告訴状関連

発信者情報開示請求と告訴の連動|情報流通プラットフォーム対処法を解説

更新: 約32分で読めます

SNSや匿名掲示板に事実無根の投稿を書き込まれた、繰り返し中傷され業務にも支障が出ている——そうしたご相談で最初にぶつかる壁が「相手が誰か分からない」という点です。刑事告訴をしようにも、被疑者の氏名・住所が分からなければ捜査は動きにくく、他方で親告罪には告訴期間という時間制限があります。ここで登場するのが、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求です。

もっとも、この法律は2024年(令和6年)の改正で正式名称そのものが変わり、2025年(令和7年)4月1日から「情報流通プラットフォーム対処法」として運用されています。条文の番号も2021年(令和3年)改正で大きく組み替えられており、古い解説をそのまま読むと条番号が合いません。本記事では、現行条文を一次資料で確認しながら、発信者情報開示請求の要件・手続と、刑事告訴との時間的・実務的な連動関係を実務目線で整理します。あわせて、この分野で「どの専門職が何をできるのか」という業務範囲の線引きについても率直に説明します。

告訴状・告発状の作成でお困りの方へ。行政書士法人Treeでは、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状の作成を承ります。書類作成に関するご相談は何度でも無料です。

告訴状・告発状作成サポートの詳細を見る

匿名投稿への刑事対応は「誰か」を突き止めるところから始まる

刑事告訴は、犯罪被害者が捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です。刑事訴訟法230条は「犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる」と定め、同法241条1項は「告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない」としています。条文上、告訴に際して犯人が誰であるかを特定していることは要件とされていません。

しかし実務では話が別です。被疑者不詳のまま告訴状を持ち込んでも、捜査機関の側からすれば「これから犯人を探す」という重い作業を引き受けることになります。とりわけ名誉毀損罪・侮辱罪のような法定刑が軽い罪では、捜査資源の配分の問題から、被害者側で相当程度の資料を整えているかどうかが、事実上、受理と初動のスピードを左右します。

民事ルートと刑事ルートは別の入口である

匿名の発信者を特定する経路は、大きく二つあります。ひとつは、被害者が自ら民事の手続として発信者情報開示請求を行い、プロバイダから氏名・住所の開示を受ける経路です。もうひとつは、告訴が受理されて捜査が開始され、捜査機関が刑事訴訟法197条2項の捜査関係事項照会などによってプロバイダから情報を得る経路です。

この二つは制度としてまったく別物で、根拠法も、判断権者も、開示される情報の行き先も異なります。前者は情報流通プラットフォーム対処法(旧・プロバイダ責任制限法)に基づく民事上の請求権であり、開示を受けるのは被害者本人です。後者は捜査権限の行使であり、得られた情報は捜査機関が保持します。被害者が「捜査で分かった加害者の住所を教えてほしい」と求めても、当然に開示されるものではありません。

だからこそ「連動」を設計する必要がある

この二つのルートは排他的ではなく、順序と時期の組み合わせによって結果が大きく変わります。開示請求で氏名・住所を得てから実名で告訴するのか、先に被疑者不詳で告訴して捜査に委ねるのか、あるいは両方を並行させるのか。判断材料になるのは、対象となる罪が親告罪かどうか、告訴期間が動き出しているか、通信ログが失われるまでの猶予がどの程度か、といった時間軸の要素です。以降で、その一つひとつを条文に即して確認していきます。

根拠法の現在地|プロバイダ責任制限法は「情報流通プラットフォーム対処法」になった

まず前提として、法律の名前と条文の番号を正確に押さえます。ここを間違えると、告訴状や請求書面の説得力が一気に落ちます。

正式名称と通称の関係

この法律は平成13年法律第137号として2001年(平成13年)11月30日に公布されました。制定当初の正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」で、これを略して「プロバイダ責任制限法」と呼ぶのが一般的でした。

その後、令和6年法律第25号による改正で、正式名称が「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に改められ、通称として「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)が用いられるようになりました。この改正は2025年(令和7年)4月1日に施行されています。裁判所の案内でも「情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)」という表記が使われています。

実務上は現在も「プロバイダ責任制限法」の呼称が通用していますが、書面に条文を引用する際は、正式名称または「情報流通プラットフォーム対処法」を用いるのが無難です。

現行法の章立てと条文の対応

現行法は次の構成になっています。この骨格を頭に入れておくと、どの条文を引けばよいかで迷わなくなります。

  • 第1章 総則(1条・2条)
  • 第2章 損害賠償責任の制限(3条・4条)
  • 第3章 発信者情報の開示請求等(5条〜7条)
  • 第4章 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続(8条〜19条)
  • 第5章 大規模特定電気通信役務提供者の義務(20条〜34条)
  • 第6章 罰則(35条〜38条)

2021年(令和3年)改正前は、発信者情報の開示請求は「4条」に置かれていました。改正で条文構成が組み替えられ(旧3条の2が4条に、旧4条が5条に繰り下がる等)、開示請求の根拠条文は5条に移動しています。ネット上には「プロバイダ責任制限法4条に基づく開示請求」と書いた古い解説が今も多数残っていますので、条番号を引く際は必ず現行条文にあたってください。

