一般貨物自動車運送事業の許可を取り、営業を始めてしばらくすると、都道府県トラック協会から「巡回指導実施のお知らせ」という通知が届きます。多くの事業者にとって、これが運送業を始めて最初に受ける外部からの本格的なチェックになります。「協会の指導だから形式的なものだろう」と考えて準備を怠り、当日に帳票が出てこず低い評価を受けてしまう例は、決して珍しくありません。
巡回指導は行政による監査そのものではありません。しかし、その結果は運輸支局へ報告され、評価が低ければ監査の端緒になります。増車の手続が届出から認可に変わったり、Gマーク(安全性優良事業所)の申請に響いたりと、経営面への影響も小さくありません。本記事では、巡回指導の法的な位置づけ、38の指導項目と9つの重点指導項目、A〜Eの総合評価の意味、そして指摘を受けた後の改善報告までを、法令および国土交通省・全日本トラック協会の一次資料に基づいて実務目線で解説します。
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目次
巡回指導とは|貨物自動車運送事業法第39条に基づく「指導」
巡回指導は、適正化事業実施機関の職員である「適正化事業指導員」が営業所を訪問し、法令の遵守状況を項目ごとに確認して指導する制度です。まずは、誰が、どの条文を根拠に行っているのかを正確に押さえておきましょう。
実施主体は地方貨物自動車運送適正化事業実施機関
貨物自動車運送事業法第38条第1項は、国土交通大臣が「貨物自動車運送に関する秩序の確立に資することを目的とする一般社団法人又は一般財団法人」を、運輸監理部および運輸支局の管轄区域を勘案して国土交通大臣が定める区域に一を限って、地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)として指定できると定めています。実務上は、各都道府県のトラック協会がこの指定を受けています。加えて同法第43条により、全国に一を限って指定される全国貨物自動車運送適正化事業実施機関(全国実施機関)として、公益社団法人全日本トラック協会が指定されています。
巡回指導の直接の根拠は、同法第39条第1号です。地方実施機関が行う地方適正化事業として、「輸送の安全を阻害する行為の防止その他この法律又はこの法律に基づく命令の遵守に関し一般貨物自動車運送事業者、特定貨物自動車運送事業者及び貨物軽自動車運送事業者に対する指導を行うこと」が掲げられています。つまり巡回指導は、法律が地方実施機関に課した本来業務そのものです。
また、同法第44条第1号は全国実施機関の事業として「地方適正化事業の円滑な実施を図るための基本的な指針を策定すること」を定めています。全国どの都道府県で受けても評価の物差しが同じになるよう、全国実施機関が「巡回指導の指針」「巡回指導マニュアル」を策定し、地方実施機関がそれに従って指導・評価を行う仕組みです。指導の対象はトラック協会の会員・非会員を問わず、すべての事業所です。
資料の提出を「正当な理由なく拒めない」のが巡回指導
巡回指導が単なるお願いではないことを示すのが、同法第39条の3です。第1項は「地方実施機関は、(中略)地方適正化事業の実施に必要な限度において、貨物自動車運送事業者に対し、文書若しくは口頭による説明又は資料の提出を求めることができる」と定め、第2項は「貨物自動車運送事業者は、地方実施機関から前項の規定による求めがあったときは、正当な理由がないのに、これを拒んではならない」と定めています。
この規定の重みは、国土交通省の監査方針を読むとよくわかります。「自動車運送事業(一般貸切旅客自動車運送事業を除く。)の監査方針について」(平成25年9月17日付け国自安第137号ほか。最終改正 令和7年2月28日、令和7年4月1日施行)は、監査対象事業者の一つとして「適正化事業実施機関が行う巡回指導を拒否した事業者」を明記しています。巡回指導を断ることは、そのまま行政の監査を呼び込む行為になるということです。
実施機関の役割は指導だけではない
地方実施機関の事業は、法第39条各号に列挙されています。第1号の指導のほか、第2号の白トラ防止の啓発活動、第3号の輸送秩序確立のための啓発・広報活動、第4号の「貨物自動車運送事業に関する貨物自動車運送事業者又は荷主からの苦情を処理すること」、第5号の国土交通大臣の措置への協力です。巡回指導は、この一連の事業のうち最も事業者に接点の多い場面ということになります。
