児童扶養手当・生活保護・ひとり親家庭医療費助成等の受給を目的として、法律上の離婚意思がないのに離婚届を提出した場合や、離婚後も事実上の婚姻関係・同一生計が継続しているにもかかわらず行政機関へ虚偽申告をして給付を受けた場合、刑法第246条詐欺罪を中心に、児童扶養手当法・生活保護法の罰則、事案によっては刑法第157条公正証書原本不実記載罪が問題となる可能性があります。
本記事は、偽装離婚による不正受給を発見した第三者(隣人・元配偶者・知人等)が、自治体への情報提供や警察への告発状を検討する場面を想定したガイドです。第三者による申告は原則として「告発」(刑事訴訟法第239条第1項)であり、被害者本人が行う「告訴」とは区別されます。
重要な前提:判例上、当事者に離婚意思があり離婚届が受理されれば、動機が不正受給目的であっても法律上の離婚は有効に成立します(方便としての離婚も離婚意思があれば有効)。離婚が有効である以上、戸籍の離婚の記載は「不実」とはいえず、公正証書原本不実記載罪は原則として成立しません。同罪が問題となるのは離婚意思を欠く届出等の限られた場合で、不正受給の中心はあくまで詐欺罪です。「離婚届誤受理」という表現は、離婚意思があれば適法な受理であり「誤受理」ではない点に注意してください。
偽装離婚による不正受給を発見した第三者の方へ。まずは支給主体である自治体担当窓口への情報提供を検討し、悪質性が高い場合は警察への告発を検討します。行政書士法人Treeでは、警察署長宛て告発状の作成、事実関係整理書面の作成、自治体への情報提供書面の整理をサポートします(適法に取得した資料に基づく整理が前提です。違法な撮影・録音・尾行等は避けてください)。返還請求・損害賠償・代理交渉は提携弁護士をご紹介します。
目次
目次
- 偽装離婚による不正受給の典型手口と対象給付
- 適用罪条|詐欺罪を中心に各特別法・公正証書原本不実記載罪
- 公正証書原本不実記載罪が原則不成立となる理由(離婚意思があれば離婚有効)
- 公訴時効(刑訴法250条2項4号・6号)
- 告発と告訴の区別(刑訴法239条)
- 立証要素|単親家庭の実態がないことの立証
- 証拠収集の適法性|やってはいけないこと
- 警察署長宛て告発状の整え方
- 業務範囲|行政書士・弁護士・自治体の役割
- よくある質問
偽装離婚による不正受給の典型手口と対象給付
典型手口
- 法律上の離婚届を提出した後も、同居・同一生計・事実上の婚姻関係が継続しているにもかかわらず、ひとり親世帯または単独世帯であるかのように申請・届出を行う
- 住民票上は別世帯・別住所として届け出ているが、実態として同居、頻繁な出入り、生活費負担、事実上の夫婦関係が継続している
- 収入のある配偶者の存在を行政機関に申告せず、低所得・単親家庭としての給付要件を満たすかのような外形を作る
対象となる主な公的給付
- 児童扶養手当
- 生活保護
- ひとり親家庭医療費助成
- 住居確保給付金
- 自治体独自のひとり親支援給付
- 保育料の減免・各種優遇措置
適用罪条|詐欺罪を中心に各特別法・公正証書原本不実記載罪
中心:刑法第246条 詐欺罪(10年以下の拘禁刑)
単親家庭であるかのような虚偽の外形を作り、児童扶養手当・生活保護費等を受給した行為の中心的な罪名です。事実上の婚姻関係を隠して給付を受領した時点で詐欺罪が問題となり得ます。
各特別法の罰則
- 生活保護法第85条:不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者について、3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
- 児童扶養手当法第35条:偽りその他不正の手段により手当を受けた者について、3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金。ただし刑法に正条があるときは刑法による
刑法第157条第1項 公正証書原本不実記載罪(5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)