2条の定義規定を押さえる

2条は定義規定です。実務で頻出するものを挙げます。

  • 特定電気通信(2条1号)=不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信。つまり掲示板やSNSの公開投稿が典型で、1対1のメールやクローズドなダイレクトメッセージは原則として含まれません。
  • 発信者(2条5号)=特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録し、または送信装置に情報を入力した者。
  • 侵害情報(2条6号)=自己の権利を侵害されたとする者が、当該権利を侵害したとする情報。
  • 発信者情報(2条10号)=氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの。
  • 開示関係役務提供者(2条11号)=5条1項の特定電気通信役務提供者と、5条2項の関連電気通信役務提供者の総称。前者にはコンテンツプロバイダのほか、投稿時の通信を媒介した経由プロバイダ(アクセスプロバイダ)も含まれると解されています(旧4条1項について、最判平成22年4月8日)。後者は、ログイン時等の侵害関連通信を媒介した事業者を指します。
  • 発信者情報開示命令(2条12号)=8条の規定による命令。

「発信者情報」の中身が総務省令に委ねられている点は重要です。何が開示対象になるかは法律本文には書かれておらず、施行規則を見なければ分かりません。

令和6年改正で加わった大規模事業者の義務

2025年4月施行の改正で新設された第5章は、一定規模以上のプラットフォーム事業者に対し、削除申出の受付方法の公表(22条)、侵害情報に係る調査の実施(23条)、侵害情報調査専門員の選任(24条)、申出者に対する通知(25条)、送信防止措置の基準等の公表(26条)、発信者に対する通知等(27条)、実施状況の公表(28条)などを義務づけるものです。なお、令和8年法律第58号(2026年7月17日公布)による改正で、2027年3月1日から、選挙の公正を害するおそれのある情報の流通による悪影響を軽減するための措置義務(27条の2)が第5章に加わる予定です。

法25条1項は申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に通知すべきものとしており、施行規則16条はこの期間を7日と定めています。また、法26条1項の基準の事前公表について、施行規則17条は「一定の期間」を14日と定めています。なお、大規模特定電気通信役務提供者として指定される基準は、平均月間発信者数1,000万または平均月間延べ発信者数200万とされています(施行規則8条3項・5項)。

この第5章は「削除(送信防止措置)」の迅速化・透明化に関する規律であって、発信者情報の開示そのものを直接に速くする規定ではありません。ただし、削除申出への対応が制度化されたことで、被害者が事業者とやり取りした記録が残りやすくなり、結果として権利侵害の明白性を裏づける資料が整いやすくなるという副次的な効果は期待できます。

発信者情報開示請求の要件|法5条を条文どおりに読む

発信者情報開示請求の実体的要件は5条にあります。1項が侵害情報そのものの送信(投稿時の通信)を対象とする請求、2項がログイン時等の「侵害関連通信」を対象とする請求、3項がその侵害関連通信の定義です。

5条1項|コンテンツプロバイダ・経由プロバイダに対する請求

5条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、その保有する権利侵害に係る発信者情報の開示を請求できると定めます。要件は次の各号です。

  • 1号(権利侵害の明白性) 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって、開示請求者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
  • 2号(正当な理由) 当該発信者情報が損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他、開示を受けるべき正当な理由があるとき。
  • 3号 特定発信者情報を請求する場合に限り、さらにイ〜ハのいずれかに該当すること。

1号の「明らか」という文言は、単に権利侵害の可能性があるという程度では足りず、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないことまで含めて判断されると解されています。名誉毀損であれば、公共の利害に関する事実に係り、目的が専ら公益を図ることにあり、真実性の証明があれば処罰されない(刑法230条の2)のと同様の構造が、民事上の違法性判断でも問題になります。したがって、投稿の文言そのものだけでなく、投稿がなされた文脈、対象者の同定可能性(本人と特定できるか)、社会的評価の低下といった点まで、資料で示していく必要があります。

ログイン型投稿と「特定発信者情報」

5条1項3号は、令和3年改正で新設された部分で、いわゆる「ログイン型」への対応です。多くのSNSでは、投稿時のIPアドレスを保存せず、ログイン時のIPアドレスしか保有していません。この「専ら侵害関連通信に係る」発信者情報を特定発信者情報といいます(5条1項括弧書き、施行規則3条)。

特定発信者情報の開示は、1号・2号に加えて3号のイ〜ハのいずれかを満たす必要があります。イは、事業者が特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。ロは、保有している発信者情報が氏名・住所や他の開示関係役務提供者の特定に用いうる情報以外のものだけであると認めるとき。ハは、開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く)によっては発信者を特定できないと認めるときです。

3項の侵害関連通信は、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、またはその利用を終了するために行った識別符号その他の符号の送信で、発信者を特定するために必要な範囲内のものとして総務省令で定めるものをいいます。施行規則5条は、アカウント作成の申込み時・本人確認時の送信、ログインのための送信、ログアウトのための送信、アカウント削除のための送信を挙げています。つまり「アカウント作成・ログイン・ログアウト・退会」の四場面が対象で、それも侵害情報の送信と相当の関連性を有するものに限られます。

