公開日:2026年5月16日
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が事業場内最低賃金を引き上げ、あわせて生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資・コンサル導入・人材育成等を行った場合に、その費用の一部を厚生労働省が助成する制度です。地域別最低賃金が毎年大きく上がる中(東京都は令和7年10月から1,226円・全国加重平均1,121円)、「賃上げの原資が出ない」「最低賃金法違反のリスクを避けつつ生産性を伸ばしたい」という現場のニーズに応える制度として、毎年多くの事業者が活用しています。
本記事では、令和7年度・令和8年度の制度比較、コース区分・助成上限・助成率・補助対象経費・主要要件・申請の流れ・特例事業者要件・不採択対策まで、事業者目線で整理します。
本記事の結論
- 業務改善助成金は、事業場内最低賃金を引き上げ(令和7年度:30/45/60/90円コース、令和8年度:50/70/90円コースに再編)、同時に生産性向上のための設備投資・コンサル・人材育成を行った中小企業向け助成金。雇用保険法第62条(雇用安定事業)・第63条(能力開発事業)と業務改善助成金交付要綱(厚生労働省告示)が根拠。
- 令和7年度から生産性要件は廃止され、助成率は事業場内最低賃金水準のみで決定。令和8年度は1,050円基準(1,050円未満4/5、1,050円以上3/4)。対象労働者は雇入れ後6か月以上を経過した雇用保険被保険者。
- 申請は都道府県労働局(雇用環境・均等部/室)へ。令和8年度の申請受付は9月1日開始、申請期限は地域別最低賃金の発効日前日または同年11月末日のいずれか早い方。事業完了期限は原則として交付決定年度の1月31日。
- 業務改善助成金の申請書類作成・労働局への提出代行は、雇用保険法に基づく助成金として社会保険労務士の独占業務(社労士法第2条第1項第1号・第1号の2、第27条)です。当所は本助成金については提携社会保険労務士をご紹介します。一方、設備投資と組み合わせた事業展開ではものづくり補助金・IT導入補助金・持続化補助金・中小企業新事業進出補助金等、行政書士業務範囲の補助金が活用できる場合があり、当所はこれらの申請代行を完全成果報酬型・着手金0円・成功報酬8〜15%・不採択時無料でサポートしています。
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目次
根拠法令・制度
- 業務改善助成金交付要綱(厚生労働省告示・各年度改訂)・業務改善助成金交付要領
- 雇用保険法第62条(雇用安定事業)・第63条(能力開発事業)
- 最低賃金法第4条(最低賃金の効力)・第9条(地域別最低賃金)
- 労働基準法第89条(就業規則の作成・届出義務)・第15条(労働条件の明示)
- 中小企業基本法第2条(中小企業者の定義)
- 社会保険労務士法第2条第1項第1号・第1号の2(申請書等の作成・提出代行)・第2号(帳簿書類の作成)、第27条(業務の制限)
- 行政書士業務(官公署提出書類等の作成)・第1条の3第1項第1号(提出代理)・第19条(業務の制限、2026年1月1日施行改正により「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の文言追加)
2026年度(令和8年度)の業務改善助成金で変わったポイント
令和8年度の業務改善助成金では、制度設計が大きく見直されています。実務上、最も影響の大きい変更点を整理します。
- コース区分の3コース化:従来の30円・45円・60円・90円コースから、50円・70円・90円コースの3コースに再編。30円・45円コースは廃止。
- 助成率区分の1,050円基準化:引上げ前の事業場内最低賃金額が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4に簡素化。
- 生産性要件は廃止継続:令和7年度に廃止された生産性要件(付加価値の年6%向上等)は令和8年度も廃止が継続。助成率は事業場内最低賃金水準のみで決定。
- 対象労働者の雇用期間要件:雇用保険被保険者で雇入れ後6か月以上を経過した労働者が対象(令和7年度から3か月以上→6か月以上に変更)。
