特定技能外国人の送出国というと、ベトナム・インドネシア・ミャンマー・フィリピンといった国々が真っ先に思い浮かびます。その陰で、規模は大きくないものの着実に人数を伸ばしているのがタイです。出入国在留管理庁の公表資料(速報値)によれば、令和7年12月末時点の特定技能在留外国人はタイ国籍が6,817人。全体の1.7%にとどまりますが、半年で585人増えており、工業製品製造業・飲食料品製造業・農業といった分野を中心に受入れが積み上がっています。
ところが、タイからの受入れは「他の送出国と同じ感覚で進めると必ずどこかで詰まる」という特徴を持っています。最大の違いは、タイでは送出機関の利用が任意とされている点です。ベトナムやミャンマーのように「認定送出機関を通さなければ始まらない」構造ではなく、受入機関が直接タイ国籍の方と雇用契約を結ぶルートが公式に認められています。その一方で、日本企業が現地に赴いて直接求人活動を行うことはタイの法令上禁止されており、また駐日タイ王国大使館労働担当官事務所による雇用契約書の「認証」という独特の手続が必ず入ります。しかもこの認証は、送出機関を使うか使わないかで行うタイミングがまったく違います。
さらに実務の現場では、「タイの就労にはWP3が要るのではないか」という誤解が繰り返し登場します。結論から言えば、WP3は特定技能の送出しには登場しません。本記事では、日タイ協力覚書(MOC)の中身、タイ王国労働省雇用局(DOE)が許可する国外職業紹介事業者の確認方法、雇用契約書の認証、海外労働・出国許可、そして入国後15日以内の報告まで、出入国在留管理庁の公表資料と協力覚書の条項に基づいて実務目線で整理します。
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目次
タイは特定技能でどのような位置にあるか——最新データで確認する
制度の理解に入る前に、まずタイが特定技能全体のなかでどの位置にあるのかを数字で押さえておきます。採用計画の現実性を判断するうえで、この規模感は重要な前提になります。
特定技能在留外国人数に占めるタイの比率
出入国在留管理庁が公表している「特定技能制度運用状況」(数値はすべて速報値)によれば、令和7年12月末現在の特定技能在留外国人数は390,296人です。ここでいう「特定技能在留外国人」は、特定技能1号および特定技能2号の許可を受けて在留する者を指します。国籍・地域別の内訳は次のとおりです。
| 順位 | 国籍・地域 | 在留者数 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| 1 | ベトナム | 164,352人 | 42.1% |
| 2 | インドネシア | 86,955人 | 22.3% |
| 3 | ミャンマー | 44,523人 | 11.4% |
| 4 | フィリピン | 35,862人 | 9.2% |
| 5 | 中国 | 22,105人 | 5.7% |
| 6 | ネパール | 12,387人 | 3.2% |
| 7 | カンボジア | 8,500人 | 2.2% |
| 8 | タイ | 6,817人 | 1.7% |
| — | その他 | 8,795人 | 2.3% |
タイは第8位で、構成比は1.7%です。上位のベトナム・インドネシアとは人数の規模が1桁から2桁異なり、「主要送出国」と呼べる規模ではないというのが率直な現状です。
増加ペースは緩やかだが着実
推移を見ると、タイ国籍の特定技能在留外国人は令和6年12月末に5,571人(構成比2.0%)、令和7年6月末に6,232人(同1.9%)、令和7年12月末に6,817人(同1.7%)と推移しています。半年ごとの増加数は同資料の「国籍・地域別特定技能在留外国人増加数」で示されており、令和6年12月末から令和7年6月末までが661人、令和7年6月末から令和7年12月末までが585人です。
分野別の内訳も押さえておく価値があります。入管庁が同じページで公表している【第1表】「主な国籍・地域別 特定産業分野別 特定技能1号在留外国人数」(令和7年12月末現在)によれば、令和7年12月末時点のタイ国籍の特定技能1号在留外国人6,755人の分野別内訳は、工業製品製造業2,182人・飲食料品製造業1,860人・農業1,214人が上位を占め、以下、建設501人、介護436人、外食業237人と続きます。製造・食品・農業に偏りがあり、宿泊分野は8人にとどまるなど、分野によって実績には大きな差があります。
