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振込先口座名義人への告訴|口座貸与の責任・犯収法26条・幇助の認定

更新: 約26分で読めます

振り込め詐欺やSNS型投資詐欺の被害に遭った方から、「振込先の口座名義人が明細に残っている。この人を刑事告訴できないか」というご相談を受けることがあります。画面に残った名義人の氏名は、被害者が唯一手にしている加害者側の手がかりであり、そこに責任を問いたいと考えるのは自然なことです。

もっとも、この論点は2026年(令和8年)7月10日を境に法律の姿が大きく変わりました。犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法。以下「犯収法」)の一部を改正する法律(令和8年法律第34号)が施行され、預貯金通帳等の不正譲渡に対する罰則が引き上げられると同時に、条番号そのものが繰り上がったのです。従来「犯収法28条」として語られてきた口座譲渡罪は、現行法では26条に移動しており、28条は別の類型(為替取引カード等)を規律する条文になっています。改正前の解説記事を前提に書面を作ると、罰条の引用を誤ることになりかねません。

この記事では、振込先口座の名義人にどこまで刑事・民事の責任が及ぶのかを、犯収法の現行条文、刑法の幇助規定、民法の共同不法行為規定、そして刑事訴訟法の告訴・告発の手続に即して、実務目線で整理します。あわせて、被告訴人の特定ができない場合の書面の組み立て方と、振り込め詐欺救済法による被害回復の限界についても解説します。

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振込先口座の名義人は誰なのか——3つの類型を切り分ける

「振込先口座名義人」と一言でいっても、その実態はまったく異なる複数の類型に分かれます。責任追及の道筋も、書面に書くべき犯罪事実も、類型ごとに変わります。最初にここを切り分けないと、告訴状・告発状の構成そのものが的を外します。

類型1:自ら口座を売却・貸与した名義人

SNSや掲示板の「口座買います」「高額報酬・簡単な副業」といった募集に応じ、自分名義の通帳・キャッシュカード・暗証番号やインターネットバンキングのIDとパスワードを引き渡した類型です。名義人は実在し、本人確認も適法に行われているため、金融機関には正確な氏名・住所が残っています。犯収法違反として最も典型的に処理されるのがこの類型で、事案によっては詐欺の幇助まで問題になります。

類型2:名義人自身も被害者である類型

「口座凍結の解除に必要」「あなたの口座が犯罪に使われているので確認する」などと欺かれ、通帳やカードを騙し取られた高齢者などがこれに当たります。名義人自身が詐欺やキャッシュカード詐欺盗の被害者であり、責任を問うべき相手ではありません。警察庁の統計でも、預貯金詐欺・キャッシュカード詐欺盗は令和7年に合わせて2,950件(預貯金詐欺1,707件、キャッシュカード詐欺盗1,243件)認知されており、通帳やカードをだまし取られる被害自体が少なくありません。振込先の名義人がこの類型である可能性も念頭に置く必要があります。

類型3:他人になりすまして開設された口座

偽造・盗難の本人確認書類を使い、まったくの他人になりすまして開設された口座です。この場合、名義人として登録されている人物は実在しないか、実在しても関与していません。犯収法4条6項は、顧客等・代表者等が取引時確認に係る事項を偽ることを禁じており、本人特定事項を隠蔽する目的でこれに違反した者は、犯収法25条により3年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、またはその併科に処せられます。

統計から見た振込型被害の規模

警察庁が令和8年5月22日に公表した「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」によれば、令和7年の特殊詐欺の認知件数は27,832件(前年比+32.3%)、被害額は1,423.1億円(同+98.0%)で、いずれも統計上の過去最悪を更新しました。1日当たりの被害額は3.9億円に達します。

このうち振込型は16,894件・823.0億円で、認知件数の60.7%、被害総額の57.8%を占めます。振込型のうちインターネットバンキングを利用したものは6,866件・495.3億円で、被害額ベースでは振込型の60.2%を占めました。SNS型投資・ロマンス詐欺も合計15,168件・1,834.3億円(SNS型投資詐欺9,523件・1,288.0億円、SNS型ロマンス詐欺5,645件・546.4億円)と深刻です。

