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遺言代用信託とは|信託法90条・遺言書との違い・受益者変更権・認知症対策

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遺言代用信託(信託法第90条)は、委託者の生前に信託を設定し、委託者の死亡を機に受益権の取得または給付の開始が生じるよう設計する信託形態です。遺言書のように死亡をもって効力が生じるものではなく、契約により生前から効力が発生・運用でき、家庭裁判所の検認手続きの対象にもなりません。委託者が認知症等で判断能力を失っても、信託契約で定めた信託財産については受託者による管理を継続できるため、本人名義口座凍結のような事態を回避しやすいというメリットがあります。

本記事では、(1)信託法第90条第1項第1号・第2号の2類型の整理、(2)遺言書との違い(検認手続き・効力発生時期・財産凍結回避の範囲)、(3)委託者の受益者変更権(信託法89条・90条)と、信託行為での別段の定めの設計、(4)認知症対策としての位置づけと任意後見・成年後見との併用、(5)よく混同される「遺言信託」との違いを、実務目線で解説します。

なお、信託銀行等が販売する金銭信託商品としての「遺言代用信託」と、信託法第90条に基づき個別設計する民事信託としての遺言代用信託があり、本記事は主に後者を扱います。

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目次

  1. 遺言代用信託の仕組み(信託法90条1項1号・2号)
  2. 遺言書との違い(検認・効力発生時期・財産凍結回避の範囲)
  3. 委託者の受益者変更権(信託法89条・90条)
  4. 認知症対策としての位置づけと任意後見・成年後見との併用
  5. 遺言代用信託と「遺言信託」の違い
  6. 信託契約書の主要条項
  7. 税務上の取扱いの概要
  8. 業務範囲|行政書士・司法書士・税理士・弁護士の役割
  9. よくある質問

遺言代用信託の仕組み(信託法90条1項1号・2号)

信託法第90条第1項は、遺言代用信託について次の2類型を定めています。

  • 第1号(死亡時受益権取得型):委託者の死亡の時に、受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する信託
  • 第2号(死亡時以後給付型):委託者の死亡の時以後に、受益者が信託財産に係る給付を受ける信託

いずれの類型でも、委託者の生前から信託契約自体は効力を生じており、受託者が信託財産を管理・運用します。委託者の死亡を機に、指定された者(死亡後受益者)が受益権を取得し、または給付を受けるよう設計する点が遺言代用信託の中核です。

信託法第90条第2項により、第1号類型では、死亡後受益者として指定された者は、委託者が死亡するまでは受益者としての権利を有しません。委託者の生前は、委託者自身が当初受益者として地位を有する設計が一般的です(当初受益者=委託者、死亡後受益者=相続人等)。

遺言書との違い(検認・効力発生時期・財産凍結回避の範囲)

論点 遺言書 遺言代用信託
効力発生 原則として委託者の死亡時 契約締結により生前から効力発生・運用
検認手続き 自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した場合・公正証書遺言は検認不要 信託契約自体は遺言ではないため検認の対象外
判断能力低下時 遺言作成後に判断能力が低下しても、既に作成した遺言は有効(修正は能力回復まで不可) 委託者が判断能力を失っても、信託契約で定めた信託財産については受託者による管理を継続できる
「財産凍結回避」の範囲 遺言があっても、相続発生時に金融機関等の凍結・遺産分割協議は通常どおり 信託財産に限り受託者管理により承継・給付を円滑化しやすい。信託外財産は通常の相続手続きの対象

「財産凍結なし」と一括りにすると過大表現になります。遺言代用信託で凍結回避が期待できるのはあくまで信託財産であり、信託に組み入れていない預貯金・不動産等は、相続発生時に通常どおりの相続手続き(金融機関の手続き、遺産分割協議、相続登記等)が必要です。

委託者の受益者変更権(信託法89条・90条)

遺言代用信託の委託者は、原則として受益者変更権を有します(信託法第89条・第90条)。委託者は生前であればいつでも、自己の死亡後に受益権を取得する受益者を変更できます。この変更は、信託契約の変更によるほか、遺言によって行うこともできます(信託法90条1項各号本文)。

