離婚した元配偶者の親(元義父・元義母)が死亡した場合、相続人になるのは誰か——という質問は実務でよく寄せられます。結論として、元配偶者は被相続人(元義父・元義母)の相続人にはなりません(民法890条の配偶者は法律婚継続中の者を指すため、離婚により元配偶者と元義父・元義母との姻族関係は消滅します。ただし、子と祖父母との血族関係は離婚によって消滅しません)。一方、離婚した元配偶者との間の子は、被相続人の孫として民法887条第2項の代襲相続人となり得ます(被相続人の子=元配偶者が被相続人より先に死亡している場合等)。
本記事では、(1)離婚による親族関係の消滅と元配偶者の相続権の不存在、(2)離婚した元配偶者との子の代襲相続(民法887条第2項)、(3)未成年の子の相続放棄と親権者の代理(民法824条・917条)、(4)親権者と未成年者の利益相反時の特別代理人(民法826条)、(5)相続放棄の期間(民法915条)と熟慮期間の延長、(6)単純承認・限定承認・相続放棄の選択、(7)2026年4月1日施行の共同親権制度との関係を、実務目線で整理します。
離婚後に元配偶者の親が死亡し、子の相続関係に悩む方へ。行政書士法人Treeでは、戸籍収集・相続関係説明図の作成、相続するか放棄するかの判断材料整理、遺産分割協議書の文案作成(代襲相続として子が相続する場合)をサポートします(家庭裁判所への相続放棄申述書類の作成は提携司法書士、紛争性のある事案は提携弁護士、相続税は提携税理士をご紹介します)。
目次
目次
- 離婚による親族関係の消滅と元配偶者の相続権
- 離婚した元配偶者との子の相続権(代襲相続・民法887条)
- 相続放棄の3か月期間(民法915条)
- 熟慮期間の延長(民法915条1項ただし書)
- 未成年の子の相続放棄と親権者の代理(民法824条・917条)
- 親権者と未成年者の利益相反時の特別代理人(民法826条)
- 単純承認・限定承認・相続放棄の選択
- 2026年4月1日施行の共同親権制度との関係
- 業務範囲|行政書士・司法書士・弁護士・税理士の役割
- よくある質問
離婚による親族関係の消滅と元配偶者の相続権
離婚により、夫婦の婚姻関係は終了し、配偶者間の姻族関係(民法725条)は消滅します。同時に、元配偶者の親族(元義父・元義母・元義兄弟姉妹等)との姻族関係も消滅します(民法728条第1項)。
元配偶者は被相続人の相続人にならない
民法890条が定める「被相続人の配偶者」は法律婚継続中の配偶者を指します。離婚により婚姻関係が消滅しているため、元配偶者は被相続人(元義父・元義母)の相続人にはなりません。
姻族関係終了届との関係
配偶者の死亡後、姻族関係を終了させるには「姻族関係終了届」(民法728条第2項)が必要ですが、離婚の場合は離婚により当然に姻族関係が消滅するため、姻族関係終了届は不要です。
離婚後の元配偶者の親への扶養義務
離婚により元配偶者本人と元義父・元義母との姻族関係は終了するため、元配偶者本人が元義父母に対して扶養義務を負うことは通常ありません。なお、子と祖父母との血族関係は残るため、子と祖父母との関係については別途整理が必要です。
離婚した元配偶者との子の相続権(代襲相続・民法887条)
離婚により親族関係が消滅するのは「元配偶者」と「元配偶者の親族」の間のみです。子と元配偶者の親族の間の親族関係は消滅しません(子の血族関係は親の離婚により影響を受けない)。
子は元配偶者の親の孫として相続権を持つ
離婚した元配偶者との子は、被相続人(元義父・元義母)から見て孫にあたります。元配偶者(被相続人の子)が被相続人より先に死亡している場合、子は代襲相続人として被相続人の相続人となります(民法第887条第2項)。ただし、養子縁組が絡むケースでは、被相続人の直系卑属に当たるかどうかを個別に確認する必要があります(民法887条2項ただし書)。
代襲相続の発生要件
- 被相続人の子(元配偶者)が、被相続人より先に死亡している
- 被相続人の子(元配偶者)が、相続欠格(民法891条)または廃除(民法892条・893条)により相続権を失っている
これらに該当する場合、その子(被相続人から見て孫)が代襲相続人となります。
元配偶者が健在の場合
離婚後の元配偶者が健在で、被相続人(元義父・元義母)が死亡した場合、相続人は元配偶者(被相続人の子)であり、子は代襲相続人にはなりません。この場合、子と被相続人の親族関係は消滅していませんが、相続人としては関与しません。