そして、名義人側の摘発について警察庁は、令和7年中に預貯金口座や携帯電話の不正な売買等の特殊詐欺を助長する犯罪で5,315件・3,657人を検挙したと公表しています。口座を売った・貸したという行為が、それ自体として毎年数千人規模で立件されているという事実は、告訴・告発を検討するうえでの前提知識として押さえておくべきでしょう。

被害者が手にしている情報は何か

振込型の被害において、被害者の手元に残る加害者側の情報は驚くほど乏しいのが実情です。ATMの利用明細票や通帳の記帳には、受取人の氏名がカナ表記で印字されるにとどまり、住所も生年月日も分かりません。インターネットバンキングの取引履歴も同様で、多くの金融機関では受取人名をカタカナで表示するだけです。

加えて、カナ表記だけでは同姓同名の可能性を排除できず、個人を絞り込むことはできません。連絡に用いられた電話番号も、警察庁の統計によれば令和7年に特殊詐欺で犯行利用された番号123,138件のうち国際番号が92,996件を占めており、国内の契約者情報にたどり着けないケースが増えています。

それでも、振込先の金融機関名・支店名・口座番号・カナ名義という4点セットは、捜査機関にとっては十分な端緒になります。犯収法6条1項は特定事業者に取引時確認に係る確認記録の作成を義務づけ、同条2項は特定取引等に係る契約が終了した日その他の主務省令で定める日から7年間の保存を義務づけています。さらに7条1項・3項は取引記録等の作成と7年間の保存を定めています。すなわち、口座開設時の本人確認資料と入出金の記録は金融機関に残っており、被害者自身がそこに直接アクセスする手段はありません。被害者側で名義人を特定しきれないことは、告訴・告発を断念する理由にはなりません。

2026年7月10日施行の犯収法改正——条番号のずれと罰則引上げ

令和8年法律第34号「犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律」は、令和8年6月10日に公布されました。改正法附則1条により、罰則の引上げ等に係る規定は公布の日から起算して1月を経過した日、すなわち2026年(令和8年)7月10日から施行済みです。内閣法制局が公表する法律案の提出理由では、改正の柱として「預貯金通帳の不正譲渡等に対する罰則の引上げ」「預貯金口座等を利用した財産の移転等を人に有償で依頼する行為等に対する罰則の創設」「預貯金口座等が犯罪に利用されることを防止するための警察官による預貯金口座等を用いた措置に関する規定の整備」の3点が挙げられています。

条番号の移動を正確に押さえる

実務上いちばん影響が大きいのが条番号の移動です。改正前は27条だった本人特定事項隠蔽の罪が25条に、28条だった預貯金通帳等の譲受け・譲渡しの罪が26条に、29条だった為替取引カード等の罪が28条に、それぞれ繰り上がりました。改正前の解説を参照して「犯収法28条=口座譲渡罪」と書くと、現行法では別の条文(為替取引カード等)を指してしまいます。ただし、口座の譲渡し等が施行日前(2026年7月9日以前)に行われた場合は、行為時の条文である改正前28条が問題となり、犯罪後の法律によって刑の変更があったときは軽いものによるとする刑法6条により、改正前の法定刑が基準になります。書面では、行為の日時と適用条文の対応を確認してください。

行為類型 改正前 現行(2026年7月10日〜)
本人特定事項の隠蔽(4条6項違反) 27条
1年以下・100万円以下
25条
3年以下・500万円以下
預貯金通帳等の譲受け・譲渡し等 28条1項・2項
1年以下・100万円以下
26条1項・2項
3年以下・500万円以下
同上を業として行った場合 28条3項
3年以下・500万円以下
26条3項
5年以下・1,000万円以下
高額電子移転可能型前払式支払手段利用情報 28条の2
1年以下・100万円以下
27条
3年以下・500万円以下
為替取引カード等(資金移動業者) 29条
1年以下・100万円以下
28条
3年以下・500万円以下
電子決済手段等取引用情報 29条の2
1年以下・100万円以下
29条
3年以下・500万円以下
電子決済等利用情報 29条の3
1年以下・100万円以下
30条
3年以下・500万円以下
暗号資産交換用情報 30条
1年以下・100万円以下
31条
3年以下・500万円以下
有償での財産移転行為の依頼・受託(新設) 32条
2年以下・300万円以下

