公開日:2026年5月15日
裁判の証人尋問で嘘をつかれた、相手方が証拠書類を破棄した、犯人を匿っている人物がいる――民事・刑事を問わず、訴訟・捜査の進行中にこうした事案に直面することがあります。これらは刑法上、それぞれ偽証罪(169条)・証拠隠滅罪(104条)・犯人隠避罪(103条)として独立の犯罪類型ですが、構成要件・親告罪該当性・告訴権者・公訴時効が個別に異なるため、事案に応じた使い分けが重要です。「証人が嘘をついたから偽証罪で告訴したい」と相談される方も多いのですが、偽証罪は宣誓した証人だけが主体で、当事者(民事)や被告人(刑事)の供述には適用されません。同様に、証拠隠滅罪は「他人の刑事事件」に係るもので、自己の刑事事件証拠の破棄は犯罪にならない――こうした基本構造を押さえずに告訴状を作成すると、警察署で受理拒否されるリスクが高まります。本記事では、偽証罪・証拠隠滅罪・犯人隠避罪の使い分け、告訴状作成のポイント、警察署長宛て告訴の実務を整理します。
本記事の結論:
- 偽証罪(刑法169条)は法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をした場合に成立し、3か月以上10年以下の拘禁刑が法定刑です。
- 証拠隠滅罪(刑法104条)は他人の刑事事件の証拠を隠滅・偽造・変造・使用した場合、犯人隠避罪(刑法103条)は罰金以上の罪を犯した者等を隠匿・隠避した場合に成立し、いずれも3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。
- いずれも親告罪ではなく被害者・第三者問わず告訴・告発が可能で、告訴状は警察署長宛てに提出し、構成要件と証拠を整理することで受理率が高まります。
- 当事務所は警察署長宛て告訴状の作成・事実関係整理書面の作成を担当し、検察庁宛て告訴状の作成や捜査側との交渉は提携司法書士・弁護士の業務範囲です。
告訴状・告発状の作成サポート
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目次
根拠法令
- 刑法 第103条(犯人蔵匿等)
- 刑法 第104条(証拠隠滅等)
- 刑法 第105条(親族による犯罪に関する特例)
- 刑法 第169条(偽証)
- 刑法 第170条(自白による刑の減免)
- 刑事訴訟法 第230条・第241条(告訴・告発)
- 刑事訴訟法 第250条(公訴時効)
- 民事訴訟法 第201条・第209条(証人の宣誓・虚偽陳述の過料)
1. 偽証罪(刑法169条)の構成要件
偽証罪は、法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をした場合に成立します。法定刑は3か月以上10年以下の拘禁刑で、刑法犯としては比較的重い類型です。
主体(誰が処罰されるか)
- 刑事訴訟・民事訴訟・人事訴訟・家事審判等で宣誓した証人
- 当事者本人尋問の本人は対象外(民事訴訟法では「過料10万円以下」の制裁のみ)
- 刑事被告人本人の供述は黙秘権との関係で対象外
- 鑑定人・通訳人・翻訳人の虚偽は刑法171条で処罰される
客観的構成要件
- 宣誓した証人であること(宣誓書に署名・宣誓手続実施)
- 虚偽の陳述(客観的事実と異なる陳述)
- 陳述が訴訟手続中で行われたこと
偽証の客観説と主観説
判例は「主観説」を採り、証人が記憶に反する陳述をしたかどうかで偽証の成否を判定します。客観的事実と一致していても、記憶に反する陳述であれば偽証罪が成立します。逆に、記憶どおりに陳述したが客観的事実と異なる場合は偽証になりません。
2. 偽証罪の使い分け(民事訴訟・調停・行政審判)
偽証罪が成立するのは「法律により宣誓した証人」に限られるため、宣誓手続のない場面の虚偽陳述は別の規律になります。
偽証罪が成立する場面
- 刑事事件公判での証人尋問
- 民事訴訟の証人尋問(証人として出廷した第三者)
- 家事事件の証人尋問(家事審判・人事訴訟)
- 行政事件訴訟の証人尋問
偽証罪が成立しない場面
- 調停での当事者の発言(調停は宣誓制度なし)
- 民事訴訟の当事者本人尋問(民訴法209条で過料)
- 刑事被告人の供述(黙秘権・自己負罪拒否特権)
- 警察・検察の取調べでの供述(参考人としての虚偽は別)
- 行政庁の聴聞・弁明での発言
「相手が嘘をついた」と思っても、宣誓した証人としての発言でなければ偽証罪では立件できません。当事者尋問の虚偽は民訴法209条の過料処分(10万円以下)にとどまります。
3. 証拠隠滅罪(刑法104条)の構成要件