- 事業完了期限:原則として交付決定年度の1月31日。賃金引上げ・設備納品・支払をすべて期限までに完了する必要があります。
- 自動車の対象外化:特殊用途自動車を除き、通常の自動車は助成対象外。
- 申請受付スケジュール:令和8年度は9月1日受付開始、申請期限は地域別最低賃金の発効日前日または同年11月末日のいずれか早い方。春〜夏(4〜8月)は原則として申請不可。
1. 業務改善助成金の基本構造
1-1. 制度の目的
中小企業・小規模事業者が、事業場内最低賃金を地域別最低賃金に近づけ、または上回る水準に引き上げるとともに、生産性向上のための設備投資等を行うことを支援するものです。令和7年(2025年)10月の改定後、全国加重平均最低賃金は1,121円(令和6年比+66円、引上げ率5.9%)、東京都は1,226円(令和6年比+63円、引上げ率5.4%、現制度では過去最大の上げ幅、5年連続の引上げ)と、地域別最低賃金は毎年大幅に引き上げられており、業務改善助成金は最低賃金引上げに伴う事業者負担を軽減する政策ツールとして位置づけられています。政府は2030年代半ばまでに全国加重平均1,500円を目指す方針を表明しており、今後も継続的な引上げが見込まれます。
1-2. 対象事業者・対象労働者
対象事業者
- 中小企業・小規模事業者(中小企業基本法上の定義)であること。製造業・建設業・運輸業は資本金3億円以下または常時雇用300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下が目安。
- 事業場内最低賃金が令和8年度地域別最低賃金未満であること(令和7年度までは「+50円以内」)。
- 解雇・賃金引下げ等の不交付措置事由に該当しないこと(後述)。
- 労働保険料の滞納がないこと。
- 大企業と密接な関係にある「みなし大企業」ではないこと。
- 事業場で就業規則が整備されており、賃金台帳・出勤簿等の労務関係書類が適切に管理されていること。
対象労働者
- 雇用保険被保険者であること
- 雇入れ後6か月以上を経過した労働者(令和7年度から3か月以上→6か月以上に変更)
- 引上げ金額が申請コースの金額以上であること
- 事業場内最低賃金の労働者、または新たな事業場内最低賃金の適用により賃上げ前の賃金が「事業場内最低賃金の労働者」に追い抜かれる労働者
1-3. 申請単位
申請は事業場単位です。複数事業場を持つ企業の場合、事業場ごとに別個に申請します。事業場内最低賃金の判定も事業場単位で行うため、本社と支店で時給水準が異なる場合は別計算となります。
2. コース区分と助成上限額
2-1. コース別の引上げ額
令和7年度(4コース体制)
| コース | 引上げ額 | 主な想定 |
|---|---|---|
| 30円コース | 30円以上 | 標準的な引上げ・初回利用 |
| 45円コース | 45円以上 | 地域別最低賃金引上げ幅に対応 |
| 60円コース | 60円以上 | 積極的な賃上げ |
| 90円コース | 90円以上 | 大幅な賃上げ・採用競争力強化 |
令和8年度(3コースに再編)
| コース | 引上げ額 | 主な想定 |
|---|---|---|
| 50円コース | 50円以上 | 標準的な引上げ・初回利用 |
| 70円コース | 70円以上 | 積極的な賃上げ |
| 90円コース | 90円以上 | 大幅な賃上げ・採用競争力強化 |
令和7年度に存在した30円・45円コースは令和8年度から廃止されたため、賃上げ計画の組み直しが必要です。
2-2. 助成上限額(引上げ労働者数別)
助成上限額は、引上げコースと引上げ対象労働者数、特例事業者該当性により決まります。直近年度の目安は以下のとおりです(年度・公募回により金額が変動するため、申請前に厚生労働省の最新リーフレットで確認します)。
| コース | 1人 | 2〜3人 | 4〜6人 | 7人以上 | 10人以上※ |
|---|---|---|---|---|---|
| 50円 | 50万円 | 80万円 | 110万円 | 160万円 | 190万円 |
| 70円 | 70万円 | 110万円 | 180万円 | 260万円 | 340万円 |
| 90円 | 90万円 | 150万円 | 270万円 | 450万円 | 600万円 |
