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送出国インドの特定技能|送出機関の利用は任意という制度の実際とMOCの位置づけ

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特定技能制度の送出国というと、ベトナム・インドネシア・ミャンマー・フィリピンといった顔ぶれが真っ先に思い浮かびます。しかしここ数年、受入企業からの問い合わせが目に見えて増えているのがインドです。世界最大の人口を抱え、2025年8月の日印首脳会談では「5年間で双方向50万人超、うちインドから日本へ5万人の熟練した人材及び将来性のある人材」という数値目標まで掲げられました。

一方で、実務の現場では「インドから受け入れたいが、送出機関はどこを使えばよいのか」「政府の認定リストはあるのか」「現地で何か証明書を取らせる必要があるのか」といった、ごく基本的な段階でつまずくケースが目立ちます。実はインドは、他の主要送出国と比べて送出しの手続構造がかなり異例です。この違いを知らずにベトナム型・インドネシア型の段取りを前提に動くと、時間も費用も無駄になりかねません。

本記事では、2021年1月に交換された日印間の協力覚書(MOC)を出発点に、出入国在留管理庁が公表しているインド向けの手続資料、最新の在留統計、試験実施状況報告書、そして2025年8月の日印人材交流・協力アクションプランまでを一次資料にあたって整理し、インドからの受入れを検討する企業が押さえるべき論点を実務目線で解説します。

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インドとの特定技能MOCは2021年1月18日にニューデリーで交換された

特定技能制度では、外国人の円滑かつ適正な送出し・受入れを確保するため、日本政府が送出国政府との間で協力覚書(MOC:Memorandum of Cooperation)を作成しています。出入国在留管理庁が公表している一覧によれば、フィリピン、カンボジア、ネパール、ミャンマー、モンゴル、スリランカ、インドネシア、ベトナム、バングラデシュ、ウズベキスタン、パキスタン、タイ、インド、マレーシア、ラオス、キルギス、タジキスタンが対象となっています。

このうちインドとのMOCは、2021年(令和3年)1月18日、ニューデリーにおいて英語により2通作成されました。出入国在留管理庁が公表している和文(仮訳)の正式名称は「日本国政府とインド政府との間の『特定技能』に係る制度の適正な運用のための連携の基本的枠組みに関する協力覚書」です。

権限のある当局と連絡窓口

MOC第3項(2)は、実施に関する「権限のある当局」を次のとおり定めています。日本国政府側は法務省、外務省、厚生労働省及び警察庁の4省庁、インド政府側は外務省及び技能開発・起業促進省の2省です。

さらに第2項では連絡窓口を指定しており、日本側は出入国在留管理庁政策課、インド側は覚書全般の中心的連絡先が外務省在外インド人第1課、技能試験及び日本語能力の測定試験に関する中心的連絡先が技能開発・起業促進省ICウイングとされています。インド側で「制度全般」と「試験」の窓口が別々の省に分かれている点は、後述する現地の実務上の課題とも関係します。

MOCが定める情報連携の枠組み

MOC第4項(1)は、両政府が速やかに共有すべき情報として、特定技能外国人の求人・求職に関与する仲介機関による次の行為を列挙しています。

  • 保証金の徴収その他名目のいかんを問わず、本人・親族等の金銭その他の財産を管理すること
  • 契約の不履行について違約金を課す契約その他の不当に金銭等の移転を予定する契約をすること
  • 暴行、脅迫、自由の制限その他人権を侵害する行為
  • 出入国管理制度上・査証制度上の手続に関し、不正に許可や査証を受けさせる目的で偽造・変造・虚偽の文書等を行使し、又は提供する行為
  • 本人から徴収する手数料その他の費用について、算出基準を示さず、額及び内訳を十分に理解させないまま徴収する行為

また第4項(2)により、両政府の職員から構成される合同作業部会を設立し、定期又は随時に協議を行うこととされています。第5項では試験における協力、第6項では分野ごとの受入れ一時停止と、在留条件を満たさなくなった者の円滑な帰国確保(臨時旅券の発給等)が定められています。

MOCの有効期間と法的性格

MOC第9項によれば、この覚書は署名日から開始され、終了を希望する日の90日前までに書面で通告しない限り10年間継続し、同じ期間自動的に更新されます。2021年1月18日開始ですので、通告がなければ2031年1月に自動更新される計算になります。

