公開日:2026-05-23
婚姻無効と婚姻取消しは、いずれも有効な婚姻関係を否定する制度ですが、根拠条文・事由・効果(遡及効か将来効か)・財産分与・子の取扱い・戸籍訂正の手続が異なります。2022年4月1日施行の改正民法により婚姻適齢は男女とも18歳に統一され、2024年4月1日施行の嫡出推定制度改正により民法第733条の女性の再婚禁止期間は廃止されています。本記事では現行民法に基づき、婚姻無効(民法742条)、婚姻取消し(民法743条以下)、偽装結婚と詐欺強迫の区別、財産分与・子の扱い、家事調停・人事訴訟の手続を実務目線で整理します。
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目次
目次
- 婚姻無効とは(民法第742条)
- 婚姻取消しとは(民法第743条以下)
- 偽装結婚・婚姻意思の欠缺と婚姻無効
- 詐欺・強迫による婚姻取消しと3か月制限
- 婚姻無効・婚姻取消し・離婚の違い
- 財産分与・慰謝料・財産清算の違い
- 子の嫡出性・親権・養育費の取扱い
- 戸籍訂正・戸籍記載の流れ
- 家事調停・人事訴訟と弁護士対応
- 行政書士業務範囲
- FAQ・まとめ
1. 婚姻無効とは(民法第742条)
婚姻無効は、初めから有効な婚姻が成立していないと扱う制度です。民法第742条は次の場合を無効事由として定めています。
- 第1号:婚姻意思の欠缺(人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき)— 偽装結婚など、当事者間に真に夫婦として共同生活を営む意思がない場合
- 第2号:届出の不存在(当事者が婚姻の届出をしないとき)
無効の効果は遡及効(初めから婚姻がなかったものとして扱われる)です。
2. 婚姻取消しとは(民法第743条以下)
婚姻取消しは、婚姻成立時には一応有効ですが、取消事由がある場合に判決等により将来に向かって効力を失わせる制度です。民法第748条第1項は「婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる」と定めています。
主な取消事由は、民法第731条から第736条までの婚姻障害違反と、民法第747条の詐欺・強迫による婚姻です。
| 取消事由 | 根拠条文 |
|---|---|
| 婚姻適齢違反(男女とも18歳未満) | 民法第731条 |
| 重婚(既に配偶者がある者の重ねての婚姻) | 民法第732条 |
| 近親婚(直系血族または3親等内の傍系血族間の婚姻) | 民法第734条 |
| 直系姻族間の婚姻 | 民法第735条 |
| 養親子等の間の婚姻 | 民法第736条 |
| 詐欺・強迫による婚姻 | 民法第747条 |
※民法第733条の女性の再婚禁止期間は2024年4月1日施行の嫡出推定制度改正により廃止されています。現行法上の婚姻取消事由ではない点に注意が必要です。
※2022年4月1日施行の改正民法により、婚姻適齢は男女とも18歳に統一されました。旧法上の「男18歳・女16歳」という説明は、現行法の説明としては使用しません。
取消請求権者
婚姻取消しを請求できる者は事由により異なります。民法第744条以下により、各当事者、親族、検察官等が問題となります。ただし、検察官は当事者の一方が死亡した後は取消しを請求できないなどの制限があります。
3. 偽装結婚・婚姻意思の欠缺と婚姻無効
在留資格取得、戸籍上の形式作出、金銭目的等のために婚姻届を提出しただけで、当事者に真に夫婦として共同生活を営む意思がない場合は、婚姻意思の欠缺として民法第742条第1号の婚姻無効が問題となります。
婚姻意思の有無は、同居、生活実態、交流状況、届出経緯、金銭授受等を総合的に判断されます。偽装結婚は、民事上の婚姻無効だけでなく、公正証書原本不実記載罪等の刑事・入管上の問題に発展することもあります。
4. 詐欺・強迫による婚姻取消しと3か月制限
