公開日:2026年5月16日
偽装離婚や偽装結婚により真実と異なる婚姻関係・離婚関係を戸籍に記載させた場合、不動産について虚偽の登記原因を申請した場合など、公務員に対し虚偽の申立てをして公正証書原本(戸籍簿・登記簿等)に不実の記載をさせた行為は、刑法第157条第1項の「公正証書原本不実記載罪」(5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)に該当します。本記事では、本罪の構成要件、典型的な事案類型、警察署長宛て告訴状の作成ポイント、捜査・処分までの流れを実務目線で整理します。本サンプルは様式例を示すのではなく、要件論証の観点を解説します。
本記事の結論:
- 刑法157条1項は公務員に虚偽申立てし公正証書原本に不実記載をさせた者を5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と規定。電磁的記録も対象。
- 同条2項は免状・鑑札等の不実記載罪、刑法158条は不実記載公正証書原本等行使罪を規定。公訴時効は5年(刑訴法250条2項5号)。
- 告訴状は警察署長宛てで、構成要件該当性(虚偽申立て・公務員・公正証書原本・不実記載の発生)を立証資料とともに整理する必要がある。
- 当所は警察署長宛て告訴状の作成・事実関係整理書面の作成を担当。検察庁宛て告訴状や告訴後の被疑者対応・示談交渉は司法書士・弁護士をご紹介します。
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目次
根拠法令
- 刑法第157条第1項(公正証書原本不実記載罪・5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)
- 刑法第157条第2項(免状等不実記載罪・1年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金または科料)
- 刑法第158条(不実記載公正証書原本等行使罪・第157条と同じ刑)
- 刑事訴訟法第230条(告訴権者)・第241条(告訴の方式)
- 刑事訴訟法第250条第2項第5号(5年の公訴時効)
- 戸籍法第74条(婚姻届)・第76条(離婚届)
- 不動産登記法第59条以下(権利に関する登記)
本罪の構成要件
客観的構成要件
①公務員に対し虚偽の申立てをすること、②その結果、登記簿・戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本(または電磁的記録)に不実の記載(記録)をさせること、の2点です。
主観的構成要件
故意(虚偽の認識)が必要です。記載内容が真実と異なることを認識しつつ申立てをすれば故意成立です。過失による誤記載は本罪に該当しません。
「公正証書」の意義
本罪における「公正証書」は、公証人が作成する一般的な「公正証書」(民法・公証人法)に限定されず、「公務員が職務上作成する権利義務に関する文書のうち、公務員の認証によって真正と推定される文書」を広く指します。具体的には:戸籍簿、登記簿(不動産・商業)、自動車登録ファイル、住民基本台帳、印鑑登録簿等が含まれます。
「不実の記載」の発生時期
本罪は、申立てによって公務員が実際に不実の記載を行った時点で既遂となります。申立てのみで公務員が記載しなかった場合は未遂(ただし本罪に未遂処罰規定はないため不可罰)。記載前に申立てが取り下げられれば本罪は成立しません。
典型的な事案類型
偽装婚(偽装結婚・偽装離婚)
真実は婚姻意思がないにもかかわらず、在留資格取得目的・税金・社会保険・財産分与等の目的で婚姻届を提出する行為(偽装結婚)、真実は離婚意思がないにもかかわらず離婚届を提出して戸籍に離婚記載をさせる行為(偽装離婚)は、本罪の典型例です。在留資格関連の偽装結婚では、入管法上の不法就労助長罪・公正証書原本不実記載罪が併合罪となるケースが多く見られます。
登記不実記載(不動産・商業)
真実と異なる登記原因(虚偽の売買・贈与等)で所有権移転登記を申請、虚偽の根抵当権設定、虚偽の取締役就任登記など、不動産登記簿・商業登記簿に虚偽の記載をさせる行為は本罪に該当します。脱税・債権者からの財産隠匿目的で行われるケース、相続登記での詐取事案などが典型です。
住民票・印鑑登録の不実記載
住所偽装による住民票の不実記載、他人の印鑑登録など、住民基本台帳・印鑑登録簿への虚偽申立ても本罪に該当します。生活保護不正受給目的、選挙人名簿への登載目的、租税回避目的等、動機はさまざまです。