なかでも令和7年4月1日施行の改正で存在感を増したのが、法第39条の2の苦情解決です。地方実施機関は苦情の申出があったときは相談に応じ、必要な助言をし、事情を調査するとともに、対象となった事業者に苦情の内容を通知して迅速な処理を求めなければなりません(第1項)。調査の結果、荷主の行為が申出人の健全化措置の実施上の支障になっていると認めるときなどは、国土交通大臣に通知するものとされ(第5項)、国土交通大臣は当該行為に不公正な取引方法に該当する事実があると思料するときは公正取引委員会に通知するものとされています(第6項)。実施機関は事業者を指導するだけでなく、荷主起因の問題を行政につなぐ窓口でもあるという点は、巡回指導の場を単なる「チェックの日」と捉えないための重要な視点です。
38項目に至るまでの経緯
適正化事業は、貨物自動車運送事業法の施行に伴い平成2年12月にスタートしました。全日本トラック協会の資料によれば、巡回指導項目はもともと73項目でしたが、平成7年3月に特別積合せ事業43項目・一般事業38項目へ整理統合され、あわせて全国統一の重点指導項目が設定されました。平成15年4月の改正で地方実施機関の権限が強化されるとともに、巡回指導項目が特別積合せ事業50項目・一般事業45項目に整理統合され、平成19年4月には特別積合せ事業と一般事業を統合して「指導項目37と自主点検項目13」に区分。そして平成30年4月、評価手法の全国均一化の観点から指針とマニュアルが改訂され、指導項目に運輸安全マネジメントが追加されて現在の38項目になりました。
その間、平成25年10月には点呼を全く行っていないなど悪質性の高い違反についての運輸支局長等への「速報」が始まり、平成27年6月からは新規許可事業者に対する早期巡回指導、同年9月からは運輸支局長等の指導要請に基づく特別巡回指導が始まっています。制度は年々、行政の監査と連動する方向で強化されてきました。
巡回指導と運輸支局の監査は何が違うのか
実務相談で最も多い誤解が、巡回指導と監査の混同です。両者はまったく別の制度で、法的な性質も結果の重さも異なります。
| 項目 | 巡回指導 | 監査 |
|---|---|---|
| 実施主体 | 地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(都道府県トラック協会) | 国土交通省(地方運輸局・運輸支局) |
| 根拠 | 貨物自動車運送事業法第39条第1号、第39条の3 | 同法第60条、自動車運送事業等監査規則、監査方針 |
| 事前通知 | あり(概ね2週間前に実施通知) | 臨店監査・街頭監査は原則無通告 |
| 結果 | A〜Eの総合評価と改善指導。行政処分そのものは行われない | 違反が確認されれば勧告・警告・自動車等の使用停止・事業停止・許可取消 |
| 位置づけ | 法令遵守を支援する「指導」 | 法令違反を確認し処分につなげる「行政調査」 |
監査で法令違反が確認された場合の量定は、「貨物自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」(平成21年9月29日付け国自安第73号ほか。最終改正 令和7年2月28日、令和7年4月1日施行)で定められています。同通達では、違反行為ごとに付される処分日車数10日車までごとに1点の違反点数を付し、違反点数は管轄区域単位で3年間累計されます。累積点数が51点以上80点以下となった場合は当該管轄区域内の全営業所に事業停止処分、81点以上となった場合は原則として許可の取消処分です。さらに、運転者に対して全く点呼を実施していない場合、営業所に配置している全ての事業用自動車の定期点検整備を全く実施していない場合、運行管理者が全く不在の場合などは、それだけで30日間の事業停止処分の対象とされています。
そして重要なのが、巡回指導と監査がつながっている点です。監査方針は、監査対象事業者として「適正化事業実施機関(中略)や利用者等からの情報(中略)により、法令違反の疑いがある事業者」を筆頭に挙げ、監査の実施方法についても「適正化事業実施機関からの速報があった場合には、その趣旨に留意して実施する」と定めています。逆に、長期間監査を実施していない事業者を対象とする類型では、「適正化事業実施機関による巡回指導があった事業者及び(中略)安全性優良事業所に認定されている事業者を除くことができる」とされており、巡回指導をきちんと受けていること(あるいはGマークの認定を受けていること)が、この類型での監査を回避する方向にも働きます。
巡回指導が来るタイミングと当日までの流れ
新規許可事業者は運輸開始届出後1か月以降3か月以内
