在留期限を過ぎたまま日本に残ってしまった、在留資格を取り消されて指定された出国猶予期間を過ぎてしまった——こうした状況にある方やその雇用主・家族は、「このまま入管に出頭したら収容されるのか」「二度と日本に来られなくなるのか」という不安を抱えがちです。入管法には、こうした不法残留者のうち一定の要件を満たす方について、収容をしないまま簡易な手続で日本から出国してもらう「出国命令制度」が設けられています。退去強制(強制送還)とは別の手続であり、その後の上陸拒否期間の長さも大きく異なります。
出国命令制度は平成16年の入管法改正で創設され(同年12月2日施行)、令和5年改正入管法の施行日である令和6年6月10日から対象者の範囲が広がりました。同時に、退去強制令書の発付を受けた方が自費で出国する場合に上陸拒否期間を5年から1年に短縮できる「上陸拒否期間の短縮決定」も新設されています。本記事では、出国命令制度の法的な位置づけ、退去強制手続との違い、入管法24条の3が定める要件、出頭から出国までの流れ、条件違反の効果、そして上陸拒否期間(1年・5年・10年)の区別まで、条文と出入国在留管理庁の公表資料に基づいて実務目線で解説します。
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目次
出国命令制度とは|収容されずに出国できる簡易手続
制度の概要と法的な位置づけ
出国命令制度は、入管法違反者のうち一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま簡易な手続により出国させる制度です。対象者の要件は入管法第24条の3に、手続そのものは第5章の3(第55条の84〜第55条の88)に規定されています。
入管法第24条の3は、同法第24条第2号の4、第4号ロ又は第6号から第7号までのいずれかに該当する外国人で、第24条の3各号のいずれにも該当するもの(これを「出国命令対象者」といいます)については、第24条の規定にかかわらず、第5章第1節から第3節まで及び第5章の3に規定する手続により出国を命ずるものとする、と定めています。つまり、本来であれば退去強制の対象となる方であっても、法律上の要件を満たせば退去強制ではなく出国命令のルートに乗る、という構造です。
制度の最大の特徴は、身柄を収容されないことです。入管法第55条の84第1項は、入国警備官は容疑者が出国命令対象者に該当すると認めるに足りる相当の理由があるときは、第39条第1項の規定にかかわらず違反事件を入国審査官に引き継がなければならないと定めており、収容令書による収容を経ずに手続が進みます。また同法第47条第2項後段は、出国命令を受けたときは、被監理者である場合を除き直ちに放免しなければならないとしています。
平成16年に創設され、令和6年6月10日に対象が拡大
出入国在留管理庁の公表資料によれば、出国命令制度は平成16年の入管法改正で創設され、平成16年12月2日に施行されました。創設当初の対象は、違反調査が始まる前に自ら入管に出頭した方に限られていました。
これが令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)によって拡大されます。違反調査の開始後であっても、入国審査官の違反審査により退去強制事由に該当する旨の認定通知を受ける前に、速やかに出国する意思があることを表明した方も対象に加わりました(入管法第24条の3第1号ロ)。摘発された方であっても、早い段階で自発的な帰国の意思を示せば出国命令の対象になり得るという点が、実務上の大きな変更点です。
数字で見る出国命令の運用状況
出入国在留管理庁「令和5年改正入管法の運用状況」によれば、出国命令書の交付件数は、令和5年6月〜12月が5,799件、令和6年6月〜12月が5,901件(施行日である令和6年6月10日以降の速報値)でした。このうち、従来型の自主出頭ルート(入管法24条の3第1号イ)が4,833件、令和6年6月10日に新設された摘発後の意思表明ルート(同号ロ)が1,068件となっています。改正から半年強で1,000件を超える利用があったことになります。その後、出入国在留管理庁「令和7年における入管法違反事件について」によれば、令和7年中に出国命令書を交付した件数は9,807件、出国命令により出国した者は9,789人でした。