5条2項|ログイン時等の通信を媒介した事業者に対する請求

5条2項は、侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(関連電気通信役務提供者)に対する請求です。要件は1号(権利侵害の明白性)と2号(正当な理由)の二つで、3号に相当する加重要件はありません。

ここで注意したいのは、2項が対象とするのは侵害関連通信、すなわちログイン型で問題となるアカウント作成・ログイン・ログアウト・退会の通信だという点です。投稿時のIPアドレスが保存されている通常の事案で、コンテンツプロバイダから得たIPアドレスとタイムスタンプをもとに経由プロバイダへ契約者の氏名・住所の開示を求める場面は、2項ではなく5条1項に基づく請求です。経由プロバイダも1項の「特定電気通信役務提供者」にあたるとするのが判例(旧4条1項に関する最判平成22年4月8日)の立場で、この点は令和3年改正後も変わっていません。投稿時の通信を辿るのか、ログイン時の通信を辿るのかで根拠となる項が分かれる点は、書面に条文を引く際に意識しておく必要があります。

開示される「発信者情報」の中身(施行規則2条)

施行規則2条は、法2条10号の総務省令で定める情報として次を列挙しています。

  • 1号 発信者その他侵害情報の送信または侵害関連通信に係る者の氏名または名称
  • 2号 同上の住所
  • 3号 同上の電話番号
  • 4号 同上の電子メールアドレス
  • 5号 侵害情報の送信に係るIPアドレスおよび組み合わされたポート番号
  • 6号 侵害情報の送信に係る移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号
  • 7号 侵害情報の送信に係るSIM識別番号
  • 8号 侵害情報が送信された年月日および時刻
  • 9号〜13号 専ら侵害関連通信に係るIPアドレス・利用者識別符号・SIM識別番号・SMS電話番号および侵害関連通信が行われた年月日・時刻
  • 14号 発信者その他の者についての利用管理符号

そして施行規則3条により、9号から13号までが「特定発信者情報」とされます。つまり、ログイン時のIPアドレスや電話番号認証に用いたSMS電話番号などが特定発信者情報にあたり、前述の加重要件がかかることになります。

開示関係役務提供者の義務と免責(6条・7条)

6条1項は、開示請求を受けた開示関係役務提供者は、発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示に応じるかどうかについて発信者の意見を聴かなければならないと定めます。これがいわゆる「意見照会」です。開示請求を行うと、加害者側に照会がなされ、請求があったこと自体が相手に伝わる可能性があるという点は、あらかじめ理解しておく必要があります。

6条4項は、開示請求に応じないことにより請求者に生じた損害について、故意または重大な過失がある場合でなければ賠償責任を負わないと定めています。事業者が任意開示に慎重になりやすい理由の一端はここにあります。電気通信事業法4条1項が「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と定め、同法179条1項が通信の秘密を侵した者を2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処し、同条2項が電気通信事業に従事する者については3年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金と加重していることも踏まえると、事業者にとって任意開示は相当のリスクを伴う判断です。結果として、実務は裁判手続を経由するのが基本形になります。

発信者情報開示命令という裁判手続|開示命令・提供命令・消去禁止命令

令和3年改正で創設され、2022年(令和4年)10月1日から運用されているのが、第4章の発信者情報開示命令事件です。従来の「仮処分+本訴」という二段構えを、非訟手続の枠内で一体的に処理できるようにした制度です。

8条|発信者情報開示命令

8条は、裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、開示関係役務提供者に対し、5条1項または2項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる、と定めます。判決ではなく決定である点、そして訴訟ではなく非訟事件である点が特徴です。

15条|提供命令

提供命令は、この制度の要です。本案の開示命令事件が係属する裁判所は、発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、申立てにより、相手方である開示関係役務提供者に対して次を命ずることができます。

  • 15条1項1号 申立人に対し、保有する発信者情報により特定できる「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」(氏名または名称および住所)を書面または電磁的方法で提供すること。特定できない場合はその旨を提供すること。
  • 15条1項2号 1号により氏名等情報の提供を受けた申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として開示命令の申立てをした旨の通知を受けたときは、その他の開示関係役務提供者に対し、保有する発信者情報を提供すること。

この仕組みにより、申立人はIPアドレスそのものを見なくても、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダの社名を教えてもらい、そのアクセスプロバイダを相手方として次の開示命令を申し立て、その事実を通知すれば、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダへ直接IPアドレス等が引き渡されます。従来必要だった「仮処分でIPを取り、改めて経由プロバイダを調べて別訴を起こす」という手間が大幅に圧縮されました。

注意すべきは15条3項2号です。提供命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、提供を受けた日から2か月以内に1項2号の通知をしなかったときは、提供命令はその効力を失います。この2か月は極めて実務的な期限で、うっかり徒過すると一連の手続をやり直すことになりかねません。なお、提供命令の本案である開示命令事件が終了したときも、提供命令は失効します(15条3項1号)。