新たに一般貨物自動車運送事業の許可を受けた事業者には、早い段階で巡回指導が入ります。全日本トラック協会の資料によれば、新規参入時のチェック体制強化を図るため、平成27年6月から「新規許可事業者に対し、運輸開始届出後1か月以降3か月以内の早期巡回指導」が開始されました。許可を取って車両を動かし始めた直後、まだ帳票の運用が固まっていない時期に来るということです。許可取得の段階から点呼記録簿・運転日報・運転者等台帳などの様式を用意し、初日から回し始めておく必要があります。許可要件そのものについては一般貨物自動車運送事業の許可|5台要件・営業所・車庫・運行管理者で整理しています。
2回目以降は2年に1回が目標
その後の通常巡回について、全日本トラック協会の資料は「巡回指導回数は、2年に1回を目標としていますが、改善が必要な事業所を優先的に実施するなど、柔軟な取り組みを行っています」と説明しています。東京都貨物自動車運送適正化事業実施機関(東京都トラック協会適正化事業部)の資料も「実施機関では2年に1回を目標に、各都道府県トラック協会の会員・非会員を問わず全ての事業所を対象に巡回指導を行っています」としています。
実施機関の集計表を見ると、巡回の種別は「通常」のほか、「新規(新規参入)」「新規(新設営業所)」「特別(労働基準監督機関からの通報による乗務時間調査)」「特別(支局監査後の改善確認)」「個別(5両未満の霊柩事業者)」などに分かれています。監査を受けた後の改善確認として巡回指導が入ることもある、という点は覚えておいて損はありません。
通知は概ね2週間前、自主点検表を記入して当日に備える
東京都トラック協会適正化事業部の資料によれば、巡回指導の概ね2週間前までに実施通知が送付されます。通知には自主点検表と、当日用意すべき帳票類の一覧が同封されます。事業者はこの自主点検表に自己点検の結果を記入し、指定された帳票を1か所に揃えて当日を迎えます。やむを得ない事情で指定の日時に受けられない場合は、早めに実施機関へ連絡すれば日程調整が可能です。無断で断ることだけは避けてください。
当日は指導員が帳票を見ながら1項目ずつ確認
巡回指導は、適正化事業指導員が営業所を訪問して行います。当日は自主点検表と提示された帳票をもとに、38の指導項目と自主点検項目について1つずつ「適」「否」を判定していきます。ここで注意したいのは、帳票が出てこなければ「判定不可」となり、結果として総合評価に影響し得るという点です。北海道貨物自動車運送適正化事業実施機関の事前チェックポイントも、「巡回当日に関連資料の用意がなく確認できないケースが散見されます。確認ができなければ、その項目における適否の判定が出来なくなり、その結果、総合評価にも影響が及ぶことがあります」と注意を促しています。本社と営業所で帳票の保管場所が分かれている場合は、事前に写しを取り寄せておきましょう。
当日までに揃えておく帳票
実施機関から送付される一覧が最終的な基準ですが、共通して求められるのは概ね次のとおりです。事業計画関係では、経営許可申請書、事業計画変更認可申請書・変更届出書の控え(受理印のあるもの)、登記事項証明書、役員変更届出書の控え。帳票類関係では、事故記録簿、自動車事故報告書の控え、運転者等台帳、車両台帳(自動車検査証および自賠責保険証明書の写し)、事業報告書・事業実績報告書の控え。
運行管理関係では、運行管理規程、運行管理者選任(解任)届出書の控え、運行管理者資格者証、運行管理者等指導講習手帳、運行計画表・乗務割表、拘束時間管理表、点呼記録簿、点呼執行要領、運転日報、運行記録計の記録、運行指示書、教育実施計画表と教育記録簿、運転記録証明書または無事故・無違反証明書、適性診断の受診結果。車両管理関係では、整備管理規程、整備管理者選任(解任)届出書の控え、整備管理者研修手帳、日常点検基準と日常点検表、定期点検基準と定期点検整備実施計画表、点検整備記録簿。労務・法定福利関係では、就業規則、36協定書、出勤簿またはタイムカード、賃金台帳、健康診断個人票、労災・雇用保険および健康保険・厚生年金保険の加入関係書類です。
北海道貨物自動車運送適正化事業実施機関が公開している事前チェックポイントは、特に確認しておくべき点として、選任された運行管理者・整備管理者が講習を定期的に受講しているか、指導及び監督の指針の12項目に基づく安全教育を運転者全員に実施しているか、新規採用運転者の事故歴を把握しているか、初任運転者への座学15時間以上・添乗指導20時間以上の初任教育を実施し記録を保存しているか、定期点検の実施記録簿が営業所にも1年分保存されているか、車検はあるが稼働していない車両についても定期点検を実施し記録が保存されているか、雇入れ時・深夜業従事者・定期の各健康診断に受診漏れがないか、健康診断の検査項目に不足がないか、といった点を挙げています。未稼働車両の定期点検と健康診断の検査項目は、特に見落とされやすい箇所です。
38の指導項目|7区分の中身を押さえる
