公開日:2026年5月11日
家族や知人の遺体が、葬儀や火葬等の正規の葬祭手続を経ずに山中・海中・河川・空き家等に遺棄されたり、損壊・損壊未遂の被害に遭ったりした場合、刑法190条の死体遺棄罪・死体損壊罪等が成立する可能性があります。なお、死亡に至る経緯によっては、殺人罪、傷害致死罪、保護責任者遺棄致死罪等と死体遺棄罪が併せて問題となる場合があります。死体遺棄罪は3年以下の拘禁刑と比較的法定刑は軽いものの、葬祭義務者(祭祀承継者・近親者等)による遺棄は親族間の感情的対立や相続トラブルが背景にあるケースも多く、刑事告訴を通じた事実解明と再発防止の必要性が高い犯罪類型です。本記事では、死体遺棄罪・死体損壊罪(刑法190条)の構成要件と告訴状の記載例を、最判令和5年3月24日の最新判例を踏まえて解説します。
本記事の結論:
- 刑法190条は死体・遺骨・遺髪・棺に納めてある物の損壊・遺棄・領得を3年以下の拘禁刑で処罰します。判例(最判昭和34年4月14日)は葬祭義務者の不作為による遺棄も成立すると判示し、最判令和5年3月24日は「遺棄」を「習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為」と明示しています。
- 長期5年未満の拘禁刑に当たる罪のため、公訴時効は犯罪行為終了時から3年(刑事訴訟法250条2項6号)です。親告罪ではないため告訴期間制限はありません。
- 行政書士が業務として作成する告訴状は、行政機関である警察署に提出する書類として管轄警察署長宛のものを前提にします。検察庁宛ての告訴状・告発状の作成や提出対応については、司法書士・弁護士等の業務範囲が問題となるため必要に応じて専門家へ確認します。
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死体遺棄罪・死体損壊罪の告訴状について、被害事実の整理・構成要件該当性の検討・添付資料の整理を支援し、警察署長宛の告訴状を行政書士業務範囲で作成します。被疑者特定・証拠収集等の刑事手続自体は弁護士をご紹介します。
目次
根拠法令
- 刑法190条(死体損壊等):「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の拘禁刑に処する」
- 刑法191条(墳墓発掘死体損壊等):墳墓を発掘して上記行為をした場合の加重類型(3月以上5年以下の拘禁刑)
- 刑法189条(墳墓発掘):墳墓発掘単独罪(2年以下の拘禁刑)
- 刑事訴訟法230条・231条(告訴権者)・239条(告発)・241条(告訴・告発の方式、書面または口頭)・242条(司法警察員の検察官への送付義務)・260条(処分通知)
- 刑事訴訟法250条2項6号(公訴時効):長期5年未満の拘禁刑に当たる罪→公訴時効3年
- 墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)3条(死後24時間以内の埋葬・火葬の制限)・4条(墓地外埋葬・火葬場外火葬の禁止)
- 軽犯罪法1条18号・19号(自己占有場所内死体の通報義務違反等)
- 最判昭和34年4月14日(不作為による死体遺棄)・最判令和5年3月24日刑集77巻3号41頁(「遺棄」の意義明示)
1. 刑法190条の構成要件
刑法190条は、「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者」を3年以下の拘禁刑で処罰します。本罪の保護法益は、最判令和5年3月24日刑集77巻3号41頁が明示するとおり、「社会的な習俗に従って死体の埋葬等が行われることにより、死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情」とされており、これに死者が生前に有していた人格権の事後的な効果を含める説もあります。客体は4つに分類されます。(1)死体:全身の死体のほか、社会通念上、死体の一部と評価される身体部分も問題となり得ます。もっとも、医学・研究・移植等の目的で法令に従い適法に管理・処分されるものについては、刑法190条の遺棄・損壊とは区別して考える必要があります。(2)遺骨:火葬後の骨片・骨灰、(3)遺髪:故人の頭髪・体毛、(4)棺に納めてある物:棺に納められた副葬品・遺品。行為類型は3つで、(1)損壊:物理的・化学的に毀損する行為(切断・焼却・薬品処理等)、(2)遺棄:埋葬・火葬等の正規の葬祭手続を経ずに放置・廃棄する行為、(3)領得:自己または第三者の所持下に置く行為(遺骨の窃取等)です。主観的要件は故意で、過失犯処罰規定はありません。