注目すべきは、実数は増えているのに構成比は下がり続けているという点です。これはタイが縮小しているのではなく、インドネシア(同期間で17,418人増)やベトナム(同15,866人増)といった上位国の伸びが桁違いに大きいためです。タイからの受入れは、母数の大きな採用競争というより、特定の分野・特定のルートで着実に積み上げていく性格の採用だと捉えたほうが実態に近いといえます。
特定産業分野は19分野に
特定技能の受入れが可能な分野は、「出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄に規定する産業上の分野等を定める省令」(平成31年法務省令第6号)で定められています。同省令は令和8年3月31日法務省令第22号による改正を経て、令和8年(2026年)4月1日から19分野となりました。従前の16分野に、リネンサプライ・物流倉庫・資源循環の3分野が加わった形です。
ただし、新たに加わった3分野については、分野別運用方針や告示に基づく上乗せ基準の整備、技能測定試験の実施体制の構築などを経て、順次実際の受入れが可能になっていく段階にあります。タイ人材の採用を新分野で計画する場合は、試験の実施状況と分野所管省庁の運用開始時期を必ず確認してください。
タイ国内で試験が実施されている分野
海外から新たに受け入れる場合、候補者は技能試験・日本語試験に合格しているか、技能実習2号または3号を良好に修了している必要があります。試験をタイ国内で受験しなければならないという決まりはありませんが、実務上は候補者の居住地であるタイで受験できるかどうかが採用計画を大きく左右します。前掲の「特定技能制度運用状況」に含まれる「技能試験及び日本語試験の実施状況について(令和7年12月末現在)」では、実施国の一覧にタイが挙げられている試験として、介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、宿泊、自動車運送業、農業、外食業の各技能試験、および日本語試験である日本語基礎テスト(JFT-Basic)が確認できます。
逆に言えば、造船・舶用工業、自動車整備、航空、漁業、飲食料品製造業、木材産業などは、同資料の実施国一覧にタイが含まれていません。これらの分野でタイ人材を新規に呼び寄せたい場合、候補者が別の国で受験するか、技能実習修了者を対象とするか、あるいは日本国内で受験・在留資格変更を行うルートを検討することになります。試験の実施予定は随時変動しますので、採用計画を立てる前に必ず各分野の試験実施機関の最新案内を確認してください。
日タイ協力覚書(MOC)——2020年2月4日署名の枠組み
特定技能制度では、外国人材の送出しが想定される国との間で、政府間の「協力覚書(Memorandum of Cooperation、MOC)」が作成されています。タイもそのひとつで、出入国在留管理庁のホームページには英文と和文仮訳の双方が掲載されています。
署名の経緯と有効期間の定め
正式名称は「日本国法務省、外務省、厚生労働省及び警察庁とタイ王国労働省との間の在留資格『特定技能』を有する外国人に係る制度の適正な運用のための情報連携の基本的枠組みに関する協力覚書」です。和文仮訳の「9.言語等」によれば、この協力覚書は英語により二通作成され、2020年(令和2年)2月4日に東京において署名されました。
同項はさらに、協力は署名の日から開始し、開始の日から5年間継続するものとし、終了の日の60日前までにいずれかの省庁又は省から延長しない旨の書面による通告がない限り、自動的に5年間延長されると定めています。また、5年間の終了前に協力の終了を希望する場合には、希望日の90日前までに相手方に書面で意図を通告することにより終了できるとされています。つまり、明示的な終了通告がない限り枠組みは継続する設計になっており、入管庁のホームページでも引き続きタイはMOC作成国として掲載されています。
両国の連絡窓口——「DOE」の正体
MOCの「2.連絡窓口」では、日本側が法務省出入国在留管理庁在留管理支援部在留管理課、タイ側が労働省雇用局海外雇用管理課と指定されています。この「雇用局」が英語でいうDepartment of Employment、すなわちDOEです。タイの送出しに関する話題で「DOE登録の送出機関」といった表現が使われるのは、国外職業紹介事業者に対する許可権者がこの雇用局だからです。日本の受入機関から見れば、タイ側の制度上の窓口は労働省(MOL)とその下部組織である雇用局(DOE)であり、日本国内の窓口は駐日タイ王国大使館労働担当官事務所である、という二段構えの理解が実務では役立ちます。