巡回指導の調査事項は7区分38項目です。区分ごとの項目数は、Ⅰ事業計画等8項目、Ⅱ帳票類の整備・報告等5項目、Ⅲ運行管理等13項目、Ⅳ車両管理等5項目、Ⅴ労基法等4項目、Ⅵ法定福利2項目、Ⅶ運輸安全マネジメント1項目です。全体の3分の1がⅢ運行管理等に集中していることからも、どこに力点があるかがわかります。
Ⅰ 事業計画等(8項目)
①主たる事務所及び営業所の名称、位置に変更はないか、②営業所に配置する事業用自動車の種別及び数に変更はないか、③自動車車庫の位置及び収容能力に変更はないか、④乗務員の休憩・睡眠施設の位置、収容能力は適正か、⑤乗務員の休憩・睡眠施設の保守、管理は適正か、⑥届出事項に変更はないか(本社巡回に限る)、⑦自家用貨物自動車の違法な営業類似行為(白トラの利用等)はないか、⑧名義貸し、事業の貸渡し等はないか——の8項目です。
ここは「実態と許認可の内容が一致しているか」を見る区分です。同一敷地内での移動や同一建物内での階の変更でも認可申請または届出が必要になること、車庫にプレハブやロッカー等の固定物を置くと収容能力が変わって認可申請が必要になることなど、見落としが起きやすいポイントが並びます。休憩・睡眠施設については、貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条第3項が、乗務員等が有効に利用できるよう施設を整備し「適切に管理し、及び保守しなければならない」と定めており、単に場所があるだけでは足りません。⑧の名義貸し・事業の貸渡しは、法第28条違反として単独で30日間の事業停止処分の対象になる重い違反です。
Ⅱ 帳票類の整備、報告等(5項目)
①事故記録が適正に記録され、保存されているか、②自動車事故報告書を提出しているか、③運転者台帳が適正に記入等され、保存されているか、④車両台帳が整備され、適正に記入等されているか、⑤事業報告書及び事業実績報告書を提出しているか(本社巡回に限る)——の5項目です。
事故の記録は輸送安全規則第9条の2に基づき、乗務員等の氏名、自動車登録番号、事故の発生日時・発生場所、当事者の氏名、事故の概要、事故の原因、再発防止対策の8事項を記録し、営業所において3年間保存します。実務で最も抜けるのが「事故の原因」と「再発防止対策」の欄です。運転者等台帳は同規則第9条の5に基づき、免許情報や事故歴のほか、特別な指導の実施状況と適性診断の受診状況まで記載し、写真を貼付します。退職等で運転者でなくなったときは、直ちにその年月日と理由を記載して3年間保存しなければなりません。
Ⅲ 運行管理等(13項目)
①運行管理規程が定められているか、②運行管理者が選任され、届出されているか、③運行管理者に所定の講習を受けさせているか、④事業計画に従い、必要な運転者を確保しているか、⑤過労防止を配慮した勤務時間、乗務時間を定め、これを基に乗務割が作成され、休憩時間、睡眠のための時間が適正に管理されているか、⑥過積載による運送を行っていないか、⑦点呼の実施及びその記録、保存は適正か、⑧乗務等の記録(運転日報)の作成・保存は適正か、⑨運行記録計による記録及びその保存・活用は適正か、⑩運行指示書の作成、指示、携行、保存は適正か、⑪乗務員に対する輸送の安全確保に必要な指導監督を行っているか、⑫特定の運転者に対して特別な指導を行っているか、⑬特定の運転者に対して適性診断を受けさせているか——の13項目です。
運行管理者の選任数は輸送安全規則第18条第1項により、営業所が運行を管理する事業用自動車の数を30で除して得た数(1未満の端数は切捨て)に1を加算した数以上とされています。29両までなら1名、30両から59両なら2名という計算です。講習については同規則第23条第1項が、新たに選任した者のほか「最後に国土交通大臣が認定する講習を受講した日の属する年度の翌年度の末日を経過した者」に受講させることを義務づけており、実質的に2年に1回の受講が必要になります。
点呼は同規則第7条に基づき、業務前・業務後に対面(または対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法)で行い、酒気帯びの有無、疾病・疲労・睡眠不足等の有無、日常点検の実施または確認について報告を求め、確認します。アルコール検知器は営業所ごとに備えて常時有効に保持し、目視等の確認と併用しなければなりません(同条第4項)。記録は運転者等ごとに1年間保存です。なお、告示の要件を満たして運輸支局に届け出れば、遠隔点呼や自動点呼を実施することもできます。
運行指示書は、業務前後のいずれの点呼も対面等でできない業務を含む運行、つまり実務上は2泊3日以上の運行がある場合に作成義務が生じます(同規則第9条の3)。運行の途中で開始・終了地点や経路に変更が生じた場合は、写しに変更内容を記載し、電話等で指示したうえで運転者が携行している運行指示書にも記載させます。運行指示書とその写しは、運行終了の日から1年間保存です。