いずれの罰金刑・拘禁刑も「若しくは」で並列され、併科が可能です。法定刑が引き上げられたことで、公訴時効にも変化が生じました。刑事訴訟法250条2項6号により長期5年未満の拘禁刑に当たる罪の時効は3年ですから、26条1項・2項の罪は改正の前後を通じて3年で変わりません。しかし業として行った26条3項の罪は長期5年の拘禁刑となったため、同項5号の適用により2026年7月10日以降の行為については時効が5年となります(施行日前の行為は、軽い改正前の法定刑を基準に3年と解されます)。

まだ施行されていない部分がある

令和8年法律第34号のうち、預貯金口座等が犯罪に利用されることを防止するための警察官による預貯金口座等を用いた措置に関する規定の整備は、改正法附則1条により公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令が定める日からの施行とされています。施行日は政令で定められるため、遅くとも令和9年(2027年)6月9日までに施行されることになります(e-Gov法令検索では同日付の未施行版として登載されています)。現時点の書面でこの制度を前提に書くことはできません。

犯収法26条の構成要件を分解する——名義人が問われるのは2項

口座を渡した名義人の側を規律するのは、現行26条2項です。1項(譲り受ける側)と2項(譲り渡す側)は文言が対になっていますので、両方を並べて理解する必要があります。

1項——譲り受ける側(買主・借主)

1項前段は、「他人になりすまして」預貯金取扱事業者との間の預貯金契約に係る役務の提供を受けること、またはこれを第三者にさせることを目的として、預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報等(以下「預貯金通帳等」)を譲り受け、その交付を受け、またはその提供を受けた者を処罰します。インターネットバンキングのIDやパスワード、ワンタイムパスワードの受信手段も「引出し又は振込みに必要な情報」に含まれ得る点は、近年の被害構造を踏まえると重要です。

1項後段は目的を要件としません。「通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で」譲り受けた場合は、なりすまし目的の立証を要さずに処罰されます。買主側の弁解を封じるための規定です。

2項——譲り渡す側(名義人)

2項前段は、「相手方に前項前段の目的があることの情を知って」預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、または提供した者を、1項と同様に処罰します。つまり相手が他人になりすまして口座を使う目的であると知っていたこと(情を知って)が要件です。

2項後段は、正当な理由がないのに有償で譲り渡し・交付・提供した場合を、相手方の目的を知っていたかどうかにかかわらず処罰します。「口座を売って現金を受け取った」という類型は、この後段で処罰対象となり得ます。

実務上の分水嶺——無償かつ不知の場合

逆にいえば、対価を受け取らず、かつ相手方の目的も知らなかったという場合には、2項前段(情を知って)にも後段(有償)にも当たらない可能性が残ります。名義人側の典型的な弁解が「知人に頼まれて無償で貸しただけ」「投資の入金用だと説明された」という形を取るのは、この構造を意識してのことです。

したがって、告発の書面では「有償性」と「認識」のいずれか、できれば双方を裏づける事実を具体的に書き込むことが要になります。募集投稿のスクリーンショット、報酬額の提示があるメッセージ、振込による対価の入金記録、短期間に多数の口座が同一人物に集約されている事実などが、その素材になります。もっとも、これらの資料の多くは被害者側では入手できず、捜査機関の捜査を待つほかない場合が大半です。書面では入手できた範囲の事実を過不足なく示し、捜査を促す構成にします。

3項・4項——業としての行為と勧誘・誘引

26条3項は、1項・2項の罪に当たる行為を「業として」行った者を5年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金、またはその併科に処します。反復継続して口座を集める、いわゆる口座買取ブローカーを想定した規定です。4項は、1項・2項の罪に当たる行為をするよう人を勧誘し、または広告その他これに類似する方法により人を誘引した者を1項と同様に処罰します。SNS上の「口座買います」という投稿そのものが、この4項の処罰対象になり得ます。