証拠隠滅罪は、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造・使用した場合に成立します。法定刑は3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。
客観的構成要件
- 「他人の刑事事件」に関する証拠であること
- 隠滅(隠匿・物理的滅失)/偽造(虚偽の証拠の作成)/変造(既存の証拠の改変)/使用(偽造・変造の証拠の使用)
- 故意(他人の刑事事件の証拠であることの認識)
「他人の刑事事件」要件の重要性
自己の刑事事件の証拠を破棄しても証拠隠滅罪は成立しません。これは自己負罪拒否特権の表れで、被疑者・被告人本人が自分の不利な証拠を消しても処罰対象外です。ただし、共犯者・他の関係者の刑事事件証拠も同時に消した場合は、その他人の事件部分について証拠隠滅罪が成立し得ます。
民事事件・行政事件の証拠は対象外
刑法104条は「刑事事件」の証拠に限定されています。民事事件の証拠を破棄しても、本罪は成立しません(民事訴訟上の文書提出命令違反等の制裁はあり得る)。
4. 犯人隠避罪・犯人蔵匿罪(刑法103条)
犯人隠避罪・犯人蔵匿罪は、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者または拘禁中に逃走した者を、隠匿(蔵匿)または隠避させた場合に成立します。法定刑は3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。
客観的構成要件
- 客体:罰金以上の刑に当たる罪を犯した者/拘禁中に逃走した者
- 蔵匿:場所を提供して匿うこと
- 隠避:蔵匿以外の方法で身柄発見を妨げること(虚偽の供述・偽の証言・偽装工作)
- 故意(犯人であることの認識)
蔵匿と隠避の区別
- 蔵匿:自宅・事務所・別の場所に匿う物理的な行為
- 隠避:物理的な隠匿以外の方法(虚偽供述・身代わり出頭の手配・偽装結婚等)
判例上は、犯人を物理的に逃がすだけでなく、捜査機関への虚偽供述で身柄発見を妨げた場合も隠避罪が成立します。
5. 親族特例(刑法105条)の重要性
証拠隠滅罪・犯人隠避罪は、犯人の親族が犯人を匿った場合・証拠を隠した場合は、刑が任意的に免除される特例があります(刑法105条)。これは家族関係に基づく自然な情義への配慮として設けられている規定です。
親族の範囲
- 配偶者
- 直系血族(父母・子・祖父母・孫等)
- 同居の親族・婚姻による姻族(六親等以内)
「任意的免除」のため、必ず免除されるとは限らず、裁判所の裁量で減軽されるケースもあります。偽証罪(169条)には親族特例はありません。
6. 親告罪該当性と告訴権者
偽証罪・証拠隠滅罪・犯人隠避罪は、いずれも非親告罪です。被害者・第三者を問わず告訴・告発が可能で、告訴期間(親告罪における6か月制限)は適用されません。
告訴と告発の使い分け
- 告訴:犯罪により直接的な被害を受けた者(被害者)が処罰を求める意思表示
- 告発:犯罪を認知した第三者(被害者でない者)が処罰を求める意思表示
偽証により敗訴した訴訟当事者は被害者として告訴、偽証を傍聴した第三者は告発という使い分けになります。証拠隠滅罪・犯人隠避罪では、原事件(隠滅・隠避された刑事事件)の被害者が告訴主体になることが多いです。
7. 公訴時効・告訴状の宛先
公訴時効期間
- 偽証罪(10年以下の拘禁刑):5年(刑訴法250条2項4号)
- 証拠隠滅罪(3年以下の拘禁刑):3年(同号5号)
- 犯人隠避罪(3年以下の拘禁刑):3年(同号5号)
公訴時効は犯罪行為終了時から起算し、起訴前に時効完成すると公訴提起できません。古い事案では時効確認が必須です。
告訴状の宛先
行政書士が作成する告訴状の宛先は、必ず警察署長宛てとします。検察官(検察庁検事正)宛ての告訴状は司法書士業務(裁判所提出書類に類する書面の作成)として位置づけられる実務運用があり、行政書士業務範囲外です。
8. 告訴状作成の実務ポイント
偽証・証拠隠滅・犯人隠避の告訴状は、構成要件論証が受理可否を左右します。
記載必須事項
- 告訴人(被害者)の氏名・住所・連絡先
- 被告訴人(犯人)の氏名・住所・職業
- 告訴の趣旨(罰条と処罰を求める旨)
- 告訴の事実(時系列での事実関係・5W1H)
- 構成要件該当性の論証
- 立証方法・添付証拠の一覧
添付証拠の例(偽証罪の場合)
- 証人尋問調書(裁判所書記官発行)の写し
- 証人が宣誓したことを示す宣誓書写し
- 客観的事実と陳述の食い違いを示す書証(メール・契約書等)
- 記憶に反することを示す状況証拠
証拠隠滅罪・犯人隠避罪では、原事件(被告訴人が証拠隠滅・隠避を行った対象事件)の刑事事件としての存在・被告訴人の関与を示す資料が不可欠です。
9. 受理後の捜査・処分の流れと自白による刑の減免