相手方の収入・経歴・身分関係等について欺かれて婚姻した場合など、婚姻意思自体はあるが詐欺または強迫により意思表示をした事案では、民法第747条の婚姻取消しが問題となります(婚姻意思の欠缺による無効とは区別されます)。
詐欺または強迫により婚姻した者は婚姻の取消しを請求できますが、詐欺を発見し、または強迫を免れた後3か月を経過したとき、または追認したときは、取消しを請求できなくなります(民法第747条第2項)。
5. 婚姻無効・婚姻取消し・離婚の違い
| 項目 | 婚姻無効 | 婚姻取消し | 離婚 |
|---|---|---|---|
| 有効性 | 初めから無効 | 取消しまでは一応有効 | 有効に成立した婚姻を解消 |
| 効果の方向 | 遡及効 | 将来効(民法748条1項) | 将来効 |
| 主な手続 | 家事調停(合意に相当する審判)または人事訴訟 | 家事調停または人事訴訟 | 協議・調停・審判・判決 |
| 戸籍 | 家裁手続後、戸籍訂正 | 取消判決確定後、戸籍記載 | 離婚届 |
6. 財産分与・慰謝料・財産清算の違い
婚姻取消しの場合
民法第749条により、離婚に関する規定の一部(民法第768条の財産分与等)が準用されます。取消しまでの共同生活中に形成された財産の清算が問題となります。あわせて、民法第748条第2項・第3項により、善意・悪意の区別に応じた財産返還義務や損害賠償も問題となります。
婚姻無効の場合
初めから有効な婚姻がなかったものとされるため、離婚を前提とする財産分与(民法768条)が当然に適用されるわけではありません。実際に共同生活や財産形成がある事案では、不当利得、共有関係、内縁関係類似の清算等として個別に検討します。
7. 子の嫡出性・親権・養育費の取扱い
婚姻取消しの場合
民法第749条により離婚に関する規定の一部が準用され、子の監護、親権者の指定、養育費、面会交流(親子交流)等について離婚類似の処理が問題となります。
婚姻無効の場合
初めから有効な婚姻がなかったものとして扱われるため、子の嫡出性、父子関係、認知、親権の扱いは事案ごとに慎重な検討が必要です。「取消・無効のいずれでも子の嫡出推定・親権が基本的に維持される」と一律に説明しないよう注意します。
8. 戸籍訂正・戸籍記載の流れ
婚姻無効の戸籍訂正
戸籍上婚姻が記載されている場合、単に当事者間で「婚姻は無効」と合意しただけでは戸籍記載は当然には消えません。通常、家庭裁判所での婚姻無効確認調停、合意に相当する審判、または婚姻無効確認の人事訴訟等により、婚姻が無効であることを公的に確定させる必要があります。そのうえで、戸籍法上の手続により戸籍記載を訂正します。
婚姻取消しの戸籍記載
婚姻取消しは、家庭裁判所での調停を経たうえで、必要に応じて婚姻取消しの訴え(人事訴訟)により判決を求める手続です。取消しが確定すると、その旨が戸籍に記載されます。協議離婚のように当事者の届出だけで自由に取消しできる制度ではありません。
9. 家事調停・人事訴訟と弁護士対応
婚姻無効・婚姻取消しは紛争性のある人事事件で、家事調停(合意に相当する審判を含む)・人事訴訟の対象です。当事者間の合意のみで処理できる制度ではないため、紛争性のある対応は弁護士業務範囲となります。
10. 行政書士業務範囲
行政書士業務範囲
- 当事者間で争いのない範囲における財産整理合意書、清算合意書、事実関係整理書面の文案作成
- 離婚協議書・公正証書原案の作成(夫婦間に争いがない場合の合意書面に限定)
- 夫婦間契約書(不貞誓約書・別居合意書等、紛争性なき合意書面)の作成
- 戸籍収集・親族関係説明図の作成
業務範囲外(連携先専門家)
- 婚姻無効確認・婚姻取消しに関する家事調停、人事訴訟の代理対応(弁護士業務)
- 家庭裁判所・人事訴訟に関する提出書類の作成(司法書士または弁護士)
- 戸籍訂正・戸籍届出(確定判決・審判・調停調書等の内容に基づき市区町村で行う手続。家裁手続や戸籍法上の届出・訂正申請が必要となるため、市区町村・弁護士・司法書士と確認)
- 偽装結婚に係る刑事・入管対応(弁護士)