Ⅳ 車両管理等(5項目)
①整備管理規程が定められているか、②整備管理者が選任され、届出されているか、③整備管理者に所定の研修を受けさせているか、④日常点検基準を作成し、これに基づき点検を適正に行っているか、⑤定期点検基準を作成し、これに基づき、適正に点検・整備を行い、点検整備記録簿等が保存されているか——の5項目です。
整備管理者は道路運送車両法第50条に基づき選任し、同法第52条により選任した日から15日以内に地方運輸局長へ届け出ます。研修は輸送安全規則第3条の5により、新たに選任した者と「最後に当該研修を受けた日の属する年度の翌年度の末日を経過した者」が対象で、こちらも実質2年に1回です。日常点検は車両法第47条の2第2項により、事業用自動車は1日1回、運行の開始前に行います。定期点検は同法第48条第1項第1号により、事業用自動車は3か月ごとです。点検整備記録簿の保存期間は、自動車点検基準第4条第2項により記載の日から1年間とされています。
Ⅴ 労基法等・Ⅵ 法定福利・Ⅶ 運輸安全マネジメント
Ⅴ労基法等は、①就業規則が制定され、届出されているか、②36協定が締結され、届出されているか、③労働時間、休日労働について違法性はないか(運転時間を除く)、④所要の健康診断を実施し、その記録・保存が適正にされているか——の4項目。Ⅵ法定福利は、①労災保険・雇用保険に加入しているか、②健康保険・厚生年金保険に加入しているか——の2項目。Ⅶは運輸安全マネジメントの実施は適正かの1項目です。
運転時間そのものはⅢの過労防止で見ますが、Ⅴ③では運転時間を除いた労働時間・休日労働の適法性が確認されます。トラック運転者の拘束時間等については、改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)が令和6年4月1日から改正後の内容で適用されており、1年3,300時間以内・1か月284時間以内(労使協定により1年3,400時間、1か月310時間を年6か月まで)、1日の拘束時間13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安)、休息期間は継続11時間以上を基本とし9時間を下回らない、運転時間は2日平均1日9時間以内・2週平均1週44時間以内、連続運転時間は4時間以内が基準です。なお、就業規則や36協定の作成・届出、社会保険・労働保険の手続は社会保険労務士の業務範囲であり、行政書士が取り扱うことはできません。
38項目とは別に「自主点検項目」がある
巡回指導では、38の指導項目に加えて「自主点検項目」が確認されます。全日本トラック協会の資料は「38の指導項目と13の自主点検項目について、巡回指導マニュアルに則って所定の指導を行います」と説明しており、実施機関から送付される自主点検表がこれにあたります。項目数や様式は改訂されることがあり、たとえば北海道貨物自動車運送適正化事業実施機関の令和8年4月1日改訂版の自主点検表は11項目構成で、利用運送事業の許可基準の変更の有無、特別積合せ貨物運送の許可基準の変更の有無、車体表示、運賃料金の届出、運賃料金表・運送約款の掲示、特殊車両通行許可に係る重量等制限の遵守、整備不良車両・不正改造車両・無車検運行の有無、賃金体系の適正性などが並びます。
近年の改訂で加わったのが、令和7年4月1日施行の改正貨物自動車運送事業法に対応する項目です。委託事業者として荷主との運送契約締結時や受託事業者への運送依頼時に適正な内容で書面を交付しているか、運送依頼のつど実運送体制管理簿を作成し所要情報を通知しているか、といった点が問われます。書面の写しや実運送体制管理簿は1年間保存が求められます。利用運送を行っている場合は第一種貨物利用運送事業の登録|要件・登録免許税・実運送との違いもあわせて確認しておくとよいでしょう。
重点指導項目9項目|1つでも「否」なら総合評価が1段階下がる
38項目のうち9項目が重点指導項目に指定されており、このうち1つでも「否」の判定を受けると、算出された総合評価が1段階引き下げられます。東京都トラック協会適正化事業部の資料および茨城県貨物自動車運送適正化事業実施機関の調査結果表で重点指導項目とされているのは、次の9項目です。
- Ⅲ-② 運行管理者が選任され、届出されているか
- Ⅲ-⑤ 過労防止を配慮した勤務時間、乗務時間を定め、これを基に乗務割が作成され、休憩時間、睡眠のための時間が適正に管理されているか
- Ⅲ-⑦ 点呼の実施及びその記録、保存は適正か
- Ⅲ-⑪ 乗務員に対する輸送の安全確保に必要な指導監督を行っているか