2. 死体遺棄罪の「遺棄」とは|放置・不作為による遺棄も問題になるか
「遺棄」は、(1)作為による遺棄(死体を山中・海中・河川等に積極的に運搬し放置する行為)と、(2)不作為による遺棄(葬祭義務者が法定の葬祭義務を尽くさず死体を放置する行為)の2類型があります。判例(最判昭和34年4月14日)は、葬祭義務者(祭祀承継者・近親者等)による不作為遺棄も死体遺棄罪を構成すると判示しており、医師による死亡確認後に葬儀・火葬等の手続を一切行わず長期間放置した場合も処罰対象となります。実例として、(1)室内孤独死後の不通報・放置、(2)出産直後の嬰児の遺棄(孤立出産事件における死体遺棄罪の適用については、最判令和5年3月24日が無罪判決を下しており、日弁連会長談話でも「背景・原因となる様々な事情を抱え本来は保護が必要な女性を、専ら死体遺棄罪等の被疑者・被告人であるとの視点で刑事手続に付してきたことの問題性」が指摘されています)、(3)自殺幇助後の死体放置、(4)介護中の高齢者死亡後の放置と年金不正受給(詐欺罪との併合罪となる場合があります)等が報道されています。
2-2. 最判令和5年3月24日が示した「遺棄」の判断要素
最判令和5年3月24日は、死体遺棄罪の「遺棄」を「習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為」と初めて明示し、その判断要素として(a)行われた場所、(b)死体の梱包及び設置の方法等を挙げました。さらに、葬祭の準備・一過程として行われた行為は「遺棄」に当たらない可能性があること、他者が死体を発見することが困難な状況の作出があれば隠匿として遺棄に当たり得ることなど、構成要件解釈の枠組みが示されています。不作為遺棄の認定においても、相当期間の放置や、葬祭手続を取らない態様が「習俗上の埋葬等とは認められない態様」と評価されるかが基準となります。
3. 「葬祭義務」と関係法令
葬祭義務の主体や内容は、民法上の扶養義務、祭祀承継、親族関係、同居・監護状況、死亡後の事務処理の実態などを踏まえて個別に問題となります。民法877条(扶養義務)や民法897条(祭祀承継者)が直接かつ一義的に葬祭義務を定めているわけではありませんが、判例上、死体を監護すべき立場にある者が相当な葬祭・埋火葬手続を行わず放置した場合、不作為による死体遺棄罪が問題となることがあります。実務上は、(1)祭祀承継者の地位、(2)墓埋法3条(死後24時間以内の埋葬・火葬の制限)・4条(墓地外埋葬・火葬場外火葬の禁止)の規律、(3)生活保護法18条(葬祭扶助)、(4)社会通念上の葬祭義務の存在等を総合考慮して、葬祭義務者の範囲が確定されます。なお、葬祭義務がない者でも、自己の占有する場所内に死体があることを知りながら警察官等に速やかに通報せず放置していた場合には、軽犯罪法1条18号・19号違反となる可能性があります。死体遺棄罪が成立しない事案でも、軽犯罪法違反の告発が並行する場合があるため、事案ごとの罪名整理が重要です。
4. 死体損壊罪と死体遺棄罪の関係
死体損壊罪と死体遺棄罪は同一条文(刑法190条)に規定され、同一法定刑(3年以下の拘禁刑)です。死体損壊と死体遺棄が同一の死体に対して連続して行われた場合、包括一罪、併合罪等の罪数評価は、行為の目的、時間的・場所的近接性、行為態様などにより個別に判断されます。殺人罪(刑法199条)と併発する場合、殺人罪とは別に死体損壊・死体遺棄の成否が問題となります。なお、生存中の被害者を遺棄して死亡させた場合は、死体遺棄罪ではなく保護責任者遺棄致死罪(刑法218条・219条)等が問題となるため、死亡時期と行為時期の特定が重要です。