ここで実務上重要なのは、MOCは条約ではなく行政機関間の協力文書であるという点です。第8項では紛争解決について「第三者又は裁判所に頼ることなく、両国の政府間で、交渉及び協議を通じて友好的に解決される」と定めており、MOC自体が受入企業に直接の権利義務を発生させるものではありません。受入企業が従うべきルールは、あくまで出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)とその関係省令・告示、そして相手国の国内法令です。

合同作業部会(二国間協議)の開催実績

出入国在留管理庁は「特定技能制度に係る二国間協議日程及び議題概要」として、MOC作成日以降の協議の実施状況を公表しています。2026年7月31日現在の資料によれば、インドとの協議は次の4回が記録されています。

  • 2021年2月8日(オンライン) 議題:送出手続の確認、その他
  • 2021年4月19日(オンライン) 議題:送出手続の確認、その他
  • 2022年8月2日(対面) 議題:特定技能試験に係る調整、その他
  • 2023年10月3日(対面) 議題:特定技能試験に係る調整、その他

注目したいのは議題の推移です。MOC締結直後の2回は「送出手続の確認」が中心でしたが、2022年以降は「特定技能試験に係る調整」に軸足が移っています。インドの場合、送出しの制度設計そのものよりも、現地で試験をどう実施していくかが日印間の実務的な焦点になってきたことがうかがえます。この点は、後述する試験インフラの整備状況とも符合します。

ちなみに同じ資料では、ベトナムが9回、インドネシアが10回と協議回数が突出しています。協議の頻度は制度運用上の調整事項の多さを反映するため、回数が少ないことは必ずしも整備の遅れを意味しません。インドの場合は、そもそも調整すべき送出し制度の要素が少ないという事情もあります。

MOC締結後、インドの「派遣プロセス」はどこまで整備されたか

MOC締結を受けて、出入国在留管理庁はインドからの送出し手続を公表しています。同庁ウェブサイトの「インドに関する情報」には、フローチャートと「インド国籍の方々を特定技能外国人として受け入れるまでの手続の流れ」という解説資料が掲載されています。

最大の特徴は「送出機関の利用が任意」であること

結論から言えば、インドの派遣プロセスの最大の特徴は政府認定送出機関を経由する義務がないことです。出入国在留管理庁の解説資料は次のように述べています。

インドの制度上、送出機関の利用は任意とされており、受入機関は、送出機関を通じて人材の提供を受け、特定技能に係る雇用契約を締結する方法のほか、送出機関を通じることなく、直接インド国籍の方との間で特定技能に係る雇用契約を締結する方法のいずれを採ることも可能とのことです。

ただし、送出機関の利用が任意とされている国はインドだけではありません。出入国在留管理庁の案内では、インドネシア(職業紹介事業者P3MIの利用)、タイ、バングラデシュ、パキスタン、キルギスについても送出機関の利用は任意とされています。一方で、ベトナムでは認定送出機関との「労働者提供契約」の締結や推薦者表の承認、フィリピンでは移住労働者事務所(MWO)での審査と海外雇用許可証(OEC)の取得、インドネシアでは海外労働者管理システム(SISKOP2MI)への登録など、送出国側で求められる手続があります。インドは送出機関の利用に加えてeMigrate登録も任意とされており、公表資料上、送出国側で必須とされる特定技能の手続が示されていない点が特徴です。

言い換えれば、インドからの受入れは「政府が用意したレールに乗る」のではなく、受入機関が自らルートを組み立て、その適正性を自ら担保する形になります。手続が少ない分だけ楽に見えますが、実務上はむしろ受入機関側の目利きと管理責任が重くなる構造だと理解しておくべきです。

eMigrate登録も義務ではなく任意

インドには、海外へ労働者を派遣することを目的にインド政府が管理するeMigrateというシステムがあります。出入国在留管理庁のフローチャートには次の注記が付されています。

インド側によると、海外へ労働者を派遣することを目的にインド政府が管理するシステムであるeMigrateにオンラインで登録を行うことができますが、登録は義務ではなく任意とのことです。