- Ⅲ-⑫ 特定の運転者に対して特別な指導を行っているか
- Ⅲ-⑬ 特定の運転者に対して適性診断を受けさせているか
- Ⅳ-② 整備管理者が選任され、届出されているか
- Ⅳ-⑤ 定期点検基準を作成し、これに基づき、適正に点検・整備を行い、点検整備記録簿等が保存されているか
- Ⅴ-④ 所要の健康診断を実施し、その記録・保存が適正にされているか
この9項目の顔ぶれには理由があります。運行管理者・整備管理者の不在、点呼の全面的な不実施、全車両の定期点検整備の不実施は、いずれも国土交通省の監査方針が「輸送の安全確保に支障を及ぼすおそれのある重要な法令違反」として優先的な監査対象に挙げているものであり、かつ行政処分等の基準では単独で30日間の事業停止処分の対象とされている違反です。重点指導項目は、行政処分に直結する危険度の高い分野を先回りして潰すための仕掛けだと理解すると腹落ちします。
特定の運転者に対する特別な指導と適性診断も重点項目です。輸送安全規則第10条第2項は、①死者または負傷者が生じた事故を引き起こした者(事故惹起運転者)、②運転者として新たに雇い入れた者(初任運転者)、③65歳以上の高齢運転者に対し、特別な指導を行い、国土交通大臣が認定した適性診断を受けさせることを義務づけています。指導及び監督の指針(平成13年国土交通省告示第1366号)は、「事故惹起運転者」を、死者・重傷者を生じた交通事故を引き起こした運転者、または軽傷者を生じた交通事故を引き起こし、かつその事故前の3年間にも交通事故を引き起こしていた運転者と定義しています。「初任運転者」は、運転者として常時選任するために新たに雇い入れた者のうち、その事業者で初めて事業用自動車に乗務する前の3年間に、他の一般貨物自動車運送事業者等で運転者として常時選任されたことがない者です。そのうえで、事故惹起運転者は合計6時間以上、初任運転者は座学等15時間以上に加えて安全運転の実技を20時間以上と時間まで定められています。適性診断は、事故惹起運転者は特定診断Ⅰまたは特定診断Ⅱ、初任運転者は初任診断、高齢運転者は適齢診断を65歳到達後1年以内に1回、その後3年以内ごとに1回受診させます。
さらに同告示は、運転者を新たに雇い入れた場合には、自動車安全運転センターが交付する無事故・無違反証明書または運転記録証明書等により雇い入れる前の事故歴を把握し、事故惹起運転者に該当するか否かを確認するよう求めています。ここを踏んでいないために特別な指導の判定が「否」になるケースが非常に多く、後述する指摘ワーストの常連になっています。
総合評価A〜Eの判定基準と、D・E評価が招くもの
総合評価は、調査した項目のうち「適」と判定された項目の割合で決まります。
| 総合評価 | 「適」の割合(重点指導項目に「否」がない場合) |
|---|---|
| A | 90%以上 |
| B | 80%以上90%未満 |
| C | 70%以上80%未満 |
| D | 60%以上70%未満 |
| E | 60%未満 |
重点指導項目に1つでも「否」がある場合は、この表で算出した評価が1段階引き下げられます。たとえば「適」の割合が92%でも、点呼の項目が「否」であればA評価ではなくB評価になります(もともとE評価の場合は変更されません)。なお、改善報告の要否は評価のランクで決まるのではなく、「否」と判定された指摘事項があるかどうかで決まります。総合評価がAであっても指摘項目があれば改善指導の対象となり、改善結果報告書と改善状況が確認できる資料の提出が必要です。
D・E評価はさらに重い意味を持ちます。国土交通省は令和5年3月28日付けで「トラック事業者の法令順守の徹底を図るための措置について」を一部改正し、D・E評価の事業者に対する行政の監査を強化しました。改善期限までに改善結果報告を提出しない事業者、および令和5年4月1日以降に実施する巡回指導の総合評価が3回連続でD・Eとなった事業者などが、監査の対象として位置づけられています。
経営面で見過ごせないのが、事業計画変更手続への影響です。事業用自動車の増車は原則として事前の届出(貨物自動車運送事業法第9条第3項、同法施行規則第6条第1項第1号)で足りますが、「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業に係る許可及び事業計画変更認可等に関する処理方針について」の改正(令和元年11月1日施行)により、行政処分の累積点数が一定以上ある場合や、巡回指導でE評価を受けている場合などは認可申請が必要になります。届出で済むはずの増車が認可扱いとなれば、審査に時間を要し、事業拡大のスピードに直接響きます。