排除すべき「仲介機関の行為」5類型
MOCの「4.情報連携の基本的枠組み」(1)では、両国の省庁が共有すべき情報として、仲介機関による次の行為が列挙されています。これは受入機関が送出機関を選定する際の実質的な審査基準として機能します。
- (a) 保証金の徴収その他名目のいかんを問わず、特定技能外国人等、その親族又はそれらの者の関係者の金銭その他の財産を管理すること
- (b) 契約の不履行について違約金を課す契約その他の不当に金銭その他の財産の移転を予定する契約を締結すること
- (c) 暴行、脅迫、自由の制限等、特定技能外国人等の人権を侵害すること
- (d) 日本国における出入国管理又は査証手続に関し、許可・査証その他の証書を不正に取得する目的で、偽造・変造された又は虚偽の文書若しくは図画を行使し、又は提供すること
- (e) 特定技能外国人等から徴収する手数料その他の費用について、算出基準を示さず、かつ、その額及び内訳を理解させないで徴収すること
とりわけ(e)は、送出機関との契約交渉で必ず確認すべき項目です。候補者が母国で負担する費用の総額と内訳が書面で開示されないまま話が進む場合、この類型に該当するおそれがあります。
タイ労働省(MOL)が負う責務——送出しルートの限定
MOCの「7.MOLの責務」(1)は、MOLが「雇用局、認可された民間採用事業者又は地元の雇用主の手配を通して、若しくは自身での手配を通してのみ、タイ国から特定技能外国人を送り出すこと」と定めています。ここに、タイの送出しが取りうるルートが明示されています。すなわち、雇用局(DOE)による送出し、雇用局から許可を受けた民間の職業紹介事業者による送出し、雇用主による手配、そして本人自身による手配です。「送出機関を通すか、通さないか」の選択肢が制度上用意されているのは、この条項の帰結です。
同じく「7.MOLの責務」(5)では、技能実習2号を修了した後に「特定技能1号」へ在留資格の変更を行う日本在留のタイ国民について、在京タイ大使館労働事務所において雇用契約書を承認することがMOLの責務として定められています。これに対応して「6.日本の省庁の責務」(2)では、日本側がその承認済み雇用契約書を「特定技能1号」を付与するための必要な資料のひとつとして受け入れることが定められています。後述する雇用契約書の認証手続は、この相互の取決めに基づくものです。
MOC別添の分野一覧は署名当時のもの
なお、MOCの別添には「在留資格『特定技能1号』で外国人材を受け入れる産業分野」として14分野(介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業)が列挙されています。これは2020年2月の署名当時の分野構成であり、その後の素形材・産業機械・電気電子の3分野統合(工業製品製造業)や、自動車運送業・鉄道・林業・木材産業等の追加、さらに令和8年4月1日からの19分野化は反映されていません。MOCの別添をもって現行の対象分野を判断しないよう注意してください。現行の分野は前掲の省令で確認します。
「送出機関の利用は任意」——タイが他の送出国と決定的に違う点
タイからの受入れを検討する企業が最初に理解すべき最重要ポイントが、この「任意性」です。
入管庁Q&Aが明言していること
出入国在留管理庁が公表している「タイ側の手続に関するQ&A」のQ1は、「現地の送出機関を介さずに、タイ国籍の方と雇用契約を締結することはできますか」という問いを立てています。これに対する回答は、タイ当局によれば、タイにおいては特定技能外国人の送出しに当たり送出機関を介することは必須ではないというものです。ベトナムの認定送出機関、ミャンマーのMOLIP認定送出機関、フィリピンのDMW登録といった「通さなければ手続が始まらない」構造とは、根本的に設計が異なります。
ただし「現地に行って直接採用活動」は禁止
一方で、同じQ1の回答には重大な留保が付いています。日本企業が現地を訪れて直接求人活動を行うことは、タイの法令上禁止されています。この点は「手続の流れ」の本文でも繰り返し明記されています。
つまりタイの制度は、「送出機関を必ず使え」とは言わないが、「日本企業が現地で勝手に人集めをするのは認めない」という立て付けになっています。実務上は、候補者本人からの応募、日本国内で既に関係のある人材からの紹介、あるいは許可を受けた事業者を通じたあっせんといった経路をとることになります。「送出機関が不要だから採用コストを抑えて現地で直接面接すればよい」という理解は誤りであり、この一線を越えると現地法令違反のリスクを負います。