手続解説資料でも、eMigrate登録は「インド側の手続」として紹介されつつ、明確に「※登録は任意」と付記されています。つまり、登録がないことを理由に日本側の在留資格審査が不利に扱われる仕組みにはなっていないというのが公表資料から読み取れる現状です。

「任意」でも法令上問題がない理由

ここで根拠条文を確認しておきます。特定技能1号の上陸許可基準は、出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(いわゆる上陸基準省令)の「法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄第一号に掲げる活動」の項に定められています。その第1号に加えて、同項第4号は次のように規定しています。

申請人が国籍又は住所を有する国又は地域において、申請人が本邦で行う活動に関連して当該国又は地域において遵守すべき手続が定められている場合にあっては、当該手続を経ていること。

この規定は「定められている場合にあっては」という条件付きです。ベトナムやインドネシアのように送出国側で遵守すべき手続が定められている国では、その手続を経ていることが上陸許可基準になります。これに対しインドについては、出入国在留管理庁の公表資料上、必須とされる送出し手続が示されていません。したがって、インドの場合はこの第4号を満たすために現地で取得すべき特別な証明書等が想定されていない、という整理になります。

もっとも、これは「インド側で何をしてもよい」という意味ではありません。同項第2号は保証金の徴収や違約金契約がないこと、第3号は外国の機関に費用を支払っている場合にその額及び内訳を十分に理解して合意していることを求めています。手続が任意である分、費用の透明性については受入機関が能動的に確認しなければならないのです。

インドからの受入れでよくある3つの誤解

相談の現場で繰り返し出てくる誤解を整理しておきます。

誤解1:「インド政府の認定送出機関リストがあるはずだ」――特定技能についてはそのようなリストは存在しません。技能実習制度には外国人技能実習機構が公表する外国政府認定送出機関一覧があり、インドについても認定機関が掲載されていますが、これは技能実習の枠組みです。特定技能の受入れにあたって、この一覧への掲載が要件になるわけではありません。

誤解2:「eMigrateに登録しないと出国できない」――出入国在留管理庁の公表資料上、eMigrate登録は任意とされています。なお、インドには渡航先国によって出国審査(Emigration Clearance)を要する仕組みがありますが、公開情報上、日本はその対象国として指定されていません。ただし相手国の運用は変わり得るため、実際の渡航直前には駐日インド大使館などインド側の窓口で最新の取扱いをご確認ください。

誤解3:「MOCがあるから採用がスムーズになる」――MOCは情報連携と協議の枠組みであり、採用や査証発給を優遇する仕組みではありません。むしろMOCの実質的な機能は、保証金徴収や違約金契約といった不適正な仲介行為の情報を両国政府が共有し、排除していく点にあります。受入機関にとっては「使える制度」ではなく「守るべき水準」を示す文書と捉えるのが実態に即しています。

日本側の手続の流れ──新規入国と国内在留者で分かれる

出入国在留管理庁の解説資料は、インド国籍者の受入れを2つのパターンに整理しています。

インドから新たに受け入れる場合

  1. 雇用契約の締結:受入機関が特定技能に係る雇用契約を締結します。送出機関経由でも直接締結でも可能です。
  2. 在留資格認定証明書の交付申請:受入機関が地方出入国在留管理官署に申請します(入管法第7条の2)。交付後、雇用契約の相手方に同証明書を送付します(オンライン申請で電子交付を受けた場合は、電子メールで送付することもできます)。
  3. 査証発給申請:来日を希望する本人が、在インド日本国大使館に在留資格認定証明書を提示して査証発給申請を行います。
  4. 入国・在留:上陸審査で上陸条件に適合していると認められれば上陸が許可され、「特定技能」の在留資格が付与されます。
  5. eMigrate登録:インド側の手続として案内されていますが、前述のとおり任意です。

日本に在留する方を受け入れる場合

すでに留学や技能実習などの在留資格で日本に在留しているインド国籍者を採用する場合は、雇用契約を締結したうえで、本人が地方出入国在留管理官署に対して「特定技能」への在留資格変更許可申請(入管法第20条)を行います。変更が許可されれば手続は完了で、インド側の手続は特に案内されていません。