銀行口座以外のルート——現行27条から32条までの受け皿

被害金の受け皿は銀行口座に限りません。改正後の犯収法は、決済手段ごとに条文を並べる構造になっています。振込先として指定されたのが銀行口座でなかった場合、罰条は26条ではなく次の各条を選ぶことになります。

28条——為替取引カード等(資金移動業者)

現行28条は、他人になりすまして資金移動業者との間の為替取引により送金をし、もしくは送金を受け取ること、またはこれらを第三者にさせることを目的として、為替取引に係る送金の受取用のカードや送金・受取に必要な情報等(為替取引カード等)を譲り受け・交付を受け・提供を受けた者を、3年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、またはその併科に処します。2項は譲渡側、3項は業として行った場合(5年以下・1,000万円以下)、4項は勧誘・誘引で、26条とパラレルな構造です。資金移動業者の送金サービスのアカウント情報等を譲り渡す・提供する行為は、銀行口座ではなくこの28条の問題になり得ます(高額電子移転可能型前払式支払手段や電子決済手段のサービスであれば27条・29条など、サービスの法的性質によって罰条が変わります)。

27条・29条から31条——前払式支払手段・電子決済・暗号資産

27条は高額電子移転可能型前払式支払手段利用情報、29条は電子決済手段等取引用情報、30条は電子決済等利用情報、31条は暗号資産交換用情報について、それぞれ同型の罰則を置いています。振込先が銀行口座でなかった場合でも、罰条を選び直せば同じ骨格で書面を組めるということです。

32条——有償での財産移転の依頼・受託(新設)

今回の改正で新設された32条は、口座そのものを渡さなくても成立する類型です。1項は、正当な理由がないのに、自己または第三者が管理し、もしくは管理しようとする財産を移転することを目的として、人に有償で「特定役務利用財産移転行為」をするよう依頼した者を、2年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、またはその併科に処します。2項は、依頼を受けて、依頼者にその目的があることの情を知って、有償でこれを行った者を同じ法定刑で処罰します。3項は業として行った場合を3年以下・500万円以下に加重します。

4項が定義する「特定役務利用財産移転行為」とは、預貯金契約等役務を利用して自己以外の者に財産を移転する行為、同役務を利用して受け取った財産に相当する財産の全部または一部を自己以外の者に移転する行為、同役務を利用して財産を受け取ることを約して当該財産に相当する財産を移転する行為をいいます。「口座は貸していない、頼まれて送金しただけ」という弁解を封じる規定であり、名義人が自ら送金の実行に関与していた事案では、この32条の適用も視野に入ります。

詐欺の幇助はどこで認定されるか——刑法62条と組織的犯罪処罰法

犯収法違反は、あくまで口座の授受という行為自体を処罰する規定です。被害者が本当に問いたいのは、詐取された金銭についての責任でしょう。そこで問題になるのが詐欺の幇助です。

刑法62条1項の従犯

刑法62条1項は「正犯を幇助した者は、従犯とする」と定め、63条は「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する」と定めます。詐欺罪(刑法246条1項)は10年以下の拘禁刑ですから、その従犯として処断されます。口座の提供は、詐欺の実行行為そのものではありませんが、被害金の受領を可能にすることで正犯の実行を容易にする行為であり、幇助の外形は満たし得ます。

争点は主観面に集約されます。口座を引き渡した時点で、その口座が詐欺等の犯罪に使われることを認識・認容していたか。単に「怪しいとは思った」という程度で足りるのか、詐欺という具体的な犯罪類型の認識が必要かは、事案の具体的事情に応じて判断されます。実務上、名義人が犯収法違反にとどまるのか詐欺幇助まで問われるのかは、募集の文言、報酬の額と支払方法、口座提供後の連絡の有無、複数口座の提供の有無といった間接事実の積み上げで決まっていきます。