5. 告訴権者と告訴状の宛先
告訴権者については、刑事訴訟法230条・231条の被害者、法定代理人、被害者死亡時の配偶者・直系親族・兄弟姉妹等を基本に整理します。死体遺棄罪・死体損壊罪では、保護法益や被害者概念に特殊性があるため、祭祀承継者、近親者、葬祭執行者等が告訴権者として整理できるか、または告発として提出すべきかを事案ごとに確認する必要があります。行政書士が業務として作成する告訴状は、行政機関である警察署に提出する書類として、管轄警察署長宛て(被疑者の所在地または犯罪地を管轄する警察署)のものを前提にします。検察庁宛ての告訴状・告発状の作成や提出対応については、司法書士・弁護士等の業務範囲が問題となるため、必要に応じて専門家へ確認します。
5-2. 告訴受理後の警察・検察の刑事訴訟法上の義務
告訴状が警察により受理されると、警察は刑事訴訟法242条により書類及び証拠物を検察官に送付する義務を負い、検察官は同法260条により公訴提起・不提起の処分を告訴人に通知する義務を負います。この点が、警察に捜査義務が必ずしも生じない「被害届」との大きな違いとなります。
6. 告訴状の記載事項(一般構成)
告訴状は、刑事訴訟法241条に基づき書面または口頭で行います。書面の場合の標準的な記載事項は、(1)告訴人の住所・氏名・連絡先・押印、(2)被告訴人の住所・氏名(不詳の場合は「氏名不詳」)、(3)告訴の趣旨(「下記犯罪事実につき、被告訴人に対する厳重なる捜査・処罰を求めるため告訴する」等)、(4)告訴事実(5W1Hで具体的に記述)、(5)罪名(刑法190条死体遺棄罪・死体損壊罪)、(6)告訴に至る経緯、(7)添付資料目録、(8)作成年月日、(9)宛先(管轄警察署長殿)の9要素です。死体遺棄罪・死体損壊罪は性質上、被害事実の証拠化が困難なケースも多く、警察への現場保全要請を併記することが効果的です。被告訴人欄を「氏名不詳」として告訴状・告発状を作成する場合は、判明している事実関係を具体的に記載し、捜査により被疑者が特定された場合には警察の指示に従い、必要に応じて補充書面や追加資料を提出します。
7. 公訴時効は3年|告訴期間と親告罪ではない点
死体遺棄罪・死体損壊罪は、3年以下の拘禁刑にあたる罪(長期5年未満の拘禁刑)のため、刑事訴訟法250条2項6号により公訴時効は3年です。犯罪行為終了時から3年が経過すると公訴時効が完成し、検察官は公訴を提起できなくなります。公訴時効完成後は、刑事処罰を求める告訴・告発としての実効性が大きく失われます(ただし、被疑者特定により別の犯罪が判明する可能性等のため、警察による調査自体は別途継続される場合もあります)。告訴自体には期間制限はありません(親告罪ではないため、刑事訴訟法235条の6か月制限は適用されません)が、公訴時効完成後は事実上、告訴の実効性が失われます。死体遺棄罪は被害発覚から長期間経過後に判明するケース(白骨化死体の発見等)もあるため、公訴時効の起算点(犯罪行為時)と発覚時の関係に注意が必要です。
8. 遺骨の放置・廃棄・散骨は死体遺棄罪になるか
遺骨も刑法190条の客体に含まれるため、火葬後の遺骨を寺院・霊園以外の場所に投棄したり、長期間室内に放置した後に廃棄したりする行為は、死体遺棄罪が成立する可能性があります。一方、葬送のための祭祀として節度をもって行われる散骨については、法務省が1991年(平成3年)の口頭見解で「節度をもって行う散骨は葬送のための祭祀の一つとして」適法と解する見解を示し、厚生労働省は2021年(令和3年)3月に「散骨に関するガイドライン(焼骨の取扱いに関するガイドライン散骨編)」を公表しています。これらの枠組みに従い節度をもって行う散骨は刑法190条の対象外と解されていますが、粉骨の程度、散骨場所、周辺環境への配慮、自治体条例(散骨禁止条例)、散骨事業者向けガイドライン等の確認が必要です。葬送目的を欠く投棄や、周囲に不快感・衛生上の問題を生じさせる方法では、刑法190条や条例違反が問題となるおそれがあります。
業務範囲の整理