逆に、良い評価は資産になります。Gマーク(貨物自動車運送事業安全性評価事業による安全性優良事業所)の評価項目のうち「安全性に対する法令の遵守状況」は、適正化事業実施機関の巡回指導結果と安全マネジメントの取組状況で評価されます。実施機関が用いる調査結果表でも、Gマークの評価点の対象となる調査事項が明示されています。認定要件や配点は年度ごとの申請案内で確認する必要がありますが、日々の巡回指導対策がGマーク取得の土台になるという関係は変わりません。
「否」が付きやすい項目とその原因
どこで落とすのかは、実施機関が公表している集計データを見るのが早道です。神奈川県貨物自動車運送適正化事業実施機関が公表した令和7年度の「指摘項目(否)ワースト10」は次のとおりです。
| 順位 | 指摘項目 | (否)割合 |
|---|---|---|
| 1 | 特定運転者への特別指導 | 42.1% |
| 2 | 運行指示書の作成 | 26.4% |
| 3 | 健康診断の実施 | 23.9% |
| 4 | 特定運転者への適性診断 | 22.6% |
| 5 | 整備管理者研修の受講 | 22.4% |
| 6 | 定期点検の実施・記録保存 | 21.0% |
| 7 | 運行管理者講習の受講 | 19.8% |
| 8 | 点呼の実施・記録保存 | 15.8% |
| 9 | 乗務員への指導監督 | 14.7% |
| 10 | 事業報告・実績報告の提出 | 14.1% |
同機関は主な傾向として、1位は「初任運転者の事故歴把握」の否割合が高く例年ワースト1位であること、2位は2泊3日以上の運行時に作成義務が生じるところ「指示書作成なし」が大部分を占めること、3位は定期健診(年1回)の一部未受診と深夜業従事者(6か月ごとに1回)の未受診が多いこと、4位は初任診断・適齢診断の未実施が大部分であること、5位は2年に1度の受講漏れが大部分であることを挙げています。ワースト10のうち6つが重点指導項目である点は、特に注意が必要です。
顔ぶれを見ると、難しい判断を要する項目はほとんどありません。「やるべきことは決まっているのに、期限管理ができていない」という一点に集約されます。運行管理者講習と整備管理者研修は、いずれも「最後に受けた日の属する年度の翌年度の末日」が期限です。適齢診断は65歳到達後1年以内、その後3年以内ごと。健康診断は年1回、深夜業従事者は6か月以内ごとに1回。これらを人ごと・年度ごとの一覧表にして、四半期に一度確認し、期限前に受講・受診を手配することで、多くは防げる指摘です。
帳票の保存期間も、混同されやすいところです。主要なものを整理します。
| 帳票 | 保存期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 点呼の記録 | 1年間 | 輸送安全規則第7条第5項 |
| 業務の記録(運転日報) | 1年間 | 同規則第8条第1項 |
| 運行記録計による記録 | 1年間 | 同規則第9条 |
| 運行指示書及びその写し | 運行終了の日から1年間 | 同規則第9条の3第4項 |
| 事故の記録 | 営業所において3年間 | 同規則第9条の2 |
| 運転者等台帳 | 運転者でなくなった日から3年間 | 同規則第9条の5第2項 |
| 指導及び監督の記録 | 営業所において3年間 | 同規則第10条第1項 |
| 点検整備記録簿 | 記載の日から1年間 | 自動車点検基準第4条第2項 |
運行記録計(タコグラフ)の装着義務は、輸送安全規則第9条により車両総重量7トン以上または最大積載量4トン以上の普通自動車である事業用自動車等が対象です。装着義務のある車両で記録が残っていなければ、そのまま「否」になります。
指摘を受けた後の改善報告書|期限・書き方・提出後
巡回指導で指摘事項があった場合、事業者には通常2種類の書面が交付されます。1つは改善指導通知書(名称は実施機関により異なり、東京都トラック協会の資料では「改善通知書」)で、改善を求める指摘項目が箇条書きにされ、改善報告書の提出期限が記入されています。もう1つが改善結果報告書で、通知書の指摘項目に照らして、どのように改善したかを記載して提出する書式です。
提出期限は実施機関によって運用が異なります。東京都トラック協会適正化事業部の資料では「改善の報告期限は通常3か月以内、例外としてGマーク申請後については1か月以内」とされています。同資料は、IT点呼の実施要件との関係でも「巡回指導実施日から3か月以内に改善報告が提出され、総合評価がA・B・Cであり点呼の項目の判定が『適』となったもの」を要件に含める旨を記載しており、改善報告の期限管理が他の制度の入口にも影響することがわかります。自社に交付された改善指導通知書に記載された期限を必ず確認してください。