※10人以上区分の適用要件は「特例事業者」該当性です。特例事業者要件は次のいずれかを満たす場合:
- (1) 賃金要件:事業場内最低賃金1,000円未満
- (2) 物価高騰等要件:申請前3か月のうちいずれか1か月の利益率が前年同期より3ポイント以上低下
また、事業場規模30人未満の小規模事業場は、上限額が別途拡大される仕組みです。特例事業者のうち物価高騰等要件を満たす場合は、通常は対象外のパソコン・スマートフォン・タブレット・周辺機器、定員7人以上または車両本体価格200万円以下の乗用自動車等も助成対象経費に含まれる特例があります。
2-3. 助成率
令和7年度(生産性要件廃止後)
| 事業場内最低賃金 | 助成率 |
|---|---|
| 900円未満 | 9/10 |
| 900円以上1,000円未満 | 4/5 |
| 1,000円以上 | 3/4 |
令和8年度(1,050円基準に簡素化)
| 引上げ前の事業場内最低賃金 | 助成率 |
|---|---|
| 1,050円未満 | 4/5 |
| 1,050円以上 | 3/4 |
令和7年度から生産性要件は完全廃止され、付加価値計算による助成率上乗せの仕組みは存在しません。助成率は事業場内最低賃金水準のみで決定されるため、生産性要件証明書類(決算書3期分の付加価値計算)の作成負担が軽減されています。
3. 補助対象経費(業種別事例)
3-1. 設備投資
業務改善助成金は業種を問わず幅広い設備投資を対象としており、厚生労働省「生産性向上のヒント集」では以下のような業種別事例が紹介されています。
製造業
- 機械設備(製造機械・加工機・自動梱包機・3Dプリンタ等)
- バキュームクレーン等の重量物搬送装置(身体的負担軽減)
- 冷凍自動販売機等の自動販売装置(無人化)
小売業・飲食業
- POSレジ・自動釣銭機・券売機・タブレット型注文端末
- キャッシュレス決済機器
- 厨房機器・調理機器(高速調理機・食洗機等)
- 配膳ロボット・モバイルオーダーシステム
サービス業全般
- 業務支援システム(顧客管理・販売管理・予約管理・在庫管理・会計ソフト)
- 店舗・事業場の改装(単なる修繕・美装ではなく、作業時間短縮・業務効率化・回転率向上など、生産性向上・労働能率の増進に資する内容に限る。対象可否は労働局へ確認)
- テレワーク機器・通信機器(業務効率化目的)
3-2. コンサルティング
- 業務効率化コンサルティング(業務フロー分析・改善提案)
- マーケティングコンサルティング(販路開拓・顧客分析)
- 人事制度コンサルティング(賃金規定設計・等級制度)
- 専門家による経営診断・改善計画作成支援
3-3. 人材育成・教育訓練
- 従業員の研修費(OFF-JT)
- 外部研修受講料・eラーニング費用
- 専門資格取得費用(業務関連)
- 講師謝金・研修教材費
3-4. 対象外経費
- 汎用性が高く目的外利用が容易な機器(パソコン・タブレット・スマートフォン等。ただし特例事業者の物価高騰等要件達成時は対象となる場合あり)
- 自動車(特殊用途自動車を除く)。令和8年度では通常の自動車は対象外。車両を含める計画では事前に労働局へ確認が必要
- 消耗品費・通常の事務用品・賃借料・光熱費等の経常経費
- 不動産購入費・土地取得費
- 交付決定前に発注・契約・支払を行った経費
- 申請事業者の代表者・役員・親族が提供する設備・サービスの購入費
4. 主要要件
4-1. 賃金引上げ要件
- 事業場内最低賃金を計画通り引き上げ、対象労働者全員に適用すること
- 賃金引上げは原則として申請後に行う必要がある(設備投資は交付決定後)
- 引上げ後の水準を継続維持すること(事業実施期間後も)
- 引上げは賃金台帳・出勤簿・労働条件通知書等で立証すること
4-2. 生産性要件は令和7年度から廃止
令和6年度以前の業務改善助成金では、3年前の決算期と比較した付加価値の向上(年6%以上等)が助成率上乗せの要件(生産性要件)とされていました。しかし、令和7年度(2025年度)から生産性要件は廃止されており、令和8年度も廃止が継続されています。これにより、付加価値計算の証明書類や決算書3期分の提出負担が軽減され、申請ハードルが下がっています。
4-3. 解雇等の不交付措置
- 申請日前6か月以内に、会社都合による解雇を行っていないこと
- 申請日前6か月以内に、賃金引下げを行っていないこと