母数となる不法残留者の数についても確認しておきます。出入国在留管理庁「本邦における不法残留者数について(令和8年1月1日現在)」によれば、令和8年1月1日現在の不法残留者数は68,488人で、前年同期の74,863人から6,375人(8.5%)減少しました。在留資格別では「短期滞在」が41,607人と最も多く、次いで「技能実習」9,323人、「特定活動」7,306人となっています。国籍・地域別ではベトナム11,601人、タイ10,907人、韓国10,020人の順です。
退去強制との違い|収容・手続の重さ・上陸拒否期間で比較
手続の流れが違う
退去強制手続は、入国警備官による違反調査(入管法第27条)から始まり、収容令書による収容または収容に代わる監理措置(第44条の2)、入国審査官による違反審査(第45条・第47条)、特別審理官による口頭審理(第48条)、法務大臣への異議の申出(第49条)という三審制的な構造をとり、最終的に退去強制令書が発付されて送還に至ります。
これに対して出国命令手続は、入国警備官から入国審査官への違反事件の引継ぎ(第55条の84第1項)、入国審査官による出国命令対象者該当性の審査(同条第2項)、主任審査官による出国命令と出国命令書の交付(第55条の85)という、はるかに簡素な流れです。口頭審理や異議の申出といった段階を経ることなく、短期間で出国に至ります。
収容されるかどうかが違う
退去強制手続では、主任審査官が逃亡・証拠隠滅のおそれの程度や収容による不利益の程度その他の事情を考慮して、収容するか監理措置に付するかを審査します(入管法第39条第2項、第44条の2第1項)。監理措置は令和5年改正で創設された制度で、監理人の監理の下で収容せずに退去強制手続を進めるものですが、収容される可能性が残ることに変わりはありません。
一方、出国命令の対象者と認められれば、そもそも収容手続に進みません。入管法第55条の84第1項が「第39条第1項の規定にかかわらず」と規定しているのは、まさにこの趣旨です。これが、自発的な出頭・帰国を促すインセンティブの中核になっています。
出国後の上陸拒否期間が違う
退去強制を受けた場合、原則として退去の日から5年(過去に退去強制歴・出国命令による出国歴がある、いわゆるリピーターの場合は退去の日から10年)は日本に上陸できません(入管法第5条第1項第9号ハ・ニ)。これに対して出国命令により出国した場合は、原則として出国した日から1年です(同号ホ)。この差が、当事者にとって最も切実な違いといえます。
比較表
| 項目 | 退去強制手続 | 出国命令手続 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 入管法第24条、第5章 | 入管法第24条の3、第5章の3 |
| 収容 | 収容または監理措置の審査あり | 収容されない(第55条の84第1項) |
| 口頭審理・異議の申出 | あり(第48条・第49条) | なし |
| 交付される書面 | 退去強制令書 | 出国命令書 |
| 出国までの期限 | 期限の定めなし(速やかに送還。収容される場合は送還可能のときまで) | 15日を超えない範囲内で指定 |
| 上陸拒否期間(原則) | 5年(リピーターは10年) | 1年 |
| 費用負担 | 送還費用の負担関係あり | 自費での出国が前提 |
退去強制手続そのものの流れや、在留を認めてもらうための在留特別許可については、退去強制と在留特別許可申請|入管法24条の手続・令和6年6月10日改正・口頭審理・異議申出で詳しく解説しています。
出国命令の対象となる退去強制事由|入管法24条2号の4・4号ロ・6号〜7号
出国命令はすべての入管法違反者に使える制度ではありません。入管法第24条の3は、対象となる退去強制事由を第24条第2号の4、第4号ロ、第6号から第7号までに限定しています。順に見ていきます。
第24条第2号の4|在留資格取消し後の出国猶予期間を経過した場合
法務大臣が在留資格を取り消す場合、一定の類型では30日を超えない範囲内で出国のために必要な期間が指定されます(入管法第22条の4第7項本文)。この指定を受けた方が、指定期間を経過して日本に残留した場合が第24条第2号の4です。在留資格取消通知書に記載された出国期限を過ぎてしまった、という典型的なケースがこれに当たります。
第24条第4号ロ|在留期間を経過して残留した場合(オーバーステイ)
実務上もっとも多いのがこの類型です。在留期間の更新または変更を受けないまま在留期間を経過して日本に残留する場合を指します。在留期間満了日の翌日から不法残留の状態となり、同時に入管法第70条第1項第5号の不法残留罪の構成要件にも該当します。