なお在留資格変更許可申請及び在留期間更新許可申請の手数料は、2026年9月30日までに受け付けた申請は各6,000円(オンライン申請の場合は5,500円)ですが、2026年10月1日以降に受け付けた申請は、許可された在留期間に応じて1万円〜7万5,000円(オンライン申請は1万円〜6万5,000円)になります(令和8年政令第268号)。手数料は申請時ではなく、許可を受けるときに納めます。在留資格認定証明書交付申請には手数料がかかりません。

職業安定法上の留意点

出入国在留管理庁のフローチャートには、職業安定法に基づく職業紹介事業者について厚生労働省の資料を参照するよう注記が付されています。日本国内で有料職業紹介事業を行うには、国外にわたる職業紹介を行う場合も含め、職業安定法第30条第1項に基づく厚生労働大臣の許可が必要です。

インドは送出機関の利用が任意であるため、受入機関が現地のエージェントや人材会社と直接やり取りする場面が生じやすくなります。その際、その事業者が日本の職業安定法上どのような位置づけになるのか、また日本国内で職業紹介にあたる行為を無許可で行っていないかは、必ず確認してください。許可の要否や具体的な取扱いについては、厚生労働省又は都道府県労働局にご確認ください。

数字で見るインド人特定技能外国人(令和7年12月末)

ここからは、出入国在留管理庁が公表している「特定技能在留外国人数(令和7年12月末現在)」の統計から、インドの実像を確認します。

特定技能1号754人、2号4人という規模感

令和7年12月末時点で、特定技能在留外国人数は全体で390,296人(1号382,341人、2号7,955人)と過去最高を記録しました。国籍・地域別の内訳(以下、国籍・地域別及び特定産業分野別の数値はいずれも特定技能1号のもの)は、ベトナム158,497人(41.5%)、インドネシア86,523人(22.6%)、ミャンマー44,315人(11.6%)、フィリピン35,521人(9.3%)、中国21,418人(5.6%)が上位5か国です。

これに対してインドは特定技能1号が754人、特定技能2号が4人にとどまります。合計758人は、特定技能在留外国人全体の0.2%程度にすぎません。同じ南アジアのネパールが1号だけで12,277人、スリランカが3,973人であることと比べても、人口規模に見合わない小ささです。

分野別では介護が過半を占める

インド国籍の特定技能1号754人の特定産業分野別内訳は次のとおりです。

  • 介護分野 417人
  • 自動車整備分野 86人
  • 宿泊分野 60人
  • 工業製品製造業分野 50人
  • 外食業分野 50人
  • 農業分野 45人
  • 建設分野 32人
  • 航空分野 11人
  • 飲食料品製造業分野 3人

介護が全体の55%超を占めるという構成は、1号全体の分野別構成(最多は飲食料品製造業93,393人、次いで介護67,871人)とは大きく異なります。特定技能2号の4人も工業製品製造業分野1人、自動車整備分野3人という内訳で、まだ極めて小さな数字です。

試験ルートが約8割──技能実習に依存しない構造

もう一つ注目すべきは取得ルートです。インド国籍の特定技能1号754人のうち、試験ルートが604人、技能実習ルートが150人で、試験ルートが約8割を占めます。

全体では試験ルート174,625人に対し技能実習ルート207,399人と、技能実習からの移行が過半を占めます。ベトナムに至っては158,497人のうち技能実習ルートが113,009人です。インドは技能実習という「助走路」の比重が小さいため、直接試験に合格して来日するルートが中心になっているわけです。

この構造は、インドからの受入れを検討する企業にとって重要な意味を持ちます。技能実習経験者のプールが薄い以上、現地での日本語教育と技能試験対策をゼロから設計できるかどうかが、そのまま採用可否を左右するということです。

インド国内の試験インフラ──受けられる試験と受けられない試験

出入国在留管理庁が公表している令和6年度の試験実施状況報告書(令和7年10月20日公表)から、インド国内で実際に実施されている試験を確認します。

日本語試験(JFT-Basic)

国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)は、令和6年度にインドで12回実施されました。会場はグルグラム(デリー首都圏)とベンガルールで、年度途中からグワハティ(アッサム州)が新規に追加されています。国際交流基金の報告書は、海外で新たにポカラ(ネパール)、マナド(インドネシア)、グワハティ(インド)において実施を開始したと明記しています。

