確認しながら整理すると実務上有用です。
告訴状の書き方と記載事項
商標権侵害の告訴状は、以下の5つのステップで作成します。告訴状の基本的なフォーマットについては「告訴状の書き方ガイド」で詳しく解説しています。
Step 1: 告訴権者の確認
商標権侵害罪について告訴を検討する際は、まず商標権者又は専用使用権者であるかを確認することが重要です。通常使用権者(ライセンシー)には原則として告訴権がないため注意が必要です。ただし、独占的通常使用権を設定している場合でも、商標権者自身が告訴人となる必要があります。商標権者が告訴できない・しない状況であれば、専用使用権の設定登録を経て専用使用権者として告訴する方法を検討してください。
法人が商標権者の場合は、代表者(代表取締役等)の名義で告訴します。共有商標権の場合の告訴権者の整理は事案により検討が必要であるため、必要に応じて専門家に確認することをおすすめします。
告訴状には以下を記載します。
- 告訴人の氏名(法人の場合は法人名・代表者名)・住所・連絡先
- 商標登録番号・登録日・指定商品又は指定役務
- 告訴人が商標権者(又は専用使用権者)である旨の明示
Step 2: 被疑事実の特定
被疑者(被告訴人)が行った侵害行為を、いつ・どこで・何を・どのように行ったかを具体的に特定します。犯罪事実の記載が曖昧だと、告訴状が受理されない原因になります(「告訴状が受理されない5つの理由と対策」も参照してください)。
被疑事実の記載例は以下のとおりです。
【被疑事実の記載例】
被告訴人は、商標権者である告訴人の許諾を受けることなく、令和○年○月頃から令和○年○月頃までの間、被告訴人が運営するインターネット通販サイト「○○○」(URL: https://~)において、告訴人の登録商標「○○○○」(商標登録第○○○○○○○号、指定商品:第○類「○○○○」)と同一の商標を付した○○(商品名)を、1個あたり○○○○円で不特定多数の顧客に対して販売し、もって商標権を侵害したものである。
Step 3: 証拠の収集・整理
告訴状に添付する証拠資料を収集・整理します。商標権侵害事件で特に重要な証拠は以下のとおりです。
- 商標登録証(又は商標登録原簿の写し): 商標権の存在と有効性を証明
- 侵害品の現物: 実際に購入・入手して保全する(購入日時・購入先を記録)
- 侵害品と正規品の対比写真: 商標の同一性・類似性が分かるよう並べて撮影
- ECサイト・ウェブページのスクリーンショット: URL・日付が確認できる状態で保存
- 取引記録: 注文確認メール、領収書、配送伝票等
- 売上・被害規模の推定資料: 販売数量、販売価格、販売期間から推定される売上高
証拠はオリジナルを保全し、告訴状には写しを添付します。証拠資料の目録を作成し、番号を付して本文中から参照できるようにしておくと、捜査機関が把握しやすくなります。
Step 4: 告訴状の作成
収集した情報を基に、告訴状を完成させます。商標権侵害の告訴状の主な記載項目は以下のとおりです。
| 記載項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 表題 | 「告訴状」 |
| 宛先 | ○○警察署長 殿(又は○○地方検察庁 検察官 殿) |
| 告訴人の情報 | 氏名(法人名・代表者名)・住所・連絡先・商標権者である旨 |
| 被告訴人の情報 | 氏名・住所(不明の場合は「氏名不詳」として特定可能な情報を記載) |
| 告訴の趣旨 | 「被告訴人の下記行為は商標法第78条に該当するので、厳重な処罰を求めます」 |
| 犯罪事実 | 被疑事実(Step 2で特定した内容) |
| 告訴に至った経緯 | 侵害発覚の経緯、警告書送付の有無とその結果 |
| 立証資料一覧 | 添付する証拠書類の目録 |
告訴状の冒頭に「告訴の趣旨」として処罰を求める意思を明確に記載します。犯罪事実は、前述の構成要件(商標権の存在・無権限使用・指定商品との関係・故意)を全てカバーするように記載してください。
Step 5: 管轄の警察署または検察庁へ提出
完成した告訴状は、侵害行為が行われた場所又は被告訴人の住所地を管轄する警察署(刑事課)又は検察庁に提出します(刑事訴訟法第241条第1項)。提出先の選び方については「告訴状の提出先はどこ?警察署と検察庁の違い」で解説しています。