虚偽の離婚届により戸籍に不実の記載をさせた場合に問題となり得ます。ただし重要な前提として、当事者に離婚意思があり離婚届が受理された場合、動機が不正受給目的でも法律上の離婚は有効に成立し、戸籍の記載は不実とはいえないため、同罪は原則として成立しません。同罪が問題となるのは、離婚意思がないのに離婚届を偽造・提出した場合など、限られた場合です。
公正証書原本不実記載罪が原則不成立となる理由(離婚意思があれば離婚有効)
判例上、いわゆる「方便としての離婚」(不正受給・税金対策・債権者対策など別目的の離婚)であっても、当事者に法律上の婚姻関係を解消する意思(離婚意思)があり、離婚届が受理されれば、法律上の離婚は有効に成立するとされています。
離婚が有効に成立する以上、戸籍にされた離婚の記載は「不実」(客観的事実に反する)とはいえず、公正証書原本不実記載罪(刑法第157条第1項)は原則として成立しません。
したがって、偽装離婚で公正証書原本不実記載罪が問題となるのは、次のような限られた場合です。
- 離婚意思が全くないのに、一方的に離婚届を偽造・提出した場合(離婚自体が無効)
- 署名を偽造して離婚届を提出した場合
- 協議離婚の意思のない当事者を欺いて離婚届を提出させた場合 等
本記事のテーマである「不正受給目的の偽装離婚」の多くは、当事者双方に離婚意思があり離婚届を提出するケースであり、公正証書原本不実記載罪の成否は限定的です。中心となるのは詐欺罪・各特別法違反です。
公訴時効(刑訴法250条2項4号・6号)
- 刑法第246条 詐欺罪(法定刑10年以下の拘禁刑)→ 公訴時効7年(刑事訴訟法第250条第2項第4号:長期15年未満の拘禁刑)
- 刑法第157条第1項 公正証書原本不実記載罪(法定刑5年以下の拘禁刑)→ 公訴時効5年(同項第4号:長期5年以上10年未満の拘禁刑)
- 生活保護法第85条違反(法定刑3年以下の拘禁刑)→ 公訴時効3年(同項第6号:長期5年未満の拘禁刑)
- 児童扶養手当法第35条違反(法定刑3年以下の拘禁刑)→ 公訴時効3年(同項第6号)
公訴時効は犯罪行為が終わった時から進行します。不正受給は継続的に給付を受け続けるケースが多く、犯罪行為の終了時の認定は事案により異なるため、実際の時効起算点・罪数関係は専門家にご相談ください。
告発と告訴の区別(刑訴法239条)
- 告訴:犯罪の被害者その他法律上の告訴権者(被害者の法定代理人等)が、捜査機関に対し犯罪事実を申告して処罰を求める手続(刑事訴訟法第230条以下)
- 告発:告訴権者・犯人以外の第三者が、犯罪事実を捜査機関に申告して処罰を求める手続。刑事訴訟法第239条第1項により「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」
- 公務員の告発義務:公務員は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない(同条第2項)
偽装離婚による不正受給の場合
不正受給では、手当・保護費の支給主体である国・自治体等の実施機関が財産的被害を受ける構成となるため、第三者(隣人・元配偶者・知人等)が問題を発見した場合は告発または自治体担当窓口への情報提供が中心となります。自治体が調査の結果、悪質性が高いと判断した場合に、公務員の告発義務に基づき警察への告発を行うこともあります。
立証要素|単親家庭の実態がないことの立証
偽装離婚による不正受給の立証では、離婚届の提出後も実質的に生計を同一にし、単親家庭の実態がないこと(=受給要件を満たさないこと)の立証が中心となります。
- 同居の実態を示す事情(同一住所での生活実態、頻繁な出入り、郵便物の宛先等)
- 共同の経済生活をうかがわせる事情(生活費の負担、家賃・光熱費の支払い、家計の共有)
- 事実上の婚姻関係を示す事情(家族イベントへの参加、共同の子育て、SNSでの夫婦同伴の様子等)
- 行政機関へ提出した申告書類と実態との食い違い
- 給付受領の事実(受給期間・受給額)
証拠収集の適法性|やってはいけないこと
告発者が自力で証拠収集する場合、適法に取得した資料に限定することが極めて重要です。次のような違法な調査・証拠収集はプライバシー侵害・刑事責任のリスクがあり、告発自体の信用も損ないます。
避けるべき調査方法
- 住居侵入による撮影・記録(刑法第130条 住居侵入罪)
- 違法な尾行・つきまとい(ストーカー規制法違反のおそれ)