受験料は3,540インドルピーです。1回あたりの受験者数は79人から426人、基準点到達率は24.9%から42.0%の範囲で推移しました。合格率が3割前後にとどまる回が多い点は、現地の日本語学習環境を考えるうえで示唆的です。

分野別技能試験

令和6年度にインド国内で実施が確認できる分野別試験は、介護、建設、宿泊、農業、自動車運送業(トラック。2025年2月にベンガルールで実施)の5分野です。介護分野については、厚生労働省の報告書が、MOC作成国のうち試験の実施環境等が整った国としてフィリピン、カンボジア、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴル、インド、スリランカ、ウズベキスタン、バングラデシュ、ベトナムを挙げ、インドを含む既存の実施国で試験会場の増設や実施都市の追加を行ったとしています。

会場はいずれもグルグラム、ベンガルール、グワハティが中心です(報告書によって「グルガオン」「ゴウハティ」と表記されているものも同じ都市を指します)。受験料は分野により異なり、介護技能評価試験が696インドルピー、農業技能測定試験が2,399インドルピー、建設分野特定技能1号評価試験が1,298インドルピー、宿泊業技能測定試験が4,620インドルピーといった水準でした。

逆に言えば、ビルクリーニング、造船・舶用工業、漁業、飲食料品製造業、外食業などについては、令和6年度の報告書上インドでの実施が確認できません。これらの分野でインド人材を採用したい場合、日本国内での受験者を対象にするか、現地試験の実施状況が変わるのを待つ必要があります。試験の全体像については特定技能の技能試験ガイド|分野別試験・日本語試験・免除条件を解説もあわせてご確認ください。

受験者数の規模感

介護技能評価試験のインドでの受験者数は1回あたり27人から118人程度、農業技能測定試験は1人から57人程度、建設分野は1人から18人程度、宿泊分野は1人から20人程度でした。日本語試験に比べて分野別技能試験の受験者は大幅に少なく、現地で「技能試験まで到達する層」が薄いことがうかがえます。

2025年8月の日印人材交流・協力アクションプラン

インドからの送出しをめぐる状況が動いたのが、2025年8月29日に東京で開催された第15回日印年次首脳会談です。この場で両国は「日印人材交流・協力アクションプラン」を発表しました。

「5年間で50万人超、うちインドから日本へ5万人」

アクションプランは、両国が今後5年間で双方向50万人超の人材交流を目指し、そのうちインドから日本へは5万人の熟練した人材及び将来性のある人材を送り出すという「意欲的な目標(aspirational target)」を掲げています。対象は高度人材、学生・研究者、特定技能・技能実習、技能開発、語学能力開発、広報・支援体制の6分野に整理されています。

特定技能・技能実習に関する行動項目

アクションプランの第3項「Specified Skilled Worker(SSW)System/Technical Intern Training Program(TITP)」には、次の5つの行動項目が列挙されています。

  • インドにおいて特定技能試験の全分野をカバーすることを目指す(発表当時の表記は16分野)
  • 技能試験及び日本語試験について、インドの北部・東部・南部・西部・北東部をカバーする新たな試験センターの設置に向けて努力する
  • インド外務省のPravasi Kaushal Vikas Yojana(PKVY)を通じ、対象となるインド人特定技能人材に出国前の職業語学訓練を補完的に提供する
  • インドのeMigrateポータルに渡航先国として日本を含めること、及びインドのNational Career Serviceプラットフォーム上に日印専用のコリドーを設けること
  • 技能実習制度及び育成就労制度(Employment for Skill Development Program)を通じてインドの将来性ある人材を日本に呼び込む

4番目の項目は、本記事で取り上げたeMigrateの位置づけに関わります。アクションプランが掲げているのはeMigrateの渡航先国に日本を加えることで、登録の義務化までは書かれていません。出入国在留管理庁の公表資料では登録は任意とされていますが、インド側の運用は今後変わる可能性があるため、渡航前に最新の取扱いを確認してください。

語学・技能開発に関する行動項目

第5項「Language capability development」では、インドの教育機関における実践的日本語教育へのアクセス改善、日本企業による語学訓練費用の補助、日本語教師研修機会の拡大と専門家派遣、インドにおけるNIHONGOパートナーズ(長期)事業の開始、国際交流基金による360時間日本語教師研修講座の産業ニーズへの最適化、そしてJLPT及びJFT-Basicの試験センターの数と収容能力の増加が掲げられています。