ただし、信託行為(信託契約)で別段の定めを置けば、この受益者変更権を制限・排除し、権利関係を安定させることもできます(信託法90条1項柱書ただし書)。事業承継型・障害のある子のための信託など、受益者を固定したい設計では、別段の定めにより受益者変更権を排除することが検討されます。

「いつ受益者が決まる/受益権を取得するのか」(信託法90条1項1号・2号の枠組み)と「委託者は生前に受益者を変更できるか」(受益者変更権)は別概念です。記事の主要論点としては両者を区別して説明することが重要です。

認知症対策としての位置づけと任意後見・成年後見との併用

遺言代用信託は、委託者が判断能力を失っても信託契約で定めた信託財産について受託者による管理を継続できる点で、認知症対策の有力な選択肢です。ただし、信託契約の効果範囲は信託財産に限られるため、次の領域は別制度で補完が必要となります。

  • 信託外財産の管理:信託に組み入れていない不動産・金融資産・年金等の管理 → 任意後見・成年後見
  • 身上監護:医療・介護契約、施設入所契約等 → 任意後見・成年後見
  • 本人の意思表示が必要な法律行為:信託の枠組みでは対応できない場面 → 任意後見・成年後見

実務では、遺言代用信託(信託財産の管理・承継)+任意後見契約(身上監護・信託外財産の対応)+遺言書(信託外財産の承継)の組合せで設計するケースが多く見られます。

遺言代用信託と「遺言信託」の違い

名称が似ていますが、両者は別概念です。

  • 遺言代用信託:信託法第90条に基づき、財産を信託する仕組み。委託者の生前から効力発生し、死亡時に受益権が取得される(または給付が開始される)
  • 遺言信託:信託銀行等が、遺言書の作成相談・遺言書の保管・遺言執行までを一括して引き受けるサービスの通称。財産を「信託する」ものではなく、遺言書の作成・執行支援のパッケージ

「認知症対策で本人名義の資産凍結を回避したい」「生前から第三者管理に切り替えたい」場合は遺言代用信託、「自筆では不安なので遺言書の作成から執行まで信託銀行に任せたい」場合は遺言信託、と目的に応じて選択します。

信託契約書の主要条項

  1. 委託者・受託者・受益者の指定:当初受益者(多くは委託者自身)・死亡後受益者(相続人等)の明確化
  2. 信託の目的:認知症対策・円滑な承継・特定の受益者の生活支援等
  3. 信託財産の範囲と追加:金銭、有価証券、不動産、追加信託の可否
  4. 受託者の権限と義務:管理・運用・処分の範囲、信託事務報告
  5. 受益者変更権の取扱い:信託法89条・90条の権利を維持するか、別段の定めで制限・排除するか
  6. 信託の終了事由・残余財産帰属権利者:終了時の財産帰属先
  7. 信託監督人・受益者代理人:必要に応じて選任
  8. 変更・解除条項:信託契約の変更要件
  9. 公正証書化・信託登記:不動産を信託財産とする場合は信託登記が必要(司法書士業務)

税務上の取扱いの概要

信託の税務は受益権の移転・変動に応じて課税関係が生じるため、設計段階から税理士との連携が必要です。代表的な論点は次のとおりです。

  • 信託設定時の課税(委託者≠当初受益者の場合の贈与税課税)
  • 委託者死亡時の課税(死亡後受益者への受益権承継は相続税の課税対象)
  • 信託期間中の運用益に対する課税(受益者課税が原則)
  • 信託終了時の残余財産帰属権利者への課税

具体的な計算・申告は税理士業務です。本記事では概要のみを示し、個別の試算・節税アドバイスは記載しません。

業務範囲|行政書士・司法書士・税理士・弁護士の役割

  • 行政書士:信託契約書の文案作成、公正証書化サポート、遺言書との整合チェック、戸籍収集・相続関係説明図
  • 司法書士:信託登記(不動産を信託財産とする場合)、相続登記
  • 税理士:信託税務(贈与税・相続税・受益者課税)の計算・申告
  • 弁護士:紛争性のある事案、信託の有効性・受託者の善管注意義務違反等の対応

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よくある質問

Q. 委託者は死亡後の受益者を変更できますか.
A. 遺言代用信託の委託者は、原則として受益者変更権(信託法第89条・第90条)を有し、生前であればいつでも死亡後受益者を変更できます. 変更は遺言で行うこともできます. ただし、信託行為(信託契約)で別段の定めをすれば、受益者変更権を制限・排除し、権利関係を安定させることもできます.