- 労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法等への重大違反がないこと
- 労働保険料の滞納がないこと
- 暴力団・反社会的勢力との関係がないこと
4-4. 設備投資要件
- 生産性向上・労働能率の増進に資する設備であること
- 事業場内に設置し、対象労働者の業務に使用すること
- 中古設備も対象となる場合があるが、適正価格であること・耐用年数が確保されること・相見積もりによる価格妥当性の説明等が求められる
- 事業実施期間内に設備の納入・支払・稼働開始を完了すること
- 業務改善計画書に記載した目的・効果と整合すること
5. 申請の流れと標準スケジュール
5-1. 申請手順
- 事業場内最低賃金の現状確認・地域別最低賃金との差額計算
- 業務改善計画書・賃金引上げ計画書・設備投資計画書の作成
- 設備投資の見積書取得(価格妥当性確認のため、可能な限り2社以上の相見積もりを取得することが望ましい)
- 交付申請書一式を都道府県労働局(雇用環境・均等部/室)へ提出
- 労働局審査(標準処理期間1〜3か月)
- 交付決定通知書の受領
- 設備の発注・契約・納入(必ず交付決定後)
- 賃金引上げの実施・就業規則改定・労働条件通知書の差替え
- 事業実績報告書・賃金台帳・領収書・実施報告書類の労働局提出
- 労働局確認後、助成金の支給
- 引上げ後の賃金維持・効果報告(事業終了後も継続義務)
5-2. 令和8年度のスケジュール
- 申請受付開始:9月1日
- 申請期限:地域別最低賃金の発効日前日または同年11月末日のいずれか早い方
- 事業完了期限:原則として交付決定年度の1月31日。納品・支払・賃金引上げをいずれも期限までに完了する必要あり。やむを得ない理由がある場合は、理由書等を提出することで3月31日まで延長される場合あり
- 計画策定→助成金入金まで:おおむね9か月〜1年程度
最低賃金の発効が早い地域ほど締切が前倒しになるため、9月の申請受付開始前に計画策定を済ませておくことが重要です。設備の納期が長い場合(製造機械等)、事業完了期限(1月31日)までに納入完了できるかが最大のリスクとなります。
6. 注意点・落とし穴
6-1. 交付決定前の発注は対象外
交付決定通知書を受領する前に発注書・契約書・見積書承諾・前金振込のいずれかを行った設備は、原則として全額対象外となります。「先に発注して見積書だけ後で取り直す」「後付けで契約日を改ざんする」は重大な不正受給となり、返還+加算金+公表+刑事告発の対象です。設備発注は必ず交付決定日以降に行います。
6-2. 賃金引上げと設備投資の実施タイミングが異なる
賃金引上げは原則として申請後に行う必要があり、設備投資は交付決定後に行う必要があります。両者のタイミングを混同して設備を交付決定前に発注すると全額不支給となるため、計画段階で時系列を明確に整理する必要があります。
6-3. 賃金引上げの継続維持義務
引上げ後の事業場内最低賃金を継続維持する必要があり、事後的に引下げると助成金の返還対象となります。経営悪化時の賃金引下げを想定する場合は、申請前に慎重な検討が必要です。
6-4. 計画変更の制限
交付決定後の設備変更・引上げ額変更等は原則として変更交付申請が必要で、大幅な変更は認められない場合があります。事前の慎重な計画策定が重要です。
6-5. 事業場内最低賃金の判定誤り
事業場内最低賃金は、その事業場で実際に支払われている最も低い時間給で判定します。正社員のみで計算してパート・アルバイトの時給を見落とすと、申請時点で対象労働者の引上げが漏れて不交付となるリスクがあります。賃金台帳の全員分を確認することが必要です。
7. 特例事業者・対象経費拡大の確認ポイント
業務改善助成金では、一般的な補助金のような「加点項目」による採択順位の競争ではなく、要件適合性で支給可否が判断されます。実務上重要な確認ポイントは以下のとおりです。
- 特例事業者該当性:賃金要件(事業場内最低賃金1,000円未満)または物価高騰等要件(利益率3ポイント以上低下)を満たすか
- 10人以上区分の活用:特例事業者該当の場合、助成上限額が大幅に拡大
- 事業場規模30人未満の特例:助成上限額が別途拡大される
- 対象経費の拡大:物価高騰等要件達成時は、パソコン・スマートフォン・タブレット・周辺機器、定員7人以上または車両本体価格200万円以下の乗用自動車等も助成対象