相続放棄の3か月期間(民法915条)
代襲相続人として相続人となった場合、相続するか放棄するかを「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に判断する必要があります(民法第915条第1項)。これを熟慮期間といいます。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」
相続の開始(被相続人の死亡)と、自分が相続人であることの両方を知った時です。未成年者が相続人となる場合は、法定代理人が未成年者のために相続の開始があったことを知った時から熟慮期間が進行します(民法917条)。元義父・元義母の死亡を知っても、代襲相続人として相続権を有することを知らなかった場合の起算点は個別判断となります。
相続放棄の手続
- 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出
- 申立費用:収入印紙800円+連絡用郵便切手
- 家庭裁判所が申述を受理
- 受理されると、最初から相続人でなかったものとみなされる(民法939条)
家裁書類作成は司法書士・弁護士業務
家庭裁判所への相続放棄申述書類の作成は司法書士業務(裁判所提出書類の作成)または弁護士業務であり、行政書士業務の範囲外です。
熟慮期間の延長(民法915条1項ただし書)
3か月の熟慮期間内に相続するか放棄するかを判断できない事情がある場合(被相続人の財産調査に時間を要する等)、家庭裁判所に対し熟慮期間の延長(伸長)を請求することができます(民法第915条第1項ただし書)。
延長申請の手続
- 家庭裁判所への「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立て
- 原則として3か月以内に申立てが必要
- 家庭裁判所が事情を判断し、一定期間(通常さらに3か月)の延長を認める
延長が認められる典型ケース
- 被相続人の財産(特に債務)の調査に時間を要する
- 遠方居住・海外居住で書類取得に時間を要する
- 相続関係が複雑(離婚・代襲相続・養子等の混在)
- 未成年の代襲相続人がいて親権者の判断に時間を要する
未成年の子の相続放棄と親権者の代理(民法824条・917条)
未成年の子が代襲相続人となった場合、相続放棄は親権者が法定代理人として申述します(民法第824条本文)。また、未成年者についての熟慮期間は、法定代理人が未成年者のために相続の開始があったことを知った時から起算します(民法第917条)。
代理の構造
- 親権者(元配偶者ではない側、または共同親権の場合は両親)が未成年の子を代理
- 家庭裁判所への相続放棄申述書を親権者名義で作成・提出
- 添付書類は、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、申述人である未成年者の戸籍謄本、法定代理人である親権者との関係を示す戸籍資料等が中心(必要書類は管轄家庭裁判所の案内に従って確認)
親権者と未成年者の関係に注意
離婚後の親権は、改正前の単独親権または2026年4月1日施行の改正民法による共同親権のいずれかとなります。離婚した元配偶者ではない側が単独親権者である場合、その単独親権者が子を代理します。共同親権の場合は、原則として父母が共同で親権を行使しますが、子の利益のため急迫の事情があるときや、監護及び教育に関する日常の行為については単独行使が認められます(改正民法824条の2)。なお、未成年者の相続放棄は通常、日常の行為には当たらないため、共同親権者間での共同行使の要否を慎重に確認する必要があります。
親権者と未成年者の利益相反時の特別代理人(民法826条)
本件のような「離婚した元配偶者の親の相続」では、親権者(元配偶者ではない側)は通常、被相続人の相続人ではないため、利益相反は発生しません。ただし、次のようなケースでは利益相反が問題となります。
- 親権者自身も被相続人の相続人である(複雑な家族関係)
- 親権者自身も同じ相続の相続人であり、未成年の子が相続放棄をすることで親権者の相続分が増えるなど、親権者と未成年者の利害が対立する
- 未成年の子が複数いて、相続放棄の判断が子ごとに異なる
特別代理人の選任
利益相反がある場合、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります(民法第826条)。特別代理人が未成年の子を代理して相続放棄等の手続を行います。