16条|消去禁止命令

16条1項は、本案の開示命令事件が係属する裁判所は、発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、申立てにより、相手方である開示関係役務提供者に対し、事件(異議の訴えが提起されたときはその訴訟)が終了するまでの間、保有する発信者情報を消去してはならない旨を命ずることができると定めます。

アクセスプロバイダの通信ログは、法令上の保存義務が一律に定められているわけではなく、保存期間は事業者ごとの運用に委ねられています。手続の途中でログが消去されれば特定は不可能になりますから、この消去禁止命令が果たす役割は大きく、実務では開示命令の申立てと同時またはこれに近接して申し立てられます。提供命令・消去禁止命令のいずれについても、命令を受けた事業者は即時抗告をすることができます(15条5項、16条3項)。

管轄・手数料・申立ての方式

管轄は9条(日本の裁判所の管轄権)と10条(国内の管轄)が定めます。10条1項は、相手方が個人の場合は住所地、法人その他の社団・財団の場合は主たる事務所または営業所の所在地を管轄する地方裁判所としています。さらに10条3項により、東京高裁・名古屋高裁・仙台高裁・札幌高裁の管轄区域内の地方裁判所(東京地裁を除く)が管轄権を有する場合には東京地方裁判所にも、大阪高裁・広島高裁・福岡高裁・高松高裁の管轄区域内の地方裁判所(大阪地裁を除く)が管轄権を有する場合には大阪地方裁判所にも、申立てをすることができます。

手続の細目は最高裁判所規則に委ねられています(19条)。東京地方裁判所の案内によれば、申立手数料は開示命令・提供命令・消去禁止命令のそれぞれについて、一申立てにつき各1,000円で、申立人または相手方が複数の場合はその人数分の収入印紙が必要です。郵便料については、申立て時にレターパックライトを相手方の数に応じて予納する取扱いとされています。

また、東京地方裁判所は、発信者情報開示命令事件について「令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外」であり、従前どおり書面で申立書を提出する必要があると案内しています。ただし、開示命令申立てについての決定に対する異議の訴えは電子申立ての対象になるとされています。手続の入口と出口で扱いが異なる点に注意が必要です。

14条|異議の訴えと1か月の不変期間

開示命令の申立てについての決定(申立てを不適法として却下する決定を除く)に不服がある当事者は、決定の告知を受けた日から1か月の不変期間内に異議の訴えを提起することができます(14条1項)。この期間内に訴えが提起されなかったとき、または訴えが却下されたときは、決定は確定判決と同一の効力を有します(14条5項)。決定を認可しまたは変更した判決で開示を命ずるものは、強制執行に関しては給付判決と同一の効力を持ちます(14条4項)。

なお、東京地方裁判所は、この手続で投稿記事の削除を求めることはできず、削除を求める場合は保全命令の申立て等によることになると案内しています。開示と削除は別の手続である、という整理です。

匿名投稿が該当しうる犯罪類型と、親告罪かどうかの仕分け

刑事告訴を検討する際、最初にすべきなのは「どの罪に当たりうるか」と「それは親告罪か」の二点の確認です。ここで仕分けを誤ると、告訴期間の管理そのものを誤ります。

名誉毀損罪(刑法230条)と侮辱罪(刑法231条)

刑法230条1項は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処すると定めます。230条の2は、公共の利害に関する事実に係り、目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合に、真実であることの証明があったときは罰しないとする特例です。

刑法231条の侮辱罪は、事実を摘示しなくても公然と人を侮辱した者を、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処すると定めます。2022年(令和4年)7月7日施行の改正で、従来の「拘留または科料」のみから法定刑が引き上げられました。

そして刑法232条1項は「この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」と定めます。名誉に対する罪、すなわち名誉毀損罪も侮辱罪も親告罪です。ここが本記事の主題である「連動」の出発点になります。

非親告罪となる主な類型

一方、次の各罪は親告罪ではありません。告訴がなくても公訴の提起は可能で、告訴期間の制限もかかりません。

  • 脅迫罪(刑法222条) 生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。
  • 信用毀損および業務妨害罪(刑法233条) 虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。
  • 威力業務妨害罪(刑法234条) 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

虚偽の口コミで店舗の営業を妨害された、事実無根の投稿で取引が中止になったといった事案では、名誉毀損だけでなく信用毀損・偽計業務妨害の構成を検討する余地があります。非親告罪であれば告訴期間の縛りがないため、発信者の特定に時間がかかる事案では、この点が戦略上の意味を持ちます。