なお、在留期間の満了日までに在留資格変更または在留期間更新の申請をしており、満了日までに処分がされないときは、処分がされる時または従前の在留期間の満了の日から2か月を経過する日が終了する時のいずれか早い時まで、引き続き従前の在留資格で在留できます(入管法第20条第6項。在留期間の更新については同法第21条第4項で準用)。ただし30日以下の在留期間を決定されている方はこの特例の対象外です。この特例の期間内は不法残留ではありません。申請中かどうかで法的地位がまったく変わりますので、まずは自分の状態を正確に確認することが出発点になります。
第24条第6号から第6号の4まで|上陸許可を受けた方の期間経過・逃亡
寄港地上陸、船舶観光上陸、通過上陸、乗員上陸、緊急上陸、遭難による上陸、一時庇護のための上陸の各許可を受けた方が、旅券または許可書に記載された期間を経過して残留した場合が第6号です。第6号の2は船舶観光上陸の許可を受けた方が帰船せずに逃亡した場合、第6号の3は船舶観光上陸の許可を取り消され出国のために必要な期間を指定されたのにその期間内に出国しない場合(入管法第14条の2第9項)、第6号の4は乗員上陸の許可を取り消され帰船・出国のための期間を指定されたのにその期間内に帰船・出国しない場合(同法第16条第9項)です。
第24条第7号|在留資格取得の60日を経過した場合
日本国籍を離脱した方や、出生などにより上陸手続を経ることなく日本に在留することとなった外国人は、その事由が生じた日から60日に限り在留資格を有することなく在留できます(入管法第22条の2第1項)。この期間を超えて在留しようとする場合は30日以内に在留資格の取得を申請しなければならず、許可を受けずに60日を経過して残留した場合が第7号です。日本で生まれた子の在留資格取得を失念していた、というケースが典型です。
不法入国・不法上陸は出国命令の対象外
ここで重要なのは、不法入国(入管法第24条第1号)や不法上陸(同条第2号)は対象事由に含まれていないという点です。偽造旅券を使って入国した、上陸許可を受けずに上陸したといったケースは、自ら出頭したとしても出国命令ではなく退去強制手続が執られます。出入国在留管理庁のQ&Aでも同旨の説明がなされています。
さらに、対象事由に該当していても、人身取引等を行った場合(第4号ハ)、旅券法違反・薬物事犯・一定の刑罰法令違反(第4号ニ〜リ)、売春関係業務従事(第4号ヌ)、不法入国等の幇助(第4号ル)などにあわせて該当する場合は、後述する第24条の3第2号の要件を満たさず、出国命令の対象から外れます。
出国命令の5要件|入管法24条の3各号の読み方
対象となる退去強制事由に該当したうえで、さらに入管法第24条の3各号のすべてに該当することが必要です。ひとつでも欠ければ出国命令は受けられず、通常の退去強制手続に進みます。
第1号|速やかに出国する意思を表明したこと
第1号はイとロの2つのルートを定めています。
- イ(自主出頭ルート):入管法第27条の規定による違反調査の開始前に、速やかに日本から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者であること。
- ロ(摘発後の意思表明ルート):違反調査の開始後、入管法第47条第3項の規定による通知(入国審査官が退去強制対象者に該当すると認定した旨の通知)を受ける前に、入国審査官または入国警備官に対して速やかに日本から出国する意思がある旨を表明した者であること。
ロは令和6年6月10日に加わったルートです。摘発された後でも間に合いますが、タイムリミットは「認定通知を受ける前」である点に注意が必要です。認定通知を受けてしまうと、その後にいくら出国の意思を示しても第1号ロには乗れません。なお、この意思表明を受けた入国審査官または入国警備官は、当該外国人に対し出国意思確認書(別記第71号の2の2様式)を交付するものとされています(入管法施行規則第50条の51)。
イのルートで自ら出頭した場合は、出頭した官署の職員から出頭確認書(別記第71号の2様式)が交付されます(同規則第50条の50第2項)。出頭は行政機関の休日を除く執務時間中に行う必要があります。
第2号|他の一定の退去強制事由に該当しないこと
入管法第24条第3号から第3号の5まで、第4号ハからヨまで、第8号または第9号のいずれにも該当しないことが必要です。具体的には、不正な証明書等の取得への関与、テロ関連、国際約束による入国防止対象、不法就労助長、在留カード等の偽造・不正使用への関与、人身取引等、旅券法違反等による処罰、薬物事犯、無期または1年を超える拘禁刑、売春関係業務従事、不法入国等の幇助、日本国憲法を暴力で破壊することを企てる団体への加入、法務大臣が日本国の利益・公安を害する行為を行ったと認定した場合などが挙げられています。