なお、公訴時効との関係では、刑事訴訟法252条が「刑法により刑を加重し、又は減軽すべき場合には、加重し、又は減軽しない刑に従つて、第250条の規定を適用する」と定めています。したがって詐欺の幇助の公訴時効は、63条の減軽を考慮せず、正犯である詐欺罪と同じ7年(刑事訴訟法250条2項4号)です。犯収法26条の3年より長い期間、追及の余地が残ることを意味します。

組織的犯罪処罰法10条・11条

他人名義の口座に被害金を振り込ませる行為は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項の犯罪収益等隠匿罪(犯罪収益等の取得もしくは処分につき事実を仮装し、または犯罪収益等を隠匿した者。10年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、またはその併科)に該当し得ます。複数回にわたって第三者名義の銀行口座に現金を振込入金させた事案について、詐欺罪と犯罪収益等隠匿罪の罪数関係を併合罪と判断した裁判例(東京高裁令和元年9月13日判決)が公表されています。

また、情を知って犯罪収益等を収受した者は、同法11条により7年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、またはその併科に処せられます。口座の名義人が、入金された被害金の一部を報酬として受け取っていた場合には、この収受罪も検討対象になります。ただし同条ただし書は、法令上の義務の履行として提供されたものを収受した者などを除外しています。

罪名を並べる順序

書面では、複数の罪名を並べる順序にも意味があります。もっとも重い罪名から順に、かつ立証の難易が低いものを併記するのが実務的です。振込先口座名義人の事案でいえば、詐欺(幇助)を主位に置きつつ、犯収法26条2項違反を併記する構成が考えられます。詐欺幇助は主観面の立証が難しい一方、犯収法違反は口座の授受という客観的事実で成否が決まるため、捜査機関としても着手しやすい罪名だからです。

なお、罪数関係の最終的な判断は捜査機関と裁判所が行うものであり、告訴状・告発状の段階で厳密な罪数評価まで書き込む必要はありません。むしろ、各罪名の構成要件に対応する事実が漏れなく記載されているかのほうが重要です。「いつ・どこで・誰が・何を・どのように」の要素を、罪名ごとに欠落なく充填していく作業が書面作成の中心になります。

民事の「口座貸与責任」——民法709条・719条2項と預金規定

刑事責任とは別に、名義人には民事上の損害賠償責任が生じ得ます。ここで根拠になるのが民法719条2項です。

幇助者を共同行為者とみなす規定

民法719条1項は、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは各自が連帯して損害を賠償する責任を負うと定め、同条2項は「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する」と定めます。刑事上の幇助犯が成立しなくても、民事上は幇助者として709条の責任を負い得るという点が、刑事責任との大きな違いです。下級審裁判例では、詐欺への具体的な認識がなくても、口座が犯罪に利用されることを予見し得たかという観点から過失による幇助を認めるものがあります。

裁判例では、正当な理由なく通帳・キャッシュカード・暗証番号等を第三者に交付した名義人について、詐欺行為の実行を容易にしたものとして民法719条2項の幇助責任を認め、被害者に対し正犯と連帯して損害賠償責任を負わせる例が積み重ねられています。もっとも、認められる範囲や過失相殺の有無は事案ごとに大きく異なりますので、具体的な金額の見通しについては弁護士にご確認ください。

不当利得の構成

名義人が被害金の一部を自ら引き出して費消していた場合には、民法703条の不当利得返還請求も併行して検討されます。悪意の受益者は、704条により受けた利益に利息を付して返還しなければならず、なお損害があるときは賠償責任も負います。

預金規定違反という側面

全国銀行協会が公表している「普通預金規定(個人用)〔参考例〕」10.(譲渡、質入れ等の禁止)(1)は、預金・預金契約上の地位その他一切の権利および通帳について、譲渡、質入れその他第三者の権利を設定すること、または第三者に利用させることができない旨を定めています。そして11.(解約等)(2)は、名義人がこれに違反した場合や、預金が法令や公序良俗に反する行為に利用されもしくはそのおそれがあると認められる場合に、金融機関が取引を停止し、または通知により口座を解約できると定めます。口座を貸した名義人は、刑事・民事の責任に加えて、当該金融機関との取引を失い、以後の口座開設にも支障を来すのが実情です。