第4項「Skill development」では、India-Nippon Programme for Applied Competency Training(INPACT)による寄附講座・職業訓練費用の補助、「India-Japan Talent Bridge」を通じたインターンシップとジョブマッチング、インド国家技能開発公社(NSDC)と連携した州政府による訓練・就職支援などが挙げられています。アクションプラン全体の実施・フォローアップはインド外務省と日本外務省が担当し、局長級の年次協議を行うこととされています。

アクションプランをどう読むべきか

実務者として押さえておきたいのは、アクションプランは政府間の政策目標であって、受入機関の手続を直ちに変えるものではないという点です。「16分野すべてで試験を実施することを目指す」という記載は、裏を返せば発表時点で多くの分野の試験がインドで未実施だったことを示しています。

また、この「16分野」という表記は2025年8月時点のものです。特定産業分野を定める省令(正式名称は「出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄に規定する産業上の分野等を定める省令」・平成31年法務省令第6号)は令和8年3月31日法務省令第22号により改正され、2026年4月1日から特定産業分野は19分野となりました。従前の16分野にリネンサプライ、物流倉庫、資源循環が追加されたものです。ただし新規3分野は分野別の告示基準の整備や技能試験の実施を経て順次受入れが可能になる段階にあり、インドでの試験実施が直ちに始まるわけではありません。制度全体の整理は特定技能とは?1号・2号の違いと19分野を解説もご参照ください。

送出し側のボトルネック──実務上知っておくべき現地事情

数値目標が掲げられても、送出し側の供給能力が伴わなければ人は動きません。この点について、笹川平和財団が2025年8月に公表した調査レポート「インド技能実習・特定技能人材 送り出し市場形成の現状と課題」(研究員・岩堀兼一郎氏)は、現地関係者へのヒアリングに基づく具体的な指摘を行っています。以下はその整理です。

送出機関の数と供給キャパシティ

同レポートによれば、外国人技能実習機構が公表する外国政府認定送出機関一覧をもとに集計すると、2025年6月時点でインドの技能実習送出機関は23機関にとどまります。ネパール497、スリランカ135、バングラデシュ91と比べて桁が違います。しかも2018年の22機関から累計で見てほとんど増えておらず、新規認定と取消しが相殺し合っている状態です。

さらに現地ヒアリングでは、実際に機能している機関は多くて10社前後、大手でも年間150〜200人程度の送出し能力にとどまり、インド全体の送出しキャパシティは年間1,000人前後と見積もられると指摘されています。特定技能については認定送出機関という枠組み自体がありませんが、日本語教育と職業訓練を提供できる現地事業者の層が薄いという構造は共通します。

本人負担の相場と資金調達の壁

同レポートは、介護人材の送出しでは35万インドルピー程度の本人負担が存在するといわれ、一般には30〜40万インドルピーが相場になっているとの現地の声を紹介しています。介護分野では有資格の看護師が多く、特定技能として長期就労が可能なことから投資回収の見通しが立ちやすい一方、農業や製造業では同水準の負担を正当化しにくいという指摘もあります。

受入機関としてここで思い出すべきは、前述した上陸基準省令の要件です。保証金の徴収や違約金契約は明確に禁止されており、外国の機関に費用を支払っている場合はその額と内訳を本人が十分に理解して合意していることが求められます。現地相場の水準を把握したうえで、費用の内訳書を必ず確認する運用が不可欠です。

日本語教育リソースの不足

同レポートは、インドでは日本語教師が全体的に不足しており、品質の高い日本語教育を実施できる人材が圧倒的に足りない、大都市以外では日本語教育を実施できる人材は事実上存在しない、といった現地の声を伝えています。英語を話せる人材にとっては中東を選ぶほうが合理的という判断になりやすい、という指摘も現実的です。

特定技能1号では、日本語能力について国際交流基金日本語基礎テストのA2判定又は日本語能力試験N4以上が求められ、介護分野ではこれに加えて介護日本語評価試験の合格が必要です。未経験から到達するには相応の期間の集中的な学習が必要で、この期間の学習費用と生活費をだれがどう負担するかが、そのまま採用パイプラインの太さを決めます。