タイ国内法上の5つの合法ルート
タイ人の海外就労は、職業紹介及び求職者保護法(พระราชบัญญัติจัดหางานและคุ้มครองคนหางาน พ.ศ. 2528、仏暦2528年=1985年制定)によって規律されています。タイ労働省雇用局の案内によれば、合法的に海外で就労する方法は5つに整理されています。すなわち、許可を受けた民間職業紹介会社による送出し、雇用局自身による送出し、求職者本人が自分で渡航する方法、タイ国内の雇用主が自社の従業員を海外に派遣して就労させる方法、そしてタイ国内の雇用主が従業員を海外に派遣して訓練を受けさせる方法です。
重要なのは、この5つのいずれの方法であっても、出国前に雇用局への届出が必要とされている点です。特定技能で来日する場合も例外ではなく、後述する海外労働・出国許可の申請がこれに対応します。無許可で職業紹介を行う業者は同法により処罰の対象となり、タイ政府も繰り返し注意喚起を行っています。日本側の受入機関としては、候補者が上記5ルートのいずれに乗っているのかを最初に確認することが、後の手続の見通しを立てるうえで欠かせません。
送出機関に「人選」させると日本の職業紹介許可が必要になる
見落とされがちですが、入管庁が公表しているフローチャートの注記には、実務上きわめて重要な指摘があります。認定送出機関による求職者の人選を行う行為はあっせんに当たるため、仮にこのような行為を行う場合には、日本国内の職業紹介事業者としての許可を得る必要があるという趣旨の記載です。同注記は職業安定法に基づく職業紹介事業者に関する厚生労働省の資料を参照するよう案内しています。
タイ側の送出機関に候補者の絞り込みまで委ねるスキームを組む場合、日本国内での職業紹介事業の許可関係を整理しないまま進めると、思わぬ法令違反を招きかねません。「誰が、どの国の法令に基づき、どこまでの行為を行うのか」を契約書レベルで切り分けておくことが必要です。
DOE登録送出機関(国外職業紹介事業者)の確認方法
送出機関を利用する場合は、必ずタイ王国労働省から認定を受けた国外職業紹介事業者でなければなりません。その確認方法を具体的に見ていきます。
入管庁ホームページ掲載のリストを見る
タイ政府が許可した国外職業紹介事業者のリストは、出入国在留管理庁の「タイに関する情報」のページにPDFで掲載されています。原文はタイ語と英語の併記で、表題は「รายชื่อบริษัทจัดหางานให้คนหางานเพื่อไปทำงานในต่างประเทศ」(海外で就労する求職者のための職業紹介会社一覧)です。本記事執筆時点で掲載されているものは仏暦2569年3月13日(西暦2026年3月13日)付のリストで、通し番号は155番まで付されています。
各社について、タイ語社名・英語社名・許可番号(ใบอนุญาตเลขที่)・許可を受けた者の氏名・所在地・電話番号・メールアドレス等が記載されています。許可番号は「ต.○○○/○○○○」(ローマ字表記では「Tor. ○○○/○○○○」)という形式で、スラッシュの後ろは仏暦の許可年です。たとえば「ต.8/2527」は仏暦2527年=西暦1984年、「ต.1305/2568」は仏暦2568年=西暦2025年の許可を意味します。仏暦から543を引くと西暦になりますので、許可がいつ付与されたものかを一目で判断できます。
リストの掲載=現在有効、ではない
ここで必ず押さえておきたいのが、入管庁自身が付している注意書きです。同庁は、相手国政府から当庁への情報提供のタイミング等により、ホームページに掲載されている情報が最新の情報でない場合がある旨を明記しています。リストに社名があることは「タイ政府から日本側へ情報提供があった時点で許可を受けていた」ことを示すにとどまり、契約時点で許可が有効であることを保証するものではありません。
したがって実務では、リストで社名と許可番号を突合したうえで、送出機関自身から許可証(ライセンス)の写しを取得し、有効期限を確認するという二重のチェックが欠かせません。許可番号がリスト記載と一致しない、あるいは許可証の提示を渋るといった事情があれば、その時点で取引を見直すべきです。
送出機関を選ぶ際の実務チェックポイント
許可の有無は最低条件であって、それだけで十分ではありません。次の点を契約前に確認しておくことをおすすめします。