特別法上の類型

投稿の内容によっては、特別法の適用も検討します。

  • 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(いわゆるリベンジポルノ防止法)3条1項 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定または多数の者に提供した者は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。同条4項により、1項から3項までの罪は親告罪です。同法4条は、送信防止措置に関する特例として、発信者への照会から2日の経過で事業者を免責する規定を置いています(一般の場合は情報流通プラットフォーム対処法3条2項2号により7日)。
  • 著作権法119条1項 著作権等を侵害した者は、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれを併科。同法123条1項により原則として親告罪ですが、同条2項は、対価として財産上の利益を受ける目的等をもって、有償著作物等を原作のまま複製・公衆送信する一定の行為については親告罪の規定を適用しないとしています。
  • 不正アクセス行為の禁止等に関する法律 アカウントの乗っ取りを伴う投稿では検討対象になります。
  • ストーカー行為等の規制等に関する法律 SNS上の執拗な連続送信等が問題となる場面があります。

公訴時効の目安(刑事訴訟法250条2項)

刑事訴訟法250条2項は、人を死亡させた罪以外について、6号で「長期5年未満の拘禁刑または罰金に当たる罪については3年」、7号で「拘留または科料に当たる罪については1年」と定めます。

これを当てはめると、名誉毀損罪(長期3年の拘禁刑)は3年、侮辱罪も改正により選択刑として1年以下の拘禁刑が加わった結果3年、脅迫罪(長期2年)は3年、信用毀損・業務妨害罪(長期3年)は3年となります。改正前の侮辱罪は拘留・科料のみであったため公訴時効は1年でしたが、現在は3年です。古い記事の記載をそのまま信じないでください。

連動の核心|告訴期間6か月の管理と、被疑者不詳での先行告訴

ここが、発信者情報開示請求と刑事告訴を結びつける最大の論点です。

刑事訴訟法235条の規律

刑事訴訟法235条本文は「親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない」と定めます。公訴時効が3年あっても、親告罪であれば、告訴権者が犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴自体ができなくなり、232条1項により公訴を提起できなくなります。つまり、名誉毀損罪・侮辱罪については、公訴時効より先に告訴期間が到来して事実上の期限になる、という構造です。

匿名投稿における起算点の考え方

条文の文言は「犯人を知つた日」であり、「犯罪を知った日」ではありません。匿名の投稿を発見しただけの段階では、誰が書いたのかを知らないのが通常ですから、その時点では起算されないと考えるのが素直な読み方です。もっとも、「犯人を知った」といえるために犯人の氏名・住所まで知っている必要はなく、犯人が誰であるかを特定できる程度に認識していれば足りると解されているため、開示で氏名・住所が判明した日が常に起算点になるとは限りません。

ただし、この起算点は事案によって判断が分かれうるところです。たとえば、投稿の内容や文体、投稿時期、関係者しか知りえない情報の記載などから、開示を待つまでもなく特定の人物が発信者であると被害者が認識していたと評価されれば、その認識の時点から6か月が進行しているという主張が相手方からなされる可能性は否定できません。実務では、「開示で確定した日」を起算点と決めつけず、それより前に犯人を認識していたと評価されうる最も早い時点から6か月を数えて、余裕をもって告訴に着手するのが穏当な対応です。

開示手続に要する時間との緊張関係

発信者情報開示命令は非訟手続として設計され、従来より迅速化されたとはいえ、コンテンツプロバイダに対する申立てからアクセスプロバイダに対する開示まで、相応の期間を要します。海外事業者が相手方であれば送達等にさらに時間がかかります。

ここで問題になるのが、前述の15条3項2号の2か月期限や、14条1項の1か月の不変期間といった手続内部の期限を管理している間にも、開示前から犯人を認識していたと評価されれば、刑事訴訟法235条の6か月が並行して進行しうるという点です。「開示が終わってから刑事を考える」と構えていると、そうした評価を受けた場合に、告訴状の作成・証拠の整理・警察との事前相談に充てる時間が足りなくなる、という事態が起こりえます。開示手続に着手した段階で、告訴の準備も並走させておくのが実務的です。

非親告罪であれば告訴期間の制限はない

逆にいえば、脅迫罪や業務妨害罪のように非親告罪で構成できる事案では、刑事訴訟法235条の6か月は適用されません。告訴は公訴時効の完成まで可能です。もっとも、時間が経つほど通信ログは失われ、投稿も削除され、立証は難しくなります。「期限がない=急がなくてよい」ではないことは強調しておきます。

親告罪と告訴期間の考え方をより基本から確認したい方は、親告罪とは?告訴が必要な犯罪一覧と告訴期間の計算方法もあわせてご覧ください。SNS上の中傷に絞った刑事対応の全体像は、名誉毀損・侮辱罪の告訴状の書き方|SNS誹謗中傷への対応で整理しています。

被疑者不詳のまま先に告訴するという選択肢

もうひとつの連動のかたちが、開示を待たずに先に告訴する方法です。以下では、その可否と、告訴が受理された場合に捜査機関が使える手段を確認します。

告訴に犯人の特定は法律上の要件ではない

刑事訴訟法230条以下に、告訴の要件として犯人の氏名を特定すべき旨の定めはありません。告訴は特定の犯人に向けられたものではなく、犯罪事実に対してなされるものと理解されており、被告訴人欄を「不詳」として告訴すること自体は制度上可能です。刑事訴訟法238条1項が「親告罪について共犯の一人又は数人に対してした告訴又はその取消は、他の共犯に対しても、その効力を生ずる」と定めている(告訴の主観的不可分)ことも、告訴が人ではなく事件に対するものであるという理解と整合します。