「北東部人材」への偏った引き合いという論点

同レポートは、日本側からの引き合いがインド北東部の人材に集中している実態にも触れています。その一方で、北東部人材をひとくくりに「日本との親和性が高く介護職に適性がある」と評することは、当該地域の多様な文化的・歴史的背景や個人の人格を無視した偏見との誹りを免れないとも指摘しています。

採用の現場でも、出身地域による一律の適性評価は差別的取扱いにつながりかねません。入管法第2条の5第2項は、特定技能雇用契約の基準について、外国人であることを理由として報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について差別的取扱いをしてはならないことを含むと定めています。採用選考の段階でも、応募者本人の適性・能力に基づいて判断する公正な採用選考(厚生労働省)の考え方に沿うことが求められます。

あわせて、インドの地方部ではベジタリアン人口の比率が高く、食事提供の関係からベジタリアン人材を敬遠する受入企業が見られるという指摘もあります。宗教・食習慣への配慮は、定着率を左右する実務上の重要論点です。

受入機関が押さえるべき法令上のポイント

インド固有の手続が少ないぶん、日本の入管法令に基づく受入機関側の義務は他国と全く同じく発生します。ここで基本を整理しておきます。

特定技能雇用契約と支援計画

特定技能雇用契約は、入管法第2条の5第1項及び第2項に適合するものでなければならず、契約の相手方となる本邦の公私の機関は同条第3項及び第4項の基準に適合する必要があります。第4項は、契約締結の日前5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をしていないことを含むと定めています。

また同条第6項により、特定技能1号の外国人と雇用契約を締結しようとする機関は、1号特定技能外国人支援計画を作成しなければなりません。同条第7項では、日本人との交流促進に係る支援と、本人の責めに帰すべき事由によらずに契約が解除される場合の転職支援を含むものとされています。義務的支援の具体的な中身については義務的支援10項目を1つずつ解説|事前ガイダンスから定期面談までもご覧ください。

登録支援機関に委託する場合

支援を自社で行うか、登録支援機関に委託するかは受入機関の選択です。入管法第19条の22第1項は特定技能所属機関が支援計画に基づき支援を行うべきことを定め、同条第2項で他の者への委託を認めています。支援計画の全部を登録支援機関に委託した場合には、第2条の5第5項により支援体制に関する基準(同条第3項第2号)に適合するものとみなされます。

登録支援機関の登録は入管法第19条の23第1項に基づき出入国在留管理庁長官が行い、同条第2項により5年ごとに更新を受けなければ効力を失います。第19条の27第1項は、登録を受けた者を「登録支援機関」と定義したうえで変更の届出義務を定め、第19条の30は支援業務の実施と実施状況等の届出を義務づけています。登録支援機関の役割や委託費用の目安は登録支援機関とは?役割・届出・義務的支援10項目を行政書士が解説で整理しています。

届出義務と在留期間

特定技能所属機関には入管法第19条の18に基づく届出義務があり、随時届出と定期届出の双方を適切に行う必要があります。届出を怠れば、第19条の19の指導・助言、第19条の21の改善命令等の対象になり得ます。

在留期間については、上陸基準省令の特定技能1号の項第1号ヘが、同在留資格で在留した期間が通算して5年(5年を超えて在留することについて相当の理由がある場合にあっては6年)に達していないことを求めています。妊娠、出産、育児その他のやむを得ない事情により業務に従事することができなかった期間は除外される旨も同号に規定されています。通算上限をめぐる考え方は特定技能1号の5年後はどうなる?4つの選択肢と2025年改正を解説で詳しく扱っています。

なお、分野別の協議会への加入は分野ごとの告示基準で定められており、インド人材か否かにかかわらず必要です。詳細は特定技能の協議会とは?分野別の加入方法・費用・タイミングをご確認ください。

今後の見通しと現実的な見立て

最後に、インドからの受入れを中期的にどう見るかを整理します。

制度側の動き

特定産業分野は2026年4月1日から19分野となりました。また、技能実習制度に代わる育成就労制度は2027年施行予定で、育成就労産業分野は17分野とされています。前述のアクションプランは育成就労を「Employment for Skill Development(ESD)Program」と英訳し、インド人材誘致の受け皿として明記しています。日本語要件を含む移行設計については育成就労から特定技能1号への移行要件|3年・技能・N4の3要件を解説、対象分野の対比は育成就労制度の対象17分野|2027年4月1日施行・特定技能19分野との違いを解説が参考になります。