第8号は出国命令の出国期限を経過して残留した場合、第9号は出国命令を取り消された場合ですので、いわば「出国命令を一度受けて守らなかった人」を排除する規定です。出入国在留管理庁のQ&Aは、この第2号の要件を「不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと」と平易に説明していますが、条文上は上記のとおり除外事由が列挙されている点を押さえておくと、判断の見通しが立てやすくなります。
第3号|一定の罪により拘禁刑に処せられていないこと
日本に入った後に、刑法第2編第12章(住居を侵す罪)、第16章から第19章まで(通貨偽造・文書偽造等)、第23章(賭博及び富くじ)、第26章(殺人)、第27章(傷害)、第31章(逮捕及び監禁)、第33章(略取・誘拐等)、第36章(窃盗及び強盗)、第37章(詐欺及び恐喝)、第39章(盗品等関係)の罪、暴力行為等処罰に関する法律の一定の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第15条・第16条の罪、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条・第6条第1項の罪、盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律第22条の罪により拘禁刑に処せられたものでないことが要件です。出入国在留管理庁が「窃盗罪等の一定の罪」と説明しているのがこの部分です。
第4号|過去に退去強制歴・出国命令による出国歴がないこと
過去に日本からの退去を強制されたこと、または入管法第55条の85第1項の規定による出国命令により出国したことがないことが必要です。出国命令は一度しか使えない制度であり、上陸拒否期間の経過後に再入国して再び不法残留となった場合、たとえ自ら出頭しても出国命令の対象にはなりません。出入国在留管理庁のQ&Aでも明確に否定されています。
第5号|速やかに出国することが確実と見込まれること
有効な旅券を所持しているか、旅券が失効している場合に本国大使館・領事館で再発給を受けられるか、航空券の手配や渡航費用の目処が立っているか、といった点が実際上の判断材料になります。旅券がない場合は本国官憲での手続に時間を要するため、その分だけ全体のスケジュールが後ろ倒しになります。
出国命令の手続の流れ|出頭先から出国確認まで
どこに出頭するのか
出入国在留管理庁のQ&Aによれば、出頭者に対する違反調査は原則として8か所の地方出入国在留管理局(札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・高松・福岡)または3か所の支局(横浜・神戸・那覇)で行われるため、平日の執務時間内にこれらの官署に出頭することが求められます。それ以外の官署に出頭した場合は、出頭確認書を交付したうえで、上記官署への出頭日時と出頭場所が指示されます。
空港にある官署に出頭した場合も出頭確認書は交付されますが、違反調査等に時間を要するため、原則として出頭した当日に出国することはできないとされています。「帰国便に乗る直前に空港の入管で手続すればよい」と考えるのは誤りですので、注意が必要です。
持参するもの
同Q&Aでは、出頭時には旅券を持参すること、旅券を紛失等により所持していない場合は身分を明らかにする証明書を持参すること、帰国を希望する場合は有効な旅券のほか帰国のための航空券や旅行代理店発行の予約確認書が必要となることが案内されています。ただし、調査に時間を要して事前に準備した航空券が使用できなくなることも考えられるため、まずは最寄りの官署に出頭したうえで問い合わせるよう促されています。
違反調査から出国命令書の交付まで
- 出頭・意思表明:自ら出頭した場合は出頭確認書、摘発後に意思を表明した場合は出国意思確認書が交付されます。
- 入国審査官への引継ぎ:入国警備官は、容疑者が出国命令対象者に該当すると認めるに足りる相当の理由があるときは、違反事件を入国審査官に引き継ぎます(入管法第55条の84第1項)。
- 出国命令に係る審査:入国審査官は、出国命令対象者に該当するかどうかを速やかに審査し、該当すると認定したときは速やかに主任審査官にその旨を知らせます(同条第2項・第3項)。退去強制対象者に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは、入国警備官に差し戻されます(同条第4項)。