無効・取消しの成否、親権、養育費、財産分与、慰謝料等について対立がある場合は、弁護士対応が必要です。
11. FAQ|よくあるご質問
Q. 婚姻無効・婚姻取消し・離婚の違いは?
A. 婚姻無効は、婚姻意思がないなどの理由により、初めから有効な婚姻が成立していないと扱う制度です。婚姻取消しは、婚姻成立時には一応有効ですが、取消事由がある場合に判決等により将来に向かって効力を失わせる制度です。離婚は、有効に成立した婚姻を将来に向かって解消する制度です。
Q. 婚姻適齢は何歳ですか?
A. 2022年4月1日施行の改正民法により、婚姻適齢は男女とも18歳に統一されました。改正前の「男18歳・女16歳」は旧規定であり、現行法では男女とも18歳未満の婚姻は取消事由となります(民法第731条)。
Q. 偽装結婚は無効ですか?
A. 在留資格取得、戸籍上の形式作出、金銭目的等のために婚姻届を提出しただけで、当事者に真に夫婦として共同生活を営む意思がない場合は、民法第742条第1号の婚姻意思の欠缺として婚姻無効が問題となります。ただし、婚姻意思の有無は、同居、生活実態、交流状況、届出経緯、金銭授受等を総合的に見て判断されます。偽装結婚は、民事上の無効だけでなく、公正証書原本不実記載罪等の刑事・入管上の問題に発展することもあります。
Q. 詐欺により婚姻した場合は無効ですか?
A. 相手方の収入・経歴・身分関係等について欺かれて婚姻した場合は、婚姻意思自体はあるが詐欺により意思表示をしたものとして、民法第747条の婚姻取消しが問題となります(無効ではなく取消し)。詐欺を発見し、または強迫を免れた後3か月以内に取消請求する必要があります(同条第2項)。
Q. 取消・無効でも財産分与は可能ですか?
A. 婚姻取消しの場合は、民法第749条により離婚の財産分与規定(民法第768条)が準用されます。一方、婚姻無効の場合は、初めから有効な婚姻がなかったものとされるため、離婚を前提とする財産分与が当然に適用されるわけではありません。共同生活や財産形成がある事案では、不当利得・共有関係・内縁関係類似の清算等として個別に検討します。
Q. 再婚禁止期間違反は今でも取消事由ですか?
A. いいえ。民法第733条の女性の再婚禁止期間は2024年4月1日施行の改正民法により廃止されています。現行法上、再婚禁止期間違反を婚姻取消事由として扱うことはできません。
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まとめ
婚姻無効と婚姻取消しは、いずれも有効な婚姻関係を否定する制度ですが、根拠条文・事由・効果(遡及効か将来効か)・財産分与・子の取扱い・戸籍訂正の手続が異なります。婚姻無効は民法第742条に基づき、婚姻意思の欠缺(偽装結婚等)または届出の不存在を事由とし、遡及効を生じます。婚姻取消しは民法第743条以下に基づき、婚姻適齢違反・重婚・近親婚・直系姻族間・養親子間の婚姻、詐欺強迫による婚姻を事由とし、民法第748条第1項により将来効のみ生じます。
2022年4月1日施行の改正民法により婚姻適齢は男女とも18歳に統一されており、旧法の「男18歳・女16歳」は現行法の説明として使用しません。また、2024年4月1日施行の嫡出推定制度改正により民法第733条の女性の再婚禁止期間は廃止されているため、再婚禁止期間違反を現行法上の取消事由として扱うことはできません。
詐欺結婚は無効ではなく民法第747条の取消事由で、詐欺発見・強迫を免れた後3か月以内に請求する必要があります。一方、偽装結婚は婚姻意思の欠缺として民法第742条第1号の無効が問題となり、公正証書原本不実記載罪等の刑事・入管リスクにも波及し得ます。
財産分与は、婚姻取消しでは民法第749条により第768条が準用されますが、婚姻無効では離婚を前提とする財産分与が当然に適用されず、不当利得・共有関係・内縁関係類似の清算として個別検討となります。子の取扱いについても、取消しでは民法第749条準用で離婚類似の処理、無効では事案ごとの慎重な検討が必要です。戸籍訂正・戸籍記載には、家事調停(合意に相当する審判)または人事訴訟による公的確定が前提となります。
婚姻無効確認・婚姻取消しに関する家事調停・人事訴訟の代理対応は弁護士業務、家裁・人事訴訟への提出書類の作成は司法書士または弁護士の業務範囲となります。当事務所では当事者間で争いのない範囲における財産整理合意書・清算合意書・事実関係整理書面の文案作成、離婚協議書・公正証書原案の作成について対応します。無効・取消しの成否や条件について対立がある場合は弁護士へご相談ください。
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