- 雇用局の許可番号と有効期限。入管庁掲載リストの記載と一致しているか
- 候補者から徴収する費用の総額と内訳。算出基準を書面で示しているか(MOC 4.(1)(e)に該当する行為がないか)
- 保証金の徴収や違約金契約が行われていないか。本人だけでなく家族や親族との間でも行われていないか(同(a)(b))
- 日本語教育・技能試験対策の実施体制と、出国前研修の内容・期間
- 海外労働・出国許可の申請サポート体制と、直近の平均的な所要期間の実績
- あっせん行為の範囲。候補者の人選まで行う場合、日本側での職業紹介事業の許可関係が整理されているか
- 日本側の担当窓口と、日本語または英語でのコミュニケーション体制
雇用契約書の「認証」——タイ手続で最も間違えやすい論点
タイからの受入れで、実務上もっとも取り違えが起きやすいのがこの認証手続です。入管庁も「認証を受けるタイミングが異なるので御注意ください」と、わざわざ両パターンの解説に注記を入れています。
認証を行う機関と方法
認証を行うのは駐日タイ王国大使館労働担当官事務所です。入管庁の資料によれば、受入機関が同事務所に雇用契約書等を提出し、認証を受ける必要があるとされています。認証後は、雇用契約書に同事務所の認証印が押印されます。同事務所は雇用契約書等の必要書類を審査し、その結果をタイ王国労働省(MOL)に報告する流れになっています。
提出は郵送でも受け付けられています。入管庁のQ&AのQ2では「東京から遠く離れた地方に住んでいるが、認証手続のために東京に行かなければならないのか」という問いに対し、同事務所によれば郵送での手続を受け付けているとの回答が示されています。詳細は同事務所に直接確認してください。
タイミングが正反対になる——ここが最大の落とし穴
認証のタイミングは、送出機関等を利用するかどうかで次のように異なります。
| 区分 | 認証の対象 | 認証のタイミング | 併せて提出するもの |
|---|---|---|---|
| 送出機関等を利用しない(直接雇用) | 雇用契約書 | 在留資格認定証明書の交付を受けた後 | 在留資格認定証明書(写し) |
| 送出機関等を利用する | 雇用契約書のひな形 | 送出機関等からあっせんを受ける前 | — |
| 日本に在留する方を受け入れる | 雇用契約書 | 雇用契約の締結後、在留資格変更許可申請の前 | — |
直接雇用の場合は、認証の前提として在留資格認定証明書が必要です。証明書が交付されてから認証を申請し、認証済みの雇用契約書と証明書原本を本人に送付する、という順序になります。これに対して送出機関等を利用する場合は、あっせんを受ける前に雇用契約書の「ひな形」を認証してもらう必要があります。個別の契約書ではなく、ひな形の段階で認証を受ける点が決定的に異なります。
この順序を取り違えると、送出機関ルートなのにあっせん後に認証を申請してしまい、手続をやり直すことになります。採用ルートを決めた最初の段階で、どちらのタイミングが適用されるかを確定させておくことが重要です。
入管への提出が必須なのは技能実習2号・3号修了者のみ
日本に在留するタイ国籍の方を受け入れる場合について、入管庁のQ&AのQ3は重要な整理を示しています。「特定技能1号」への在留資格変更許可申請の際に、認証手続を経た雇用契約書の提出が必要となるのは「技能実習2号」又は「技能実習3号」を修了した方のみである、というのが回答です。
具体的には、次のように整理されます。
- 技能実習2号・3号を修了して特定技能1号へ変更する場合……認証済み雇用契約書の添付が必要
- タイ国籍を有する留学生等から特定技能1号へ変更する場合……認証済み雇用契約書の提出は必須ではない
- 現在「特定技能1号」で在留する方が転職等のため改めて特定技能1号へ変更申請する場合……過去に技能実習2号・3号を修了していても、認証済み雇用契約書の提出は必須ではない
ただし、ここには重要な但し書きが付いています。入管庁は同じQ3の回答で、タイ当局によればタイの制度上、特定技能1号外国人を受け入れる場合は、入管庁への提出要否にかかわらず、受入機関は駐日タイ王国大使館労働担当官事務所に雇用契約書等を提出し、認証を受ける必要があるとしています。
つまり、「日本の入管に出す必要がない=認証しなくてよい」ではないということです。日本側の審査資料としての要否と、タイ側の制度上の要否は別問題として管理する必要があります。転職者や留学生からの変更であっても、タイ側の手続として認証を求められる点は押さえておいてください。