- 出国命令・出国命令書の交付:主任審査官は、通知を受けたときは速やかに出国を命じ、15日を超えない範囲内で出国期限を定めます(第55条の85第1項)。あわせて出国命令書(別記第71号の3様式)が交付されます(同条第2項、施行規則第50条の53)。出国命令書には、氏名・年齢・国籍、出国命令の理由、出国期限、交付年月日等が記載され、主任審査官が記名押印します(第55条の86)。
- 出国確認:出国命令を受けた方が出国の確認を受けようとするときは、出国命令書を入国審査官に提出しなければなりません(施行規則第27条第3項)。
どのくらいの期間がかかるか
出入国在留管理庁のQ&Aでは、出頭者の状況(旅券の有無など)にもよるものの、地方出入国在留管理官署に出頭してから出国命令書の交付を受けて出国するまでに概ね2週間程度の日数を要するため、帰国用の航空券等を予約する際には注意するよう案内されています。航空券を先に確定させてしまうと、日程が合わず取り直しになるおそれがあります。
出国命令に付される条件・出国期限の延長・取消しと罰則
付される条件(入管法第55条の85第3項)
主任審査官は、出国命令をする場合に、住居および行動範囲の制限その他必要と認める条件を付することができます。その具体的内容は入管法施行規則第50条の52に定められています。
- 住居:出国命令書により出国するまで居住を予定している住居を指定する(主任審査官が特別の事由があると認めたときを除く)。
- 行動の範囲:指定された住居の属する都道府県の区域内および出国しようとする出入国港までの順路によって定める通過経路(主任審査官が特別の事由があると認めて別に定めた場合を除く)。
- 呼出しへの出頭義務:出頭すべき日時および場所を指定して要求される。
- その他:収入を伴う事業を運営する活動または報酬を受ける活動など、出国の手続に必要な活動以外の活動に従事することの禁止その他特に必要と認める事項。
実務上、最後の点は特に重要です。出国命令を受けている間は就労できません。「出国まであと2週間だから、その間だけ働いて渡航費用を作りたい」という発想は条件違反に直結します。
出国期限の延長(入管法第55条の87)
主任審査官は、出国命令を受けた方から出国期限内に出国できない旨の申出があった場合には、船舶等の運航の都合その他その者の責めに帰することができない事由があると認めるときに限り、出国期限を延長することができます。延長を受けようとする方は、出国期限が満了する日までに出国命令書の交付を受けた官署に出頭し、別記第71号の4様式による申出書を提出しなければなりません(施行規則第50条の54第1項)。やむを得ない事情により当該官署に出頭できない場合は、主任審査官が置かれている他の官署に出頭して提出することで代えられます。延長が認められた場合は、出国命令書に新たな出国期限が記載されます(同条第2項)。
「渡航費用が用意できない」「もう少し身辺整理をしたい」といった事情は、条文の文言上、本人の責めに帰することができない事由には当たりにくいと考えられます。延長は例外的な措置であると理解しておくべきです。
出国命令の取消し(入管法第55条の88)
主任審査官は、出国命令を受けた者が付された条件に違反したときは、出国命令を取り消すことができます。取り消したときは、出国命令取消通知書(別記第71号の5様式)により通知するとともに、所持する出国命令書を返納させます(施行規則第50条の55)。
期限を守らなかった場合・条件に違反した場合の罰則
出国命令は「守らなくても不利益がない」制度ではありません。入管法上、次の効果が生じます。
- 出国期限を経過して残留した場合:退去強制事由(入管法第24条第8号)に該当し、あわせて同法第70条第1項第8号の2により3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科の対象となります。
- 出国命令を取り消された場合:退去強制事由(同法第24条第9号)に該当し、取消し後も残留すれば同法第70条第1項第8号の3により同様の罰則の対象となります。
- 条件に違反して逃亡した場合:同法第72条第8号により1年以下の拘禁刑もしくは20万円以下の罰金、またはその併科の対象となります。
さらに、いずれの場合も第24条の3第4号の要件(過去に出国命令により出国したことがないこと)とは別に、退去強制手続に移行すれば上陸拒否期間は原則5年となります。出国命令を受けた場合は、指定された出国期限内に出国することが何より重要です。