もっとも、実際に受理してもらえるかは別問題です。犯罪事実がどれだけ具体的に特定されているか、構成要件該当性が資料から読み取れるか、被害の内容が明確かによって、警察の判断は変わります。被疑者が不詳であるほど、犯罪事実の特定(いつ、どのアカウントから、どのURLに、どのような内容が投稿され、それがなぜ構成要件に該当するのか)を精密に書き込む必要があります。

捜査関係事項照会(刑事訴訟法197条2項)

告訴が受理され捜査が開始されれば、刑事訴訟法197条2項に基づき「公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求める」ことができます。これがいわゆる捜査関係事項照会です。実務上、プラットフォーム事業者や通信事業者に対する照会が行われます。

ただし、照会は相手方に報告義務を課すものと解されつつも、通信の秘密(電気通信事業法4条1項)との関係で、事業者側が任意提出を差し控える運用も見られます。事案の重大性や令状によるか照会によるかによって対応が分かれるため、「告訴すれば必ず特定してもらえる」と考えるのは危険です。

通信履歴の保全要請(刑事訴訟法197条3項・4項)

刑事訴訟法197条3項は、検察官、検察事務官または司法警察員が、差押え等のため必要があるときに、電気通信事業者等に対し、業務上記録している通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、30日を超えない期間を定めて消去しないよう書面等により求めることができるとしています。4項は、特に必要があるときは30日を超えない範囲で延長できるが、通じて60日を超えることができないと定めます。

これは捜査機関による保全であり、被害者が自ら行えるものではありません。しかし、ログが失われる前に捜査を開始させるという意味では、早期の告訴が保全につながる場面があるということです。民事の消去禁止命令(法16条)と、刑事の保全要請(刑訴法197条3項)は、いずれも「時間切れ」を防ぐための仕組みであり、どちらのルートを先に動かすかは、事案の性質と緊急性で決めることになります。

二つのルートの使い分けの判断軸

整理すると、次のような判断軸になります。

  • 非親告罪で構成でき、悪質性・組織性が高い 告訴を先行させ、捜査に特定を委ねる余地が大きい。
  • 親告罪のみで、加害者が誰か全く見当がつかない 開示手続を進めつつ、6か月の起算リスクを管理する。特定でき次第、速やかに告訴。
  • 損害賠償請求も視野に入れている 相手方の氏名・住所が分からなければ訴えの提起が困難なため、通常は民事の開示手続が必要になる。
  • 投稿が削除されそう/ログの消失が迫る 証拠保全を最優先。削除依頼より先に、投稿内容の記録化を済ませる。

刑事と民事の使い分けの基本については、刑事告訴と民事訴訟の違い|損害賠償請求との使い分けと同時進行の方法で整理しています。ネット上の被害全般の見取り図は、ネット犯罪の告訴ガイド|SNS誹謗中傷からネット詐欺までをご覧ください。

証拠とログの保全|開示を受けた情報の使い方まで

発信者情報開示も刑事告訴も、土台は証拠です。しかもネット事案の証拠は、放置すれば自然に失われていきます。

まず投稿そのものを固定する

最初にすべきは、投稿の記録化です。実務で最低限そろえたいのは次の要素です。

  • 投稿ページのURL(短縮URLではなく完全なもの)
  • 投稿本文が読める状態のスクリーンショット。アカウント名・投稿日時・URLバーが同一画面に写り込むように撮る
  • 投稿日時(できれば秒単位まで)とタイムゾーンの認識
  • アカウントのプロフィール画面と、当該アカウントの他の投稿(同一性・継続性の立証に使う)
  • 閲覧数・リポスト数・返信など、拡散の程度が分かる情報
  • 被害の発生を示す資料(取引の中止連絡、予約キャンセルの記録、通院記録など)

投稿が削除されると、権利侵害の明白性を立証する材料そのものが失われます。削除請求(送信防止措置の申出)は被害拡大を止めるために重要ですが、削除の前に記録化を完了させるという順序を守ってください。証拠の集め方の一般論は、告訴状に必要な証拠の集め方|犯罪類型別の証拠一覧と収集のポイントで類型別に整理しています。

ログの保存期間という見えない期限

アクセスプロバイダが保有する通信ログの保存期間について、一律の法定義務は置かれていません。事業者・サービスごとに運用が異なり、比較的短期間で消去される場合もあります。だからこそ、法16条の消去禁止命令や、刑事訴訟法197条3項の保全要請といった仕組みが用意されているわけです。

被害を認識したら、「様子を見る」時間はほとんどないと考えたほうがよいでしょう。特に、投稿から時間が経過してから動き出した場合には、既にログが失われていて発信者を特定できないことが現実にあります。

開示を受けた発信者情報には利用制限がある(7条)

見落とされがちですが、極めて重要な条文があります。法7条は、5条1項または2項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならないと定めています。

