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認知症の相続人がいる場合の遺産分割手続き|成年後見人の選任と対策を解説

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厚生労働省の近年の将来推計では、65歳以上の認知症高齢者数は2025年に約559万人と見込まれています(厚生労働省「成年後見制度利用促進」参照)。相続が発生した際に、相続人の中に認知症の方がいるケースは決して珍しくありません。

結論から申し上げると、認知症により判断能力(意思能力)を欠く方は遺産分割協議に参加できず、仮に参加しても協議は無効になります。この場合、家庭裁判所で「成年後見人」を選任してもらい、後見人が本人に代わって協議に参加する必要があります。事前に任意後見契約や家族信託を活用しておけば、こうした手続きの負担を軽減できる場合もあります。

「親が認知症で遺産分割協議が進められない」「成年後見人の申立てが必要なのか判断がつかない」「相続放棄の期限が迫っている」「利益相反があるか分からない」とお悩みの方は、行政書士法人Treeにご相談ください。相続手続きの専門家がご状況に合った対応策をご案内いたします。相談は何度でも無料・全国対応です。

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認知症の相続人がいると遺産分割はどうなる?

遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しない法律行為です。法律行為を有効に行うためには「意思能力」、つまり自分の行為の法的な意味と結果を理解できる判断能力が必要です(民法3条の2)。

認知症が進行して意思能力を欠く状態にある方は、有効な法律行為を行うことができません。そのため、認知症の相続人が遺産分割協議に参加しても、その協議自体が無効と判断される可能性があります。「署名だけしてもらえば大丈夫」という誤解は多いのですが、形式的に署名や実印があっても、本人に意思能力がなければ法的効力は認められません。

意思能力の程度と成年後見制度の3類型

判断能力の低下には程度があり、成年後見制度では本人の状態に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型が設けられています。

類型 対象となる方 遺産分割への影響
後見 判断能力を欠くのが通常の状態 成年後見人が全面的に代理して協議に参加
保佐 判断能力が著しく不十分 遺産分割は民法第13条第1項第6号に定める重要な行為に該当 → 保佐人の同意が必要。代理権付与の審判があれば保佐人が代理可能
補助 判断能力が不十分 家庭裁判所が遺産分割について同意権・代理権を付与した場合に限り、補助人が関与

認知症の程度が重く「後見」類型に該当する場合は、成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加します。「保佐」類型の場合でも、遺産分割は民法第13条第1項第6号に定める重要な行為に含まれるため、保佐人の同意がなければ遺産分割協議を有効に行えません。いずれにしても、認知症により意思能力が不十分な相続人がいる場合は、本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助などの利用を検討する必要があります。

成年後見制度の全体像については「成年後見制度とは?法定後見の3類型と申立て手続きを解説」で詳しく解説しています。

遺産分割を進めずに放置するリスク

成年後見人の選任には時間がかかるため、「面倒だからこのままにしておこう」と考える方も少なくありません。しかし、遺産分割を放置すると以下のようなリスクがあります。

  • 預貯金が引き出せない: 金融機関は名義人の死亡を把握した時点で口座を凍結します。遺産分割協議書が作成できなければ、原則として預貯金を解約・引き出すことができません
  • 不動産の名義変更ができない: 相続登記には遺産分割協議書が必要です。2024年4月1日からは相続登記の申請が義務化されており、正当な理由なく3年以内に登記を行わない場合は10万円以下の過料の対象となります
  • 二次相続で権利関係が複雑化する: 遺産分割前に認知症の相続人が亡くなると、その方の相続人がさらに加わり、権利関係が複雑になります

成年後見人の選任手続き

認知症の相続人に代わって遺産分割協議に参加してもらうため、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる手続きの流れを説明します。申立てから審判(選任の決定)までの期間はおおむね3〜4か月が目安です。

Step 1: 申立人の確認と必要書類の準備

成年後見開始の審判を申し立てることができるのは、本人・配偶者・四親等内の親族・未成年後見人・未成年後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人・検察官、そして市区町村長です(民法7条、老人福祉法32条)。相続の場面では、認知症の方の配偶者や子ども(四親等内の親族)が申し立てるケースが一般的です。

申立てにあたっては、裁判所の後見開始の審判に関するページで書式をダウンロードし、以下の書類を準備します。

  • 申立書(後見開始の審判申立書)
  • 申立事情説明書
  • 本人の戸籍謄本・住民票(または戸籍附票)
  • 後見人候補者の住民票(候補者がいる場合)
  • 登記されていないことの証明書(東京法務局に請求。1通300円)
  • 医師の診断書(家庭裁判所所定の書式。主治医等に依頼)
  • 本人情報シート(ケアマネジャー等が作成)
  • 財産目録、収支状況報告書(通帳のコピー等を添付)
  • 親族関係図

Step 2: 家庭裁判所への申立て

本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書と添付書類一式を提出します。窓口での受付のほか、郵送での申立ても可能です。申立書には後見人の候補者を記載できますが、最終的に誰を後見人に選任するかは家庭裁判所が判断します。