上陸拒否期間の整理|1年・5年・10年はどう決まるか
上陸拒否期間は入管法第5条第1項第9号にイからヘまで6類型が定められています。整理すると次のとおりです。
| 類型(入管法5条1項9号) | 対象 | 期間 |
|---|---|---|
| イ | 第6号・第8号に該当して上陸を拒否された者 | 拒否された日から1年 |
| ロ | 退去強制された者のうち、第52条第5項の短縮決定を受け、法務省令で定める日までに自費出国許可に基づき退去した者(短期滞在の活動を行おうとする者を除く) | 退去の日から1年 |
| ハ | 退去強制された者で、その退去の日前に退去強制歴・出国命令による出国歴がない者(ロを除く) | 退去の日から5年 |
| ニ | 退去強制された者(ロ・ハを除く。いわゆるリピーター) | 退去の日から10年 |
| ホ | 出国命令により出国した者(ヘを除く) | 出国した日から1年 |
| ヘ | 入管法24条の3第1号ロに該当する者であって出国命令により出国したもの(短期滞在の活動を行おうとする者に限る) | 出国した日から5年 |
出国命令でも「5年」になる場合がある
見落とされやすいのが第9号ヘです。摘発後に出国意思を表明したルート(第24条の3第1号ロ)で出国命令を受けた方が、その後「短期滞在」の在留資格で日本に上陸しようとする場合、上陸拒否期間は出国した日から5年となります。出入国在留管理庁も、第1号ロに該当する場合は短期滞在での再入国は5年、それ以外の在留資格であれば1年と説明しています。
つまり、自ら出頭したルート(第1号イ)であれば在留資格を問わず1年ですが、摘発後の意思表明ルートでは観光や親族訪問といった短期滞在目的の再入国だけが5年に据え置かれる、という設計です。自主的な出頭にきちんと差をつける趣旨といえます。
上陸拒否期間が経過したら自動的に入国できるのか
上陸拒否期間が経過すれば、その事由による上陸拒否はなくなります。ただし、再び日本で活動するには、あらためて在留資格に応じた要件を満たす必要があります。就労や配偶者としての在留を予定する場合は在留資格認定証明書の交付申請から始めるのが実務上の基本ルートです。なお、在留資格認定証明書交付申請には手数料はかかりません。在留資格変更許可申請・在留期間更新許可申請の手数料は、2026年9月30日までに受け付けた申請は6,000円(オンライン申請は5,500円)ですが、2026年10月1日以降に受け付けた申請は、許可された在留期間に応じて1万円〜7万5,000円(オンライン申請は1万円〜6万5,000円)になります(令和8年政令第268号)。
また、入管法第5条第1項第9号のほかにも上陸拒否事由はあります。日本国または日本国以外の国の法令に違反して1年以上の拘禁刑またはこれに相当する刑に処せられたことのある者(同項第4号。政治犯罪による場合を除く)や、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤・向精神薬の取締りに関する法令違反により刑に処せられたことのある者(同項第5号)には期間の定めがなく、原則として上陸できません。
上陸拒否期間中の上陸の余地
上陸拒否期間中であっても、口頭審理における特別審理官の認定に対する異議の申出を経て、法務大臣が特別に上陸を許可する場合があります(入管法第12条第1項第3号)。また、法務大臣が再入国の許可を与えた場合その他法務省令で定める場合において相当と認めるときは、当該事由のみによっては上陸を拒否しないこととすることができる特例も定められています(同法第5条の2)。いずれも例外的な措置であり、あらかじめ見込みを立てられる性質のものではありません。原則は「期間が経過するまで上陸できない」と理解しておくべきです。
退去強制でも1年に短縮できる「上陸拒否期間の短縮決定」(入管法52条5項)
令和6年6月10日に新設された制度
令和5年改正入管法により、退去強制令書の発付を受けた方が自らの費用で出国する場合に、上陸拒否期間を5年から1年に短縮する決定を受けられる制度が新設されました(入管法第52条第5項)。出国命令の要件を満たさなかった方にとっても、早期の自発的な帰国を選択する意味が生まれたことになります。
要件と手続
条文上の要件を整理すると次のとおりです。
- 自費出国の許可を受けていること:退去強制令書の発付を受けた者が自らの負担により自ら日本を退去しようとするときは、入国者収容所長または主任審査官が申請に基づき許可することができます(入管法第52条第4項)。