- 対象労働者の確認:雇用保険被保険者・雇入れ後6か月以上要件の充足
- 賃金引上げ時期:申請後・交付決定前後のタイミング管理
- 対象経費の整理:交付決定後の発注・事業完了期限内の支払
8. 申請書類の整備ポイント
8-1. 業務改善計画書
「現在の業務上の課題」「導入する設備・コンサル・研修の内容」「導入による生産性向上の見込み」「賃上げ原資確保のロジック」を明確に記載します。労働局審査では、設備投資と賃上げの因果関係が最も重視されます。
8-2. 賃金引上げ計画書
引上げ対象労働者の氏名・現行時給・引上げ後時給・引上げ実施予定日を一覧化します。事業場内最低賃金の引上げ前後の比較表、地域別最低賃金との関係、就業規則の改定案を添付します。
8-3. 設備投資計画書
設備の仕様・台数・設置場所・使用業務・取得価額・納期・見積書(可能な限り2社以上)を整理します。コンサルの場合は契約書案・成果物の明示が必要です。
8-4. 必須添付書類
- 事業者の登記事項証明書(法人)または開業届(個人事業主)
- 直近期の決算書
- 賃金台帳(直近3か月分)
- 就業規則(賃金規定を含む)
- 労働者名簿・労働条件通知書
- 設備の見積書・仕様書・カタログ
- 労働保険料納付証明書
- 納税証明書
9. 不採択(不支給)になる典型理由と対策
- 設備投資と賃上げの因果関係が不明確 → 投資の生産性向上効果を数値で具体化、削減時間×時給で人件費削減効果を試算
- 対象労働者の雇用期間6か月未満 → 雇入れ日から6か月経過後に申請
- 賃金引上げを申請前に実施してしまった → 賃金引上げは原則として申請後
- 設備を交付決定前に発注してしまった → 設備発注は必ず交付決定後
- 見積書の合理性が説明できない → 可能な限り2社以上の相見積もり取得、1社の場合は理由書を添付
- 賃金台帳・就業規則の不整合 → 申請前に労務書類の整備、賃金規定の改定案を準備
- 解雇・賃下げの不交付措置抵触 → 申請前6か月の労務状況を確認
- 事業完了期限(1月31日)までに設備納入が間に合わない → 設備メーカーと納期確認を計画策定段階で実施
10. 関連助成金・補助金との併給
10-1. キャリアアップ助成金との関係
キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)と業務改善助成金は、賃金引上げを伴う点で制度目的が近く、併給調整の対象となる場合があります。同一の賃金引上げ・同一経費を重複して助成対象にできるとは限らないため、申請前に労働局または社労士へ確認する必要があります。
10-2. ものづくり補助金・IT導入補助金との関係(行政書士業務範囲)
設備投資は業務改善助成金(厚生労働省)の対象である一方、より大規模な設備投資はものづくり補助金(経済産業省所管・通常枠750万円〜1,250万円・製品サービス高付加価値化枠750万円〜2,500万円・グローバル枠最大3,000万円)、ITツール導入はIT導入補助金(枠により50万円〜450万円、通常枠・インボイス対応類型・セキュリティ対策推進枠等)の対象となることがあります。
業務改善助成金(雇用保険二事業・社労士業務範囲)と、ものづくり補助金・IT導入補助金(経済産業省系・行政書士業務範囲)は、所管省庁・根拠法・士業の業務範囲がすべて異なります。設備投資額・賃上げ計画の有無・主たる事業目的により、適切な助成金・補助金を選び分けます。
10-3. 賃上げ促進税制との関係
業務改善助成金で賃金を引き上げた場合、税制面では賃上げ促進税制(中小企業向け:雇用者全体の賃上げ率1.5%以上で給与等増加額の15%、2.5%以上で30%を法人税額から控除)の対象となることがあります。令和6年度税制改正により中小企業は最大5年間の繰越控除が可能となり、適用期限は令和9年3月31日まで延長されました。令和8年度税制改正大綱では教育訓練費の10%上乗せ措置が廃止され、最大控除率は45%(令和7年度)から35%(令和8年度)に変更予定です。賃上げ促進税制の税額控除申告は税理士業務であり、助成金と税制控除は別制度のため、両方の活用を検討します。
11. 業務範囲の整理(業際)
11-1. 業務改善助成金は社会保険労務士の独占業務