Step 3: 調査・鑑定

家庭裁判所は申立て後、以下の調査を行います。

  • 申立人・本人・後見人候補者への面接(調査官が実施。ウェブ会議の利用も増えています)
  • 親族への意向照会(書面で行われることが多い)
  • 鑑定(必要に応じて、専門医が本人の判断能力を鑑定。費用は数万〜10万円程度が目安です)

医師の診断書のみで判断能力の程度が明らかな場合は、鑑定を省略して審判に至るケースも多くなっています。

Step 4: 審判・後見登記

家庭裁判所は調査・鑑定の結果を踏まえ、後見開始の審判を行います。審判では、後見を開始するかどうかと、成年後見人を誰にするかが決定されます。審判書が届いてから2週間が経過すると審判が確定し、東京法務局で後見登記が行われます。

後見人として選任されるのは、親族(配偶者や子ども等)のほか、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれることもあります。特に遺産分割協議を控えているケースでは、利益相反の観点から専門職が選ばれる傾向があります。

申立てにかかる費用の目安

費目 金額の目安
申立手数料(収入印紙) 800円
後見登記手数料(収入印紙) 2,600円
郵便切手(連絡用) 3,000〜5,000円程度(管轄裁判所により異なる)
医師の診断書作成費用 数千円〜1万円程度
鑑定費用(必要な場合のみ) 5〜10万円程度
登記されていないことの証明書 300円
戸籍謄本・住民票等 数百円〜数千円

鑑定が不要であれば、実費の合計は1〜2万円程度で収まることが多いです。ただし、弁護士や司法書士に申立て手続きを依頼する場合は、別途報酬(10〜30万円程度)が発生します。

成年後見制度を利用する場合の注意点

成年後見制度を使えば遺産分割協議を法的に進めることはできますが、申立てに時間がかかること、後見人の報酬が継続して発生すること、本人に不利益な内容の遺産分割には同意しにくいことなど、実務上の注意点もあります。遺産分割を目的として後見申立てを検討する場合は、こうしたデメリットも含めて事前に専門家に相談することをお勧めします。

利益相反への対応

成年後見人が選任されたとしても、もう一つ注意すべき問題があります。それが利益相反です。

たとえば、認知症の母の成年後見人に子ども(長男)が選任された場合を考えます。長男も母と同じ相続の相続人であれば、遺産分割協議において「母の代理人としての立場」と「自分自身の相続人としての立場」が衝突します。長男が母の取り分を減らして自分の取り分を増やすことも理論上可能になるため、これは利益相反行為に該当します。

特別代理人の選任が必要なケース

成年後見人と本人(被後見人)の間で利益が相反する場合、成年後見人は本人を代理することができません。この場合、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります(民法860条で準用する民法826条)。

特別代理人は、その遺産分割協議に限って本人の代理を行う一時的な役割です。親族のうち相続と無関係の方や、弁護士・司法書士などの専門職が選任されることが一般的です。申立て費用は収入印紙800円・郵便切手3,000円程度・戸籍謄本等の実費のみで、成年後見開始の申立てよりも低コストです(専門職に依頼する場合は別途報酬が発生します)。

後見監督人がいる場合の取扱い

成年後見監督人(後見人の職務を監督する立場の人)がすでに選任されている場合は、後見監督人が本人を代理して遺産分割協議に参加できます(民法851条4号)。この場合は特別代理人を別途選任する必要はありません。

利益相反の有無を見落として遺産分割協議を行ってしまうと、その協議は無権代理行為として無効になる可能性があります。後見人が相続人を兼ねている場合は、必ず特別代理人の選任手続きを踏んでください。

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認知症に備えた事前対策

ここまで解説した成年後見人の選任手続きは、認知症が進行してから行う「事後的な対応」です。手続きに数か月を要し、後見人の報酬も継続的に発生するため、負担は小さくありません。認知症が進行する前に備えておくことで、こうした負担を軽減できる可能性があります。

対策1: 任意後見契約を締結しておく

任意後見契約は、本人の判断能力が十分なうちに、将来の後見人(任意後見受任者)とその権限内容を自分で決めて契約しておく制度です(任意後見契約に関する法律)。公正証書で作成し、実際に判断能力が低下した段階で家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることで効力が発生します。

法定後見と異なり、誰を後見人にするか・どの範囲の代理権を与えるかを本人が自由に決められる点が大きなメリットです。遺産分割協議への参加を代理権の範囲に含めておけば、相続発生時にスムーズに対応できます。

法定後見と任意後見の違いについては「法定後見と任意後見の違いと選び方|ケース別の判断基準を整理」をご参照ください。

なお、任意後見契約は本人の判断能力がある段階でしか締結できません。「まだ大丈夫」と思っているうちに手続きが難しくなるケースが多いため、少しでも認知症が気になり始めたら早めにご相談ください。