- 過去に退去強制されたこと、出国命令により出国したことがないこと(同条第5項括弧書き)。
- 相当性が認められること:法務大臣が、その者の素行、退去強制の理由となった事実その他の事情を考慮して相当と認めるときに、申請に基づいて決定します。なお、この権限は入管法施行規則の権限委任規定により地方出入国在留管理局長に委任されています。
- 法務省令で定める日までに退去すること:この日は、自費出国許可に係る出国予定日から7日を超えない範囲内で主任審査官が定める日とされています(施行規則第47条の3第3項)。
申請は、別記第64号の3様式による申請書とその他参考となるべき資料各1通を、地方出入国在留管理局に出頭して提出する方法によります(施行規則第47条の3第1項)。申請者が16歳未満であるとき、または疾病その他の事由により自ら申請することができないときは、父母・配偶者・子・親族が代わって申請できます(同条第2項)。決定をした旨の通知は別記第64号の4様式の通知書によって行われます(同条第4項、入管法第52条第6項)。
短期滞在での再入国は5年のまま
短縮決定を受けても、「短期滞在」の在留資格に該当する活動を行おうとする場合は短縮の効果が及ばず、上陸拒否期間は5年のままです(入管法第52条第5項、第5条第1項第9号ロ括弧書き)。出入国在留管理庁のQ&Aでも、短縮決定を受けて自費出国した後に日本へ再入国する場合は在留資格認定証明書の交付を受ける必要があり、短期滞在での入国は5年のままである旨が案内されています。
運用実績
出入国在留管理庁「令和5年改正入管法の運用状況」によれば、上陸拒否期間の短縮決定について、令和6年6月〜12月(施行日である令和6年6月10日以降の速報値)で、申請199件、決定153件、非決定41件、終止1件、未処理4件でした。また、同庁「令和7年における入管法違反事件について」によれば、令和7年中に短縮決定をした件数は348件、短縮決定を受けて出国した者は340人でした。申請すれば必ず認められるものではなく、素行や退去強制の理由となった事実その他の事情を総合的に考慮したうえで判断される点に留意が必要です。
日本での在留を希望する場合と、専門家に相談する際の実務上の注意点
出国命令はあくまで「出国」を前提とした制度
出国命令制度は、速やかに日本から出国することを前提とした制度です。日本人配偶者や日本で育った子がいるなど、日本での在留継続を希望する事情がある場合、出国命令のルートを選択すると在留の道は閉じます。この場合に検討することになるのが在留特別許可(入管法第50条)です。
在留特別許可の申請ができるタイミング
令和5年改正により、在留特別許可には申請手続が創設されました。申請は、収容令書により収容された外国人または監理措置決定を受けた外国人が法務大臣に対して行うものとされ(入管法第50条第2項)、退去強制令書が発付された後はすることができません(同条第3項)。また、在留特別許可そのものは、当該外国人が入国審査官の認定もしくは特別審理官の判定に服し、または法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決した後でなければすることができないとされています(同条第4項)。申請は別記第61号の4様式の申請書等を地方出入国在留管理局に出頭して提出する方法によります(施行規則第44条第2項)。
法務大臣が判断に当たって考慮する事情は条文に明示されており、在留を希望する理由、家族関係、素行、日本に入国することとなった経緯、日本に在留している期間とその間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性のほか、内外の諸情勢や日本における不法滞在者に与える影響その他の事情とされています(入管法第50条第5項)。
出頭しただけで違法状態が解消するわけではない
出入国在留管理庁のQ&Aは、入管に出頭申告しても直ちに不法残留等の状態が解消されるわけではなく、法務大臣から特別に在留が認められない限り入管法に違反している状態に変わりはない、原則として就労も認められていないため摘発されることもある、と明確に注意喚起しています。「出頭したから大丈夫」という理解は誤りです。
行政書士が関与できる範囲を正しく理解する
ここは誤解が生じやすいところですので、明確にしておきます。行政書士の業務は、行政書士法第1条の3第1項により官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類の作成を業とすること、同法第1条の4第1項第1号によりその書類を官公署に提出する手続を代理することとされています。一方、同法第1条の3第2項により、他の法律で制限されている業務は行えません。