業務改善助成金は、雇用保険法第62条(雇用安定事業)・第63条(能力開発事業)に基づく厚生労働省の助成金です。雇用保険法は社会保険労務士法別表第1の「労働社会保険諸法令」に含まれるため、業務改善助成金の申請書類作成・労働局への提出代行は、社会保険労務士法第2条第1項第1号(申請書等の作成)・第1号の2(提出代行)の社労士独占業務に該当します。
社会保険労務士法第27条は「社会保険労務士でない者は、他人の依頼を受け報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務を業として行つてはならない」と定めており、違反は同法第32条の2により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象となります。当所(行政書士法人)では、業務改善助成金の申請書類作成・提出代行は取り扱わず、ご相談いただいた場合は提携社会保険労務士をご紹介します。
11-2. 当所が対応可能な範囲(補助金関連)
業務改善助成金そのものは社労士業務ですが、設備投資・販路開拓・新事業展開を伴う取組みでは、経済産業省系の補助金が活用できる場合があります。経済産業省系補助金の申請書類作成・提出代理は行政書士業務範囲(行政書士業務・第1条の3第1項第1号)として当所がサポート可能です。
- ものづくり補助金(通常枠750万円〜1,250万円、製品サービス高付加価値化枠750万円〜2,500万円、グローバル枠最大3,000万円)
- IT導入補助金(通常枠・インボイス対応類型・セキュリティ対策推進枠等、50万円〜450万円)
- 小規模事業者持続化補助金(通常枠50万円〜250万円、賃金引上げ特例あり)
- 中小企業新事業進出補助金(事業再構築補助金後継、最大9,000万円)
- 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型・一般型)
これら行政書士業務範囲の補助金については、事業計画書・申請書類の文案作成、見積書整備、加点項目対応、採択後の実績報告まで、完全成果報酬型・着手金0円・成功報酬8〜15%・不採択時は完全無料でサポートします。なお、2026年1月1日施行の行政書士法改正により、第19条第1項に「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の文言が追加され、補助金申請書類作成の行政書士独占業務性が明文化されています。
11-3. 他士業の業務範囲
- 業務改善助成金・キャリアアップ助成金等の雇用保険二事業助成金の申請代行 → 社会保険労務士業務(社労士法第2条第1項第1号・第1号の2)
- 就業規則・賃金規定の作成・改定 → 社会保険労務士業務(社労士法第2条第1項第2号:労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成)
- 労働基準監督署への就業規則届出 → 社会保険労務士業務
- 労使紛争・解雇トラブル・労働審判 → 弁護士業務(弁護士法第72条)
- 給与計算・年末調整 → 社会保険労務士・税理士業務
- 賃上げ促進税制の税額控除申告 → 税理士業務(税理士法第2条)
- 会社設立・登記変更 → 司法書士業務
助成金関連の情報整理サポート
助成金関連の情報整理について、行政書士法人Treeで対応します。雇用関係助成金(厚生労働省系)の申請書作成・代行は社会保険労務士業務(社労士法第2条第1項各号)です。
FAQ|よくあるご質問
Q1. 事業場内最低賃金とは何ですか?
その事業場で支払われている最も低い時間給額を指します。正社員のみではなく、パート・アルバイト等を含む全労働者の中で最も低い時給で判定します。地域別最低賃金(東京都は令和7年10月3日から1,226円、全国加重平均1,121円)と比較して引上げ計画を立てます。なお、業務改善助成金では「雇入れ後6か月以上を経過した雇用保険被保険者」の事業場内最低賃金を引き上げる必要があります(令和7年度から3か月以上→6か月以上に変更)。
Q2. 令和8年度の50円コースで助成額はいくらですか?
引上げ対象労働者数・事業場規模・特例事業者該当性により50万円〜190万円程度(公募回により変動)。設備投資額がそれを下回る場合は実費が上限となります。
Q3. 申請から入金までどのくらいかかりますか?