告訴か告発か——刑事訴訟法230条と239条の使い分け

ここが書面作成上、もっとも間違えやすい部分です。振込先口座名義人の責任を追及する書面は、対象とする罪名によって「告訴」と「告発」を使い分ける必要があります。

詐欺罪は告訴、犯収法違反は告発が基本

刑事訴訟法230条は「犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる」と定めます。詐欺罪(およびその幇助)については、振込みをした被害者が財産上の損害を被った者ですから、告訴権者に当たります。

これに対し犯収法26条の罪は、犯罪による収益の移転防止という社会的な法益を保護する規定であり、振込被害者が同条の罪により直接「害を被つた者」に当たるかは議論の余地があります。実務では、犯収法違反については刑事訴訟法239条1項の「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」に基づく告発として構成するのが安全です。1通の書面で詐欺(幇助)を告訴事実、犯収法違反を告発事実として併記することも可能ですが、書面の性質と根拠条文を明示して整理しておくべきでしょう。

提出先と方式

刑事訴訟法241条1項は「告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない」と定めます。行政書士が作成できるのは、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状です。検察庁に提出する書類の作成は司法書士の業務(司法書士法3条1項4号)に当たりますので、行政書士は取り扱えません。

犯罪捜査規範63条1項は、司法警察員たる警察官は告訴・告発をする者があったときは管轄区域内の事件であるかどうかを問わずこれを受理しなければならないと定め、同67条は告訴・告発があった事件について特にすみやかに捜査を行うよう努めるべきことを定めています。実務では受理に慎重な対応を受けることも少なくありませんが、犯罪事実が構成要件に沿って特定され、疎明資料が整理されていれば、受理に向けた協議は進めやすくなります。

告訴期間はない——ただし公訴時効は進む

刑事訴訟法235条本文は「親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない」と定めますが、これは親告罪に限った規定です。詐欺罪も犯収法違反も親告罪ではありませんので、6か月の告訴期間の制限は適用されません。

もっとも、公訴時効は別に進行します。時効は犯罪行為が終わった時から進行し(刑事訴訟法253条1項)、共犯の場合には最終の行為が終わった時からすべての共犯に対して起算されます(同条2項)。犯収法26条1項・2項の罪は3年、同条3項(業として)は5年(2026年7月10日以降の行為の場合)、詐欺罪およびその幇助は7年です。被害から時間が経っている事案ほど、罪名の選択が刑事責任を追及できるかどうかを左右します。

被害届との違い、代理の可否

被害届は被害の事実を申告する届出にとどまり、犯人の処罰を求める意思表示を含みません。そのため、処分結果の通知(刑事訴訟法260条)や不起訴理由の告知(同261条)を受ける地位も発生しません。事実関係を構成要件に沿って整理し、処罰意思を明示するという点で、告訴状・告発状は被害届と質的に異なる書面です。

刑事訴訟法240条前段は「告訴は、代理人によりこれをすることができる」と定めています。ただし、他人の刑事事件について代理人として告訴を行うことは、弁護士法72条にいう法律事件に関する法律事務に当たると解されており、行政書士法1条の4第1項1号も、括弧書きで弁護士法72条に規定する法律事件に関する法律事務を代理の対象から除外しています。行政書士が承れるのは、行政書士法1条の3第1項に基づく告訴状・告発状という書類の作成までであり、提出はご依頼者ご自身に行っていただくことになります。

受理後の流れ

司法警察員は、告訴・告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類および証拠物を検察官に送付しなければなりません(刑事訴訟法242条)。検察官は、告訴・告発のあった事件について公訴を提起し、または提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人・告発人に通知しなければならず(同260条)、不起訴処分をした場合において告訴人・告発人の請求があるときは、速やかにその理由を告げなければなりません(同261条)。この通知・理由告知を受ける地位は、被害届にはなく、告訴・告発にのみ認められるものです。書面の形式を選ぶ実益はここにあります。