出国前手続——海外労働・出国許可と、WP3をめぐる誤解
在留資格認定証明書と査証が揃っても、それだけではタイを出国できません。タイ側の出国許可が必要です。
海外労働・出国許可申請
入管庁の資料によれば、特定技能外国人として来日予定であるタイ国籍の方は、駐日タイ王国大使館労働担当官事務所から認証された雇用契約書等をタイ王国労働省に提出し、出国許可の発行を申請して許可を取得することになっているとされています。フローチャートでも、査証発給の後、タイを出国する前のステップとして「海外労働・出国許可申請」と「許可」が明確に位置づけられています。
ここで実務上重要なのは、認証済みの雇用契約書がこの出国許可申請の前提書類になっているという連鎖構造です。認証が遅れれば出国許可が遅れ、出国許可が遅れれば入国が遅れます。在留資格認定証明書には有効期間がありますので、認証・査証・出国許可の3つのリードタイムを逆算してスケジュールを組むことが、採用計画を崩さないための基本になります。
WP3は「タイで働く外国人」のための書類——特定技能では登場しない
タイの就労手続を調べていると「WP3」という用語に行き当たり、特定技能でも必要なのではないかと考える方がいます。ここは明確に整理しておきます。
WP.3(Form WP.3)は、タイ国内で外国人を雇用しようとする雇用主が、タイ労働省雇用局に対して提出する書類です。タイで就労予定の外国人が、在外タイ大使館・領事館でノンイミグラント「B」査証を申請し、入国後にワークパーミット(労働許可証)を取得できるようにするための事前承認にあたるもので、申請主体はタイ国内の雇用主です。つまりWP3は「外国人がタイに入って働く」方向(インバウンド)の書類です。
これに対して特定技能は、「タイ国民が日本に出て働く」方向(アウトバウンド)の話です。方向がまったく逆であるため、タイ国籍の方を特定技能外国人として日本に受け入れる手続の中に、WP3が登場することはありません。実際、出入国在留管理庁が「タイに関する情報」のページで公表している「手続の解説」「Q&A」およびフローチャートのいずれにも、WP3への言及はありません。タイ側で必要とされているのは、あくまで雇用契約書の認証と海外労働・出国許可です。
日本語のインターネット記事では両者が混同されている例が散見されますので、社内資料やチェックリストを作成する際は、WP3を項目に入れないようご注意ください。逆に、日本企業がタイに現地法人を持ち、そこに日本人駐在員を送るという場面では、まさにWP3が必要になります。同じ「タイ」「就労」というキーワードでも、人の流れる方向で必要書類はまったく変わります。
3つの受入れパターン別・手続の順序
ここまでの要素を、入管庁のフローチャートに沿って時系列に並べ直します。自社がどのパターンに当たるかを最初に確定させることが、手続設計の出発点です。
パターン1:タイから新たに受け入れる(送出機関等を利用しない=直接雇用)
- 求人(受入機関が直接採用活動を行う。ただし現地を訪れての直接求人活動は禁止)
- 雇用契約の締結
- 在留資格認定証明書の交付申請【日本側】(地方出入国在留管理官署へ)
- 在留資格認定証明書の交付【日本側】
- 雇用契約書の認証手続申請【タイ側】(駐日タイ王国大使館労働担当官事務所へ。在留資格認定証明書の写しを併せて提供)
- 認証【タイ側】
- 在留資格認定証明書・認証済みの雇用契約書等を本人へ送付
- 査証発給申請【日本側】(在タイ日本国公館へ)
- 査証発給【日本側】
- 海外労働・出国許可申請【タイ側】(タイ王国労働省へ)
- 許可【タイ側】
- タイを出国、上陸審査を経て「特定技能」の在留資格が付与される
- 入国後15日以内に来日報告書を提出【タイ側】
パターン2:タイから新たに受け入れる(国外職業紹介事業者又は雇用局を利用)
- 求人・求職申込(送出機関等を通じて採用活動を行う)
- 雇用契約書(ひな形)の認証手続申請【タイ側】(あっせんを受ける前に行う)
- 認証【タイ側】
- 送出機関等からあっせんを受ける
- 雇用契約の締結
- 在留資格認定証明書の交付申請【日本側】
- 在留資格認定証明書の交付【日本側】
- 在留資格認定証明書・認証済みの雇用契約書等を本人へ送付
- 査証発給申請【日本側】(在タイ日本国大使館へ)
- 査証発給【日本側】
- 海外労働・出国許可申請【タイ側】
- 許可【タイ側】
- タイを出国、上陸審査を経て「特定技能」の在留資格が付与される