開示された氏名や住所をSNSで公表する、勤務先に触れ回る、家族に告げるといった行為は、この規定に真正面から抵触しうるものです。加害者だったはずの被害者が、今度は自ら加害者側に立たされ、名誉毀損やプライバシー侵害の責任を問われる事態は、実際に起こりえます。開示によって得た情報は、損害賠償請求や刑事告訴といった正当な権利行使の範囲内で用いる、という原則を徹底してください。

あわせて、法6条3項は、提供命令(15条1項2号)により他の開示関係役務提供者から発信者情報の提供を受けた開示関係役務提供者に対し、当該情報を、保有する発信者情報を特定する目的以外に使用してはならないと定めています。事業者側にも目的外使用の禁止がかかっているということです。

告訴状に何を書くか|構成要件に沿った事実と証拠の組み立て

発信者が特定できた(あるいは不詳のまま先行する)として、告訴状には何を書けばよいのでしょうか。ここでは、記載サンプルではなく、書面としての設計思想を説明します。

提出先は警察署長(司法警察員)

刑事訴訟法241条1項は、告訴・告発は書面または口頭で「検察官又は司法警察員」に対して行うと定めます。実務では、被害地または被疑者の所在地を管轄する警察署の警察署長(司法警察員)宛てに提出するのが通常です。同法242条は、司法警察員は告訴・告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類および証拠物を検察官に送付しなければならないとしており、警察に提出した告訴は制度上、検察へ引き継がれます。

提出先の考え方については、告訴状の提出先はどこ?警察署と検察庁の違い・管轄・提出方法を解説で詳しく解説しています。

犯罪事実の特定は「日時・場所・態様」をネット事案に翻訳する

告訴状の中核は犯罪事実の記載です。ネット事案では、伝統的な「日時・場所・方法」を次のように置き換えて考えます。

  • 日時 投稿日時。タイムゾーンを含めて記載し、サーバのタイムスタンプと矛盾しないようにする。
  • 場所 投稿先のサービス名と当該ページのURL、スレッド名、アカウント名。不特定多数が閲覧できる状態であったことが分かるように書く(「公然と」の要件に直結する)。
  • 態様 投稿の文言そのもの。名誉毀損であれば、摘示された「事実」が何であり、それが社会的評価をどう低下させたのかを、投稿文言に即して示す。侮辱であれば、事実の摘示を伴わない侮辱的表現であることを示す。
  • 同定可能性 当該投稿が誰を指しているのか。実名でない場合、屋号・写真・過去の経歴など、読む人が被害者本人と結びつけられる事情を積み上げる。

構成要件ごとに証拠を対応させる

告訴状は、感情の記述ではなく、構成要件の充足を証明する書面です。「公然性」「事実の摘示」「名誉の毀損」といった要素それぞれに、どの資料が対応するのかを整理しておくと、警察側の検討が進みやすくなります。開示手続で得た資料(開示命令の決定書、プロバイダからの回答書など)がある場合には、被疑者と発信者の同一性を裏づける資料として位置づけられます。

また、名誉毀損においては刑法230条の2の存在から、相手方が「公共の利害に関する事実であり、公益目的であり、真実である」と主張してくることが予想されます。あらかじめ、その主張が成り立たない事情(投稿内容が客観的事実と異なること、私的な怨恨に基づくと推認される経緯など)を整理しておくと、書面の説得力が上がります。

告訴状の基本的な構成については、告訴状の書き方ガイド|構成・記載のポイント・提出方法を徹底解説【2026年最新】を、被害届との違いについては告訴状と被害届の違いとは?法的効力・提出方法の違いをわかりやすく解説をご参照ください。提出後の流れは告訴状の提出から捜査開始までの流れ|告訴後に何が起こるかにまとめています。

誰がどこまで関与できるのか(業務範囲の線引き)

この分野は、複数の士業の業務範囲が交差します。誤解を避けるため、率直に整理します。

発信者情報開示命令の申立書は、地方裁判所に提出する裁判所提出書類です。裁判所に提出する書類の作成は司法書士法3条1項4号により司法書士の業務とされており、行政書士が作成することはできません(行政書士法1条の3第2項)。また、申立ての代理人として手続を追行することは弁護士の業務です。発信者情報開示命令事件は地方裁判所の非訟事件であるため、認定司法書士の簡裁訴訟代理等関係業務(司法書士法3条1項6号)の範囲にも入りません。

損害賠償の請求や示談交渉、賠償額の算定に関する助言は、紛争性のある法律事務として弁護士法72条の規律に服します。行政書士がこれらを行うことはできません。

他方、警察署(司法警察員)に提出する告訴状・告発状の作成は、官公署に提出する書類の作成として行政書士法1条の3が定める業務範囲に含まれます。行政書士法人Treeが承るのはこの範囲です。なお、検察庁に提出する書類の作成は司法書士法3条1項4号により司法書士の業務ですので、当事務所が作成する告訴状・告発状は警察署長宛てのものに限られます。

実務上は、発信者の特定に関する手続を弁護士に依頼し、警察署(司法警察員)に提出する告訴状の作成を行政書士に依頼する、という分担も考えられます。どこまでを誰に頼むのかを最初に決めておくと、無駄な時間とコストを避けられます。