被告訴人を特定できないとき——書面の組み立てと証拠の整理

振込明細に残るのは、多くの場合カナ表記の受取人名と金融機関名・支店名・口座番号だけです。金融機関は、個人情報保護の観点から名義人の住所等を被害者に開示しません。弁護士法23条の2に基づく照会は弁護士および弁護士会の制度であり、被害者本人や行政書士が用いることはできません。

氏名不詳のまま告訴・告発する

告訴・告発は、犯罪事実を申告して処罰を求める意思表示であり、犯人が誰であるかを特定して指定することが要件とされているわけではありません。実務上も、被告訴人・被告発人を「氏名不詳」として書面を作成し、判明している属性(振込先金融機関・支店・口座番号・カナ名義、連絡に用いられた電話番号やSNSアカウント名など)を可能な限り具体的に記載する方法が採られています。特定できないことを理由に書面の作成をあきらめる必要はありません。

集めておくべき資料

名義人の関与を裏づける資料は、被害者側で保全できるものが限られます。だからこそ、手元にある情報を漏らさず整理することが重要です。

  • 振込明細票、ATM利用明細、通帳の記帳ページ(振込日時・金額・受取人名義が判読できるもの)
  • インターネットバンキングの取引履歴(画面のスクリーンショットに加え、可能であれば日時とともにPDF等でも保存したもの)
  • 相手方とのやり取り一式(SNSのダイレクトメッセージ、チャットアプリの履歴、メール。アカウント名・IDが写る形で保存する)
  • 着信履歴・発信履歴、相手方が用いた電話番号(国際電話番号を含む)
  • 振込先を指定された時点のメッセージ(口座番号と名義が明示された部分)
  • 金融機関に対して行った口座凍結の申出の記録(連絡日時、担当部署、受付番号)
  • 警察相談専用電話や所轄警察署に相談した際の日時・担当者名・受理番号

これらを時系列に沿って整理し、どの資料がどの犯罪事実を裏づけるのかを対応づけておくと、捜査機関に事実関係を伝えやすくなります。

複数の被害者がいる場合

同一の口座に複数の被害者が振り込んでいる事案では、被害の広がりが捜査機関の判断材料になり得ます。被害者どうしで連絡が取れる場合は、それぞれが同一の口座を振込先として指定された事実を書面に明示し、被害の広がりを示すことに意味があります。ただし、他の被害者の個人情報を無断で書面に記載することはできませんので、本人の同意を得たうえで扱ってください。

被害回復——振り込め詐欺救済法の手続と限界

刑事責任の追及と並行して、あるいはそれ以前に取り組むべきなのが、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)に基づく手続です。

取引停止から債権消滅まで

同法3条1項は、金融機関は自らの預金口座等について、捜査機関等から不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、取引の停止等の措置を適切に講ずるものとすると定めます。いわゆる口座凍結の根拠がこれです。被害に気づいたら、まず振込先の金融機関と警察の双方に連絡することが被害回復の起点になります。

金融機関は、犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、速やかに預金保険機構に対し債権消滅手続の開始に係る公告を求めなければなりません(4条1項)。預金保険機構は公告を行い(5条1項)、名義人その他の債権者が権利行使の届出等をする期間を、公告の日の翌日から起算して60日以上としなければなりません(5条2項)。この期間内に権利行使の届出等がなく、金融機関からの通知もないときは、対象の預金債権は消滅します(7条)。

被害回復分配金の支払

債権が消滅すると、金融機関はその額に相当する金銭を原資として、対象犯罪行為により被害を受けた者に被害回復分配金を支払わなければなりません(8条1項)。ただし消滅預金等債権の額が1,000円未満である場合は支払手続が行われません(8条3項)。支払手続についても預金保険機構が公告し(11条1項)、支払申請期間は公告の日の翌日から起算して30日以上とされます(11条2項)。

被害者が複数いて、認定された犯罪被害額の総額が消滅した預金債権の額を超えるときは、各人の犯罪被害額の総被害額に対する割合を乗じた額が支払われます(16条2項)。つまり、口座に残高が残っていなければ、手続を尽くしても分配金はゼロになり得ます。凍結の申出は一刻を争う、というのはこの構造から来ています。