ECサイトを通じた全国的な販売が侵害行為の態様である場合は、侵害品の発送元、被告訴人の所在地、被害の発生状況などを踏まえて提出先を検討することになります。知的財産権侵害事件は専門性が高いため、事前に電話で生活経済課(知的犯罪担当)等へ相談のうえ持参するとスムーズです。
【実務上のポイント】商標権侵害の刑事告訴は非親告罪ですが、捜査機関は民事的解決(差止・損害賠償)を優先するよう誘導する場合があります。告訴状が受理されやすくなる条件としては、①侵害の規模が大きい(反復継続・多数の被害)、②被疑者が特定できている、③民事警告書を送付しても改善がない、④証拠が具体的に揃っている、の4点が重要です。告訴状の作成・提出前に弁護士や行政書士への事前相談を強くお勧めします。
商標権侵害の告訴状作成でお困りの方へ
行政書士法人Treeでは、商標権侵害に関する告訴状の作成をサポートしています。
- ✔ 構成要件に対応した犯罪事実の記載(自己作成による不受理リスクを回避)
- ✔ 証拠資料の整理・目録作成に対応
- ✔ 商標登録の範囲、指定商品・指定役務との関係、税関差止との使い分けも含めて整理可能
- ✔ 相談は何度でも無料・全国対応
証拠の集め方
商標権侵害の告訴では、侵害の事実を客観的に証明する証拠の質と量が捜査機関の判断を大きく左右します。以下の証拠を体系的に収集してください。
侵害品の購入・保全
侵害品は実際に購入して現物を確保することが最も有力な証拠となります。購入の際は以下の点に留意してください。
- 購入日時・購入先(店舗名・ECサイトURL)・価格を記録する
- 注文確認メール・領収書・配送伝票を全て保存する
- 開封前の状態を写真撮影し、その後に開封して商品の外観を撮影する
- 複数回にわたって購入すると「反復継続した販売」の立証に有効
写真・スクリーンショットの撮影
物理的な侵害品だけでなく、オンライン上の販売状況も証拠として重要です。
- ECサイトの商品ページ: URL・日付が表示された状態でスクリーンショットを保存
- 正規品との対比写真: 商標部分を拡大し、同一性・類似性が明確になるよう撮影
- パッケージ・タグの写真: 商標が付されている箇所を漏れなく撮影
- SNS・広告の証拠: 侵害品を宣伝しているSNS投稿やウェブ広告も保全
売上・被害規模の推定資料
侵害による被害の規模を示す資料は、捜査機関が事件の重大性を判断する際の材料になります。
- 侵害品の販売価格・販売数量(ECサイトの販売実績・レビュー数等から推定)
- 正規品の小売価格との比較
- 商標権者が被った逸失利益の概算
- 侵害品の流通期間
損害額の算定方法
商標権侵害に対しては刑事告訴と並行して民事上の損害賠償請求(民法第709条)を行うことが可能です。損害賠償請求は弁護士の業務範囲ですが、告訴状を作成する際にも被害規模を示す資料として損害額の考え方を理解しておくことが有用です。
商標法は損害額の算定について、権利者の立証負担を軽減するための規定を設けています。
| 算定方法 | 根拠条文 | 概要 |
|---|---|---|
| 逸失利益の推定 | 商標法第38条第1項 | 侵害者の譲渡数量に、権利者の単位利益額を乗じた金額を損害額と推定 |
| 侵害者利益の推定 | 商標法第38条第2項 | 侵害者が侵害行為により受けた利益額を、権利者の損害額と推定 |
| ライセンス料相当額 | 商標法第38条第3項 | 登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額(相当対価額)を損害額として請求可能 |
損害額の立証は民事訴訟の問題ですが、告訴状において被害規模を具体的に示すことで、捜査機関が事件の深刻さを把握しやすくなります。損害賠償請求の手続き自体については弁護士にご相談ください。
民事上の損害賠償請求との関係
商標権侵害に対しては、刑事告訴と民事上の請求を並行して進めることが可能です。それぞれの手続きは独立しており、一方を選択したからといってもう一方を行えなくなるわけではありません。
民事上の主な救済手段は以下のとおりです。
- 差止請求(商標法第36条): 侵害行為の停止・予防を求める
- 損害賠償請求(民法第709条、商標法第38条): 金銭的な損害の賠償を求める
- 信用回復措置請求(商標法第39条、特許法第106条準用): 謝罪広告等を求める
刑事告訴は「処罰を求める」手続きであり、金銭的な補償は得られません。一方、刑事事件として立件されることで、侵害者に対する抑止効果が期待でき、民事交渉を有利に進められる場合もあります。