- 入国後15日以内に来日報告書を提出【タイ側】
パターン3:日本に在留する方を受け入れる
- 雇用契約の締結
- 雇用契約書の認証手続申請【タイ側】
- 認証【タイ側】
- 在留資格変更許可申請【日本側】(技能実習2号・3号からの変更の場合は認証済み雇用契約書を添付)
- 在留資格変更許可【日本側】
- 入社後15日以内に入社報告書を提出【タイ側】
パターン1とパターン2を見比べると、認証のステップが「後ろ(CoE交付後)」にあるか「前(あっせん前)」にあるかが最大の相違点であることがよく分かります。パターン3は日本側の手続が在留資格変更許可申請のみとなり、査証や出国許可が不要な分、格段にシンプルです。タイ人材の採用実績を積み上げている企業が、まず技能実習修了者や留学生などすでに日本に在留している方から着手することが多いのは、この手続負担の差によるところが大きいといえます。
入国後・入社後の「15日ルール」と日本側の届出義務
タイからの受入れでは、日本側の届出義務とタイ側の報告要請の両方が並行して走ります。期限が近い数字が複数出てくるため、混同しないよう整理しておきます。
タイ側——来日報告書・入社報告書は15日以内
入管庁の資料には、いずれの雇用形態の場合でも、特定技能外国人の入国後15日以内に「来日報告書」を駐日タイ王国大使館労働担当官事務所に提出してほしいとのタイ側の要請が注記されています。提出主体は受入機関または入国したタイ国籍の方本人とされています。
また、日本に在留する方が「特定技能」への在留資格変更許可を受けた場合には、入社後15日以内に「入社報告書」を同事務所に提出する必要があるとされています。こちらも提出主体は受入機関または本人です。
これらはタイ側の制度に基づく要請であり、日本の入管法上の届出とは別のものです。しかし実務上は受入機関が失念しやすい手続の筆頭ですので、入社時のオンボーディング手続に組み込んでおくことを強くおすすめします。タイ側の手続に関する問い合わせ先は、入管庁の資料に駐日タイ王国大使館労働担当官事務所(東京都品川区上大崎3-14-6、電話03-5422-7014/03-5422-7015)として案内されています。
日本側——随時届出は14日以内
一方、日本側では受入機関(特定技能所属機関)に対して、届出義務が課されています。雇用契約の変更・終了、支援計画の変更、受入れ困難、支援実施困難といった事由が生じた場合の随時届出は14日以内が原則です。タイ側の「15日」と日本側の「14日」は数字が近く、しかも起算点が異なりますので、社内のチェックリストでは必ず分けて管理してください。届出の全体像は特定技能の随時届出一覧|契約変更・支援計画変更・受入れ困難・支援実施困難時の14日ルールで整理しています。
支援体制と登録支援機関
特定技能1号で受け入れる場合、受入機関は1号特定技能外国人支援計画を作成し、義務的支援を実施する必要があります。支援の全部を委託する場合は登録支援機関に委託することになります。前掲の「特定技能制度運用状況」によれば、令和7年12月末現在の登録支援機関の登録件数は11,050件で、類型別の内訳(複数類型に該当する個人を各項目に計上した類型別件数11,101件を母数とする構成比)は、会社(株式会社・合同会社等)が6,267件(56.5%)、中小企業事業協同組合が2,778件(25.0%)、行政書士が722件(6.5%)、一般社団法人が201件(1.8%)、行政書士法人が111件(1.0%)などとなっています。
支援計画の中身については特定技能1号の支援計画とは?義務的支援10項目と登録支援機関への委託を解説、委託先の選定基準については登録支援機関の登録要件7項目|2027年改正・中立性・支援体制・再委託禁止を解説を、それぞれあわせてご確認ください。また、来日前に行う特定技能の事前ガイダンス|10項目の説明事項・実施方法・時間は、タイ側の手続の説明を組み込む場としても有効です。
タイ人材受入れで実務上つまずきやすいポイントと日本側の準備
最後に、タイからの受入れで実際に問題になりやすい論点を整理します。
在留資格認定証明書の有効期間とタイ側手続のリードタイム
パターン1・2では、在留資格認定証明書の交付後に、認証(パターン1のみ)・査証・海外労働・出国許可という複数のタイ側手続が続きます。証明書には有効期間があるため、各手続の所要期間を事前に確認し、余裕をもって申請時期を設計する必要があります。送出機関を利用する場合は、直近の実績ベースでの平均所要日数を必ずヒアリングしておいてください。