Q. 死亡後受益者はいつから権利を取得しますか.
A. 信託法90条1項1号の類型では、指定された者は委託者の死亡時に受益権を取得します. 同条1項2号の類型では、委託者の死亡時以後に信託財産に係る給付を受ける旨を定めます. 第1号類型では、死亡後受益者は委託者が死亡するまでは受益者としての権利を有しません(信託法90条2項).

Q. 遺言書と併用できますか.
A. 可能です. 信託の対象とした財産は遺言代用信託で、それ以外の財産は遺言書で承継先を定める設計が一般的です. 信託契約と遺言書の内容の整合を取ることが重要です.

Q. 「遺言信託」とは違うのですか.
A. 異なります. 遺言代用信託は信託法第90条に基づき財産を信託する仕組みです. 一方「遺言信託」は、信託銀行等が遺言書の作成相談・保管・遺言執行を引き受けるサービスの通称で、財産を信託するものではありません. 名称が似ていますが別物のため、目的に応じて選択・確認が必要です.

Q. 認知症になったらすべての財産が信託で守られるのですか.
A. いいえ. 受託者による管理を継続できるのは「信託財産」に限られます. 信託に組み入れていない財産(信託外財産)は通常の相続手続きの対象となり、生前の管理は任意後見・成年後見等で補完する必要があります.

Q. 自筆証書遺言と比べて家庭裁判所の検認は必要ですか.
A. 信託契約自体は遺言ではないため、家庭裁判所の検認の対象外です. なお、自筆証書遺言でも、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した場合や、公正証書遺言の場合は検認は不要です.

Q. 不動産も信託財産にできますか.
A. 可能です. ただし、不動産を信託財産とする場合は信託登記(司法書士業務)が必要となり、登録免許税・信託の表示変更等の手続きが伴います.

Q. 信託銀行の金銭信託商品としての「遺言代用信託」と、個別設計する民事信託としての遺言代用信託は同じものですか.
A. いずれも信託法第90条の枠組みを用いる点は同じですが、信託銀行の商品は金銭信託を前提とした定型サービス、民事信託は不動産を含む財産を信託し、受託者を家族等として個別設計する点に違いがあります.

まとめ

遺言代用信託(信託法第90条)は、委託者の生前に信託を設定し、委託者の死亡時に指定された者が受益権を取得する(90条1項1号)、または委託者の死亡時以後に信託財産に係る給付を受ける(同項2号)仕組みです。遺言書と異なり、生前から信託契約の効力を発生させて運用でき、家庭裁判所の検認手続きの対象外です。

「財産凍結回避」のメリットは信託財産に限定される点に注意が必要です。信託に組み入れていない財産は通常の相続手続きの対象となり、認知症対策としては任意後見・成年後見(信託外財産の管理・身上監護)との併用が重要です。自筆証書遺言の検認も、法務局保管制度や公正証書遺言を利用すれば不要となるため、遺言代用信託と遺言書の使い分けは「検認の有無」より「生前からの管理継続の必要性」「受益者変更権の設計」「信託登記の要否」で判断する場面が多くなります。

委託者の受益者変更権(信託法89条・90条)は、生前いつでも死亡後受益者を変更できる重要な権利です。信託行為で別段の定めにより排除・制限することも可能で、設計の自由度の中核となります。「いつ受益権を取得するか」と「委託者は変更できるか」は別概念として整理してください。

また、「遺言代用信託」と「遺言信託」は名称が似ていますが、前者は財産を信託する仕組み、後者は信託銀行の遺言関連サービスの通称で、目的・効果が異なります。設計段階では、行政書士(契約書作成)・司法書士(信託登記)・税理士(信託税務)と連携して進めてください。

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※ 本記事は執筆時点の法令(信託法、任意後見契約に関する法律、民法等)・公的機関の公表情報・運用実務に基づき作成しています。個別の信託設計、受益者変更権の制限の可否、税務上の取扱いは、事案の事情により異なります。設計にあたっては行政書士・司法書士・税理士へのご相談をお願いいたします。

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