- 盗聴・盗撮(軽犯罪法・各都道府県迷惑防止条例違反のおそれ)
- 第三者のSNSアカウントへの無断ログイン(不正アクセス禁止法違反)
- 無断での預貯金情報・住民票・戸籍の取得
- 近隣住民への過度な聞き込み(名誉毀損・業務妨害のおそれ)
適法に取得できる資料
- 公道から見える範囲での観察(特定個人の継続監視は避ける)
- 公開SNS投稿(限定公開でないもの)
- 自身が当事者として受領した郵便物・連絡履歴
- 本人が法令に基づき取得した行政情報(自身の住民票等)
- 過去の関係(元配偶者等)で適法に保有している記録
警察署長宛て告発状の整え方
告発状は、被告発人の住所地または犯罪地の所轄警察署長宛てに作成・提出します。行政書士は告発状の作成に関与可能ですが、検察庁宛て告発状の作成は司法書士業務(司法書士法3条1項4号の解釈)となります。
記載項目(概要)
- 告発人の氏名・住所・連絡先
- 被告発人の氏名・住所(特定できない範囲は分かる限り)
- 告発の趣旨(被告発人を○○罪で処罰してほしい旨)
- 告発事実(5W1Hで一連の経緯を時系列・事実ベースで記載。断定を避けて「疑い」として整理)
- 罰条(刑法246条等)
- 立証資料目録(適法に取得した資料一覧)
- 作成日・告発人署名押印
本記事では誤用リスク・記載精度の問題から告発状の具体的記載例は掲載していません。事案ごとに被告発事実・罰条・立証構造は異なるため、行政書士による事実関係の整理と書面化の支援を受けることをおすすめします。
名誉毀損リスクへの注意
告発状は捜査機関への申告として作成されるものですが、虚偽告発や根拠の乏しい告発は、被告発人から名誉毀損で逆訴訟されるリスクがあります。客観資料に基づき断定を避け、「疑い」として整理することが重要です。
業務範囲|行政書士・弁護士・自治体の役割
- 行政書士(行政書士法人Tree):警察署長宛て告発状の作成、自治体・警察への情報提供用の事実関係整理書面の作成、適法に取得した資料の時系列整理
- 弁護士:相手方への返還請求・損害賠償請求の代理、名誉毀損リスクの法律相談、訴訟対応、紛争性のある事案
- 自治体担当窓口:制度上の調査、給付の返還命令、徴収手続、悪質性に応じた告発判断
- 警察:告発・告訴の受理、捜査、検察への送致
自治体への情報提供は本人・第三者でも可
自治体窓口への情報提供や相談は、本人・第三者でも行うことができます。代理・交渉・訴訟が必要な場合は弁護士の業務範囲となります。返還請求・損害賠償請求の代理は弁護士業務、簡裁訴訟代理(請求額140万円以下)は認定司法書士の業務範囲となる場合があります。
偽装離婚による不正受給を発見し、自治体への情報提供や警察への告発を検討されている方へ。客観資料に基づく断定を避けた事実関係整理書面の作成、警察署長宛て告発状の文案作成は行政書士法人Treeにご相談ください。違法な証拠収集を避けたうえで、適法に取得した資料を整理してサポートします。
よくある質問
Q. 偽装離婚は当然に公正証書原本不実記載罪になりますか.
A. なりません. 判例上、当事者に離婚意思があって離婚届が受理されれば、動機が不正受給目的でも法律上の離婚は有効に成立し、戸籍の記載は不実とはいえないため、同罪は原則成立しません. 同罪が問題となるのは、離婚意思を欠く届出(偽造・一方的提出等)の場合に限られます. 不正受給の中心は詐欺罪(刑法246条)です.
Q. 私は被害者ではありませんが、不正受給を発見しました. 告訴できますか.
A. 告訴は犯罪被害者等の告訴権者が行う手続のため、第三者の方は通常「告発」となります. 刑事訴訟法第239条第1項により、何人でも犯罪があると思料するときは告発できます. まずは支給主体である自治体担当窓口への情報提供を検討し、悪質性が高い場合に警察への告発を検討するのが実務的な流れです.
Q. 公訴時効は何年ですか.
A. 刑法246条詐欺罪は7年(刑事訴訟法第250条第2項第4号)、刑法157条第1項公正証書原本不実記載罪は5年(同項第4号)、児童扶養手当法第35条違反・生活保護法第85条違反は3年(同項第6号)です. 公訴時効は犯罪行為が終わった時から進行します. 不正受給は継続性があるため、実際の起算点は事案により判断されます.