未成年の子が複数いる場合
未成年の子が複数いる場合でも、常に子ごとに別の特別代理人が必要となるわけではありません。例えば、一部の子だけが相続放棄をする場合や、子ごとに取得内容が異なる遺産分割を行う場合など、未成年者間で利害が対立する場面では、特別代理人の選任が必要となることがあります(民法第826条第2項)。具体的には家庭裁判所・司法書士・弁護士に確認します。
単純承認・限定承認・相続放棄の選択
相続人は熟慮期間内に次の3つから選択します。
① 単純承認(民法921条)
- 被相続人の権利・義務を無限に承継
- 債務も含めて承継する
- 熟慮期間内に限定承認・相続放棄をしなければ単純承認したものとみなされる
- 相続財産の一部を処分すると単純承認したものとみなされる(民法921条1号)
② 限定承認(民法922条以下)
- 相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務を弁済する
- 相続人全員が共同で行う必要
- 相続財産の目録を作成して家庭裁判所に申述
- 債権者への公告・債務弁済等の手続が必要で、実務上は活用が少ない
③ 相続放棄(民法938条)
- 家庭裁判所に申述
- 受理されると最初から相続人でなかったものとみなされる(民法939条)
- 相続放棄をした者の子には代襲相続は発生しない(放棄者は初めから相続人でなかったものとみなされるため。民法939条)
- 放棄により同順位又は次順位の相続人に相続関係が移ることがある
選択の判断基準
- 被相続人の債務超過が明らかなら相続放棄
- 債務が大きいが残余財産もあり判断困難なら限定承認(実務上は弁護士・司法書士相談)
- 債務が少なく財産が大きいなら単純承認
- 判断材料が不足なら熟慮期間延長を申請
2026年4月1日施行の共同親権制度との関係
2026年4月1日施行の改正民法により、離婚後の親権について共同親権を選択できる制度が導入されました。ただし、改正前に離婚して単独親権となっている場合に当然に共同親権へ切り替わるわけではなく、個別の手続・判断が必要です。共同親権を選択した場合は、離婚後の子の相続放棄等の代理の構造に影響が生じます。
共同親権下での代理
- 原則として、親権は父母が共同して行う(改正民法824条の2)
- 監護及び教育に関する日常の行為は、単独でも行うことができる(改正民法824条の2)
- 未成年の子の相続放棄等の重要な法律行為は、原則として共同親権者の共同行使
- 子の利益のため急迫の事情があるときは、単独行使が認められる
- 共同行使について意見が対立する場合は、家庭裁判所が定める
単独親権の選択
離婚時に単独親権を選択している場合は、原則として単独親権者が子を代理します。親権を有しない元配偶者は、法定代理人として相続放棄申述を行う立場にはありません。ただし、事実上の情報共有や、親権者変更・共同親権に関する別手続が問題となる場合は、個別確認が必要です。
業務範囲|行政書士・司法書士・弁護士・税理士の役割
- 行政書士(行政書士法人Tree):戸籍収集、相続関係説明図の作成、相続財産・債務に関する資料の整理、代襲相続として子が相続する場合の遺産分割協議書の文案作成、離婚協議書の作成。相続放棄申述書類・熟慮期間伸長申立書類の作成、債権者対応、紛争性のある法的判断は司法書士又は弁護士に連携
- 司法書士:家庭裁判所への相続放棄申述書類、熟慮期間延長申立書類、特別代理人選任申立書類等の作成、相続登記。限定承認は申述書類の作成に加え、公告・清算・債権者対応等を伴うため、事案に応じて弁護士と連携
- 弁護士:相続を巡る紛争性のある事案、相続人間の調停・審判の代理、遺留分侵害額請求の代理
- 税理士:相続税の申告(代襲相続人を含む計算)、相続税基礎控除の判定、贈与税との関係
離婚した元配偶者の親が死亡し、子の相続関係でお悩みの方へ。行政書士法人Treeでは、戸籍収集・相続関係説明図・財産調査・遺産分割協議書の作成を担当します。家庭裁判所への相続放棄申述書類は提携司法書士、紛争性のある事案は提携弁護士、相続税申告は提携税理士をご紹介します。
よくある質問
Q1. 離婚した元配偶者の親が死亡した場合、私(元配偶者)は相続人になりますか。