分野ごとの試験実施状況の確認
前述のとおり、タイ国内で実施されている技能試験の分野は限られています。自社の分野がタイで実施されていない場合、海外から新規に呼び寄せるルートは実質的に技能実習修了者に限られてくる可能性があります。採用計画を立てる前に、分野所管省庁および試験実施機関の最新案内で実施国・実施時期を確認することが出発点になります。
協議会への加入
特定技能では、分野によって受入機関の協議会加入が求められます。加入のタイミングを誤ると在留資格の許可に影響しますので、特定技能の協議会とは?分野別の加入方法・費用・タイミングで分野ごとの取扱いを確認してください。
長期就労を見据えるなら2号への道筋も
タイ人材を長期的な戦力として位置づけるのであれば、特定技能2号への移行可能性も採用時点から視野に入れておく価値があります。要件の全体像は特定技能2号への移行ルート|令和9年日本語B1要件・分野別試験・実務経験・通算在留期間で解説しています。あわせて、2027年に施行される育成就労制度との関係を整理するには育成就労制度の対象17分野|2027年4月1日施行・特定技能19分野との違いを解説が参考になります。
入管手数料の前提
費用を見積もる際の前提として、入管手数料は2025年(令和7年)4月1日に改定されています。在留資格変更許可・在留期間更新許可は各6,000円(オンライン申請は5,500円)、永住許可は許可時に10,000円です。在留資格認定証明書交付申請には手数料はかかりません。タイからの新規受入れ(パターン1・2)では認定証明書交付申請が中心となるため、この点は費用設計上のポイントになります。
特定技能外国人の受入れをご検討の企業様へ。行政書士法人Treeでは、在留資格の申請取次から支援計画の作成・各種届出までをサポートします。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
タイは特定技能の送出国として第8位、令和7年12月末時点で6,817人・構成比1.7%という規模です。上位国と比べれば小さいものの、半年で585人増と着実に伸びています。特定産業分野は令和8年4月1日から19分野となりましたが、タイ国内で技能試験が実施されている分野は限られており、採用計画の入口で必ず実施状況を確認する必要があります。
制度面での最大の特徴は、送出機関の利用が任意であることです。日タイ協力覚書(2020年2月4日署名)の「7.MOLの責務」(1)は、雇用局・認可された民間採用事業者・地元の雇用主の手配、あるいは本人自身の手配によってのみ送り出すと定めており、直接雇用のルートが制度上開かれています。ただし日本企業が現地を訪れて直接求人活動を行うことはタイの法令上禁止されており、送出機関に候補者の人選まで委ねる場合は日本国内の職業紹介事業の許可関係の整理も必要になります。
手続面で最も間違えやすいのが雇用契約書の認証タイミングです。直接雇用なら在留資格認定証明書の交付後に契約書と証明書の写しを提出、送出機関等を利用するならあっせんを受ける前に契約書のひな形を認証、と順序が正反対になります。また、入管庁への提出が必須なのは技能実習2号・3号修了者からの変更に限られる一方、タイの制度上は入管庁への提出要否にかかわらず認証が必要とされている点も見落とせません。
出国前手続については、WP3は特定技能には登場しないことを明確にしておいてください。WP3はタイ国内で働く外国人のための雇用主側の事前承認であり、方向が逆です。タイ側で必要なのは雇用契約書の認証とタイ王国労働省への海外労働・出国許可申請であり、認証が遅れれば出国許可も入国も連鎖的に遅れます。加えて、入国後・入社後15日以内の来日報告書・入社報告書(タイ側)と、日本側の14日以内の随時届出は起算点も提出先も別物ですので、必ず分けて管理してください。
行政書士法人Treeでは、在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請の取次、1号特定技能外国人支援計画の作成、雇用契約書その他の受入れに必要な書類の作成、および受入れ後の随時届出・定期届出について、行政書士法第1条の3に基づく書類作成業務および同法第1条の4第1項第1号に基づく提出手続の代理としてお手伝いしています。タイ側の認証・出国許可の要否やタイミングを踏まえたスケジュール設計を含め、ご相談は何度でも無料です。
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