計画策定→交付申請→交付決定(1〜3か月)→事業実施(設備納入・賃上げ実施・2〜6か月)→実績報告→審査→入金で、合計9か月〜1年程度を見込みます。事業完了期限は原則として交付決定年度の1月31日です。
Q4. パート・アルバイトの賃金引上げも対象ですか?
対象となる場合があります。ただし、令和8年度の業務改善助成金では、雇用保険被保険者で雇入れ後6か月を経過した労働者の事業場内最低賃金を引き上げる必要があります。パート・アルバイトであっても、雇用保険加入状況・雇入れ後期間等を確認する必要があります。
Q5. 一度引き上げた賃金を後で下げてもいいですか?
原則不可です。引上げ後の賃金水準を継続維持する義務があり、違反は助成金返還対象となります。経営悪化時の賃金引下げを想定する場合は、申請段階での慎重な検討が必要です。
Q6. 不採択(不支給)になったら再申請できますか?
はい。次回公募で再申請可能です。不採択理由を確認し、業務改善計画の論理性強化・見積書整備・対象労働者要件の精査等の改善で再挑戦するのが一般的です。なお、業務改善助成金の申請書類作成・労働局対応は社会保険労務士の業務範囲です。
Q7. 個人事業主でも申請できますか?
はい。中小企業基本法上の小規模事業者として、個人事業主も対象です。開業届・確定申告書・賃金台帳・労働条件通知書・労働保険料納付証明書等の整備が前提となります。
Q8. 行政書士法人Treeは業務改善助成金の申請代行をしてくれますか?
業務改善助成金は雇用保険法第62条・第63条に基づく助成金であり、申請書類作成・労働局への提出代行は社会保険労務士の独占業務(社労士法第2条第1項第1号・第1号の2、第27条)です。当所では本助成金の申請代行は取り扱わず、ご相談いただいた場合は提携社会保険労務士をご紹介します。設備投資をご検討の場合は、ものづくり補助金・IT導入補助金等の経済産業省系補助金(行政書士業務範囲)との使い分けも含めてご相談ください。
Q9. ものづくり補助金との同時申請は可能ですか?
同一の設備投資について両方を受給することはできません。ただし、業務改善助成金で対象とする設備A、ものづくり補助金で対象とする設備Bを別個に申請するなど、対象経費を明確に分けて同時期に活用することは可能です。事前に綿密な計画調整が必要です。
Q10. 自動車は助成対象になりますか?
令和8年度では、通常の自動車は特殊用途自動車を除き助成対象外です。車両購入を計画に含める場合は、対象経費となる特殊用途自動車に該当するか、事前に労働局へ確認する必要があります。特例事業者の物価高騰等要件達成時は、定員7人以上または車両本体価格200万円以下の乗用自動車も助成対象に含まれる特例があります。
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まとめ
業務改善助成金は、事業場内最低賃金引上げと生産性向上のための設備投資・コンサル・人材育成をセットで支援する厚生労働省の助成金です。令和8年度は50円・70円・90円の3コース体制、助成率は1,050円基準(1,050円未満4/5、1,050円以上3/4)に簡素化、生産性要件は廃止継続、対象労働者は雇用保険被保険者で雇入れ後6か月以上、事業完了期限は1月31日が原則となりました。最大の落とし穴は交付決定前の設備発注は対象外であること、賃金引上げは申請後・設備投資は交付決定後のタイミング管理、賃上げ後の継続維持義務です。なお、業務改善助成金は雇用保険法に基づく助成金として、申請書類作成・労働局への提出代行は社会保険労務士の独占業務です。当所(行政書士法人)では本助成金については提携社会保険労務士をご紹介します。一方、設備投資・販路開拓・新事業展開を伴う取組みでは、ものづくり補助金・IT導入補助金・小規模事業者持続化補助金・中小企業新事業進出補助金等の経済産業省系補助金(行政書士業務範囲)が活用できる場合があり、当所はこれら補助金の申請代行を完全成果報酬型・着手金0円・成功報酬8〜15%・不採択時無料でサポートします。社労士・税理士・弁護士・司法書士という業際を踏まえ、専門家チームで対応します。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・社会保険労務士等の専門家にご確認のうえご判断ください。