告訴状が警察署で受理された後の流れは、警察捜査→検察送致→起訴・不起訴決定の標準ルートをたどります。本罪特有の論点として、自白による刑の減免規定(刑法170条)の存在も押さえておく必要があります。
受理後の流れ
- 警察が捜査開始(任意捜査・必要に応じ強制捜査)
- 被告訴人への事情聴取・関係者ヒアリング
- 検察送致(書類送検または身柄送検)
- 検察官による起訴・不起訴判断
- 起訴の場合は刑事公判、不起訴の場合は告訴人に処分通知
偽証罪の自白減免特例(刑法170条)
偽証罪を犯した者が、当該事件の裁判が確定する前または懲戒処分が行われる前に自白した場合、刑が減軽または免除されます。これは虚偽陳述による誤判の防止を目的とした規定で、被告訴人が自発的に偽証を認めて訂正する誘因を制度化しています。
不起訴処分への対応
- 不起訴処分通知書の交付請求
- 不起訴理由告知制度の活用
- 検察審査会への審査申立(弁護士業務)
- 準抗告(特殊な場合・弁護士業務)
不起訴処分後の対応は弁護士業務範囲となります。事案により民事損害賠償請求への切替も選択肢となるため、刑事ルートと並行して民事ルートを弁護士に相談することも実務上は珍しくありません。
業務範囲の整理
行政書士の業務範囲
- 警察署長宛て告訴状・告発状の作成
- 事実関係整理書面の作成
- 添付証拠目録の整理
- 事実証明書類の作成
業務範囲外(連携先専門家)
- 検察庁検事正宛て告訴状・告発状の作成(司法書士業務)
- 検察官への上申書・抗議書(弁護士業務範囲)
- 告訴後の被害者参加制度の代理・付添(弁護士)
- 民事損害賠償請求の代理・交渉(弁護士法72条)
- 不起訴処分への検察審査会申立書作成(弁護士)
- 刑事被告人の弁護(弁護士独占)
FAQ|よくあるご質問
Q1. 民事訴訟の当事者本人が嘘をついた場合、偽証罪で告訴できますか。
A. 原則できません。偽証罪は宣誓した「証人」に限定され、当事者本人尋問の本人は対象外です。民事訴訟法209条の過料(10万円以下)が予定された制裁です。
Q2. 自分の刑事事件証拠を破棄した場合、証拠隠滅罪に問われますか。
A. 問われません。「他人の刑事事件」要件を満たさず、自己の刑事事件証拠の破棄は処罰対象外です。ただし共犯者の事件証拠も同時に消した場合は別です。
Q3. 親族が犯人を匿った場合の取扱いは。
A. 刑法105条により、犯人の親族が犯人を蔵匿・隠避した場合は刑が任意的に免除されます。配偶者・直系血族・同居親族等が対象です。
Q4. 偽証罪の公訴時効は何年ですか。
A. 5年です(刑訴法250条2項4号)。10年以下の拘禁刑が法定刑のため、公訴時効も5年に区分されます。
Q5. 告訴状はどこに提出しますか。
A. 警察署長宛てに、犯罪地・犯人住所地等の管轄警察署へ提出します。検察庁宛て告訴状の作成は司法書士業務です。
Q6. 警察署で受理拒否された場合は。
A. 構成要件該当性の論証強化、添付証拠の補充、上位警察機関(県警本部等)への相談が選択肢です。不起訴処分への検察審査会申立は弁護士業務です。
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告訴状・告発状の作成サポート
偽証罪・証拠隠滅罪・犯人隠避罪の告訴状・告発状作成に対応します。スタンダード 38,280円(税込)/お急ぎ特急 49,280円(税込)/不受理時対応オプション +33,000円(税込)。警察署長宛て告訴状の構成要件論証・添付資料の整理を行います。
まとめ
偽証罪(刑法169条)・証拠隠滅罪(刑法104条)・犯人隠避罪(刑法103条)は、訴訟・捜査の進行を妨げる類型として独立に定められた犯罪で、構成要件・主体・親族特例・公訴時効が個別に異なります。偽証罪は法律により宣誓した証人にのみ成立し、民事訴訟の当事者本人尋問・調停・取調べでの虚偽は対象外です。証拠隠滅罪は「他人の刑事事件」の証拠が客体で、自己の刑事事件証拠の破棄は処罰対象外という重要な限定があります。犯人隠避罪・犯人蔵匿罪は罰金以上の刑に当たる罪を犯した者・拘禁中の逃走者の蔵匿・隠避に対する規律で、刑法105条の親族特例により親族による行為は刑が任意的に免除されます。これら3罪はいずれも非親告罪で、被害者・第三者問わず告訴・告発が可能です。告訴状は警察署長宛てに提出し、構成要件該当性の論証・添付証拠の整理が受理可否を左右します。検察庁宛て告訴状の作成・被害者参加制度・民事損害賠償の交渉代理は司法書士・弁護士業務範囲となるため、事案に応じた専門家連携が重要です。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