自動車登録
盗難車・所有者不在車について虚偽の所有権申立てによる移転登録、ナンバー詐取、譲渡証明書偽造による登録名義変更など、自動車登録ファイルへの不実記載も本罪に含まれます。
不実記載公正証書原本等行使罪(刑法第158条)
不実記載をさせた後、その公正証書原本(または抄本・謄本)を行使した者は、刑法第158条の不実記載公正証書原本等行使罪に問われます。例:偽装婚の婚姻届提出後、その婚姻関係を示す戸籍謄本を入管に提示して在留資格申請をした場合、第157条の不実記載罪と第158条の行使罪の双方が成立します。
告訴状作成のポイント
提出先:警察署長宛て
告訴状は事件の発生地・被疑者の住所地等を管轄する警察署の警察署長宛てに提出します。検察庁宛てに告訴状を作成・提出することは司法書士業務(司法書士法第3条第1項第4号)であり、行政書士は警察署長宛てのみ対応可能です。
構成要件の論証
告訴状の中核は構成要件該当性の論証です。①虚偽申立て:申立て内容と真実との相違を立証資料(戸籍謄本・登記事項証明書等)で示す、②公務員:戸籍係・登記官等を特定、③公正証書原本:戸籍簿・登記簿等を特定、④不実の記載発生:当該記載日と内容を特定、⑤故意:被疑者の認識を示す状況証拠を整理、を論じます。
立証資料の整序
告訴状には立証資料を添付します。典型的には:①戸籍謄本(不実記載前後の比較)、②不動産登記事項証明書、③申立て関係書類(婚姻届・離婚届・登記申請書等の写し・正本不存在の場合は閲覧記録)、④メール・LINE等のやり取り(共謀立証)、⑤金銭授受記録(偽装の対価関係立証)、⑥証言録取書等です。
処罰希望の明示
本罪は親告罪ではないため告訴は捜査開始の必須要件ではありませんが、被害者・関係者からの告訴は捜査機関の重い動機付けとなります。告訴状末尾に「上記事実につき厳重な処罰を求めます」と明示します。
偽装離婚・偽装結婚の特殊論点
身分関係取消・離婚取消との関係
偽装結婚は民法第742条第1号により当然無効、偽装離婚は民法上の離婚意思の欠如として無効主張可能です。家庭裁判所の人事訴訟による無効確認・取消が前提となるケースもあり、刑事告訴と並行して家事手続を検討します。家事手続書類の作成(家庭裁判所提出書類)は司法書士業務であり、行政書士の業務範囲外です。
在留資格関連
偽装結婚による在留資格取得の場合、入管法第22条の4第1項第7号(虚偽申請)に基づく在留資格取消、退去強制処分(入管法第24条)と刑事告訴が並行することが多いです。入管申請取次行政書士は別途入管手続を扱いますが、刑事告訴とは別系統です。
共謀者の処罰
偽装婚の場合、本人だけでなく仲介者・対価授受の相手方も共謀共同正犯(刑法第60条)または幇助犯(刑法第62条)として処罰対象となります。告訴状では共謀者の特定・役割分担も整理します。仲介ブローカーが暗躍するケースでは、組織犯罪処罰法第6条の2の組織的犯罪集団による犯罪として、より重い量刑が適用される可能性もあります。
登記不実記載の特殊論点
債権者からの財産隠匿目的
債務超過に陥った被疑者が、強制執行を免れる目的で親族・知人名義に虚偽の登記原因(売買・贈与等)で所有権移転登記を申請するケースは、本罪に加えて強制執行妨害目的財産損壊罪(刑法第96条の2)、詐害行為(民法第424条による取消対象)等の複合事件となります。被害者(債権者)は不実記載罪の告訴と並行して、詐害行為取消訴訟を弁護士に依頼するのが標準です。
相続登記での詐取事案
共同相続人の一部が、他の相続人に無断で「単独相続」「特定の遺産分割」を装い相続登記を申請するケースは、本罪に加えて私文書偽造罪(遺産分割協議書・印鑑の偽造)、詐欺罪(相続財産の処分による)等が併発します。2024年4月1日施行の相続登記義務化により申請件数が増加傾向にあるため、不実記載リスクも相対的に増加していると考えられます。
商業登記での虚偽就任
役員(取締役・代表取締役)に就任していないにもかかわらず、虚偽の就任承諾書・選任議事録を作成して商業登記簿に役員就任登記をさせるケースは、本罪と私文書偽造罪・同行使罪の併合罪になります。会社乗っ取り目的、責任回避目的(名義貸しの逆パターン)、許認可取得目的等で発生することがあります。被害会社・被害取締役本人は速やかに警察への告訴と並行して、商業登記の更正・抹消手続(司法書士業務)を進めることが重要です。
告訴後の流れと処分結果の確認