知的財産権侵害の刑事告訴全般については「知的財産権侵害の刑事告訴」、著作権侵害との対比については「著作権侵害の告訴状の書き方」もあわせてご確認ください。
よくある質問
Q. 商標権侵害罪は親告罪ですか?
商標権侵害罪は親告罪ではありません。2006年(平成18年)の商標法改正により非親告罪となったため、告訴期間(犯人を知った日から6か月)の制限はありません。ただし、公訴時効は7年であるため、侵害行為の終了から7年以内に告訴する必要があります。
Q. ECサイトで模倣品を販売している相手の氏名が分からない場合はどうすればよいですか?
被告訴人の氏名が不明の場合は「氏名不詳」として告訴状を作成できます。ECサイトのURL、ショップ名、出品者ID、連絡先メールアドレス等の判明している情報を記載し、捜査機関がプラットフォーム事業者への照会等により身元を特定できるよう情報を整理します。
Q. 類似商標の使用も刑事罰の対象になりますか?
商標法第37条に規定される「みなし侵害」行為(登録商標に類似する商標の使用、指定商品・役務に類似する商品・役務への使用等)については、商標法第78条の2により5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、又はこれの併科に処されます。ただし、類似性の判断は専門的な知見が必要であり、特許庁の商標審査基準や判例を踏まえた検討が求められます。
Q. 個人が趣味で模倣品を製造・販売した場合も告訴できますか?
個人による製造・販売であっても、「業として」商標を使用していると評価できれば商標権侵害罪が成立します。反復継続して販売している場合やフリマアプリ等で営利目的で出品している場合は「業として」の要件を満たす可能性があります。一方、個人的な使用にとどまる場合は侵害に該当しません。
Q. 商標権侵害の告訴と税関への輸入差止申立ての違いは何ですか?
告訴は捜査機関に対して犯罪者の処罰を求める手続きであり、税関への輸入差止申立て(関税法第69条の13)は模倣品の水際での輸入を阻止する行政手続きです。告訴は既に国内で行われた侵害行為に対する事後的な対応であるのに対し、税関への申立ては侵害品の国内流入を未然に防ぐ予防的な措置です。両方を並行して活用することで、より効果的に商標権を保護できます。
Q. Amazon・メルカリ等で模倣品を見つけた場合、まず何をすべきですか?
Amazon・メルカリ等の主要プラットフォームには、権利者向けの知的財産侵害報告ツールが用意されています(Amazonの「Brand Registry」や「知的財産権の侵害に対する申告」、メルカリの「知的財産権侵害の申告フォーム」等)。まずはプラットフォームの報告ツールを通じて出品の削除を求め、それでも改善しない場合や侵害の規模が大きい場合に刑事告訴を検討するという段階的な対応が実務上は一般的です。プラットフォームへの報告と並行して、証拠の保全(スクリーンショット・購入記録の保存等)を進めておくことが重要です。
まとめ
- 商標権侵害罪は10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金(法人は3億円以下の罰金)
- 非親告罪のため告訴期間の制限はないが、公訴時効は7年
- 構成要件は商標権の存在・無権限使用・指定商品との関係・故意の4つ
- 告訴状には商標登録番号・侵害行為の特定・証拠資料を具体的に記載
- 刑事告訴と民事上の損害賠償請求は並行して進めることが可能
告訴状作成はプロにお任せください
| サービス | 料金 |
|---|---|
| 告訴状作成 | 34,800円(税抜)〜 ※ 模倣品販売、ECサイト・フリマアプリでの無断出品、警告書送付後も販売が継続しているケースなどはご相談ください。 |
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- ✔ 構成要件に沿った犯罪事実の正確な記載
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※ 本記事の内容は2026年4月時点の商標法・刑事訴訟法に基づく解説です。告訴・告発の受理判断は捜査機関の裁量による部分があります。具体的な事案は弁護士にもご相談ください。