なりません。民法890条の配偶者は法律婚継続中の者を指します。離婚により婚姻関係が消滅しているため、元配偶者は被相続人(元義父・元義母)の相続人になりません。
Q2. 離婚した元配偶者との子は元義父・元義母の相続人になりますか。
なる場合があります。元配偶者(被相続人の子)が被相続人より先に死亡している場合、子は被相続人の孫として代襲相続人となります(民法887条2項)。元配偶者が健在の場合は、元配偶者が相続人となり、子は代襲相続人にはなりません。
Q3. 子が未成年の場合、相続放棄は誰が代理しますか。
親権者が法定代理人として代理します(民法824条本文)。未成年者についての熟慮期間は、法定代理人が未成年者のために相続の開始があったことを知った時から起算します(民法917条)。親権者と未成年の子の間で利益相反がある場合は、家庭裁判所に特別代理人選任を申し立てる必要があります(民法826条)。
Q4. 相続放棄の期間はどのくらいですか。
「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です(民法915条1項)。期間内に判断できない事情があれば、家庭裁判所に熟慮期間の延長(伸長)を申し立てることができます(同条1項ただし書)。
Q5. 相続放棄と廃除・欠格はどう違いますか。
相続放棄では、放棄者の子に代襲相続は発生しません(民法939条により「最初から相続人とならなかった」とみなされ代襲原因に該当しないため)。一方、廃除・欠格では子に代襲相続が発生します(民法887条2項)。この違いは重要です。
Q6. 親権者と未成年の子の利益相反がある場合はどうしますか。
家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます(民法826条)。未成年の子が複数いて、一部の子のみが相続放棄をする場合など子同士で利害が対立する場合は、特別代理人の選任が必要となることがあります(民法826条2項)。
Q7. 2026年4月施行の共同親権では相続放棄の代理はどうなりますか。
共同親権を選択した場合、未成年の子の相続放棄等の重要な法律行為は、原則として父母の共同行使となります(改正民法824条の2)。子の利益のため急迫の事情があるときや、監護及び教育に関する日常の行為は単独行使が認められますが、相続放棄は通常、日常の行為には当たりません。共同親権者間で意見がまとまらない場合は、3か月の熟慮期間との関係で、伸長の要否も含めて早めに弁護士・司法書士へ相談する必要があります。
Q8. 行政書士に相続放棄を依頼できますか。
家庭裁判所への相続放棄申述書類の作成は司法書士業務(または弁護士業務)であり、行政書士業務の範囲外です。行政書士は戸籍収集・相続関係説明図・相続財産や債務に関する資料の整理・代襲相続として相続する場合の遺産分割協議書作成を担当します。
まとめ
離婚した元配偶者の親(元義父・元義母)が死亡した場合、元配偶者は被相続人の相続人にはなりません。民法890条の配偶者は法律婚継続中の者を指し、離婚により姻族関係が消滅するためです(民法728条1項)。一方、離婚した元配偶者との子は、元配偶者(被相続人の子)が被相続人より先に死亡している場合等に、被相続人の孫として民法887条第2項の代襲相続人となり得ます。
子が代襲相続人となった場合、相続するか放棄するかを自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に判断する必要があります(民法915条1項)。判断材料が不足する場合は、家庭裁判所に熟慮期間の延長を申し立てられます(同条1項ただし書)。
未成年の子の相続放棄は親権者が法定代理人として申述します(民法824条)。親権者と未成年者の利益相反時、未成年者が複数で子同士で利益相反する時は、家庭裁判所に特別代理人選任を申し立てます(民法826条)。2026年4月1日施行の改正民法による共同親権を選択した場合、未成年の子の重要な法律行為は原則として父母の共同行使、急迫の事情があれば単独行使が認められます。
相続放棄と相続欠格(民法891条)・廃除(民法892条)は、いずれも相続権を失う制度ですが、相続放棄では子の代襲相続は発生せず、欠格・廃除では子の代襲相続が発生します(民法887条2項)。この違いは遺産分割の構造に大きな影響を与えるため、混同しないことが重要です。
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