出国命令の手続(出頭・違反調査・違反審査)や在留特別許可の申請は、条文上、本人が出入国在留管理官署に出頭して行うことが前提とされており、いわゆる申請取次の対象手続ではありません。したがって、これらの手続そのものを行政書士が代わりに行うことはできません。退去強制手続における代理人としての活動は弁護士の業務範囲です。
行政書士がお役に立てるのは、上陸拒否期間の経過後に、あらためて日本で活動するための在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更許可申請、在留期間更新許可申請などを準備・作成し、申請取次を行う場面です。申請取次の仕組みそのものについては申請取次行政書士とは|ビザ申請で本人出頭が免除される仕組み・入管取次の範囲を解説で解説しています。オンライン申請の利用者情報登録や対象手続については在留資格のオンライン申請|利用者情報登録・対象手続・代理申請の流れもあわせてご覧ください。
そもそも不法残留にしないことがいちばんの対策
ここまで見てきたとおり、いったん不法残留の状態になると、出国命令であっても1年、退去強制であれば原則5年という上陸拒否期間が発生します。もっとも確実な対策は、在留期間満了日までに更新または変更の申請を行うことです。前述のとおり、満了日までに申請していれば、30日以下の在留期間を決定されている場合を除き、一定期間は従前の在留資格で適法に在留できます(入管法第20条第6項、第21条第4項)。
やむを得ない事情で短期滞在から他の在留資格への変更を検討する場合の考え方は、短期滞在から在留資格変更は可能?やむを得ない特別の事情と立証を解説で整理しています。在留期限が迫っている、転職して在留資格との適合性に不安がある、といった段階で早めに専門家に相談することが、結果として最短のリスク回避になります。
在留資格の申請でお困りの方へ。行政書士法人Treeでは、申請取次行政書士が要件の確認・必要書類の作成・出入国在留管理局への申請取次までを一括してサポートします。ご相談は何度でも無料です。
まとめ
出国命令制度は、入管法違反者のうち一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま簡易な手続で出国させる制度です。対象者の要件は入管法第24条の3、手続は第5章の3(第55条の84〜第55条の88)に定められています。平成16年12月2日に施行され、令和6年6月10日から摘発後に出国意思を表明した方にも対象が広がりました。
対象となる退去強制事由は入管法第24条第2号の4、第4号ロ、第6号から第7号までに限られ、不法入国や不法上陸は含まれません。そのうえで、出国意思の表明、他の一定の退去強制事由に該当しないこと、一定の罪による拘禁刑がないこと、過去に退去強制歴・出国命令歴がないこと、速やかな出国が確実と見込まれることという5要件すべてを満たす必要があります。ひとつでも欠ければ通常の退去強制手続に進みます。
手続の実務では、違反調査は原則として8局3支局で行われること、空港での当日出国はできないこと、出頭から出国まで概ね2週間程度を要すること、出国期限は15日を超えない範囲内で定められること、その間は住居・行動範囲の制限を受け就労が禁止されることを押さえてください。期限を経過すれば3年以下の拘禁刑等、条件違反により逃亡すれば1年以下の拘禁刑等の対象となります。
上陸拒否期間は、出国命令なら原則1年、退去強制なら原則5年、リピーターは10年です。ただし摘発後の意思表明ルートで出国命令を受けた方が短期滞在で再入国しようとする場合は5年となります(入管法第5条第1項第9号ヘ)。また、退去強制令書の発付を受けた方でも、自費出国許可を前提に上陸拒否期間の短縮決定(同法第52条第5項)を受ければ1年に短縮され得ますが、短期滞在での再入国は5年のままです。
行政書士法人Treeでは、在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請・在留期間更新許可申請など、行政書士法第1条の3第1項に基づく申請書類の作成と、申請取次行政書士による出入国在留管理局への申請取次をお引き受けしています。上陸拒否期間の経過後にあらためて日本で活動したい方、在留期限が迫っていて不法残留を避けたい方は、早い段階でご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。