Q. 自分で写真撮影や尾行をして証拠を集めても良いですか.
A. 違法な調査は避けてください. 住居侵入(刑法130条)、ストーカー規制法違反、盗聴・盗撮、不正アクセス禁止法違反等は、告発者自身が刑事責任を問われるリスクがあるほか、告発の信用も損ないます. 公道からの観察、公開SNS投稿、自身が当事者として保有する資料等、適法に取得できる範囲に限定してください.
Q. 告発状を出した後、相手から名誉毀損で訴えられませんか.
A. 客観資料に基づかない断定的な告発や、虚偽告発は名誉毀損で逆訴訟されるリスクがあります. 告発状は「疑い」として整理し、適法に取得した資料に基づいて事実を記載することが重要です. 弁護士による法律相談を経て告発するのが安全です.
Q. 不正受給の被害者は誰になりますか.
A. 制度により異なりますが、児童扶養手当・生活保護等では国・自治体等の支給主体または実施機関が財産的被害を受ける構成になります. 実務上は、自治体窓口への情報提供や警察への告発として整理されます.
Q. 告発状はどこに提出しますか.
A. 被告発人の住所地または犯罪地の所轄警察署長宛てに提出するのが一般的です. 検察庁宛て告発状の作成は司法書士業務であり、行政書士業務の範囲外です. 自治体への情報提供は支給主体の市区町村役所の担当課(児童扶養手当課・生活福祉課等)に行います.
Q. 行政書士・弁護士・司法書士の役割はどう違いますか.
A. 警察署長宛て告発状の作成は行政書士業務として対応可能です. 検察庁宛て告発状の作成は司法書士業務です. 相手方への返還請求・損害賠償請求・名誉毀損リスクへの対応・訴訟代理は弁護士業務となります. 自治体への情報提供は本人・第三者でも行えます.
まとめ
偽装離婚による児童扶養手当・生活保護等の不正受給では、単親家庭を装って手当・保護費を受給した行為が刑法第246条詐欺罪(10年以下の拘禁刑)の対象となるほか、生活保護法第85条(3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)・児童扶養手当法第35条(3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)の各特別法違反が問題となります。
虚偽の離婚届による刑法第157条第1項公正証書原本不実記載罪(5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)は、当事者に離婚意思があり離婚が有効に成立する場合には原則として成立しません(判例上、方便としての離婚も離婚意思があれば有効)。同罪が問題となるのは、離婚意思を欠く届出(偽造・一方的提出等)の限られた場合です。「離婚届誤受理」という表現も、離婚意思があれば適法な受理であり「誤受理」ではない点に注意してください。
第三者による申告は原則として告発(刑事訴訟法第239条第1項)であり、被害者本人が行う「告訴」とは区別されます。不正受給では支給主体である国・自治体等が被害者にあたるため、第三者は告発または自治体担当窓口への情報提供が中心となります。公務員は職務上犯罪を知ったとき告発義務を負います(同条第2項)。
公訴時効は、詐欺罪7年・公正証書原本不実記載罪5年(いずれも刑訴法第250条第2項第4号)、各特別法違反3年(同項第6号)です。
立証では、離婚届提出後も実質的に生計を同一にし単親家庭の実態がないこと(受給要件を満たさないこと)の立証が中心となります。証拠収集にあたっては、住居侵入・違法な尾行・盗聴盗撮・不正アクセス等の違法な調査は厳に避け、適法に取得した資料に限定してください。違法な調査は告発者自身が刑事責任を問われるリスクがあるほか、告発の信用も損ないます。
警察署長宛て告発状の作成、自治体への情報提供用の事実関係整理書面の作成は行政書士法人Treeにご相談ください。客観資料に基づき断定を避け、「疑い」として整理することで名誉毀損リスクにも配慮します。検察庁宛て告発状は司法書士業務、相手方への返還請求・損害賠償・訴訟対応は弁護士をご紹介します。
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※ 本記事は執筆時点の法令(刑法、刑事訴訟法、生活保護法、児童扶養手当法等)・最高裁判例・公的機関の公表情報・運用実務に基づき作成しています。公訴時効の起算点、罪数関係、各特別法と刑法の関係は事案により判断が分かれます。違法な調査による証拠収集は告発者自身の刑事責任のリスクを伴うため絶対に避け、適法に取得した資料に基づく整理を行ってください。個別案件については、行政書士・弁護士等の専門家へのご相談をお願いいたします。