実務でつまずきやすい論点

相手方が海外事業者の場合

主要なSNSの多くは海外法人が運営しています。法9条1項は日本の裁判所の管轄権について定めており、同項3号は「日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社を含む)を相手方とする場合において、申立てが当該相手方の日本における業務に関するものであるとき」に管轄権を認めています。したがって、海外事業者を相手方とする申立てが直ちに不可能というわけではありません。

ただし、送達や翻訳の要否、外国法人の日本における代表者・代理人の有無などによって、手続に要する期間は変動します。前述の6か月の告訴期間との関係では、この時間的不確実性が最も重いリスク要因になります。

ログイン型で行き止まりになる場合

コンテンツプロバイダが投稿時IPを保有しておらず、ログイン時IPしか持っていない場合、5条1項3号の要件を満たさなければ特定発信者情報の開示は受けられません。加えて、そのログイン時IPが携帯キャリアの大規模NAT配下のものであったり、共用の通信環境からのものであったりすると、アクセスプロバイダ段階で契約者を一意に特定できないこともあります。技術的な制約から特定に至らないケースが現実に存在することは、開示手続に着手する前に理解しておくべき事柄です。

「特定できたのに告訴が受理されない」場合

発信者が特定できても、投稿内容が意見・論評の域にとどまると評価されれば、名誉毀損の構成要件該当性そのものが問題になります。単発の粗い表現なのか、継続的・執拗な攻撃なのかによっても、事案の重さの見え方は変わります。告訴状の段階で、投稿の全体像(頻度・期間・拡散の程度・被害の具体性)を示せているかどうかが、受理と初動を分けることは少なくありません。受理されにくい典型的な理由と対処については、告訴状が受理されない5つの理由と対策|警察に受理させるコツで解説しています。

費用と時間の見通し

裁判所に納める申立手数料自体は、開示命令・提供命令・消去禁止命令それぞれ一申立てにつき各1,000円であり、金額としては大きくありません。実際の負担の中心は、手続を追行する専門家への報酬と、コンテンツプロバイダ段階・アクセスプロバイダ段階の二段階を要することによる時間です。一段階目で終わらないという前提で、資金と時間の計画を立ててください。

告訴状・告発状の作成でお困りの方へ。行政書士法人Treeでは、警察署長(司法警察員)宛ての告訴状・告発状の作成を承ります。書類作成に関するご相談は何度でも無料です。

告訴状・告発状作成サポートの詳細を見る

まとめ

まず押さえるべきは根拠法の現在地です。かつての「プロバイダ責任制限法」は、令和6年法律第25号による改正で正式名称が「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に変わり、2025年4月1日から情報流通プラットフォーム対処法として運用されています。開示請求の根拠条文も、令和3年改正で4条から5条へ移動しました。古い条番号の引用は書面の信頼性を損ないます。

手続面では、発信者情報開示命令(8条)・提供命令(15条)・消去禁止命令(16条)の三点セットが現在の標準です。提供命令によりコンテンツプロバイダからアクセスプロバイダへ情報が直接引き渡される仕組みが整い、二段階の特定が一体的に進むようになりました。ただし、提供を受けた日から2か月以内に次の申立てをした旨を通知しないと提供命令が失効する(15条3項2号)など、内部の期限管理は厳格です。

刑事との連動で最も重要なのが親告罪の告訴期間です。名誉毀損罪・侮辱罪は刑法232条1項により親告罪であり、刑事訴訟法235条により犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴ができません。公訴時効が3年あっても、実質的な期限はこの6か月です。開示に時間がかかる以上、開示手続の着手と同時に告訴の準備を並走させるのが実務的な備えになります。

他方、脅迫罪や信用毀損・業務妨害罪のような非親告罪で構成できる事案では告訴期間の制限はなく、被疑者不詳のまま先に告訴して捜査関係事項照会(刑事訴訟法197条2項)や通信履歴の保全要請(同条3項・4項)につなげる選択肢が現実味を帯びます。どちらのルートを先に動かすかは、罪名の仕分けと証拠・ログの残存状況から逆算して決めることになります。

最後に業務範囲です。行政書士法人Treeが承るのは、警察署(司法警察員)に提出する告訴状・告発状の作成です。これは行政書士法1条の3が定める、官公署に提出する書類の作成にあたります。裁判所に提出する申立書の作成や、代理人としての手続追行、賠償額の算定に関する助言は当事務所の業務範囲外です。書面作成に関するご相談は何度でも無料ですので、投稿の記録が手元にある段階でお早めにご連絡ください。

※ 本記事は執筆時点の法令・実務に基づき細心の注意を払って執筆しておりますが、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではなく、誤記・脱漏等があった場合でも当事務所は一切の責任を負いません。法令・実務の取扱いは改正・運用変更により変動します。個別具体的な事案・手続については、必ず行政書士・弁護士・税理士・司法書士・信託銀行等の専門家にご確認のうえご判断ください。

行政書士法人Tree