対策2: 家族信託を活用する

家族信託は、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を任せる仕組みです。信託契約を結んでおくことで、本人が認知症になった後も受託者が信託財産の管理・処分を継続できます。

たとえば、自宅不動産を信託財産に含めておけば、本人の認知症発症後も受託者の判断で売却が可能です。成年後見制度のように家庭裁判所の関与がないため、柔軟かつ迅速に財産管理ができるのが特徴です。ただし、家族信託はあくまで「財産管理」の手段であり、身上監護(介護施設との契約等)は対象外である点に注意が必要です。

家族信託の詳しい手続きと費用については「家族信託の手続きと費用|認知症対策・任意後見との違いを徹底比較」で解説しています。

対策3: 遺言書を作成しておく

被相続人(亡くなる方)が生前に遺言書を作成しておけば、遺産分割協議自体が不要になる場合があります。遺言書で各相続人の取得分が指定されていれば、認知症の相続人がいても遺言の内容に従って遺産を分配できます。なお、認知症と診断された後であっても、遺言作成時点で意思能力(遺言の内容を理解できる判断能力)が残っていれば遺言書は有効と判断されることがあります(民法第963条)。ただし、後日「遺言時に意思能力がなかった」と争われるリスクがあるため、認知症の診断後に遺言を作成する場合は、医師の立会いや診断書の取得など意思能力の証拠を残しておくことが重要です。

ただし、遺言書の内容によっては一部の財産について遺産分割協議が必要になるケースや、遺留分侵害額請求の問題が生じるケースもあります。遺言書は公正証書遺言で作成しておくと、形式不備による無効リスクを回避でき、より確実です。

認知症対策の3つの方法の比較については「家族信託 vs 任意後見 vs 財産管理委任契約|認知症対策3つの方法を比較」で詳しくまとめています。

よくある質問

Q. 認知症の相続人に代わって他の相続人が署名・押印しても問題ないですか?

認知症で意思能力を欠く方に代わって、他の相続人が勝手に署名・押印することは認められません。たとえ善意で行ったとしても、私文書偽造に該当する可能性があります。また、そのような遺産分割協議書は法的に無効です。必ず成年後見人を選任したうえで、正当な代理権に基づいて手続きを進めてください。

Q. 成年後見人は遺産分割が終わった後も辞められないのですか?

法定後見は、遺産分割のためだけに利用する一時的な制度ではありません。成年後見人は、原則として本人が亡くなるまで職務を続ける必要があります。成年後見人を辞任するには家庭裁判所の許可が必要であり、「遺産分割が終わったから」という理由だけでは正当な事由と認められないのが通常です。この点は、法定後見を申し立てる前に十分理解しておく必要があります。

Q. 軽度の認知症でも遺産分割協議に参加できませんか?

認知症の程度が軽く、遺産分割協議の内容を理解し判断できる意思能力が残っていれば、本人が協議に参加することは可能です。ただし、後日「協議時に意思能力がなかった」と争われるリスクがあります。意思能力の有無に不安がある場合は、医師の診断を受けたうえで、必要に応じて補助や保佐の申立てを検討することをお勧めします。

Q. 成年後見人の選任にはどのくらいの期間がかかりますか?

申立てから審判の確定まで、おおむね3〜4か月が目安です。ただし、医師の鑑定が必要な場合や、親族間で後見人の候補者について意見の対立がある場合には、さらに長引くこともあります。相続が発生してから申し立てると、その間は遺産分割協議が進められません。早めの着手が重要です。

Q. 認知症の方がいる場合、相続放棄はできますか?

認知症の方が自ら相続放棄の手続きを行うことはできません。相続放棄も法律行為であり、意思能力が必要です。成年後見人が選任されていれば、成年後見人が本人に代わって相続放棄の申述を行うことが可能です。ただし、相続放棄の期限は「相続開始を知った時から3か月以内」(民法915条1項)であるため、期限に注意してください。成年後見人の選任手続きに時間がかかる場合は、相続開始地を管轄する家庭裁判所に期間伸長の申立て(収入印紙800円)を行うことも検討が必要です。

まとめ

認知症の相続人がいる場合、遺産分割協議を有効に行うためには成年後見制度の利用が不可欠です。手続きの流れをあらためて整理します。

  • 認知症で意思能力を欠く方は遺産分割協議に参加できない → 成年後見人の選任が必要
  • 成年後見人の選任には3〜4か月程度 → 早めの申立てが重要
  • 後見人が相続人を兼ねる場合は利益相反 → 特別代理人の選任が必要
  • 事前対策で負担を軽減できる → 任意後見契約・家族信託・遺言書の活用

成年後見人の選任は、遺産分割だけでなく本人の財産管理全体に関わる重大な手続きです。判断に迷う場合は、早い段階で専門家にご相談ください。

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※ 本記事の内容は2026年4月時点の民法・家事事件手続法に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言ではありません。記事の内容には細心の注意を払っておりますが、正確性を保証するものではありません。税額の計算は税理士、訴訟については弁護士にご相談ください。

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