行政書士業務(Treeで対応可能)
- 警察署長宛て告訴状の作成(行政書士法1条の2「権利義務に関する書類」)
- 事実関係整理書面(時系列・登場人物・現場状況のまとめ)の作成
- 添付資料の整理(写真・関係者陳述書・公的書類等)
- 告訴状提出時の警察署事前照会のご案内
業務範囲外(提携専門家をご紹介)
- 検察庁宛て告訴状・告発状の作成・提出対応(司法書士・弁護士等の業務範囲)
- 告訴後の警察捜査同行・警察取調べ立会い(弁護士業務)
- 被疑者特定のための調査(探偵業者・弁護士業務)
- 不起訴処分に対する検察審査会申立てに関する法的助言・代理対応(本人申立ても可能ですが、申立書の法的構成や証拠整理については弁護士への相談を推奨)
- 遺族による民事損害賠償請求の交渉・訴訟(弁護士業務)
- 葬祭義務違反に関する相続関係の紛争(弁護士業務)
FAQ|よくあるご質問
Q1. 死体遺棄罪は親族間でも成立しますか。
A. 成立します。同居家族・近親者による不作為遺棄(葬祭義務違反)も判例上認められており、年金不正受給・相続関係の隠蔽等を動機とする親族間遺棄事案も摘発されています。年金不正受給を伴う場合は詐欺罪との併合罪となる場合があります。
Q2. 火葬後の遺骨を放置した場合は。
A. 遺骨も刑法190条の客体に含まれます。火葬後の遺骨を寺院・霊園以外の場所に投棄したり、長期間室内に放置した後に廃棄したりする行為は、死体遺棄罪が成立する可能性があります。
Q3. 散骨は死体遺棄罪になりますか。
A. 葬送のための祭祀として節度をもって行われる散骨については、刑法190条の遺骨遺棄罪に当たらないとする見解が一般に示されています。ただし、粉骨の程度、散骨場所、周辺環境への配慮、自治体条例、散骨事業者向けガイドライン等の確認が必要です。葬送目的を欠く投棄や、周囲に不快感・衛生上の問題を生じさせる方法では、刑法190条や条例違反が問題となるおそれがあります。
Q4. 公訴時効3年経過後でも告訴できますか。
A. 告訴自体は可能ですが、公訴時効完成後は検察官が公訴提起できないため、刑事処分には至りません。時効完成前の告訴が原則です。
Q5. 被疑者が不明の場合の告訴は。
A. 被告訴人欄を「氏名不詳」として告訴状を作成可能です。警察捜査により被疑者が特定された場合、その後の手続は警察が主導します。被告訴人不詳の場合でも、判明している事実関係を具体的に記載することが重要です。
Q6. 告訴と告発の違いは。
A. 告訴は被害者・告訴権者が行うもの、告発は犯人または被害者以外の第三者が行うものです(刑事訴訟法230条・239条)。死体遺棄事案は、近親者は告訴、無関係の発見者は告発という整理が一般的ですが、被害者概念の特殊性があるため事案ごとの確認が必要です。
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死体遺棄罪・死体損壊罪の告訴状について、被害事実の整理・構成要件該当性の検討・添付資料の整理を支援し、警察署長宛の告訴状を行政書士業務範囲で作成します。被疑者特定・証拠収集等の刑事手続自体は弁護士をご紹介します。
まとめ
死体遺棄罪・死体損壊罪は、刑法190条で3年以下の拘禁刑が定められた犯罪で、葬祭義務者の不作為による遺棄も成立する点が特徴です(最判昭34.4.14、最判令5.3.24)。親族間・同居家族間で発生する事案も多く、相続トラブル・年金不正受給・介護放棄等の背景事情を伴うケースが報道されています。告訴状は被害事実の証拠化が困難な類型のため、現場写真・関係者陳述書・公的書類(戸籍・住民票・葬祭関連書類等)の整理が告訴の実効性を左右します。Treeでは警察署長宛の告訴状作成と事実関係整理を行政書士業務範囲で支援し、検察庁宛の告訴状作成・告訴後の警察捜査同行・民事損害賠償等は司法書士・弁護士をご紹介する連携体制で対応します。被害事実発覚時は、公訴時効3年の経過に注意し、早期の専門家相談を行うことが推奨されます。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