改善結果報告書を書くときのポイントは3つです。第一に、指摘項目ごとに、何を・いつから・どのように変えたかを具体的に書くこと。「今後徹底します」だけでは改善の事実が確認できません。「◯月◯日付で運行管理規程を改訂し、統括運行管理者および補助者の職務と権限を明記した」「◯月◯日に運転者全員の運転記録証明書を取得し、運転者等台帳に転記した」といった書き方が求められます。第二に、改善状況が確認できる資料の写しを添付すること。改訂後の規程、届出書の控え(受理印のあるもの)、講習修了証や研修手帳の写し、健康診断結果、教育記録簿など、指摘項目に対応する証拠を揃えます。第三に、提出書類の写しを必ず手元に残すこと。実施機関に提出した書類は返却されないのが通例です。
指摘が複数あり、期限までに全部を直しきれないこともあります。その場合でも報告そのものを止めてはいけません。東京都トラック協会適正化事業部の資料も「指摘事項が複数あり、全ての改善が間に合わないときでも、期限までに改善できた部分を報告してください」と案内しています。未着手の項目については、いつまでにどう対応するかの計画を添えて報告するのが実務的な対応です。
提出された改善内容は運輸支局へ報告されます。改善が認められない場合は再提出を求められます。特に総合評価がD・Eの事業者が改善期限までに改善結果報告を提出しない場合は、前述のとおり監査の対象とされています。なお、監査方針は、行政処分等を受けた際に事業の改善状況の報告を命じられたのに報告を行わない事業者も、監査の対象に挙げています。「出さない」という選択肢は事実上存在しないと考えてください。
なお、指摘の改善にあたって運輸支局への手続が必要になる場合があります。営業所・車庫・休憩睡眠施設の位置や収容能力の変更に係る事業計画変更認可申請、事業用自動車の種別ごとの数の変更に係る届出、運行管理者・整備管理者の選任(解任)届出、運賃料金設定(変更)届出などがこれにあたります。これらは官公署に提出する書類であり、行政書士法第1条の3第1項に基づく書類作成、および同法第1条の4第1項第1号に基づく提出手続の代理として、行政書士が取り扱える範囲です。緑ナンバー取得全般の流れは自動車運送事業(緑ナンバー)の許可申請|一般貨物・特定貨物の要件、軽貨物については貨物軽自動車運送事業の届出(黒ナンバー)完全ガイド|令和7年安全対策強化対応・必要書類・営業ナンバー取得の流れも参考にしてください。
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まとめ
巡回指導は、貨物自動車運送事業法第39条第1号に基づき地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(都道府県トラック協会)が行う法令遵守の指導です。同法第39条の3により、事業者は説明や資料提出の求めを正当な理由なく拒めません。国土交通省の監査方針も、巡回指導を拒否した事業者を監査対象として明記しています。
調査事項は7区分38項目で、うち9項目が重点指導項目です。重点指導項目に1つでも「否」があれば総合評価は1段階引き下げられます。総合評価は「適」の割合でA(90%以上)からE(60%未満)まで5段階に分かれます。改善報告書と改善状況が確認できる資料の提出が必要になるかどうかは、評価のランクではなく「否」と判定された指摘事項の有無で決まります。
D・E評価は監査強化の対象です。改善期限までに改善結果報告を提出しない事業者や、3回連続でD・E評価となった事業者は監査対象に位置づけられています。E評価を受けていると増車が届出ではなく認可扱いになるなど、経営判断のスピードにも直結します。
指摘の中身は、難解な論点ではなく期限管理の抜けに集中しています。初任運転者の事故歴把握と特別な指導、運行指示書の作成、健康診断、適性診断、運行管理者講習と整備管理者研修の受講期限。これらを人ごと・年度ごとの一覧で管理して期限内に実施し、点呼記録・運転日報・点検整備記録簿などを法定の保存期間どおりに営業所へ備え置くことで、評価は大きく変わります。
指摘を受けた場合は、改善指導通知書に記された期限内に、具体的な改善内容と証拠資料を添えて改善結果報告書を提出することが不可欠です。全部を直しきれなくても、できた部分を期限内に報告してください。改善に伴って生じる事業計画変更の認可申請・届出、運行管理者や整備管理者の選任届出、運賃料金設定(変更)届出といった運輸支局への提出書類の作成と提出手続の代理は、行政書士法第1条の3第1項および第1条の4第1項第1号に基づき行政書士が対応できる分野です。
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