送出機関規制の考え方も育成就労では強化される方向にあり、二国間取決めの位置づけが変わる可能性があります。この点は育成就労の送出機関規制|手数料上限・契約書様式・二国間取決めの強化で扱っています。インドについて具体的にどのような取決めがなされるかは、現時点では公表資料から確認できません。

数字はどこまで伸びるか

「5年間で5万人」という目標は、令和7年12月末時点で特定技能1号754人という現状からすると相当に野心的です。もっともこの5万人は特定技能に限らず、高度人材・学生・研究者を含む「熟練した人材及び将来性のある人材」全体の数字であり、そのままインド人特定技能外国人の目標値と読むのは正確ではありません。

前掲の笹川平和財団レポートも、インド人材が現在の主要送出国を量的に凌駕するとまでは考えにくいとしつつ、留学や「技術・人文知識・国際業務」におけるインド人材の比率に追いつくだけでも現在の水準からは大きく増えると見立てています。インドからの採用は東南アジア諸国に比べて渡航費・所要時間・時差の面で不利がある点も、コスト比較では無視できません。

受入企業が今できること

現実的な打ち手は、大きく次の3点に集約されます。第一に、採用したい分野の技能試験がインドで実施されているかを先に確認すること。実施がなければ、日本国内在留者を対象にするか、他の送出国と併走させる設計が必要です。第二に、送出機関の利用が任意であることを逆手に取らず、費用の内訳と日本語教育の実態を必ず書面で確認すること。第三に、採用単発ではなく地域・学校単位の継続的なパイプラインとして設計することです。

インドからの特定技能人材の送出しは、良くも悪くもまだ草創期にあります。制度上の「レール」が敷かれていない分、初期に関わる受入機関の姿勢が、その地域における日本の評判をそのまま形づくります。

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まとめ

日本とインドの特定技能に関する協力覚書は2021年1月18日にニューデリーで交換されました。日本側の権限のある当局は法務省・外務省・厚生労働省・警察庁、インド側は外務省及び技能開発・起業促進省です。有効期間は10年で、90日前までの終了通告がなければ自動更新されます。ただしMOCは政府間の協力文書であり、受入企業に直接の権利義務を生じさせるものではありません。

MOC締結後に整備された派遣プロセスの最大の特徴は、インドでは送出機関の利用もeMigrate登録も任意である点です。出入国在留管理庁の解説資料は、送出機関を通さず直接雇用契約を締結する方法も可能だと明記しています。上陸基準省令が求める「送出国側で遵守すべき手続」がインドについて示されていないため、手続面のハードルは他国より低い一方、費用の透明性や教育の質を確認する責任は受入機関側に大きく寄ります。

数字で見ると、令和7年12月末時点のインド国籍の特定技能1号は754人、2号は4人にとどまります。分野別では介護が417人と過半を占め、取得ルートは試験ルート604人・技能実習ルート150人と、試験ルートが約8割です。試験インフラはグルグラム・ベンガルール・グワハティを中心に整備が進みつつありますが、令和6年度の報告書上、多くの分野でインド国内の試験実施が確認できません。

2025年8月29日の日印人材交流・協力アクションプランは、5年間で双方向50万人超、うちインドから日本へ5万人という目標を掲げ、試験センターの地域展開、eMigrateへの日本の追加、日本語試験会場の拡充などを行動項目としました。もっともこれは政策目標であり、実際の送出しキャパシティは年間1,000人前後との民間調査の見立てもあります。数値目標と現地の供給能力の差を冷静に見ておく必要があります。

実務としては、採用したい分野の技能試験がインドで実施されているかの事前確認、費用の内訳書と日本語教育実態の書面確認、そして継続的なパイプライン設計の3点が要になります。行政書士法人Treeでは、在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請の書類作成と申請取次、1号特定技能外国人支援計画の作成、特定技能所属機関の各種届出書類の作成を、行政書士法第1条の3に基づく書類作成業務と、届出済みの行政書士による申請取次として承っています。

※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。

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