受理から送致まで
警察署長が告訴状を受理すると、捜査本部が立ち上がり、被害者・被疑者・関係者への事情聴取、物的証拠の収集、金融機関・通信事業者への照会等が行われます。捜査完了後、警察から検察庁に書類送致(第194条以下)または身柄送致され、検察官が起訴・不起訴を決定します。事案により数か月〜1年以上を要します。
処分結果の通知
告訴人には検察庁から処分結果通知書(起訴・不起訴・処分保留等)が送付されます。不起訴処分の場合、被害者は不起訴理由告知請求(刑訴法第261条)を行い、不服があれば検察審査会への審査申立てが可能です。
民事責任の追及との並行
刑事告訴と並行して、民事責任(不法行為に基づく損害賠償・財産取戻し等)を追及するケースが多くなります。民事手続は弁護士に依頼するのが基本で、刑事捜査の結果を民事訴訟の証拠として活用することもあります。両手続の連携が被害回復の鍵となります。
業務範囲の整理
行政書士業務(書類作成)
- 警察署長宛て告訴状の文案作成
- 事実関係を整理した説明書面の作成(行政書士法第1条の2)
- 添付資料(戸籍謄本・登記事項証明書等)の整理・索引作成
- 構成要件該当性の論証構成
業務範囲外(他士業領域)
- 検察庁宛て告訴状の作成(司法書士業務/司法書士法第3条第1項第4号)
- 被害者参加手続・公判への代理出廷(弁護士業務/弁護士法第72条)
- 被疑者との示談交渉・損害賠償交渉(弁護士業務)
- 不起訴処分への検察審査会申立書の作成(司法書士業務)
- 家庭裁判所への婚姻無効・離婚無効確認の訴え(弁護士・司法書士業務)
- 不動産登記の更正・抹消登記(司法書士業務)
FAQ|よくあるご質問
Q1. 公正証書原本不実記載罪と私文書偽造罪の違いは?
A. 本罪は公務員に虚偽申立てをして公文書(公正証書原本)に不実記載をさせる罪、私文書偽造罪(刑法第159条)は他人名義の私文書を作成する罪です。偽装婚で言えば、婚姻届の他人名義部分を勝手に書いた行為は私文書偽造、それを役所に提出して戸籍記載させた行為は本罪、と分けて整理します。
Q2. 偽装結婚に協力した「相手方」は処罰されますか?
A. はい。共謀共同正犯(刑法第60条)として本罪と同一の刑に処せられます。在留資格目的の偽装婚では仲介ブローカー・対価授受の双方が処罰対象になります。
Q3. 公訴時効はいつから起算されますか?
A. 本罪の公訴時効は5年(刑訴法第250条第2項第5号)。起算点は犯罪行為が終わった時、すなわち不実記載が公文書に完成した時点です。例:偽装婚の戸籍記載日から5年です。
Q4. 告訴状を出さなくても警察は捜査しますか?
A. 本罪は親告罪ではないため、告訴がなくても警察は捜査可能です。ただし被害者・関係者からの告訴は捜査開始の重要な契機となります。情報提供・被害申告のみでは捜査優先度が下がるため、告訴状提出が望ましいです。
Q5. 不起訴になったらどうしますか?
A. 不起訴処分通知後、検察審査会への審査申立て(検察審査会法第30条)を検討します。申立書の作成は司法書士業務であり、行政書士の業務範囲外です。重大事件は弁護士に依頼する選択も含めて検討してください。
Q6. 偽装離婚で財産分与が動いた後、無効主張で取り戻せますか?
A. 離婚無効確認の訴え(人事訴訟)と原状回復請求が必要です。動産・不動産の登記移転、税金の取扱いも含めて手続が複雑化するため、弁護士に依頼するのが現実的です。家事事件は弁護士の代理事務範囲となります。
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まとめ
公正証書原本不実記載罪(刑法第157条第1項)は、戸籍簿・登記簿等への虚偽申立てによる不実記載を処罰する規定であり、偽装結婚・偽装離婚・登記不実記載・住民票偽装等が典型事案です。法定刑は5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、公訴時効は5年。告訴状は警察署長宛てに提出し、構成要件該当性(虚偽申立て・公務員・公正証書原本・不実記載・故意)を立証資料とともに整理します。検察庁宛て告訴状は司法書士業務、家事訴訟・刑事公判代理は弁護士業務であり、行政書士は警察署長宛て告訴状の文案作成と添付資料整理のみが業務範囲です。各専門家を適切に使い分けて被害回復を進めてください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