なお、預金保険機構は振り込め詐欺救済法に基づく公告の専用サイトを運営しており、自分が振り込んだ口座について手続が進行しているかを確認できます。手続の進行状況が確認できれば、その情報自体が告訴状・告発状に添付する疎明資料になります。

資金の追跡と口座間の連鎖

振り込め詐欺救済法2条4項は「犯罪利用預金口座等」を、振込利用犯罪行為において振込先となった預金口座等(1号)と、専ら1号の口座に係る資金を移転する目的で利用された預金口座等であって資金が実質的に同じであると認められるもの(2号)と定義しています。同法3条2項および4条3項は、資金の移転先と疑われる他の金融機関の口座がある場合に、金融機関相互で情報を提供・通知すべきことを定めています。被害金が第1次口座から第2次口座へ移されていても、法律上は追跡の枠組みが用意されているということです。

実務面でも連携が進んでいます。警察庁の公表資料によれば、金融機関のモニタリングで詐欺被害のおそれが高いと判断される取引を検知した場合に都道府県警察へ迅速に情報提供する連携体制について、令和7年末現在で47警察本部と847金融機関が、警察庁と全国に顧客を有する都市銀行等28金融機関が連携しています。警察が把握した不正利用口座に係る情報を金融機関に共有する情報共有型の連携も、25警察本部と345金融機関で導入されています。

したがって、被害者としてはまず金融機関への凍結申出と警察への相談を同時並行で行い、そのうえで告訴・告発の書面を整えるという順序が合理的です。書面の作成に時間をかけている間に残高が引き出されてしまっては、刑事の端緒は残っても回収可能性が失われます。

民事の請求は別の手続

被害回復分配金で回収できなかった部分について名義人に賠償を求める場合は、民事訴訟や支払督促といった手続になります。訴訟の代理、相手方との示談交渉、賠償額の算定に関する助言は弁護士の業務ですので、弁護士にご相談ください。行政書士が承れるのは、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状の作成です。

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まとめ

まず押さえるべきは条番号の移動です。令和8年法律第34号により、預貯金通帳等の不正な譲受け・譲渡しを処罰する規定は2026年7月10日から犯収法26条に移り、法定刑も1年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金から3年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金へ引き上げられました。現行28条は資金移動業者の為替取引カード等を対象とする別の条文です。施行日以降の行為について旧番号のまま罰条を引用すると、書面の説得力を損ないます。

名義人の刑事責任は、犯収法26条2項の「情を知って」か「有償で」かという分水嶺で決まります。対価を受け取っていれば相手方の目的を知らなくても後段で処罰され得ますが、無償かつ不知であれば同項に当たらない可能性が残ります。詐欺の幇助(刑法62条1項)まで問えるかは、口座提供時点の認識・認容という主観面の立証にかかっており、公訴時効も犯収法違反の3年に対し詐欺幇助は7年と差があります。

民事では、民法719条2項が幇助者を共同行為者とみなすため、刑事上の幇助犯が成立しない場合でも損害賠償責任が生じ得ます。全国銀行協会の普通預金規定参考例10.が譲渡・質入れおよび第三者への利用を禁じ、11.が違反時の取引停止・解約を定めていることも、名義人の予見可能性を基礎づける事情になります。

手続面では、詐欺罪は刑事訴訟法230条の告訴、犯収法違反は同239条1項の告発という使い分けを意識してください。被告訴人の氏名が不明でも、犯罪事実を具体的に特定すれば書面は成り立ちます。並行して、振り込め詐欺救済法3条に基づく口座凍結の申出を最優先で行ってください。同法8条3項により残高が1,000円未満なら支払手続自体が行われず、回収可能性は初動の速さでほぼ決まります。

行政書士法人Treeでは、行政書士法1条の3第1項に基づき、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状の作成を承っています。振込明細やメッセージ履歴などお手元の資料を、構成要件に沿った形の書面に組み立て直すところからご相談ください。

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